3
今日から仕事を始めることになるが、朝一でなんか綺麗な服の人間がメリッサやスタンと話しており、そのあと私にもなんか言っていた内容をメリッサが教えてくれた。
【よろしくお願いします。だって】
まずはスタンの指し示した場所を私用に作って貰った剣先スコップで言われた深さで掘り返し、掘った土を左右に盛ってゆく。
メリッサ曰くスコップは「王都の鍛冶ギルドの自信作」らしい。初めて作る大きさと納期の短さで鍛冶ギルドと材木ギルドはてんやわんやだったと笑っていた。
地面に石柱の印があってその石柱と石柱の間を一区画としてやるらしい、多分私の身長の12個分位? とりあえずスタンと共に一区画、掘り返したところでちょっと休憩の様だ。
スタンが人間とドワーフの人たちとなんか相談している。
現場近くに座ってメリッサと話して待っていると、離れた林の中からこちらを伺う人間が何人かいる。工事に係る人たちの服装ではない。
【近所の村の人たちが見に来たようね。手を振ってあげたら】
とメリッサが言うので振ってみたら木の陰に隠れられた。
【‥‥‥なんで?】
【みんな巨人が珍しいのね。その内に慣れて来るからそれまで様子を見ましょう】
【ふーーーん】
【おーーーい、次の作業だ】
スタンに呼ばれて次は作業に入る。
なんか、Tの字に丸太を組んだ道具で掘った場所を平らに均したり、敷いた鉄板の上を歩いたり、馬車の荷台の上の石を掘ったところに放り込んだり、まとその上を歩いたりした。
私が作業した後は他の工員たちが細かい作業をしているがよく解らない。
たまに私の拳大の石を現場上に置いてあげるとなんか言ってドワーフが親指を立てているので私もなんか知らないが親指を立て返した。
そんなことをしていると林の中に居た人間たちがちょっとずつ姿を現して、私たちの作業を見学し始めた。
手を振ると、林から出てきてしまっていて隠れる木が無いので左右の人間の顔を見て小さく振り返してきた。
なんか最初は掘ったり、踏んだり色々動いていたけど最後の方は偶に石を置いてあげるだけで案外暇だった。
太陽が中天に上がるころには一区画の作業が終わったみたいで作業していた人間が出来上がった道路を見て、しきりに感心している。
??自分たちで作ったものに何を感心しているのだろう??
【グラニット、人間だけでこの一区画を作ろうと思ったら2週間位掛かるのよ。それを半日で終わったから驚いているの】
【そうなんだ】
メリッサが教えてくれたけど、石巨人は家は作っても道なんかは作らないからどれくらい驚くことなのか解らない。
でもみんな良い笑顔してるからきっと凄い事なんだろう。
**********
今日からグラニットに作業に参加してもらうという事で朝一番に子爵領から家宰もやってきておりメリッサさんやホーキンスとも挨拶をしている。家宰はグラニットの見上げるような大きさに腰が引けているが、子爵の右腕として恥ずかしくないようにとしっかりと彼女にも挨拶をしていた。
彼女用に急遽手配したという剣先スコップで指示した場所を掘って貰うとそのスピードは人間の作業員の10倍や20倍では効かない、しかも彼女はまだスコップの使い方も慣れていないのにだ。
一区画100mを掘って貰ったところで彼女には一旦休憩して貰って、こちらは急いで打合せだ。各工程の責任者を集めて、このパワーをどう有効的に使うかの話し合いを行う。事前に相談して工程を組みなおしていたのだが予想以上のパワーで根本から練り直しだ。ああでもないこうでもないとう意見が出るが、まずはやりながら改善していこうという事で作業を再開させる。
【おーーーい、次の作業だ】
彼女に声を掛けると、朝方は林の中から様子を伺っていた近くの村の住民たちが引き攣った顔で彼女に手を振っている。
うん。まぁ、ちょっとずつだな。
その後も作業は順調に進んだ。
グラニットに剣先スコップで土を横6m深さ2mほど掘って貰ったところに大きい砕石を敷きその上を転圧する。
直径3mほどの大きな樽に中くらいの砕石と石灰と砂を入れグラニットに彼女サイズの木べらで混ぜて貰いそれを敷いて転圧する。
さらに細かい砂利や粗砂、砕いたレンガを石灰モルタルと混ぜて敷き転圧し、最後に多角形に切り出された大きく平たい玄武岩を置く。
