表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【歴史日間62位・異世界44位】室町ホールディングス再興録 〜過労死コンサル、足利義昭に転生す。ホワイトすぎる信長を「魔王」にプロデュースして今度こそFIREを目指します〜  作者: 筑紫隼人
【第1章:シード期・創業】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/13

第2話:清廉なる虎 ―― 織田信長の誤算

1. 期待外れの「魔王」


 越前、一乗谷。


 雪深い北陸の地を後にした俺は、美濃・立政寺へと向かっていた。


 次なる提携先――上洛のパートナーとして選んだのは、尾張から急速に勢力を拡大した新興勢力、織田信長。


 前世の歴史知識によれば、彼は旧習を打ち破り、比叡山を焼き、数多の敵を冷酷に屠った「時代の破壊者」のはずだ。


 俺が目指す「システムの安定」と、その後の「早期リタイア(FIRE)」を実現するためには、彼のような強力な実行力(オペレーション能力)を持つ実務家が不可欠だった。


(……殺されるか、良くて体よく利用されるか。いずれにせよ、命懸けの交渉になるな)


 俺は、後に「魔王」と呼ばれる男の圧倒的な威圧感を想像し、震える膝を必死に抑えていた。


 現代のクライアントとの数千億規模のコンペなど、これに比べれば児戯に等しい。



2. 差し出された「菓子」と「誠実」


 だが――


 立政寺の奥の間で俺を待っていたのは、予想だにしない光景だった。


「……あ、将軍様。遠路はるばる、本当にお疲れ様でございます!」


 部屋に入るなり、信長は俺の前に進み出ると、畳に額を擦りつけるようにして平伏した。


 その顔は、凶悪な魔王のそれではない。


 驚くほど澄んだ瞳。どこか育ちの良ささえ感じさせる、実直な青年の顔だった。


「信長です! お会いできて光栄の至り。……あ、これ、美濃の特産品でございます」


「甘いものは旅の疲れを癒やすと聞きましてな。どうぞ、お召し上がりください」


 差し出されたのは、丁寧に包まれた和菓子。


 さらに彼は、傍らの木下藤吉郎を呼びつけ、細かく指示を飛ばす。


「藤吉郎! 将軍様にお出しするお茶は、少しぬるめにして差し上げろと言っただろう!」


「お疲れの体に熱すぎる茶は障るかもしれぬ」


「……申し訳ございません、将軍様。私の配慮が足りず」


(……何だ、この男は)


(腰が低すぎる。というか、あまりに『真っ当な良い人』じゃないか)


 俺が知る信長像は、人を寄せ付けない覇気を持ち、気に入らなければ即座に首を撥ねるような存在だったはずだ。


 だが目の前にいるのは――


 部下のミスを詫び、客人の体調を気遣う、非の打ち所がない「善人」だった。



3. エビデンス・チェック:中間管理職の嘆き


(……いや、おかしい。猫を被っているにしても限度がある)


(……一応、裏を取るか)


 信長が席を外した隙に、俺は廊下に控えていた巨漢を呼び止めた。


 柴田勝家。


 織田家筆頭家老にして、後に「瓶割り柴田」と恐れられる猛将だ。


「おい、権六。少し面を貸せ」


「……ぶっちゃけ、お前の主人はいつもあんな感じなのか?」


 勝家は、岩のような顔を強張らせ――深々と溜息をついた。


「……左様にございます」


「上様は、お人が良すぎるのです」


「先だっても、戦で親を亡くした童たちのために、自ら炊き出しの粥を混ぜておられました」


「他人の痛みを見ると、自分のことのように涙を流されるのです」


(……炊き出しの粥を混ぜる魔王!? 嘘だろ)


「それだけではございませぬ」


「家臣が風邪を引けば、夜中に自ら薬を煎じて見舞いに来られます」


「我ら家臣一同、そのお心映えには感涙しておりますが……」


 勝家は言葉を選び、続ける。


「……正直に申し上げれば、隙が多すぎる」


「いつか悪い輩に騙されるのではないかと、夜も眠れぬ心地でございます」


「上様は、この乱世で『誰も死ななくていい国』を本気で作れると信じておられる」


「……一言で申せば、甘い。甘すぎるのです」


 その目には、忠誠と――保護者のような不安が宿っていた。


(……確定だ)


(この男、今のままじゃ天下なんて取れない)


(取れる前に、必ず誰かに裏切られて死ぬ)



