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この時代の人間は不快である〜黒猫タイムスリップ奮闘記〜

作者: 昼月キオリ


この時代の人間は不快である。


2025年4月7日。

ここに、500年前からタイムスリップしてきた野良猫がいた。

猫の名は"杏"(きょう)小柄な黒猫、オスだ。


タイムスリップするまで杏は自由に山で暮らしていた。

時折、町娘の雫と遊んだり、同じ黒猫仲間と喋ったり、気ままに生活していた。

それがある日突然、500年後の世界にタイムスリップしてしまったのだ。

杏は最初、何が起きたのか分からなかったが今までいた場所とは違うということだけははっきりと分かった。

人間が着ている服も街並みも何もかもが違っていたからだ。


2025年7月7日。

雫、僕がこの街で暮らし始めてから3カ月が経ったよ。

行く宛ても帰る場所もなく、ただただこの街を彷徨っていた。

時折、外で売っている店から盗み食いをしたり、落ちていて食べれそうなものを漁ったりして何とか飢えを凌いだ。

今季節は夏だ。

夏ってこんなに暑かったっけ?とびっくりしてる。

僕は夏が嫌いになった。そして人間が嫌いになった。

あ、もちろん雫だけは嫌いにはなってないよ。安心して欲しい。

それからね、こうも思ったんだ。

何故、この場所にいる人間はこうも不快なんだろう。

何故、臭くて煩くて目障りだと感じるのだろう。

その理由は大きく分けて三つあることに僕は気付いた。

一つは臭いということ。これは嗅覚からくるものだ。

謎の塊(車)から発せられる匂い(排気ガス)、ヒラヒラとした露出度の高い(ワンピース)を着た女の匂い(バラの香水)、(コンビニ)から漂う油の匂い。

二つは煩いということ。これは聴覚からくるものだ。

トントントン、キュイーンという音(工事現場)、ブオォーンという塊(車)が走る音、(カフェ)から流れ出てくる歌(BGM)。

三つは目障りだということ。これは視覚からくるものだ。

(カフェ)の青い看板、虹色の服を着た女、髪も虹色だった。それから雨の日に見た派手な色(蛍光ピンク)の傘。

嗅覚、聴覚、視覚、とにかくこの場所にいる人間たちはどれを取っても不快なんだ。

僕は泣きたくなった。帰りたい。ここにいる人間は雫とは違う。黒猫仲間たちもいない。

嫌だ嫌だ、早く帰りたい。

臭くて煩くて目障りで息ができなくなる。このままだと僕は死んでしまう。

雫の元へ帰りたい。今すぐ迎えに来てよ雫・・・。


パチッ。

目が覚めると僕は雫の布団の中にいた。

どうやら気を失って悪夢を見ていたようだ。

雫「杏、大丈夫?うなされていたみたいだけど」

京「にゃー・・・」

杏は弱々しく鳴く。

雫「怖い夢を見ていたのね、大丈夫よ、ここには悪者はいないから、怖かったね、よしよし」

悪者、そうだ悪者だ。

雫、夢の中には悪者がいっぱいいて僕はそいつらと戦っていたんだよ。

例えばそれは幽霊みたいに正体が分からないものだったけど、とにかく沢山悪者がいたんだ。

今この部屋では木の匂いと雫の匂いだけがする。音も静かで目に入ってくるのは雫と溶け合うような同じ肌色の浴衣とカンザシの桜色だけだ。

良かった、目が覚めた。もう二度と僕はあんな場所には行かない。

そう強く願いながら杏は雫の腕にしがみついた。

雫が優しく僕の頭を撫でてくれる。

先程食べていたのだろう、雫から(あんず)のいい香りがふんわりと漂ってきた。

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