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第三章 3 相棒と呪い



   三


 組合に戻ると、皆の視線が冷たかった。

 既に噂が流布されているのだろう。

 一度、部屋に戻って着替えはしてきた。だが、全身に軽度の火傷をしている。粘膜も全てが痛い。気分は、最高に最低だ。

 外から戻ったときには、城門の門番も、すれ違う人たちも、とても優しい反応をしてくれた。

 なんせ、胃液まみれの私に、臭いと言わずに、無言で離れるだけだったのだ。悲しい。

 モッドには、私とは時間をずらすように言ってあったが、既に用事を終えて帰っているようだ。私と組合であんまり仲良くすると、変に疑われる、と言ってあるので、普段は絡んでこないだろう。

 今日、こんな事があったのに、私と仲が良ければ、グルだと疑われかねない。

 私の姿を見た組合長が、手招きをしていた。

 組合長の部屋のソファに座ると、組合長は珍しく頭を下げた。

「すまん。お前が居てくれた助かった」

「良いわよ、別に」

 一瞬、組合長が眉をひそめた。多分、私の声がおかしかったのだろう。なんせ、喉が焼かれている。だが、そのまま言葉を続けた。

「しかも、悪役になったんだろ。いいのか、別に説明すれば、誤解も……」

「解かないで良いわよ。元々の悪評もあるし、面倒でしょ。多少なりとも関わりある連中が、いつものだって思ってくれれば、それでいいわ」

「とりあえず、あいつらの苦情は、受け流しておいたが、受付嬢だからよう、一人が」

 組合中に広がると言うことだろう。かまわない、かまわない。

 私は、その話を切り上げ、分かれた後の鎧蜘蛛について説明した。

「その死体は?」

「全部焼いたわ。死体を残すなんて器用な戦い方なんて出来ないし」

「そうか」

 残念そうに、組合長は項垂れた。

「最初の一匹の討伐証明部位は?」

「焼いた。階級上げられたらたまんないもの」

「いや、でも、討伐したのは確実なんだし、今回は特別に」

「やったら、組合長もグルだって、言いふらすから」

 ぐっ、と組合長は口ごもった。

「最近、素材とか手柄にがっつきすぎじゃない?」

「仕方ないだろ! 教会ばっかり、手柄上げて、組合の評判が低いんだよ」

 見栄とかあるのだろうか。まあ、私には関係の無い話だ。

「後、呪喰い蜥蜴を一匹潰したわ」

「マジか? 呪術師で、アレを倒したなんて話、初めて聞いたぞ」

 組合長は、本気で驚いたかのように目を見開いているが、私は特に反応せずに、話を先に進めた。

「で、そいつが悪いもん喰ったみたいで、呪いを撒き散らしていたのよ。鎧蜘蛛が、上級から逃げてきたのは、それが原因だったみたい。四つ首獅子も、多分、そうなんじゃないかしら?」

