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【歴史日間62位・異世界44位】室町ホールディングス再興録 〜過労死コンサル、足利義昭に転生す。ホワイトすぎる信長を「魔王」にプロデュースして今度こそFIREを目指します〜  作者: 筑紫隼人
【第1章:シード期・創業】

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第1話:ロジカル・トランスファー ―― 興福寺のシステム更新

1. ログアウト:午前四時のデッドライン


 視界の端で、パワーポイントのカーソルが点滅している。

 それはまるで、俺の残り少ない寿命を刻むメトロノームのようだった。


「……あと、一枚。このスライドの『期待収益率』を書き換えれば、今回のM&A案件はクローズだ」


 俺、佐藤健一(35歳)は、外資系戦略コンサルティングファームのシニアマネージャーだ。


 この十年間、俺の人生は「数字」と「論理」だけで構成されてきた。

 クライアントの無理難題をロジックで黙らせ、部下をKPI(重要業績評価指標)で追い詰め、上司の機嫌をROI(投資対効果)で取る。

 それが俺の日常だった。


 なぜ、そこまで働くのか。


 答えは一つ。


 **「FIRE(早期リタイア)」**だ。


 銀行口座には、徹底したインデックス運用と米国株ETFで積み上げた八千万円がある。

 あと二千万。


 一億円の大台に乗せ、年利四%で運用すれば、年間四百万円の不労所得が手に入る。


 そうなれば、この「眠らない街」からおさらばして、瀬戸内の静かな海辺で、誰にも邪魔されず本を読んで暮らすんだ。


 その「自由」という名の出口イグジットだけを夢見て、俺は「今」をドブに捨て続けてきた。


 三日、寝ていない。


 カフェインの錠剤はもはやラムネ菓子のような感覚だ。

 心臓が時折、ドラムを叩くように激しく脈打つ。


「……よし、保存……。これで、俺の……勝ち……だ……」


 クリックした瞬間、胸の奥で何かが弾けた。


 鋭い痛みが走り、全身の力が抜ける。

 キーボードに顔を埋める直前、ディスプレイに映る自分の顔が見えた。


 酷く青白く、まるで幽霊のようだった。


(……ああ、致命的なシステムエラー(心不全)か。……笑えないな。一億円貯める前に、俺が『損切り』されるなんて……)


 意識が急速にシャットダウンしていく。


 最後に思ったのは、未完の仕事のことでも、積み上げた資産のことでもなかった。


 ただ――


 一度でいいから、定時に帰って、温かい飯が食いたかった。



2. インストール:室町という名のブラック企業


 次に目を開けたとき、そこにあったのは、冷徹なLEDの光ではなかった。


 鼻を突く古い線香の匂い。

 耳を劈くような、低く、重苦しい読経の声。


「……げほっ! ごほっ!」


 激しくむせ返りながら、俺は上半身を起こした。


 床はタイルカーペットではなく、冷たく湿った畳。

 天井は高く、黒ずんだ梁が剥き出しになっている。


 何より、自分の身体が「軽い」。


「……え、ここ……どこだよ?」


 自分の声が、聞き慣れた低音のバリトンではなく、どこか高貴で、だが線の細い若者のものに変わっていることに気づく。


 その瞬間、頭の中に強烈な「データ」が同期シンクロされた。


 ここは、永禄八年(1565年)。大和国、興福寺。


 俺の名前は、足利義昭。


 数日前、兄である十三代将軍・足利義輝が、松永久秀らによって暗殺された。


 俺は今、その「次期将軍候補」として、松永の手の者に幽閉されている。


(……足利義昭!? あの、歴史上で最も損な役回りの、あの『追放将軍』かよ!)


