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その勇者、魔王の家政婦につき  作者: 藤 ゆみ子


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第15話 戦い

 軍隊はもうすぐそこまで迫ってきていた。

 

「とりあえず、ここから先へは行けないように結界を張っておくわ」

「隊を全て囲むとなるとかなり広範囲ですができますか?」

「こういう守備系の魔法は得意なのよ」


 攻撃系はだめなんだけど、と笑うミレアスさんは見えない結界を森全体に張った。

 一人で森を囲う結界を張れるなんてすごい。

 封印されて眠っている間もずっと部屋に保護魔法をかけていられるのも、ミレアスさんの力が強力な証なんだ。

 だから今まで生き残っていられているのかな、なんて思った。


「ユリはここで隠れていろ」


 魔王様は私の前に立ち、魔力を漲らせていく。

 目には見えていないのに、その甚大な魔力の気に圧倒される。

 

 でも、私にだってできることはあるはず。


「一応、私も水とか風とか出せますし」

「部屋を掃除するのとはわけが違うだろう。大人しくしておけ」

「わかりました……」


 魔王様の気迫に負け、近くの木陰に隠れて様子を伺う。


 カルトル国の軍隊は、異変に気付き始めたようだった。

 進むことも、後退することもできなくなっている。

 そして、森全体に漂う魔力。


 剣を構える者、弓を引く者、全員が戦闘態勢に入っている。

 けれど、誰もその標的を見つけられずにいた。

 それもそうだろう。

 相手はヴァローレの騎士団だと思っているのに、実際ここにいるのは魔王様、ミレアスさん、私の三人だけ。

 

 魔王様はマントを靡かせると、風のような速さで向かっていく。

 一人、二人、三人と次々となぎ倒し、敵陣を乱す。


 よく見ると魔王様の攻撃は一撃で相手を仕留めていた。

 鎧に覆われた身体ではなく、首元を狙っている。

 戦いに慣れているんだ。


「誰だあれは! いったいどうなっているんだ!」

「ヴァローレの隊はまだ王都を出立したばかりではなかったのか!」


 カルトルの軍隊はパニックになっている。

 これなら魔王様一人で倒してしまうかも。


 そう思っていたけれど、だんだん状況を把握してきたカルトル軍が反撃を始めた。


「なぜかはわからんが相手は一人だ! 集中砲火!」

 

 四方八方から魔王様めがけて飛び交う矢や火の玉。振り降ろされる刃。

 なんとか避けきれているけれど、大勢相手にきりがない。

 その時、一本の矢が魔王様の背に直撃した。

 けれど、矢は貫通することなくマントにぶつかり落ちていった。

 もしかして、私が作ったマントのおかげ? やるじゃん私。

 でも、これじゃ攻撃がままならない。


「一人じゃないわよ」


 そこにミレアスさんが追随する。

 魔王様めがけて飛んでくる攻撃を結界魔法でかわし、その隙間から魔王様が魔力の砲撃を放つ。


 見事な連携プレーだ。


 だけど、次から次へと相手は向かってくる。

 全然減らない。それもそうだ。何万もの軍なんだから。

 もっと、一気に攻撃できる方法はないのだろうか。


 私も攻撃に加わる?