 ただ、結論はまだ出せない。

 一応、呪怨龍の爪は回収済みだ。破壊した胃袋を何重にも巻くことで、影響を少なくするようにはしてある。

「もう一度、ちゃんと調査はした方が良いと思うけど」

「そうだな。王宮の連中や教会の連中と話し合ってみる。だが、今度の教会の祭典が終わるまでは厳しそうだがな」

「あ~、もうじきだったわね」

 降臨祭。昔、この辺り周辺に居た化け物を退治だかを、封印した天使様を奉るお祭りらしい。私的には、屋台で御飯食べる日といった感じ。

 テスラは、教会所属のため、そっちの仕事があることが多く、一緒に回れたのは一回くらいだ。

 私は身体を動かそうとして、火傷が服とすれたため、くぐもった声をもらしてしまう。

「どうした?」

「呪喰い蜥蜴との戦闘で火傷だらけ。喉も痛い」

「火傷って、呪喰い蜥蜴って火なんか吹いたか?」

「違うわよ、飲まれたの。胃液で、ほら」

 私がローブから顔を出すと、組合長は、目を見開いて、慌てて薬を持ってくるように指示を出した。

「馬鹿野郎、ひでぇ火傷じゃないか!」

「ええ、全身よ。ただ、そこまで重傷じゃないし」

「……火傷って、体表の九割だと、死ぬぞ?」

「……マジで?」

「マジで」

 てっきり、疲れで怠いのかと思っていたが、そうじゃないのかも知れない。

「い、医者! 医者呼んで!」

 知ってしまうと、具合が悪くなってくる。軽いめまいを起こして、その場にへたり込む。

「うおおい、ここで死ぬんじゃねぇ! 近くの町医者呼んでくるから、待ってろ!」

「や~だ~。あそこ、おっさんだからや~だ~。女医さんが良い! 裸見られるんだから、女医さんじゃなきゃヤダ!」

「ワガママ言ってる場合か⁉」

 私達の言い争いに、突如部屋の扉が開いた。

「帰ってきましたのね、ジーラ。貴女がちゃんと仕事したのか、ここで待たせて頂きましたわよ、って、貴女、その顔⁉」

 お説教する気満々だったらしいミミルの表情が、驚きと心配で、青白くなっていく。

「あ、ミミルって治癒術使えるわよね? お願い、なんか、死ぬかも知れないって」

「え……?」

「だから、治癒術」

「つ、使えませんわ。わたくし、治癒術は、使えません」

 私は、思わず組合長と顔を見合わせてしまう。なんせ、お相手は術士協会の会長様だ。

「あ、あれは神秘術の領域ですもの。精霊術士のわたくしでは、出来ませんわ」

「あ~、二人に押しつけられた仕事の所為で、死んじゃうんだ。特大の呪いを残してから、死んでやるから、覚悟しときなさいよ」

 私の言葉に、二人が、ぞっとしたように、頬を引きつらせている。冗談のつもりだが、あの顔は信じている。私ならやるだろうな、と確信している表情だ。失礼な!

 すると、再び扉が開いた。

 扉から現れたのは、組合施設の医務室に居るおばちゃんだ。

「医者医者って、なんかあったのかい?」

 すると、おばちゃんは、火傷まみれの私を見て、目を見開いていた。

「おや、まあ、酷い火傷じゃないか」

 そう言うと、私に近づいて症状を確認する。

「火傷自体は軽度だね。でも、範囲が酷い。そっちのエルフさんは、氷出せるかい?」

「え、ええ」

「なら、とりあえず、冷やしてあげな。後、わたしゃ、痕や後遺症が残らないように、塗り薬を持ってくる」

「お、お金ならいくらでも出しますわ。一番良い薬を!」

 駆け出したおばちゃんの背中に、ミミルが声をかける。

 ミミルは、私の全身を冷やすために氷を用意し、風術で冷気を私の全身に纏わせる。

 おばちゃんが戻ってくると、男性の組合長は部屋を追い出された。

 そして、素っ裸にされた私の身体に、薬を塗り込んでいく。

「女の子の綺麗な肌に、痕が残ったら可哀想だからね」

「おばちゃん、優しい」

 私も全面は自分で塗り、最終的に白塗りの化け物のようになってしまった。

「エルフさん、治癒術、もしくは肉体強化術は使えるかい?」

「肉体強化でしたら、使えますわ」

「だったら、それをず~っと、維持しておくれ。そうすれば、自己治癒強化で、治るはずだよ。ただし、相当な体力を使うからね」

 言われるがまま、ミミルが自己強化を私に施し、更に冷気も送り続ける。

「本来だったら、こんな事はしない方が良いんだ。肉体の負担が半端じゃないからね。ただでさえ、火傷で弱ってる上に、体力を奪う行為だ。でも、今は全身火傷で、そっちの方が危険だ」

