表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【日間43位】過労死コンサル、足利義昭に転生す。ホワイトな信長を魔王にプロデュースして今度こそFIREを目指します【完結済/続編有/一気読み推奨】  作者: 筑紫隼人
【第5章:本能寺エグジット ―― FIREへの脱出編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/40

第36話:本能寺の変(一) ―― 炎のキックオフ

1. 予定された「強制終了」のシグナル


天正十年(1582年)六月二日、午前四時。


京都・本能寺。


深い霧に包まれた静寂を切り裂いたのは、

一発の放火の音ではなく、規律正しく大地を叩く一万三千の足音だった。


義昭は、寺の一室で静かに目を覚ました。


枕元に置いた南蛮渡来の時計が、

緻密に計算された「実行時間」を告げている。


「……来たか。光秀、いいタイミングだ。


 これで、この天下という名の巨大なシステムの

 『フェーズ移行』が始まる」


義昭は、将軍としての重苦しい正装を脱ぎ、

あらかじめ用意していた動きやすい旅装束に身を包んだ。


誰にも知られることのない、

この戦国時代からの「ログアウト」のための準備だ。


外では、明智軍による包囲が完了し、

無数の火矢が本能寺の屋根をオレンジ色に染め始めていた。


義昭は、隣の寝所にいるはずの、

この物語のもう一人の主人公のもとへと歩を進めた。



2. 「魔王」の仮面を脱ぐ時


「公方様、お逃げを!


 敵は……明智光秀にございます!」


森蘭丸ら小姓たちが叫ぶ中、

奥から現れたのは、

白い寝衣を血のように赤い炎に照らされた織田信長であった。


その表情には、驚きも、裏切りへの怒りもなかった。


あるのは、すべてを悟り、

自身の「役割」を全うしようとする、

神々しいまでの静謐さであった。


「……光秀か。案外、早かったな」


信長は、義昭の顔を見て、

ふっと優しく微笑んだ。


その微笑みは、かつて義昭が

「この国を救うために、お前は嫌われ者(魔王)になれ」と説いた時に見せた、

純粋な弟子のそれであった。


「公方様。


 私の役目は、これで終わりのようです。


 私がここで『魔王』として討たれることで、

 天下の不満はこの炎と共に消え去り、

 貴方が設計した『泰平の世』が完成する。


 ……長うございましたが、ようやく貴方の教え通り、

 完璧な『終止符』を打てそうです」


信長は、自ら炎の中へ戻ろうとする。


彼は、自らの死を以てシステムの「脆弱性」を埋めようとする、

究極の自己犠牲プログラムを実行しようとしていた。



3. ロジックと感情のコンフリクト


「待て、信長。勝手にシャットダウンを急ぐな」


義昭は、信長の肩を強く掴んだ。


炎が天井を焼き、火の粉が二人の間を舞う。


「お前は確かに俺の最高傑作だ。


 俺が教えた通り、魔王を演じ、憎しみを集め、

 この国の古いバグを焼き尽くした。


 だがな、信長。


 俺の設計書には、

 『お前の命をコストにする』なんて一行は書いてないんだよ」


「……しかし、私が生きていては、

 民はいつまでも『魔王』の影に怯えます。


 このシステムを完全に安定稼働させるには、

 私のデータはここでデリート(消去)されるべきなのです。


 それが、師である貴方への、最大の恩返しにございます」


信長は、あまりにも生真面目な「善人」であった。


彼は義昭の平和への情熱を誰よりも理解していたからこそ、

自らを「不要なレガシー(遺物)」として処分しようとしていたのだ。



4. 義昭の独りごち ―― 「師」としての責任


周囲の建物が轟音を立てて崩れ始める。


義昭は、迫りくる熱風の中で、

信長の瞳を真っ直ぐに見つめた。


「信長。


 お前は『神』としてアーカイブされる必要はない。


 お前はただの、俺の教え子だ。


 ……四十五年生きてきて、ようやく掴みかけたこの最高の『エグジット』を、

 お前を置いて一人で楽しむなんて、

 俺のプライドが許さないんだよ」


義昭は、信長の手に自らの数珠を握らせた。


「お前を連れ出す。


 歴史には『信長は死んだ』と記録させ、

 実体プライベート・データだけを俺と一緒にこの戦場から連れ去る。


 それが、俺の引いた最終ロードマップだ」


義昭は、燃え盛る本堂の奥、

あらかじめ確保しておいた「脱出用トンネル」の入り口を指差した。


「佐藤……いや、俺の誇りにかけて。


 信長、お前を自由にしてやる」



5. 今回の結び:【第37話:ロジックの衝突】へ


天正十年(1582年)六月二日、午前四時三十分。


本能寺の炎は、

織田信長という「表のアカウント」を焼き尽くそうとしていた。


しかし、その劫火の奥底で、


義昭は「魔王」という過酷な労働から信長を解放し、

共に「隠居(FIRE)」という名の新世界へ連れ出そうと試みる。


佐藤という正体を知る者は、

この世界にただ一人、義昭自身のみ。


だが、その孤独な設計者の意志が、今、

歴史の結末を書き換えようとしていた。


第37話:本能寺の変(二) ―― ロジックの衝突(1582年6月2日)。


死を望む信長と、生を強いる義昭。


炎の中での「師弟」による、最後の激論が始まる。



今回のまとめ(FIREへの進捗)

•ステータス:

 天正十年(1582年)六月二日。本能寺の変、開戦。信長との合流。

•資産:

 隠居先まで続く安全な「脱出プロトコル(隠し通路)」。

•FIREへの寄与:

 * 共同エグジットの提案:

  自身だけでなく、最大の功労者である信長をも「過重労働(統治)」から解放する。


 * 歴史の偽装:

  「織田信長」というブランドを炎で完結させ、実体のみを自由にする。

•次なる課題:

 第37話:本能寺の変(二) ―― ロジックの衝突(1582年6月2日)。



【第36話 あとがき】


 本能寺の変を「信長と義昭の共謀による同時退職劇」として描く、運命の四部作が始まりました。


 史実では苛烈な「魔王」とされる信長が、実は義昭の指導を忠実に守った「究極の善人」であったという設定は、本シリーズの核心です。


 彼は自分の命を賭して、義昭の望む「平和な日本」というプロダクトを完成させようとしました。


 しかし、設計者・義昭は、それを許しません。


 「部下や弟子の犠牲の上に成り立つFIREなど、コンサルタントとして失格だ」。


 次話、炎の中での二人の「ロジックの衝突」にご注目ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