グラニットには玄武岩を大体の位置に置いて貰い、ドワーフが街道の真ん中を高くして雨水が両脇に流れるように最後の調整を行う。
玄武岩を置いてドワーフが調整している間にグラニットには次の100mの土を掘って貰う感じで工事を進める。
一区画の作業が終わるとグラニットにその上を歩いて貰い、凹んでしまうところや傾いてしまうところが無いか不具合箇所のチェックをし、あれば作業をやり直す。
「おお、半日で一区画終わってしまった‥‥」
出来上がった道を眺め呆けた声を上げた私たちにメリッサさんとホーキンスが近寄ってきた。
「どうです。彼女の働きは?」
「どうもこうもないです。正直信じられません」
メリッサさんの質問にグラニットの方を見て答える。
彼女は少し離れたところに座って、近くの村の子供たちを掌の上に乗せて3m位の高さまで上げて、子供たちの「おおおーー!」「すげー!次俺!」とかの騒ぎの真ん中にいる。子供はどこでも順応力が高いものだ。
まだ、石巨人の表情は良く分からないが、多分彼女も笑っていると思う。
「今回はとりあえずスコップと速成レーキ位しか用意できませんでしたが、実際の作業の中で彼女用の道具やもっと大きな荷馬車なども必要になるでしょう?」
ホーキンスの質問に頭に指を当てて答えを探す。
「道具ももちろんそうですが、砂利や砂、石灰などの資材の準備と作業手順の見直しも必要です。このペースで作業を進めるとすぐ資材不足になってしまいます。それには人員も増やさなければいけないし」
「そちらはこちらでも調達方法の選定を進めているところです。北東のスティアーズ子爵家の領地に良い石切り場の候補地があります。子爵領は林業が盛んで王都への木材の供給を一手に引き受けているのですがその材木を運んでいる河川を利用できればこちらまで効率的に石材の運搬が可能そうです」
「それは頼もしい話ですね。でも実績のないホーキンス商会の相手をしてくれますか?それに石切り場の整備もしなければならないのでしょう?」
「大丈夫です。スティアーズ子爵家とは多少なりともお付き合いがありますし、石切り場の整備はグラニットやドワーフさんたちの力も借りましょう。子爵領も新しい産業が育つのは喜ぶでしょうし」
メリッサさんが頼もしく笑って言った。
なるほど、貴族との付き合いもそれなりにあるらしい。
お昼を挟んでその日はもう一区画、作業を終わらせた。
夕刻の早い時間には作業は終わり、今日は子爵から振舞い酒がある。
「本日この子爵領に新たな道の第一歩が敷かれました。将来この道を使って我らが領の小麦が王都へ運ばれ、また王都や他領から諸々の物資が我が領へ届けられることでしょう。その明るい未来を齎してくれたホーキンス商会と我らが領の発展を我らの女神に感謝して、乾杯!!」
家宰が最後の下りはグラニットにグラスを向け、乾杯の合図で皆がグラスを合わせエールを飲み始める。
やっぱり、グラニットの前には樽でエールが置いてある。
**********
人間たちが焚火の周りに集まって料理やお酒を楽しんでいる。
私は少し離れたところで横に寝ころびその光景を眺める。
人々ももう、私におびえる様子はないようだ。
最初は大勢の人間に囲まれてこっちも緊張していたが、一緒に作業することによって次第に緊張は解れていった。今思えば人間の方も最初の方は大分緊張していたらしい。
まぁ、人間は気が付くと死角から近寄っていて足元に居たりすることがあるので歩くときに足元を確認する癖がついたが。
とりあえず、仕事の一日目は無事終わったようだ。
【明日から私が居なくても大丈夫そう?】
【‥‥‥多分、スタンの巨人語も大分上達したし】
メリッサは今晩には王都に帰るという事だ。
寂しくなるが、彼女には彼女の本来の仕事がある。
それに近くの村まで街道建設が進めばそこの完成式典?のお祭りには姿を見せてくれて、秘密の約束を果たしてくれることになっている。
今から、楽しみである。
一人寂しく街の明かりを見ていた私はもういない。メリッサが私を見付けてくれた。
スタンに教わった人間の言葉をメリッサに送った。
「あ・り・が・と・う」
次回は2/24、18:00頃に更新いたします。