 歴史オタクだった俺の知識が、即座に現状を「経営分析」し始める。


 ・AS-IS(現状):倒産寸前の老舗ブラック企業「室町幕府」の雇われ社長候補。

 ・リスク:いつ暗殺リストラされてもおかしくない。監視役は「シリアル・アントレプレナー」にして「主殺しの常習犯」松永久秀。

 ・リソース:ゼロ。人脈なし、軍事力なし、キャッシュなし。


「ふざけるな……。外資コンサルも地獄だったが、ここはそれ以上だ。……普通にやってたら、過労死か暗殺の二択じゃないか」


 俺は、震える手で顔を覆った。


 だが――


 コンサルタントとしての本能が、絶望の淵で冷徹に作動し始める。


「待てよ……。ピンチはチャンスだ」


「義昭が『無能』として歴史に刻まれたのは、『旧来のシステム』に固執したからだ」


「……現代の経営理論と、俺の『FIREへの執念』を組み合わせれば、この詰んだ盤面をひっくり返せる……?」



3. ネゴシエーション:投資家・松永久秀へのプレゼン


 数時間後。


 俺は部屋の外で見張っている僧兵を呼びつけた。


「おい。お前の主人、松永弾正(久秀)に伝えろ」


 『死んだ将軍はただの肉だが、生きた将軍は“無限の信用創造”を生むアセット(資産)だ』――とな」


 僧兵は呆気にとられた顔をしたが、俺の剣幕に押され、報告に走った。


 そして深夜。


 足音もなく、一人の男が俺の前に現れた。


 鋭い眼光、整えられた髭。

 合理性の塊のような雰囲気を纏った男――松永久秀だ。


「……一乗院殿。面白いことを仰る。『あせっと』とは、何にございますかな?」


 俺は、勝負の微笑を浮かべた。


「弾正。お前は俺を殺して、名目上の勝利を得るつもりか?」


「だがそれは、『短期的なキャッシュフロー』を優先して、『長期的な成長性』をドブに捨てるようなものだ」


「俺を殺せば、お前は周辺大名から『逆賊』として敵対的買収(総攻撃)を受けるリスクを負う」


「……お前ほどの経営者が、そんな初歩的なミスをするのか?」


 久秀の目が細くなる。


 俺はさらに畳み掛ける。


「俺をここで逃がせ。そして俺が将軍になった暁には――」


「松永家を『室町ホールディングス』の筆頭株主として優遇してやる」


「……お前が欲しがっている大和の支配権、俺の印判一つで『正規のライセンス』にしてやるよ」


「どうだ? 死んだ俺からは何も得られない」


「だが、生きた俺は――お前にとって最大の『投資先』になる」


 沈黙。


 やがて、久秀は低く笑った。


「……くくく。なるほど」


「貴殿、以前の覚慶様とは、中身が入れ替わったようですな」


「……面白い。その『投資』、乗りましょう」


「今宵、裏門を空けておきます」


「――ですが、上洛に失敗すれば、その時は『損切り』させていただきますぞ」



4. ロードマップ:最強のCOOを探せ


 闇夜に紛れ、俺は細川藤孝たちの手引きで興福寺を脱出した。


 馬を走らせながら、冷たい夜風を全身に浴びる。


(……助かった。フェーズ1完了だ)


 だが、ここからが正念場だ。


 俺一人では、この乱世という名の「市場」を制覇することはできない。


 俺に必要なのは――


 「最強の現場責任者(COO)」


 俺のロジックを具現化し、戦場という泥臭い現場を完璧に回す男。


「……待ってろよ、織田信長」


 教科書では「破壊の魔王」と恐れられた男。


 だが、その本質は――


 徹底した合理性と、異常な適応力。


「お前なら、俺の“現代システム”を最速でインストールできる」


「……お前を、俺の最高傑作の『盾』にしてやる」


「その代わり――最後はちゃんとFIREさせてくれよな?」


 興福寺の影が遠ざかる。


 足利義昭としての、二度目の人生。


 「天下統一」という名の巨大プロジェクトが、今、始まる。



次回予告


第2話:ホワイト企業の織田氏


 信長に会うため、越前を離れた義昭。


 「殺されるか、マウントを取られるか」と身構える彼の前に現れたのは――


「あ、将軍様! 遠路はるばるお疲れ様です! 飴、食べます?」


 想像を絶する――


 「いい人すぎる信長」


 との、地獄(?)のコンサルティングが始まる!



今回のまとめ(FIREへの進捗)


・ステータス:興福寺を脱出(生存確保)

・資産:知識(現代経営学)+足利の血筋(ブランド権)

・次なる課題:織田信長のスカウトと、魔王プロデュース契約

【日間ランクイン感謝! 筑紫隼人より】


おかげさまで『義昭』が初日からランキング入りを果たしました!

完結作の**『立花宗茂戦記』**も同時にランクインしており、新旧の作品が並ぶ光景に身が引き締まる思いです。未読の方は、ぜひ以下のリンクから覗いてみてください。

https://share.google/NohPtIyvaZalKKF0h


また、歴史ものを扱う上記2作とは別に、魔剣を手に戦う王女の復讐劇も書いており、戦記物としての熱量はそのままに、ファンタジーならではの逆転劇を描いています。


『魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜』

https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n9418lx/

王女セリスと魔剣ノイエジールの戦いも、あわせて応援いただけると嬉しいです!


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