 確かに、自分の身体がどんどん怠くなってくる。

「寝て良いよ。むしろ、寝な。栄養剤は処方しておくから、起きたら飲むんだよ」

 そのまま、私は意識を失っていった。


「ジーラ、起きて~」

 声に起こされ、目を覚ますと、私の顔を至近距離で、カミュが覗き込んでいた。

「キスでもする気?」

「なら、起こさないわよ。お客さんが来てる」

 私は記憶を呼び覚ましながら、現状を確認する。

「私、どうやって帰ってきた?」

「ん~、エルフのお姉さんが運び込んで来た。で、枕元に置いてある薬、起きたら飲ませろって」

 私は薬を見つけると、そのまま水なしで飲み込んだ。

「私の顔、どう?」

「何その質問?」

 カミュは、訝しむ様に眉をひそめる。

 あの反応ならば、火傷の痕はないのだろう。

 むしろ、頬に触れると、肌の調子は良い。自己治癒力の強化と塗り薬の影響だろうか。

 私は上半身を起こすと、身体が重い。本当に体力を使い果たしているのだとわかる。

「お客って?」

「獣人。熊の」

 ならば、私が呼びつけいる。流石に、追い返すわけには行かない。

「化粧と着替えしたら行くわ。伝えておいて」

「わかった。でも、顔色悪いよ? なにがあったの?」

 説明するか否か、少し迷ったが、仕事で迷惑をかける可能性があるため、説明することにした。

「ちょ、それ本当なの? なら、今日は休みなさいよ」

「自分から呼びつけたんだもの。顔ぐらい出すわよ。仕事は、任せるわ」

 冗談めかしていったつもりだが、カミュは「わかった。むしろ、働いたら怒るから」と真剣な表情で返してきた。

 思わず「え、うん」と真顔で返してしまった。

 カミュの背を見送って、私は急いで仕事の準備をした。 

 酒場に顔を出すと、モッドが一人テーブルで、酒をちびちびと飲んでいた。

「モッド」

 呼びかけると、首を傾げて、モッドは自分の顔を指さした。

「そうよ」

 手招きすると、おずおずとした様子で、こちらに向かってきた。

「ど、どちら様ですか?」

「あん? あ、ごめ。私、ジーラよ。ここではフィオナって名乗ってるの。よろしく」

「み、見違えますね」

「でしょ~」

 会話しながら、用意した蜂蜜酒を渡す。

「奢り」

「ありがとうございます」

 熊さんが蜂蜜酒を飲む。だが、酒に強くはないらしく、その大柄な巨体でありながら、ちょびちょびと飲む姿は可愛らしかった。

「ここは、色々な所属の人たちが集まる酒場よ。もしパーティが居ないのなら、探してみると良いわ。その為に作った、酒場だから」

「作った、ですか?」

「そう。私がオーナー」

「すごいっすね」

「でしょ~。常連になってくれたら嬉しいな」

「はいっす」

 そう言って、モッドは仲間探しの為に、色々なテーブルを渡り歩いて会話を頑張っていた。

 そして、こちらの会話が終わったのを確認したのか、先ほどからこちらの様子を伺っていたエルフのお客さんが、私の手首を掴んだ。

「あれをボトルで、もらえるかしら?」

「カミュ、こちらのお客さんのお相手してもらえる?」

「いえ、貴女でいいわ」

「いえいえ。もっと向ている人居ますんで。エルフアレルギーなんで! 今日は働くなって、同僚に言われてるんで!」

 お客さんことミミルは笑顔を張り付けっているが、こちらの手首を握って離さない。

「いや、怖いから無理」

 カミュは逃げた。

 働いたら怒るんじゃ無いの⁉

「働いて大丈夫ですの?」

「もう用事は終わったから引っ込むつもりよ。というか、運んでくれたんだってね、ありがと」

「ま、わたくしにも、一抹の責任はありましたし」

 少しばつが悪そうに、ミミルはもごもごとした口調で言った。

「で、まだ用事あるの?」