 でも、戦ったことなんてない。

 魔王様の真似をして本当に相手を倒すことができるだろうか。

 前に出たところで戦力にならなければ、足手まといになるだけ。


 もっと、私にできる違う方法で……。

 魔法はイメージ。私ができるのは水と風を出すこと。


 そうだ。


 私はカルトル軍に向かって両手をかざした。

 どれくらいの威力のものが出現するかはわからない。

 でも、できるだけ鮮明に頭の中でイメージする。


「魔王様、ミレアスさん、避けてくださいねー!!」


 手から放たれた魔力。

 周りのもの全てを飲み込んでしまうどの竜巻、そして渦の中で吹き荒れる暴雨。


 気付けば、カルトル軍の全ての人が吹き飛んでいた。


「ユリ、お前というやつは……」

「すごいわねぇ。どこからそんな魔力湧いてくるの」


 魔王様とミレアスさんは驚きながらも呆れたように私を見る。

 台風をイメージしてみたんだけど、やりすぎてしまっただろうか。


 それでも、吹き飛んだだけでは屈しない兵士たちが力を振り絞るように起き上がってくる。

 ただ先ほどまでの勢いは残っておらず、魔王様があっという間に仕留めてしまった。


 そして、意識のある者はいなくなっていた。


「死んで、しまったのですか?」

「人間など殺す必要はない。まあ、しばらくは歩くこともままならないだろうが」


 意識を失っているだけということか。

 でも、大きな痛手を負った。これでしばらくはヴァローレに攻め入ることはないだろう。


 私たち三人は戦場の真ん中に立ち、倒れた兵士たちを見下ろす。


 死んではいないにせよ、私がやったんだ。

 辺りを見渡し、どこか胸が苦しくなる。


 でも、放っておけばたくさんの命が奪われていた。

 これで良かったんだ。そう言い聞かせた。


「さあ、帰りましょうか」


 ミレアスさんがポン、と私の肩を優しく叩く。


「お二人とも、私のわがままを聞いてくださりありがとうございました」

「ほとんどユリがやったようなものだけどね」

「疲れた。帰ったら飯にしよう」

「はい、たくさん作りますね」


 私たちはまた魔王様の転移魔法でお城へと帰った。

 外壁が崩れかけた暗いお城。

 はじめはあんなに怖かったのに、今はこの場所が安心する。


 楽しいピクニックが大変なことになってしまったけど、気分は落ち着いていた。


「何が食べたいですか? 疲れた体にはやっぱり精の付くお肉料理ですかね?」


 魔王様を見上げると、どうしてかすごく顔色が悪い。


「魔王様? 大丈夫ですか?」


 呼びかけても返事はない。

 するとフッと力が抜けたように倒れ込んできた。

 

「ちょっとジル?!」


 私とミレアスさんでなんとか支えたが、意識を失った魔王様は顔色が悪く、汗が滲んでいる。

 

「どうしたんですか?!」


 帰ってくるまでいつも通りだったのに。

 その時、支えた脇腹からぬるっとした感触があった。


 血だ……。


 着ていたマントを外すと、脇腹に大きな切り傷があった。


「ジルったら怪我したのに隠してたわね」


 避けきれていると思っていたけど、そうじゃなかったんだ。

 あれだけの攻撃を一斉に受けていたんだから当たっていてもおかしくはない。


 傷口を抑えながら、とりあえずベッドまで運び寝かせた。

 ミレアスさんが血を拭い、手当をする。

 

「大丈夫でしょうか……」

「しばらく安静にてれば治るわよ。だてに魔王やってないから」


 しばらくとはどれくらいだろうか。

 意識を失うほどの傷、本当に大丈夫なのかな。


 痛々しいその傷にそっと手を触れる。

 そういえば、前に同じようなことがあった。

 丘で出会った綺麗な男性。

 馬から落ちて手を怪我をして、気づいたら私がその怪我を直していた。


 私、治癒魔法を使えるんじゃん。忘れてた。


 傷に触れた手をそのままに、魔力を込めていく。

 意識して使うのは初めてだけど、傷口がしっかり塞がるようにイメージする。

 

 すると次第に傷口は塞がり、傷の痕跡すらなくなった。


「治癒魔法まで使えるの。ユリは本当になんでもできるわね」

「ですが、目を覚ましません……」

「力を使い過ぎたのかもね。まだ魔王として完全に復活してるわけではないから不安定なのよ」


 傷だけが原因ではなく、魔力の使い過ぎもあって倒れたんだ。

 帰りは私が転移魔法を使って帰れば良かったな。

 なんて思っても、もう遅いけど。


「私のせいですね……すみません」


 私が戦を止めたいと言ったから。

 無理をさせてしまった。


「ユリのせいじゃないわ。ジルだって多少の負傷は見越してたはずよ。相手は数も多いしそれなりの精鋭も集めてたはずだし。一撃くらっただけですんでるんだからいい方よ。まあ、私がもっと守備を固めていれば良かったんだけどね」


 しばらくすれば目が覚めるだろうから寝かせておきましょうとミレアスさんは言うけれど、このまま一人で寝かせておくことができなかった。

 私は部屋に残り、ベッドの横に椅子を置いて座った。


 眠っている魔王様の手をそっと握る。

 

 怪我を負ったことも、魔力を使い過ぎていたことも全然気付けなかった。

 もっと私のことも頼ってくれたらよかったのに。

 怪我をしたから、疲れたから、帰りの転移魔法は使えないって言えばよかったのに。


 私、そんなに頼りにならないのかな。


「もっと私がしっかりしていれば……もっと、強くなれば……」


 俯いていると、握っていた手を強く握り返された。


「ユリは、そのままでいい」

「魔王様……」


 目を開いた魔王様は、ベッドに横になったままじっと私を見つめる。

 

「温かい魔力が全身を巡って、気付けば身体が楽になっていた。こんな感覚は初めてだ」


 治癒魔法を使ったからだろうか。

 なんにせよ、目が覚めて良かった。


「他に痛いところとかないですか?」

「腹が減った」


 帰ってくるときもご飯が食べたいと言っていたし、よっぽどお腹が減ってるんだな。

 魔王様の返事に思わず笑みがこぼれる。


「たくさん作りますね」


 私の言葉に魔王様も笑った気がした。

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