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その勇者、魔王の家政婦につき  作者: 藤 ゆみ子


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第5話 生活習慣を改善しましょう

 そこには綺麗なレースの天幕が張られたベッドがあり、ピンク色のドレッサーとソファー、大きなクマのぬいぐるみ、ハート型のクッションが置かれてある。


 なんとも可愛らしい空間だ。

 

「魔王様って、こんな趣味もあるんですね」

「わざと言っているのか? 俺の部屋なわけがないだろう。これは仲間の部屋だ」

「ですよね。このワンピースの持ち主の部屋だったんですか?」

「いや、そいつではない。この部屋の主はまだ生きている」

「それって……封印から目覚めたらこの部屋使うってことですよね? 申し訳ないので違う部屋でいいですよ」


 ここに着くまでにもたくさん部屋はあったし、この部屋までとはいかなくても使える部屋はあるだろう。


「本当にいいのだな?」

「はい。まあ、できるだけ綺麗な部屋がいいですけど」


 魔王様はじっと何かを考えたあと、次の部屋に案内してくれた。


「ここがまだ使えるだろう」


 ……使えるものって? ベッドのこと?

 足が欠けているし、布団とは言い難い劣化したボロボロの布。

 部屋全体が煤にまみれているようで薄暗い。

 壁も剝がれかけているし、蜘蛛の巣だらけだ。

 こんな所で寝られるわけがない。

 

「他に部屋はないんですか?」

「部屋はあるが、ここよりひどいぞ」

 

 ここよりひどいなんてことある?

 あれだけたくさん部屋があったし、どこかは使えそうなところがあるでしょ。

 私は部屋をひとつひとつ見て回った、が……。


 ――ひどすぎる。どの部屋を開けても使えたものじゃない。


「もう部屋というか、倉庫? 廃墟?」

「だから言っただろう。あと残っているのは俺の部屋だな。ベッドはひとつしかないぞ」


 いやいやそれって魔王様の部屋を選んだら同じベッドで寝るってことですか。

 そんなのできるわけないじゃない。


「えっと……初めの部屋をお借りします」

 

 申し訳ない気もしたが、そうも言っていられない。

 もう一度初めのラブリーな部屋へと行く。


 やっぱり、他の部屋と比べると断然綺麗だ。

 趣味に偏りはあるものの、すごくまともな部屋に見える。


「ここを、お借りします」

「ああ。ゆっくり休むといい」


 魔王様は部屋を出て行った。

 私はベッドの前まで行き天幕を捲る。

 そしてシーツをスーッと撫でた。


「思ったより埃が溜まってない……」


 部屋の趣味に気を取られていたけど、百年も放置されていたはずなのにこんなに状態がいいなんて不思議だ。

 他の部屋やお城全体はあんなにボロボロで汚れているのに。

 いや、あれは百年の汚れなんかじゃないのかも。

 お風呂だって何千年も使ってないって言ってたしね。


 でも、ちゃんと使える部屋があって良かった。

 失礼します、と呟きながらベッドに寝転んだ。


 ふかふかだ。なんだか安心する寝心地。

 持ち主がこの部屋を大切にしていることがひしひしと伝わってくる。


 他の部屋を掃除して使えるようにしよう。ひどい状態すぎてどれくらいかかるかわからないけど、いつまでもこの部屋を使い続けるのは気が引ける。


 いつ持ち主が封印から目覚めるかもわからないしね。


 そう決意しながら目を閉じた。


 ◇ ◇ ◇


 薄っすらと差し込む光で目が覚める。


 朝、なのだろうか。

 寝る前に比べると明るいけれど、時間帯がよくわからない。


 でも、よく眠れた。体の疲れもよくとれている。

 私はベッドから起き出し、窓の前へと行くと外を眺める。


 お城の周りは開けていて、庭のようになっている。

 その奥は、木々が生い茂り薄暗く禍々しい雰囲気の森が広がっている。

 人の気配なんてものは一切ない。


「不気味だな」


 魔王様が住んでいる森なのだからそれもそうか。

 

 ふと視線を下に向けると、魔王様が外で何かしている。


 木に向かって手をかざして、何かを飛ばしている?


