表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

プロローグ

夏の夜は、少しだけ時間の流れがゆっくりに感じる。


研究室の机に置いたスマホが、短く震えた。

画面に浮かんだ名前を見て、胸の奥がわずかに跳ねる。


『今年の夏祭り、行けそう?

金魚すくいは負けないからね!』


幼馴染からのメッセージだった。


…もうそんな時期か。


小さい頃から、毎年のように一緒に行っていた。

境内に並ぶ屋台の匂い、夜空に響く太鼓の音、

浴衣の袖が人混みですれ違う感触。


全部、当たり前みたいに隣にあった。


(どうせ、今年も行くんだろ)


そんなことを思ったが、返事を打とうとして、

やめる。

どう返すか考えてるうちに、時間だけが過ぎていった。


“当たり前”に甘えている。

自分でも、そう分かっている。


(まあ、時間はまだあるしな)


窓の外では、もくもくと黒い雲が広がっていた。

遠くで、低く雷が鳴る。


「……帰るか」


椅子から立ち上がり、鞄を手に取る。

研究室の灯りを消した瞬間、夜の空気をはっきりと感じた。


エレベーターに乗り込む。

閉まる扉の隙間から、ヒュウッと冷たい風が入る。


――その時だった。


スマホが、もう一度震えた。


『浴衣、今年は何色がいいと思う??』


思わず笑ってしまう。


(そんなの、なんでもいいだろ)


……でも、ちゃんと返事はしたかった。


「あとで返すからな」


誰に言うでもなくそう呟いて、

1階のボタンを押す。


返事をしなかったことを、

そのまま後悔することになるなんてーー

この時の俺は、まだ知らなかった。


この夏も、

いつもと同じように過ぎていく

そのはずだった。


白い光が、視界を塗り潰す。


雷鳴が、世界を引き裂いた。


そして、

俺はーー夏祭りに、行けなくなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