 この言葉に、イラッとしたのか、普段通りの険しい表情へと戻った。

「あるに決まってるでしょう。王宮騎士団支部の資料見たんだけど、貴女、不正してまして?」

「人聞き悪いこと言わないでくれる? あと、そんな話をここでするんじゃないわよ」

「じゃ、あとで時間頂戴。あと、テスラさんとも会いたいんだけど」

「何、縁結びでもしてくれんの?」

「あら、二人きりのパーティのくせに付き合っておりませんの?」

 珍しく、嫌味の無い微笑みを浮かべた。

「恋バナ、好きですわよ?」

「いや、ミミルにはしないわ。面倒くさそう」

「恋バナ、大好きですわよ?」

 既に面倒くさい。

「話って、急ぎ?」

「どうせなら、飲めて、食べられて、秘密が守られるところが良いですわね」

「そんな場所ねえわ。いや、一カ所ある」

「どこかしら?」

「ココの二階。私の部屋。酒も食べ物も、下から持ってくれば良いし。ただ、職場の人が、嫌がるから無理かも。カミュ、今忙しいわよね? 手伝うわ」

 今日は実際繁盛してる。先ほどは働くなと言っていたが、今日はそうも言ってられない状況のはずだ。

「いや、大丈夫。超大丈夫」

 が、にべもなく手伝いを断られる。

 う、裏切者。

 どっちの意味で断られたのだろうか? 私のためなのか、それともミミルの所為なのか。

 明らかに気配の違うミミルに、この場を去って欲しいようで、むしろさっさと行け、と言わんがばかりの表情だ。

 他の同僚達も、うんうん、と頷いている。

「マ、ママ?」

「お部屋にお酒と料理持っていくから。注文は、ドア開けて叫んで頂戴」

「じゃ、行きますわよ?」

 私を術で浮かして「どこかしら?」と無理矢理、二階の部屋に連行された。

 私の部屋に入ると、「綺麗にしていますのね」と母親みたいなことを言い出した。

「お母さん、いきなり職場に来ないでよ」

「いつまで経っても、母親は子供のことが心配なのですわ」

 小芝居に付き合ってくれた。

 とりあえず、適当な注文を部屋から叫ぶと、すぐに酒とつまみが届いた。

「とりあえず」

「乾杯」

 グラスを合わせ、一口飲もうとしたところで、「貴女は今日、お酒は駄目ですわ」と没収された。

 代わりに、ブドウジュースが用意された。

「で、不正って?」

「自分でわかっているのでしょう?」

 眉根を寄せて、こちらを軽く睨む。

「ただ、理由がわからないわ。あんなことをしても、貴女に得がありませんわ」

 ああ、こりゃ完全にバレてる。

「なんで、貴女が狩った魔物、王宮と教会に渡していますの?」

 怒っているというよりは、理解できないため、謎を解きたいという意味合いが強そうだ。

「いいわ、話すわよ」

 この都市に私が居る理由は、ミミルの命令なのだが、その中身としては、この都市には、何故か強力な魔物が向かってくることが多く、危険があるためだ。

 推測としては、天使が影響しているのではないかとは言われていた。

 その為、私は危険な魔物をちょくちょく狩っているのだ。最初は、換金していたのだが、途中から面倒になった。何故なら、お金は十分手に入れたし、手続きが面倒になり始めたからだ。

 だから、教会と王宮に狩った魔物の死体を無料で提供することにした。とある条件をつけて。

 その条件は、孤児院と貧困地区に対する環境整備だ。

 それさえすれば、文句は言わないと言ってある。

 多少なり横領などされているのだろうが、それについては構わない。すべきことをしてくれているのならば、その辺りはも見過ごせる範囲だ。

 孤児院の院長も、それなりに懐に入れているのだろうが、孤児達にも、きちんと使われている。逆に、この立場を失いたくなくて、孤児達に馬鹿なことをしないと思えば、必要な経費だと思えるくらいだ。

