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その勇者、魔王の家政婦につき  作者: 藤 ゆみ子


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第10話 屋根裏部屋

「こんな所があったんですね……」

「ごちゃごちゃしてるけど、掘り出し物もあると思うわ」


 ミレアスさんに付いて中へと進んで行く。屋根裏だけど、天井も高くかなり広い。

 たしかにごちゃごちゃしているけれど、使えそうなベッドがいくつかあるし、机、椅子、タンスなどの他の家具もある。


 どれを部屋に持っていこうかと見渡していると、欲しいものがどんどん見つかる。


 あそこ、大きな桶があるな。洗濯で使えそう。なんだ、ホウキもちゃんとあるじゃない。

 え! あれって足踏みのミシン?! 元の世界でも使ったことないけど、ミシンがあればいろいろ作れる。


「持っていきたいものがたくさんあります」

「ここにあるものは保護魔法をかけているわけじゃないから状態があまり良くないかもしれないけど」

「埃被ってはいますが、十分使えると思います。好きに使っていいのですか?」

「もちろんよ。置いていたって使う人はいないんだから」


 ボロボロで、何もないお城だと思っていた。

 でも全然そんなことなかった。

 ここに魔王城の生活が凝縮されているみたい。


「でも、どうしてこんなものが? 魔王様が使うわけではないですよね?」

「大昔はね、下級魔人の小間使いがたくさんいたのよ。みんな勇者との戦いでいなくなったけどね」


 使用人のような仕事をする魔人がいたんだ。

 その人たちが使っていたものをここに置いていたんだな。


「魔王様はこんな場所があるなんて教えてくれませんでした」

「ジルは……昔の仲間が使っていたものは、古びて朽ちていったと思ってるんじゃないかしら」


 かつてはたくさんの仲間がいて、一緒に生活をしていた……。

 きっと賑やかだったんだろうな。

 湯殿もちゃんと使われていて、掃除も行き届いていて、たくさんの人の声で溢れていた。


 私がここに来たときは、お城も魔王様もボロボロだった。

 封印から一人目覚めて、どんな気持ちだったのだろう。

 かつての賑やかだったころを思い出したりするのだろうか。


「なんだか、寂しいですね」

「ユリが気にすることじゃないわ。ジルはたとえ一人になったとしても、生きていくはずよ」

「一人に、なったとしても……?」


 それって、ミレアスさんやもう一人残っている方も勇者にやられてしまうということだろうか。

 魔王様は、封印されても殺されることはないと言っていたけどそれって、この先永遠の孤独と向き合うことになるの?

 考えこんでいると、ミレアスさんは私の肩にポンと手を置く。


「思いつめるのは人間の悪い癖よ。気楽にいきましょう。勇者が攻めてくるのはもう少し先だろうしね」

「私、自分にできることは精一杯やらせてもらいます」


 この世界で私の居場所はここしかない。

 居場所を与えてくれた魔王様には感謝している。

 だから、力になりたい。


 自分の生活の基盤を整えつつ、魔王様の生活習慣を改善して、しっかり回復してもらわないと。

 それから勇者に勝つための作戦も考えないとな。


 とりあえず、部屋を完成させよう。


「このベッドと机を持って行ってもいいですか?」

「ええ。でも運ぶのが大変よね。ジルを呼んできましょうか」

「いえ、たぶん大丈夫だと思います」


 転移魔法を使えば簡単に移動させられるはず。

 まだ自分しか転移させたことはないけど、なんだかいける気がする。

 

