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第一章 4 白馬の王子か、お馬鹿な王子か


   四


 魔神の娘と知っている者達に、パパの言葉は理解できないものだったのだろう。

「あ、貴方が魔神様⁉」

 メナスが、阿呆な反応をしている。

「養父よ。魔神なわけないでしょ」

 とりあえず、私の中の王子様の評価はどんどん低下していく。白馬のではなく、お馬鹿の王子様だ。

 場が混乱してきたため、領主様が「お話は食事の席で」と会食の場へと移動することになった。

 私は、食器の用意されたテーブルを見て、思わず「げ」と本音が口から漏れてしまった。

 大量のスプーンとフォーク。これは、私の辞書には無い食事文化だ。

 テスラと以前食事に行ったときに、周囲から笑われたことを思い出す。

 そろそろ、とパパが近づいてきた。そして、こちらの手を握った。

 いきなり何⁉ と思ったが、手に何かを握らされた。

 皆に背を向け、その正体を確認する。

 一枚の丸められた紙。広げると、今日の食事内容と使うべき食器、注意すべき点が書かれていた。

 あ、私より着替えが遅かったのって、この情報を仕入れにていたのかと合点がいった。

「わからなかったら、俺が食べる姿を見てから食べれば良いよ」

 最後にぼそりと、そう呟いてから、自分の席へと着いた。

 ほんとにもう、パパ大好き!

 惚れているのはテスラだけど、男としての格好良さは、多分パパに軍配があがる。伊達に、あんなに美しい奥さんを娶ってはいないと言うことだ。

 皆が席に着くと、領主様の合図で配膳が開始された。

 最初は、乾杯。その後、前菜が届く。

 温野菜とクリームソースのサラダ。パパの使うナイフとフォークを確認し、真似るように食べる。

 改めて、パパの所作を見ると、普段の軽い性格とは違い、育ちの良さを感じさせる。

 他の皆も、食事姿は淀みない。普段から、こういう食事をしているのだろう。

 雑に手酌で酒を飲みながら、適当なつまみを頬張るだけの私とは違うというわけだ。

 メインディッシュが終わるまで、誰も会話をしない。そういうものなのだろうかと、私も無言を貫く。

 因みに、港のある街なので、メインは魚のムニエルだった。ほろほろとほぐれる身に、濃厚なソースが美味な一品だった。

 最後に、珈琲か紅茶かと聞かれ、珈琲と答える。

 そこで、食事は一段落となった。

「先程の回答をお聞かせ願えないでしょうか?」

 アンドリューが、申し訳なさそうに、こちらに訊ねた。なにやらおどおどしたしいるのが気になるところだ。

「正直、いきなり妃になって欲しいと言われても、意味分かんないんだけど」

「明日、出発だが、構わんな?」

 メナスが、耳の穴が詰まっているのかと、聞きたくなるような台詞を口にした。

「構うに決まってんでしょ!」

「何故だ?」

「まず、仮にもプロポーズってんなら、テメェの口で言いなさいよ。そこがまず論外! でもって、返事はノー!」

 目の前でバッテンを作る。

「一目惚れなんかじゃないんでしょ。理由はなによ?」

 ふむ、と頷き、アンドリューに説明を促すメナス。

 あ、駄目だ。こいつムカツク。なんで、自分で説明しないんだ。

「魔族の各国では、魔神様を崇拝しております。そのため、貴女の存在は、とても特別なものです。各国は貴女を国に招き入れるために、様々な方法をとろうとしているのです。近いうちに、他国の王子も婚約の申し入れに来る可能性も御座います」