 気になったので、見にいくことにした。

 

 お城を出て、部屋の下辺りまで移動する。

 すると魔王様を見つけた。


「何をしてるんですか?」


「うおっ」


 魔王様は驚いたようで肩をビクつかせる。


「そんなに驚かなくていいじゃないですか。ところで何をしてたんですか?」

「別に、何もしていない」


 何もしていないわけないでしょう。

 魔王様はなぜか顔をそらしている。


 向かい奥の木を見ると、たくさんの傷がついていた。

 手から出る何かをあの木に当てていた?

 状況から予想するに、魔王様は訓練でもしていたのだろうか。

 それを私に知られたくない?

 やっぱり、人間の私に警戒しているのかな。

 言いたくないならそれでもいいけどね。


「魔力が完全に戻ったら木を吹き飛ばすくらいなんともない。まだ本調子ではないんだ」


 魔王様は頬を掻きながら言う。

 なんだ。上手くできないから恥ずかしかったんだ。

 本当、可愛いところあるんだから。


 そしてなんとなく、私も真っ直ぐ前に腕を伸ばし、木に向かって水を飛ばしてみた。

 

 すると――ドカッと大きな音を立てて木は倒れていった。


「え、嘘……」

「なっ!」


 少し傷を付けるつもりだったのに、倒れてしまうなんて思っていなかった。

 

「えっと……あの木、腐りかけだったんですかね?」

「そんなわけないだろう」

「ですよね……」


 私、もしかしてけっこう強い?

 魔王様は倒れた木を見てあっけに取られている。

 けれどすぐに真剣な表情になると、隣の木に向かってまた黒く鋭い何かを飛ばし始めた。


 私は普通に水を飛ばしたけど、魔王様のはなんだろう。


「それって何を飛ばしてるんですか?」

「魔力だ」


 まあ、そうですよね。

 たしか元々持ってるのは闇の魔力って言っていたよな。

 人に当たったらどうなるんだろう。


 魔王様は何度も何度も魔力を飛ばしている。

 心なしか、少し疲れているようにも見える。

 まだ魔力は回復していなのにそんなに使って大丈夫なのだろうか。


「あまり無理はしないでくださいよ」


 すると魔王様は腕を下ろし、真顔で口を開く。


「俺は勇者に九十八回負けている」

「そんなに?!」

「力では俺の方が上のはず。それでも勇者には一度も勝てたことがない」


 だからこんな真剣に特訓してるのかな。

 次こそは勝ちたいと思っているんだろう。


 でも、気になることがある。


「魔王様はそんなに何回も負けて、その……死んだりはしないんですか?」

「勇者であれ俺を殺すことはできない。封印するだけだ。そして百年ほどで復活し、また新たな勇者が俺を封印しにやってくる」


 それって、勇者に封印されて百年後に目を覚ますけどまた封印されて、をずっと繰り返してるってこと?

 しんどすぎない?

 てか、今まで一回も勝てたことないって弱すぎません?

 勇者たちが強いのかもしれないけど。


 にしたって無理はよくない。

 いつからやってるんだろう。


「ところで、今何時なんですか?」

「時間は知らんが夕方だろう」


 夕方?!

 私そんなに寝てたんだ。

 

「ごはんは食べました?」

「食べていない。昨晩食べたからしばらくはいい」


 しばらくはいい?!

 いつもどんな頻度でご飯食べてるんだろう。


「ちゃんと食べないとだめですよ! あと、寝てますか?」

「寝ていない」


 寝てない?!

 そんなんじゃ戻る魔力も戻らないんじゃないの?

 昨日お風呂に入って綺麗にはなったけど、顔色は悪いし。


「しっかり食べてしっかり寝てください」

「休んでばかりいたら勇者を倒せない」

「力が戻る前に勇者が倒しに来たらどうするんですか?」

「勇者は百年に一度異世界から召喚される。ヤツも同じように召喚された後は魔力が不安定で魔法の使い方すら知らん。訓練を積み俺を封印しに来るまでは時間がある」


 お互いの猶予期間ってことか。

 なんか魔王も勇者も大変なんだな。


 でもこの人、どうして九十八回も負けているかわかっていないんじゃない?

 人じゃなくて魔王だけど。


「だったら、勇者を倒すことよりも先に生活習慣を改善しましょう!」




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