「わからないのは、なんで自分でしないのって事ですわ」

「だから、面倒なんだって」

「そんなの税理士でも雇えば良いじゃないの。全部、やってくれますわよ」

 ミミルはソーセージを二本フォークに差し、一口で頬張った。

「まあ、王宮で贅沢三昧してい人にはわかんないことよ」

 その言葉にむっとしたのか、唇を尖らせた。

「その納得出来る理由を教えて下さいませんか。庶民のジーラさん?」

「私が孤児院や貧困地区に支援しているんじゃ、不安にさせちゃうのよ」

「どういうことかしら?」

「私って、言ってみれば個人なわけ。しかも、世間じゃ身勝手で、あだ名がカスの」

 カスなの、と呆れた声が返ってきた。

「個人なんて、いつ、この都市を出て行くかわからないわ。それと同時に、支援が打ち切られる。それはわかるわよね?」

「そうね」

「だから、王宮や教会、その普遍的な二つに支援を代わってもらっているわけよ」

「でも、貴女がいなくなったら、同じ事でしょう?」

 パスタをフォークで弄びながら、こちらに質問する。行儀が悪い。

「そうよ。でも、そうなるまでは、その不安を考えないで済むわ。結構辛いのよ、常に不安に付きまとわれるのは」

 確かに別の考え方もある。逆にいつ打ち切られるかわからないから、この恵まれた状況で、自分を磨き、生活を向上させるなんて人も居るだろう。

 全員に向いている方法なんてものはない。だから、私はこっちを選んだ。聖女様みたいな立場はゴメンだし。

 呪術師が聖女なんて呼ばれたら、商売あがったりである。

「……わかりましたわ。そんな風に考えていたのなら、文句はありません。ただ、ね、問題があるのですわ」

「なによ?」

「貴女の手柄を、王宮と教会、自分たちのものにしているんですわよ。それで、階級をあげて、他の都市の支部に差を付けようとしてるらしいですわ」

「馬鹿ね、そんなことしたら」

「そう。本当にやばい任務の時、確実に死にますし、失敗しますわ」

 正に、今日の日中に私がした心配だ。それを、この都市の上層連中がやっているというのか。情け無い話だ。

「どうしたものかしら。理由を聞けば、貴女にやめろ、とも言いづらいですし。う~ん」

「不正って告発は?」

「貴女にも火の粉が飛びますわよ? いえ、火の粉というか、火元ですから、燃え上がりますわね」

 それは嫌だな。だったら、ここから逃げる。

「一回、痛い目を見ない限り駄目かも知れませんわね。証拠もないので、下手に責められませんし」

「え、じゃあ、なんで気付いたの?」

「一人で、龍を倒せる実力の者が、あんなに弱いわけありませんわ。稽古を付けたら、すぐにわかりましたわ」

 わくわくして稽古つけたんだろうなぁ。そしたら、期待外れの苛々もあって、不正を曝いたわけか。

「一応、納得致しましたわ。後はテスラさんの事ですわね」

「そっちの方が不安だわ。なに?」

「先ほどと逆ですわ。明らかに、実力に比べて、階級が下過ぎますの。貴女は、階級を故意にあげておりませんのでしょう?」

 うん、と頷く。

「でも、テスラさんはそのような方かしら? そもそも教会の騎士は、階級を上げる場合は、お告げが来ると言いますわよね? その階級に見合う実力にあると」

「あ~聞いたことあるわ。よくわかんないわよね、あの仕組み」

「それには同意致しますわ。ですけど、テスラさんって、風龍の攻撃、軽々と捌けるのですわよね? それが、下のから二つ目の階級なわけありませんわ。それがちょっと不思議でして」

「そういや、なんでだろ。気にしたこと無かったわ。いっそ、私が相棒だから、神様に睨まれているのかと思ってた」

「流石に、そこは個人として見ると思いますけれど。一応、その疑問も気になったのですわ」

 ただの好奇心ということか。ま、一度テスラに聞いてみても良いかもしれない。

「じゃ、明日、テスラの家に行こっか。多分、暇なはずよ。武器、ぶっ壊れてるし」

「なら、丁度良いですわね」

 ミミルとしても立場があるため、滅多に素で飲めることはないのだろう。

 今日は、ここに泊まって良いと伝え、とことん飲むことにしたらしい。私には飲ませないくせに!

 ミミルは、王都に置いてきた弟子達の愚痴を言ったり、夫や子供の自慢をしたりと普段とは違う表情を見せてくれた。

 こちらの恋バナも聞き出したりと、乙女な夜を過ごした。


 起きたとき、テーブルの上に置き手紙を発見した。

 そこにはこう書かれていた。

「準備があるから、一度宿に戻ります」

 風呂や化粧、着替えがあるのだろう。仮にも殿方に会うのだ。

 私も準備するか。

 とりあえず、呪怨龍の爪は持ち歩くことにしよう。盗まれたら、かなり危険だし、遠からず、あの村に返しに行く予定だ。

 部屋の隅に雑に置いてある包みを部屋の真ん中へと持ってくる。この包みは、昨日倒した呪喰い蜥蜴の胃袋だ。何重にも巻き付け、さらに私の血を塗り込むことで、影響を少なくしている。これならば、問題は無いだろう。

 爪自体は、かなりの年月が経っており、経年劣化が激しかった。道具などへの加工は厳しいだろう。なんなら、破壊も可能だと思われるが、とある村の信仰対象だ。流石に、壊すのははばかられた。