 その方法の一つがお妃様として迎え入れると言うことか。たくさんの王子様に求婚される、乙女としては、悪い気分ではありませんな。

「ジーラちゃんジーラちゃん、口に出てる」

「おっと失礼」

 ゴホン、と咳払い。

「というわけだ。余の妻となるといい」

「悪いけど、彼氏がいるのよ。因みに、相手方のお父様とは、既に顔合わせをしているの」

「貴様は、余のような王族と結ばれるべきだ。貴様も、神としての使命があるだろう」

「使命なんて無いわよ。残念だけど、王族みたいな育ちはしていないのよ。根っからの平民育ち。結婚は恋愛結婚予定よ」

 少なくとも、目の前の男は、既に減点百五十点ぐらいいっている。アウトオブ眼中だ。

「それに結局は、私の血が欲しいだけでしょ? 悪いけど、そんな相手とは考えられないわね」

「ですが、我が国にきて頂ければ、相応のもてなしをさせて頂きます。国民も、歓待することでしょう」

 むしろ、そっとしておいて欲しいのだ。

 幸い、この辺りは魔神崇拝をしている者が少ないため、それほど迷惑を被ることはない。

「ジーラちゃん、とりあえず君が選んだ相手なら、俺は反対はしないよ。魔族の国の王子様。相手としては申し分が無い。魔族の国も、君にとっては、ここよりも住みやすい環境にはなると思う」

