表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その勇者、魔王の家政婦につき  作者: 藤 ゆみ子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/33

第11話 アンドレア王子の反省

 ――ヴァローレ王国王宮内 アンドレア王子執務室


 窓から見える、教会の尖塔を眺める。

 あれから召喚魔法の魔力は感知していない。

 ということはまだ召喚の儀は行われていないということ。

 ラカス神官長はこれから行うと言っていたが、あまりにも遅すぎる。


 このまま勇者が召喚されなければ、本当に我々王宮騎士団で魔王討伐に向かうしかない。

 魔術師団や医師団にも協力を仰ぎ隊を整え、あとは優秀な仲間を……


「ユリ……」


 彼女は、どこにいるのだろう。

 ロバートにも探すよう言付けているがなかなか見つからない。

 美しい黒髪に透き通るような白い肌。

 水魔法と治癒魔法を扱う、聖女のような女性。


「ユリ……」


「そう何度も名前を呼んでいるとまるで懸想しているようですよ」

「なっ、懸想なんてしていない!」

「まあ、あなたは少々の懸想くらいしてくれてもいいのですがね」

「僕はこの国のために命を懸けると決めているんだ。女性に現を抜かすわけにはいかない」


 ロバートはあからさまにため息を吐く。

 一国の王子でありながら婚約者すらおらず、周りからはよく小言を言われる。

 けれど、僕はこの国を守るために魔王討伐に行くと決めている。

 

 父である現王は争い事を好まず気が弱いため、教会のいいようにされてきた。

 だが僕は違う。たとえ自分の命と引き換えになったとしても、魔王を討つ覚悟でいる。

 父も僕の覚悟をわかっている。

 特に昨年弟が生まれてからは何も言わなくなった。

 これで心おきなく討伐に向かえる。


 そんな死ぬかもしれない王子との婚約なんて、相手からすれば無為な時間になる。

 そこに愛がないのならなおさら。

 だから、恋人や婚約者はいらない。


 だがもし、無事に魔王討伐を成し遂げ帰ってこれたときは……。


「それよりも、彼女は見つかったのか?」

「いえ。手がかりすら掴めません。街でそれらしき女性を見た店主がいましたが、初めて見る顔でどこの娘かもわからないそうです」


 目撃情報はある。

 けれど、どこに住んでいてどこから来ていたのか全くわからない。

 あの買い物の量からして旅人や観光客ではないと思っていたが。


「引き続き探してくれ。僕も探す」

「どんな女性かはわかりませんが、見つかったところで討伐に同行してくれるとは限りませんよ」

「それはわかっている」


 討伐隊に彼女がいてくれたらどれだけ頼もしいだろう。

 でも、それだけじゃない。

 治癒魔法を使う聖女が存在する。それだけでこの国の利得になる。


 なんとしても彼女を王宮に迎えいれたい。


 その時、部屋のドアがノックされた。

 返事をすると入ってきたのは、騎士団の諜報員の一人。


「教会に潜入した団員から報告がありました。神官は何度も召喚の儀を行おうとしているようですが一向に召喚の魔法陣が発動しないようです」

「魔法陣が発動しない? 失敗を繰り返しているということか」

「そのようです。ラカス神官長もかなり苛立っているようです」


 それだけ何度も失敗しているということは、今後も勇者召喚は叶わないかもしれない。

 やはり我々で魔王を倒すことになるだろう。


「引き続き潜入し、なにかあればすぐに報告するように」

「承知しました」

「ロバート、僕は街へ行く。同行はいらない」

「かまいませんが、あまり長居はしないように。午後からは会議もありますよ」

「わかっている」


 僕は騎士団制服のジャケットを脱ぎ、シャツの胸元を少し緩める。

 そしていつものように王宮の裏門から出て街へと向かった。

 

 プライベートとしての街の散策。少しの時間だけだけれど、僕にとって大事な時間だ。

 日常生活に溶け込むことが、国民の暮らしを知る一番の方法だと思う。

 

 王宮の外堀を抜けると、大きな広場がある。

 広場を抜けると街の裏通りへ出られるのだが、堀からほど近い茂みからなにやらボソボソと声が聞こえる。

 ここら辺は王宮に近いため、あまり人は近寄ってこないはずなのに。

 間者か? いや、間者がこんな気配だだもれなはずはない。

 そっと近付き耳をすませる。


「――この串焼き美味しい。でも魔物の肉の方が深みがあって美味しいかも。お肉は買わなくていいか……」


 魔物の肉?