 次いで風呂に入るも、痛みは無い。喉も問題は無い。だが、まだ身体はだるい。疲れが取れない感じだ。

 ローブを着用する。早く私服を買わねばならない。いつまでも、プライベートなのに仕事着であるローブで外出するのは、色気がなさすぎる。

 一応、鎚を持ち歩く。今回は特に、テスラに武器がないので、念のためだ。

 準備を終えて、外に出る。ミミルが食事を終えていれば、適当に屋台で買い食いでもすれば良いだろう。

 ミミルの置き手紙に書かれていた宿に向かう。

 王宮御用達の高級なお宿だった。

 中に入ると、こちらの格好に対する嫌悪の目を若干感じたが、それらは客のもので、スタッフは快く対応してくれた。プロだね。

「あら、早かったですわね」

 案内された部屋を訪れる、ゆったりとした調子でミミルが出てきた。

「貧乏暇無しなのよ」

「はいはい。食事は?」

「まだ」

「どうせなら、テスラさんも誘いましょうか」

「いいけど、食べてるかもよ?」

「それなら、彼はお茶だけで良いのでは無くて?」

 自分勝手なところは、御貴族様だなぁ。テスラは怒らないだろうけど。

 私は、ミミルをテスラの自宅へ案内する。テスラの自宅は、教会関連の区画から、少し外れた場所にある。私が会いに来やすいように、わざとそのようにしてくれたらしい。

「テスラ~、居る?」

「ああ、少し待ってくれ」

 待ってくれとは言われたが、すぐにドアは開いた。

 この前、フィリアの格好できたとおり、片付けられた綺麗な部屋。

 私より、明らかに女子力が高い。

「ジーラ、とミミル、さん?」

「ええ、お久しぶりですね。あの亜神の時以来でしょうか」

「ええ。お久しぶりです。何かあったのですか?」

 突然の大物に、テスラは表情を硬くした。

「いえいえ。ちょっとした疑問を解決したくて」

「疑問、ですか?」

「そのお話も良いのですが、我々、朝食がまだですの。そのついででもよろしいかしら?」

「構いませんよ」

 そう言うと、テスラは外出用の肩紐付き鞄を部屋の物掛けから取り上げ、自分の身体に袈裟懸けに掛けた。

 ミミルの要望で、朝からお高い店に行くことになった。メニュー表を見て、私とテスラは苦笑いを浮かべた。

 お金が無いわけでは無いが、金銭感覚はしっかりと庶民のものを維持している。朝食から、出せる額では無かった。

 ミミルは、奢りよ、と言って、適当に何品か注文した。一人一品では無く、大皿をつつくような形式らしい。

 食事中は、無粋な話は無し、と他愛の無い話以外は許されなかった。

 食後のお茶に至って、やっと本題に入る。

「テスラさん、貴方の教会での階級、あまりに低くなくて?」

「そうですか?」

「ええ。この間の風龍の件だけ見ても、実力と見合っておりません。神様からのお告げ? とやらはないのですか?」

「ええ、残念ながら。ミミルさんにそう言ってもらえるのは嬉しいですけど、結局の所、自分の未熟ゆえ、ですよ」

「それをきちんと確認したくて、今日はお会いしに来たの」

 ミミルは、そう言うと優雅な手つきでティーカップを持ち、口に運んだ。

 お茶を飲み終えると、テスラを先頭にし、教会へ向かう。

「う~」

 私の渋面に気付いたのか、テスラが「そうだった、ごめん」と謝罪した。

「いや、テスラ悪くないし」

「あら、何かありまして?」

「教会、苦手なのよ」

 私の言葉に、ミミルは訝しげに眉をひそめたが、私自身に興味は無いのか、「なら外で待ってなさい」と告げて、テスラのみを連れて、教会内に入って行った。

 私は、教会の窓から中の様子を伺う。

 テスラを連れたミミルが、テスラの階級に対する疑問を告げると、神父は何かの資料を、別の部屋から持参し、その疑問に同意していた。

 奥から、更に上位の神父か神官が現れ、テスラの事を観察、そして調べ始めた。

 テスラは実力だけ考えれば、この都市でも有数のはずだ。パーティ要請増えて、組んでくれなくなったらどうしよう?

 そんな事を考えつつも、ありえないな、と苦笑いを浮かべてしまう。

 再び、中の様子を探ると、神官は顔を青くし、テスラが不安そうに、検査の結果を待っている。

「貴方、呪われていますよ。多分、それが神の祝福を妨げているのでしょう」

 皆一様に驚いている。私も同じだ。

 テスラとの仕事を思い起こすが、呪いに関するようなものはない。唯一、呪いに関係する物があるとすれば、あの亜神の関連だが、あの時はそのような事はなかったはずだ。むしろ、ああいう事件だったからこそ、皆、なにかされなかったかを確認したのだ。

 だが、突然、記憶の蓋が開いたかのように、一つの思い出が思い起こされた。

 あ……。

 呆然とするテスラの様子を、私も呆然と窓の外から見つめていた。

 テスラは、ミミルと共に外へ出てきた。

「何故かわからないけど、僕は呪われていたらしい」

「聞いてたわ。大丈夫?」

「う~ん、そうは言われても実感はないからね。一応、呪いの内容なんだけど」

「認識阻害でしょ?」

「え、そうなのかい? 神官がわからないって言ってたんだけど」

「あ、あははは。呪いのプロだからね。安心して良いわ。私生活、戦闘中、どっちでも大して迷惑被る類じゃ無いわ。解呪は望んでも良いと思うし、手伝うけど、呪い自体の心配は要らないわ。この私が保証する」

