第三章 7 カミュの探偵記録4
七
留置場での生活は思ったよりも快適だった。
服は灰色の囚人服。食事も、しっかりとしていた。想像していた、カビの生えたパンなどでは無く、普通に食べられるレベルのパンとスープ、主菜だった。暇つぶしに、本も読むことが出来た。
正直、拷問でもされたら、と心配していたのだが、本当に何もない。そう、取り調べすら無いのだ。
ただ隔離することが目的なのだろう。
下手なことをすれば、それこそアンドリュー王子に、解放の口実を与えてしまうのかもしれない。
多分だが、パパさんの方には、接触とやらが行われているはずだ。逆に、軍部も何かをするとすればパパさんに対してだ。無事なのだろうか?
あたしはベッドに体育座りして、ぼーっと、暇つぶしに考え事する。
福因教会の連中は、一体、今はどこに居るのだろうか?
元々アパートに居て、場所を変えたのは、きっと噂が大きくなってきたからだろう。そうなった理由は買い出しだ。そして今、買い出しの噂はない。
ふ~む、何故だろう? 誰しも、食事は必要だ。しかも、それなりの数だ。出前するにしても、目立たないわけがない。
つまり、目立たずに、食事を運べる場所?
……そんなとこ、ある?
普通に考えて、毎日、そんなことをすれば、絶対に話に上がる。それこそ、軍部が自身で食事を用意でもしなければ。
だったら、どこで?
そこで、ぬかるみの足跡を思い出した。
あの足跡、そう言えば、パパさんの靴と同じだった。だから、気になったんだ!
つまり、城内に福因教の連中が居る。匿われている。
明らかに、城内の誰かと繋がりがある。間違いなく、軍部の連中だろうが。
これを早く知らせなければ。
が、看守に呼びかけても、完全に無視だ。これについては、軍閥などとは関係なく、留置人との私語は禁止になっているらしい。
接触方法を考えて過ごすが、一切、その手段は無かった。留置場なのだから、通謀に対して、厳重なのは当然か。
結局数日が過ぎた。暇すぎてベッド上に仰向けになり、石造りの天井を見つめていると、慌てた様子で牢屋の前室に新たな看守が現れ、あたしの世話役の看守に耳打ちで話をしていた。
話を聞いた看守側も、顔を青くして、二人で部屋を飛び出していった。
「え、なに?」
王子が何かアクションでも起こしたのだろうか?
そのまましばらく取り残されていたかと思うと、何人かの軍人然とした魔族の男達が現れた。
アンドリュー王子側の人間ではなさそうだ。
明らかに異常事態だ。
と、その中に、テスラとパパさんが連行されていた。その手には、木製の手錠が施されている。服装はあたしと同じく囚人服だ。
「テスラ、パパさん!」
二人は肩をすくめて、首を横に振った。
「静かにしていろ」
軍人の声に、あたしは口を紡ぐ。テスラ達から返事がないのは、指示に従えと言う意味だと思ったからだ。
「抵抗しなければ、痛い目には遭わずに済むぞ」
牢が解錠され、あたしにも手錠が施される。そして、為すがまま、連れて行かれたのは謁見の間だった。
そこには、捕らえられた王様らしき人物とアンドリュー王子達が居た。
敵の指揮官らしき男が、多分軍務卿だろう。人族の者達も居る。多分、あれが福因教会の人間だ。
クーデターが行われたのだ。
この場のほとんどの者が、冷たい目で、王様達を見つめているが、唯一王女様だろうか? 豪奢な服を着た女性だけが、悲しむような目で王様を見つめていた。
「カルロ、なんでこのような真似を!」
カルロと呼ばれたのは軍務卿だった。あの若い女性は、軍務卿を、呼び捨てにしていた。
「姉上、仕方が無いことなんですよ、これは。ただ、そうですね。姉上の子供達は殺しはしません。流石に、王の命は、明日、国民の前で奪う必要がありますがね」
明らかに若い女性を、姉と呼んでいる。ただでさえ、わけのわからない状況に、更なる謎を被せないで欲しい。
「アンドリューをどうするつもり⁉」
「宝物庫に閉じ込めます。命を奪われるよりは良いでしょう?」
「あ、貴方は!」
お姉さんが軍務卿に近づき、その頬を叩く。軍人が、慌ててお姉さんを囲むが、軍務卿がそれを制した。
「姉上を部屋にお連れしろ」
半ば強引に、お姉さんは連れて行かれる。
ついで、あたし達の連行が行われた。
謁見の間の奥へと連れて行かれる。そして淡く輝く石版の置かれた間に着いた。
まず、テスラが石版の方へと押された。石版に触れた途端、その姿が消えた。
パパさん、アンドリュー王子達と皆が消えていく。
その得体の知れない状況に、背筋が震えた。
だが、覚悟を決める前にあたしの背が押され、石版に足が触れると、視界が歪んだ。