4. 山中の猿 ―― 拭い去れぬ慈悲


 その後、領内視察に同行した俺は、決定的な場面を目撃する。


 山中。


 泥にまみれ、這いつくばる男。


 手足が不自由で、村人からも忌み嫌われている「山中の猿」だった。


 信長は馬を降りる。


 そして、ためらいもなくその男の傍らに膝をついた。


「……腹が減ったか。辛かったな」


 自らの高価な小袖を脱ぎ、男に着せる。


 さらに、村人たちに黄金を差し出した。


「これを受け取れ」


「この男に家を建て、毎日腹一杯の飯を食わせよ」


「……よいか。私は、こういう者でも安心して暮らせる世を作りたいのだ」


「頼む。皆で助けてやってくれ」


 村人たちが平伏する中――


 信長は俺を振り返り、少し照れくさそうに笑った。


「将軍様」


「私は、こういう『小さき者』が笑える国を作りたいのです」


「……ただ、それだけのために、刀を振るっております」


 その瞳には、一片の曇りもない。


 純粋な――正義。


 ……まずい。


 これは、致命的な欠陥だ。


 戦国という暗黒の市場において、この「純粋な善性」は最大の経営リスクになる。


(……信長)


(そのままじゃ、お前は真っ先に食い殺される)


(……お前のその『綺麗すぎる心』は)


(俺が泥を塗って、鉄の仮面で隠してやるしかない)



5. 偽りの「魔王」プロデュース


 俺は信長を二人きりの部屋に呼び出した。


「信長。お前の志は尊い」


「だが――そのままでは天下は取れん」


「……というか、お前が真っ先に死ぬ」


「えっ……? 死ぬ、のですか?」


「私なりに、精一杯尽くしているつもりですが……」


 俺は冷酷に告げる。


 現代のブランディング理論に基づいた、「演出」を。


「いいか。今日から笑顔を封印しろ」


「相手を射抜くように睨みつけろ」


「そして、この漆黒のマントを羽織れ」


「……お前は今日から、仏敵をも恐れぬ『第六天魔王』を演じるんだ」


「お前の優しさは、俺が書く『偽りの歴史』の裏側に隠しておけ」


「……それが、お前が生き残り、その理想を叶える唯一の道だ」


 信長は、しばし沈黙し――


 やがて、小さく頷いた。


「……第六天魔王、ですか」


「物騒な名ですが……将軍様がそう仰るなら、やってみましょう」


「皆様が救われるためならば――」


「私は、喜んで悪鬼になりましょうぞ」


 困惑しながらも、黒いマントを纏う信長。


 それは――


 世界で最も「優しい男」が、


 偽りの「魔王」という鎧を身にまとった瞬間だった。


 そして――


 俺の平和な隠居生活(FIRE)へのカウントダウンが、ようやく始まったのだ。



今回のまとめ(FIREへの進捗)


・ステータス:織田信長との業務提携(上洛契約)締結

・資産:織田家の軍事力+信長という名の「誠実な実行者」

・次なる課題:信長に「威圧感(プレゼン術)」を叩き込み、上洛への恐怖を演出



著者あとがき


 第2話をお読みいただき、ありがとうございます!


 信長が実は「超」がつくほどの善人だった――という新解釈、いかがでしたでしょうか。


 史実にある「山中の猿」や、家臣への過剰なまでの配慮。

 そんな彼が、なぜあのような恐ろしい「魔王」として名を残したのか。


 その裏には――

 現代から転生した義昭(佐藤健一)による、必死の「ブランディング戦略」があった。


 そんな構図で物語は進んでいきます。


 次回はいよいよ、上洛に向けた具体的な「魔王養成ギプス」が始動します。


 よろしければ、ブックマークや評価、応援コメントをいただけると執筆の励みになります!

【日間ランクイン感謝! 筑紫隼人より】


おかげさまで『義昭』が初日からランキング入りを果たしました!

完結作の**『立花宗茂戦記』**も同時にランクインしており、新旧の作品が並ぶ光景に身が引き締まる思いです。未読の方は、ぜひ以下のリンクから覗いてみてください。

https://share.google/NohPtIyvaZalKKF0h


また、歴史ものを扱う上記2作とは別に、魔剣を手に戦う王女の復讐劇も書いており、戦記物としての熱量はそのままに、ファンタジーならではの逆転劇を描いています。


『魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜』

https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n9418lx/

王女セリスと魔剣ノイエジールの戦いも、あわせて応援いただけると嬉しいです!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