 そう言って、私は胸を叩いた。

「それで、テスラはこれからどうするの?」

「一応、教会で解呪できるか試して貰う予定だよ」

 折角、教会まで来ているのだ、そりゃそうするか。

「じゃ、私は先に戻るわね。教会じゃ、付き添うのも、アレだから」

「ああ、結果は今度教えるよ」

 ミミルの視線が何やら痛い。

「ねえ、ジーラ?」

「酒入れてから話すわ。昼間から、私の酒場やってるから、行きましょ」

 そう言って、ミミルを連れて『酒を呑みに来る者拒まず』へと向かった。

 珍しく、ジーラの姿で店内に入る。

 ママや他の店員達も、珍しいと視線を送ってきた。

 そして、私は自分でカウンターに入って用意した酒のグラスを掲げた。

「諸君、今日、テスラが私を振った件について判明したことがあったわ」

 そう宣言すると、お客も店員も、興味ありと話を止めて、こちらに視線を向けた。

 真っ昼間でありながら、お客の数は多い。

「テスラには呪いが掛けられていました」

「呪い?」

 皆が突然の単語に、驚きというよりも困惑といった様子だ。

「因みに、呪ったのは私でした」

「「はぁ⁉」」

 驚きの直後、店の所々から私に対する罵声が飛んでくる。本当にカスじゃねぇか、とか最低、とか。まあ、今上げた言葉は、比較的優しいモノだけど。

「それで、一体、どんな呪いをかけたのよ?」

 冷静なミミルの言葉。教会での態度から、私が呪いを掛けた本人だと気付いていたのだろう。

「ま~、私自身忘れてたんだけどさぁ」

 罵声が飛ぶ。うん、わかってる、我ながら忘れていたとか、酷いと思ってるって。

「まあ、待ってよ、みんな。これには理由があるの」

 そう言って、私は両手を上下させ、静かにするようジェスチャーした。

「いやね、昔、コンビ組んで仕事しようって言ったら、女の子と二人なんて無理って言われたの。じゃあ、女って思えない呪いかけてやるよ、ってかけたんだったわ。いやあ、失敗失敗」