 ベッドに両手を置き、目を閉じてイメージする。

 体を魔力で包むのと一緒にベッドも包み込む。

 フワッと身体が浮く感覚があったあと目を開けると先ほど掃除をしていた部屋にいた。

 ちゃんとベッドもある。

 思っていた位置とは少し違っていたのでグーっと押して窓際まで移動させた。


「うん。いい感じ」


 それからまた転移魔法を使って屋根裏部屋に戻る。

 戻ってきた私を見て、ミレアスさんは驚いていた。


「ユリ、転移魔法が使えるのね」

「はい。魔王様に教えていただきました」

「教えてもらったからってできるようになるものでもないわよ」


 すごいわね、と豪快に笑うミレアスさん。

 魔族でも転移魔法を使えたのは魔王様だけらしい。


 それから机と椅子、ミシンも部屋に運んで、いただいた寝具をベッドに置いた。

 汚くて何もない部屋だったけれど、ミレアスさんのおかげで素敵になった。


「さて、次は洗濯をしようかな」


 借りているこのワンピースももう何日か着たし、シーツとかカーテンとか洗いたいものがたくさんある。

 手洗いなんてほとんどしたことないけど、洗濯機なんてないから仕方ない。


 あと、一番洗いたいものは……。


「魔王様、それとそれ、全部脱いでください!」

「なぜだ」


 外で特訓している魔王様のところへ行き、着ているもの全て指さす。

 ボロボロの黒いマント。ずっと気になっていた。

 中のローブもいつも同じ物を着ているし。


「洗濯するからですよ」

「別にこのままでいい」

「よくないですよ! 不潔な物を身に着けていると体調にも悪影響です」

「悪影響なんてない」

「それはどうでしょう? 悪影響はなくても、綺麗にすることで好影響を与えるかもしれませんよ。とにかく、私が気になるので洗わせてください!」


 観念したのか、魔王様はしぶしぶ服を脱いだ。

 自分で脱いでと言っておきながら、目のやり場に困る。

 上半身裸で道着のようなズボン姿は、思っていた以上に引き締まっていて男らしい。

 

「で、では洗ってきます」


 預かった服を抱え、特訓を再開した魔王様の邪魔にならない庭の端に移動する。

 屋根裏部屋から持ってきた大きな桶に水をはり、街で買ってきた石鹼で服をもみ洗いしていく。


 石鹸の香りがどこか懐かしくて、汚れで濁ってくる水に爽快感を覚える。

 目に見えて汚れが落ちていくのって気持ちいい。

 手洗いも悪くないかも。

 城中の洗濯物をすると考えると気が遠くなるけれど、私にできることは家事くらいだし頑張ろう。


 洗い終えた服をしっかり絞り、木と木の間に長い枝をかけて吊るしていく。


「そういえばこんな色だったな」


 干していると後ろから魔王様がやってきて、自分のマントを見つめる。

 洗う前はくすんだ黒色で、砂埃がこびりついて白っぽくなっているところもあった。

 汚れが落ちた今は、綺麗な漆黒色になった。

 所々破けているのが気になるけど。


「ほつれているところは乾いたら縫いますね」

「そんなことまでできるのか」

「裁縫はけっこう得意なんですよ」


 小さい頃からおばあちゃんに教わっていたし、家政婦の仕事をしていた頃も時々依頼主からズボンの裾上げやボタン付けをお願いされることもあった。


「ユリも、何かして欲しいことがあれば言ってくれ」

「え……」


 珍しいことを言うなと思い魔王様の顔を見上げると、心なしか微笑んでいるように見えた。

 服が綺麗になったのそんなに嬉しいのかな。

 洗濯なんて生活する上で普通のことだ。

 置いてもらっている身としてはこれくらいして当たり前だと思っている。

 お返しされるようなことではないけど、言っていいのならお言葉に甘えよう。

 

「もっと、買いたい物があるんです。食材や調味料もそうですけど、布とか糸も」

「ああ。好きにすればいい」

「いいんですか? ありがとうございます!」


 あっさり了承をもらえて、ウキウキで洗濯を続けた。


 それから数日後、食材がなくなりかけてきたので街へ買い物に行くことにした。

 転移魔法を覚えたので今度は一人で。


「ユリ気を付けて行ってきてね」

「はい、ミレアスさんにお土産買ってきますね」

「街の近くまで飛んでいいが、人に見られないようにしろよ」

「わかりました。気を付けます」


 前回街へ行ったとき、魔法を使っている人は見かけなかった。

 みんながみんな魔法を使う世界ではないのかもしれない。

 いきなり目の前に人が現れたりしたらびっくりさせちゃうよね。


 魔王様とミレアスさんに見送られ、買い物に出かけた。


 転移先は迷った末、丘の上にした。帰りの転移場所は荷物の量と疲れ具合で決めよう。


 目を開けると、賑やかな街が視界いっぱいに広がった。

 ここからの景色、けっこう好きなんだよね。


 丘を下り、街へと入っていく。

 今日は少し食べ歩きもしてみたい。

 この世界の食べ物をよく知りたいし、食材の味を知ってから買うものを決めたい。


 何を食べようかと考えながら、私は屋台のある方へと進んでいった。

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