「えっと、パパは賛成って事?」

「いんや。君が、俺たちに遠慮しているのならって思っただけさ。さっきも言ったが、君の意見を尊重する」

 確かに、周囲からの扱われ方というのならば、魔族の国は、私にとって良い場所だろう。

 が、このボンクラ王子は、選択肢にすら入らない。

「とりあえず、返事は明日でいいんじゃないか? 王子殿も、構いませんか?」

「こちらとしては、早く決めて、帰国したいのだが」

「なら、ノーで終わりになると思いますよ。それが嫌なのならば、今晩くらいは、考える時間を娘に与えて下さい」

 慇懃な素振りでパパがメナスに伝える。不服そうだが、メナスはそれに同意した。

 私とパパは、考えるために帰らせてもらうと回答。服を領主邸を訊ねた際の物へ着替えさせてもらい、二人で酒場へと戻ることにした。


 酒場に戻ると、相も変わらず店は賑わっていた。

 カミュは、こちらの姿を認めると、パタパタと走り寄ってきた。

「よ、用事ってなんだったの?」

「ん~、プロポーズされた」

 酒場中が、一瞬、静かになる。

 そして、え、こいつに? という失礼な声が聞こえた。

「おい、聞こえたからな。ザック、あんたには、明日二日酔いになる呪い掛けたから」

 客のザックは「げ」と呟くと、その後はブドウジュースに飲み物を変更していた。

 カミュは、目の前で固まっている。

「プロポーズって、本当かい⁉」

 テスラも駆け寄ってきた。

「うん。モテ期入った」

「しかも玉の輿って奴だな。さっすが俺の愛娘」

「ど、どういうことだい?」

 テスラが、私の両肩を掴み、顔面を近づけて迫ってくる。

 近い、近いって。最早、キスでもする距離だ。

 ここで唇を尖らせたら、引かれるだろうか。引かれるよね、うん。

 というか、パパの前では無理だ。流石に恥ずかしい。

「そ、それでどうするつもりだい?」

「こ、断るつもりだけど」

「そうかい」

 ほっとしたように息を吐き、私の身体は解放される。

 パパは、やれやれ、とテスラの頭を小突いた。

「お前には、彼女がいるんだろ? ジーラちゃんの恋愛に口を挟む権利は無いぞ」

「そ、そんなつもりはないさ。それで相手は誰だったんだい?」

「悪いけど、客達に無料で酒の肴を提供するつもりは無いわよ。パパともちょっと話をしたいし、部屋に移動しましょ」

 固まったカミュをサーナに任せ、場を移した。

「そ、それで相手は⁉」

「がっつかない。女性に引かれるぞ」

「というか、なんで父さんは、ジーラと一緒に行ったんだ⁉」

「ふふん。ジーラちゃんは、テスより俺の方を信用しているって事だな」

 あながち間違ってはいない。パパは実際、頼りになる。こればかりは、年の功だろう。

「魔族の王子様。魔神の血を、王族に取り込みたいのよ」

「そういう理由か……」

 納得したのか、テスラがやっと落ち着いたのか、顎に手を当て頷いた。

「というか、即、断るでよかったのに、パパはお嫁に行って欲しいの?」

「いんや。あの王子はボンクラだろ。魔族に嫁ぐにしても、別の国の王子を確認してからで良いと思う」

「なら、なんで、返事を待ってもらったの?」

 うん、と頷き、パパは理由を語り始めた。

「魔族の国に、ちょいと用事があってね」

「つまり、パパが私に会いに来てくれた理由って、魔族の国に入るためだったってこと? だったら、悲しいかも」

「おっと、誤解しないで欲しい。勿論、ジーラちゃんに会いたかったし、この件からジーラちゃんを守るためが一番の理由さ。だからこそ、この任務を教会から受けたんだよ」

 魔族の国には、基本的に他の種族は入国できないらしい。理由は、当然宗教上の違いだ。

 魔神崇拝をしていれば、他の種族でも入国できるらしい。どうしても絶対数が少なく、そもそも疑わしきを入国させるメリットも少なく、魔神信仰を申告しても、入国させて貰えることはまれだそうだ。

 現在、ツバイス国では長男メナスと次男カシオの二人が、王位継承を巡って争っている真っ最中とのこと。

 メナスは魔神崇拝、つまり魔族の教会派。次男は軍閥。そこで王位継承のために、教会派のメナスは、私を娶ることで、他国に優位性を有することで、王になる一手としたいようだ。

「パパ、どこでこんな情報を?」

「う~ん、企業秘密といいたいところなんだが。ま、二人にならいいか。他言は無用だ、いいね?」

 私とテスラは、真剣な顔で頷いた。パパとしては、珍しく、教会の内情を話してくれるようなのだ。多分、私達も大人になったと、認めてくれたのだ。

 現在、ツバイスの国において、パパの所属する教会の過激派が次男の軍閥に協力しているとの、情報を入手したらしい。

 人の教会が軍閥に協力している件が魔族側の教会派に気付かれれば、宗教戦争に発展する可能性があり、それを止めるのがパパの役目らしい。

「でも、それってパパ達としては、軍閥派に勝ってもらった方が良いんじゃないの? パパの所属する教会に協力してくれるんでしょ?」

「そんな安全な連中なら、そもそも軍閥になんて協力しないんだよ。あいつらは、他の宗教を信仰する者を、殺していくような連中だ。ツバイスが軍閥の手に落ちたら、他の魔族国と戦争になりかねない。そうなったら、我々の教会も戦争に参加せざるを得なくなる。だから、止めなきゃいけないんだ」

「王子達は、そのことには?」

「さて、どうかな。軍閥派の連中が、どれだけ上手くやっているか次第だな。というわけで、俺としてはジーラちゃんに協力して欲しいんだよ。ほんと、ごめんだけど」

 なんとなくだが、して欲しいことがわかる。だからこそ、返答のための時間をもらったわけだ。

「一緒に魔族国に行こうってわけね」

「ほんっとゴメン」

 両手をすりあわせ、パパが頭を下げている。

「いいわよ。これでもパパには恩を感じているんだから」

「前から言っているだろ。恩なんか感じないで欲しい。そんな資格、俺には無いから」

 パパは私に、罪悪感を抱えている。子供の頃、あの村に預けてしまったせいで、虐待を受けたことを、ずっと後悔している。だから、パパは、私の感謝を必要が無いと、贖罪のようなものだからと、いつも言っている。

 パパは悪くないのに。辛かった事以上に愛を受け取っているのに。

 だから、私はパパが必要とするなら、協力してあげたい。

 ま、あのボンクラとは結婚売るつもりは断じてないけど。

「僕も行くよ!」

「テスもか~? 俺、ジーラちゃんと二人っきりで旅行したいんだけど」

 パパの言葉をテスラは無視。

「わかったわ。一応、明日、そういった方面で話を進めてみる」

 とりあえず、明日、領主邸を訪れた時に、交渉といくとしよう。


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