 そんな物を食べたことがあるのか?

 やはり怪しい。さらに近付き茂みを覗く。

 するとそこにいた人物に心臓が大きく跳ねた。


 思わず目の前に飛び出す。


「ユリっ……」

「あ、この前の? こんにちは」


 彼女は木陰に腰を下ろし、口いっぱいに串焼きを頬張っていた。

 その姿はまるで小動物のようで可愛らしい。

 

「こんなところで、何を?」

「屋台で買ったものを食べていました。とっても美味しいです」


 ユリは串を見せながらにこりと笑う。

 どうしてわざわざこんなところで食べているのかが知りたかったのだけど。

 まあそれはいい。

 僕は彼女の隣に腰を下ろした。

 

「先日は怪我を治してくれてありがとう」

「いえ、怪我をしたのは私のせいでもありますから。治したのもたまたまでしたし」

「ユリは、治癒魔法を使ったことはなかったのか?」

「はい。あの時が初めてて、それ以降も特には使っていません」


 本当に、自分の力がわかっていないのだろうか。

 治癒魔法を使えるとなればどこに行っても引く手あまただろうし、裕福な暮らしをしているのが妥当だ。

 けれど彼女は今日も先日も同じ地味なワンピースを着て、一人で買い物をし、こうして串焼きを食べている。

 嘘を付いているわけでもなさそうだ。

 本当に自分の力に気付いていないのなら、伝えないと。

 君は特別なんだと。


 でも、その前にもっとよく彼女のことを知る必要があるな。


「ユリはこの街の住人ではないようだが、どこから来ているんだ?」

「えっと……どこ、と言われると困るのですが、遠いところ……です」


 やけに濁した返事だ。

 出自を知られたくないのだろうか。


「街へは、買い物に来ているのか?」

「そうです。この街はいろいろな物が揃っていてありがたいです」

「遠いのに、どうやって? 馬か何かか?」

「いえ、転移魔法を使って来ています」

「転移魔法?! 転移魔法が使えるのか?!」

「は、い……」


 驚きすぎて前のめりになってしまった。

 彼女も僕の気迫にのけ反っている。申し訳ない。

 でも、ユリは転移魔法の希少さについてなにもわかっていないようだった。


「転移魔法は古の魔法と言われ、現在個人で使える人間はいないとされている。今は古人が残した、教会の地下にあるとされる魔法陣での転移ができるのみなんだ……」


 僕も、この目で見たことはない。


 転移魔法の魔法陣と召喚魔法の魔法陣。

 教会が囲っている二つの魔法陣によって奴らは権力を誇示してきた。


「そんな特別な魔法だなんて知りませんでした」

「どうやって覚えたんだ?」

「教えてくれた人がいまして」

「他にも使える人物がいるのか? 誰なんだ?」

「それは……ちょっとお答えできないといいますか……」


 困ったように眉を下げるユリ。

 どこに住んでいるのかも、魔法を教えてくれた人物についても教えてはくれない。

 執拗に聞きすぎてしまったか。

 警戒されてしまったかもしれない。

 これではよく知るどころか距離を取られてしまう。反省しないと。


 それにそろそろ会議の時間だ。

 長居するとロバートに怒られる。


「また、会えるか?」

「時々買い物に来ると思うので、お会いするかもしれませんね」


 彼女にはまだ僕が王子であるということは黙っておいた方がいいかもしれない。

 もっと親しくなって、心を開いてもらってから告げよう。

 仲間になって、共に戦って欲しいと。

 もちろん、十分報奨は準備するし、何不自由ない暮らしも保証する。

 

 今はまだ言えないけれど、必ず。


 彼女には申し訳ないが、追跡魔法をかけさせてもらった。

 無理に囲うことはしない。

 けれど、どこの人間かくらいは仲間になってもらう上で調べておく必要がある。


 今からまた街で買い物をするというユリの背中を見送り、王宮へと戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