 うん、店内中が引いている。流石に、私の行動に引いている。

「なんというかよぉ、俺らが今思っていることわかるか?」

「え、なに?」

「フィリアとしても、別れた方がテスラの為じゃねぇかって思ってんだけど。テスラは、ほら、ジーラと違って、すげぇ、良い奴だから」

 店内がうんうん、と頷く。皆が、今までテスラから受けた恩を話し出す。へ~、テスラって色々と人助けしてたんだなぁ。素敵。

 そして誰かが、もう協力しねぇ、と言うと、同意する者が多数。そのまま、こちらを、無視して仲間とのお酒を再開してしまった。

「ま、そう言われても、仕方が無いかなぁ」

 私は、苦笑いを浮かべる。

「あたしも流石に引いてるんだけど、それ本当なの?」

 カミュが、本気で引いた顔をしている。

「本当よ。ま、自業自得っちゃ、自業自得ね」

「正真正銘、自業自得でしょ」

「はは、そうね。でも、このこと思い出して、もっとあいつの事、好きになっちゃった。参っちゃうよね」

 私はグラスの酒を、一口、ちびりと飲んだ。喉が焼ける。鼻孔にスモーキーな香りと共に、アルコールの臭さが抜けていく。

 カミュは肩を竦めると、何も言わずに去ってしまった。

 なんだよぉ、慰めろよぅ。

「そこなエルフよ、慰める権利をやろう」

 ミミルに向けて偉そうに言ってみる。

「悪いですけど、その権利を頂いても、貴女には慰められる権利がないと思いますわ」

「冷たい」

「優しいですわよ。友人と思われたくないって、お店出て行かなかったでしょう?」

 ミミルは、このような安酒場には似合わないような優雅な姿で椅子に座る。組んだ足は色っぽく、大人の色気がある。チビなのに。

 すると、客の一人がこちらに近づいてきた。

「お嬢ちゃん、こんなカスとなんか飲むの辞めて、こっちで飲まないか?」

「カスじゃない人達からのお誘いよ」

 私がちょいと拗ねて、こんな風に言うと、ミミルはこちらに一瞬鋭い視線を向けた後、嘆息した。

「大丈夫ですわ。もし、貴女がわたくしを誘えるぐらいの実力者なら、ご一緒しても良いですけど」

「そりゃ、勿論だぜ。Fランクのジーラより上の、Dランクさ」

 だが、突然背後から来た、この男の飲み仲間であろう男性に頭を叩かれていた。

「ば、馬鹿野郎! この人、大地のミミルだぞ!」

「ああん、誰だよ?」

「術士協会のトップだよ!」

 こちらの男は術士なのだろう。だから、ミミルの顔を知っているのだ。抵抗して無理矢理授与式に連れてこられたため、一般に顔を知られていない私とは違うのだ。

「術士のトップ⁉ なんで、そんな人がここに居るんだよ⁉」

「一応、この娘の友人ですのよ」

 そう言うと、つまらなさそうに視線を男達から外し、私に向き直った。

「友達なのに、慰めてくれないの?」

 目に涙を溜めてみる。女の必須技能。なんせ、私は、望めばいつでも涙を流せる。涙に色があるので、瞳に溜めるのが精一杯だけど。呪眼って便利。

「ええ。何かを隠している相手を慰める道理はありませんわ。その理由次第によっては、慰めたわたくしが馬鹿を見ますもの」

「ははは、ばれてら~」

 ミミルは私を無視して、つまみを注文する。どうやら、この話はここで終わりのようだ。ここからは、普通に友人としての会話をしよう。

 ってことで、世間話。

「ミミル、降臨祭一緒に回る?」

「一応、貴賓なのですわよ、わたくし。わかってらっしゃる?」

「だって~、回る人居ないんだもん。テスラは教会の手伝いだし」

「だったら、あたしと回ろ!」

 突然背後から抱きつかれ、少しお酒をこぼしてしまった。

「って、カミュ?」

 さっきは呆れて離れていったくせに……。

「そ。一人なら、一緒に回りましょ」

「いいけど、彼氏とか居ないの?」

「居ないわよ。現在、絶賛片思い中のカミュちゃんよ」

 さりげに、胸を掴むな、揉むな。私は、カミュ手を払って、顔だけカミュに向ける。

「じゃ、その人誘えば良いじゃん」

「えっと、あたしと嫌なの?」

「嫌じゃ無いけど、恋愛を邪魔する気は無いし。折角の機会じゃない。だから私は、目の前の既婚者誘ってるんだし」

 ミミルは、つまみの内容をママに訊ねている。私などよりも、おつまみの方が重要らしい。まあ、普段は肩の力抜いてお酒飲める立場じゃないから、楽しみたいんだろうなぁ。

「ま、カミュが片思い相手を誘えないって言うのなら良いけど」

「お洒落してきてよ?」

「服がねぇのよ」

「まだ買ってないの?」

 一着は買ったが、当然、あれを最初に来て出かけるのはテスラとだ。つまり、普段着とか、それ以外のおしゃれ着はない。

「そうなのよ。色々忙しくて」

「じゃ、明日、買いに行く?」

「いいの? 休みでしょ、明日」

「だからでしょ」

 呆れたようにカミュが言う。いや、仕事なのに、という意味じゃないわ。休みなのに、時間使わせて良いのって言う気遣いだわ。

 一応、雇い主なので。

「じゃあ、明日お願い」

「おっけ。じゃ、今日はここに泊まろっかな」

「じゃ、朝ご飯よろしく~」

 カミュは頷くと、笑顔で仕事に戻っていった。

「可愛い子ね」

「うん。お客も、あの子目当ては多いわよ。明るいし、可愛いし、話しやすいしね」

「貴女もそうなんだけどね、本質的には。なのに、なんでこうも違うのかしら?」

 ミミルは真剣に首を傾げている。

「うっせーやい」

 そう言うと、上品にミミルは笑う。

「ま、わたくしがここに居るのも、降臨祭の日が最後ですわ。もう一回ぐらいは、飲みましょうね」

「なになに、協会のお偉いさんが、この私と飲みたいの?」

「そうよ。これでも、わたくし貴女のこと、気に入っていますのよ?」

 何気なく言われた言葉に、顔が熱くなる。お酒で朱にそまっているから気付かれないだろうが、なんでいきなりこう言うこというのかね、このエルフ様は。

「わ、私も、ミミルのこと、気に入って、はいないわね。友人というには、ちょっと説教臭いというか……。見た目は綺麗だと思う、見た目は。年齢はともかく」

「こういう時に、お世辞も言えないから、人気でないんでしょうね!」

 額に青筋が浮かんでいる。うん、これは私が悪いわ。でも、思いつかなかった、咄嗟の褒め言葉。

「尊敬はしているよ、本当に」

 だから、普段から思っていることだけ伝える。多分、酒の席で、二人きりじゃないと言えないから。

「あら、そ」

 多分照れている。でも、無粋なツッコミはしないのだ。淑女だからね!

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