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第一章 3 顔合わせとプロポーズ


   三


 さて、今日はテスラとデートの日だ。

 わくわくと同時に、仮の姿でしかデートが出来ない事に、少々溜息が出る。

 カミュに選んでもらった服に着替え、ウィッグを着用して、フィリアに化ける。

 酒場敷地内にあるテスラの小屋を見るも、人気は無い。既に出ているようだ。先に、レストランに行ったのだろう。

 私は、テスラの手紙に記載されていた店に向かう。

 店に着くと、それなりに格式張った店だった。ただ、テーブルマナー的なものはないようだ。以前、テーブルマナーについて、笑われた事を覚えていてくれたのだろう。

 店内に入り、ウェイターに予約の名前を伝えると、席に案内された。

 席には誰も居いなかった。先に出たはずだったが、まだ着いていないらしい。

 なによりも不審なのは、席が三人用なところだった。

 え~、誰か来るの? それなら話しておいてよ、テスラ……。

 しばらく待つと、テスラが現れた。もう一人の人物と共に。

 その人物は、こちらを見ると、最初眉をひそめたが、すぐに満面の笑顔を作った。

 パパこと、カムイであった。

 うん、この笑顔、多分、私がジーラだと気付いたな。

 皆が席に着くと、テスラが「ごめん、遅くなって」と、こちらに謝罪。「大丈夫」と笑顔で返しておく。

 飲み物を注文し、皆のもとに行き渡ると、テスラが口を開いた。

「父さん、折角だから言っておきたいことがあって呼んだんだ。滅多に、会えないしね」

「二人とも、改まってなんなんだ?」

「こちらの方と、お付き合いしているんだ」

 するとパパは柔らかく微笑み、「そりゃ、めでたい」と手を叩いた。

「ちょ、そういう店じゃないから!」とテスラが窘める。

「いやいや、でもめでたいよ、本当に。俺としては、これ以上無く大賛成だ。というか、俺としちゃ、理想的な嫁さんだよ」

 心底嬉しそうなパパ。なんか、こちらまで嬉しくなってくる。気がつけば、自分の目尻に涙が浮かんでいた。

「あ、その前に言うべき事があったね。こちら、父のカムイ」とテスラが紹介を始めた。

 私は涙が引っ込むのを感じた。

 当然、パパは眉をひそめる。

「何言ってんだお前?」

「何って、自己紹介だろ。こちら、フィリアさん。って、酒場で会ってるよな」

「ええと、どうぞよろしく」

 自分の笑顔が引きつっているのを感じる。

「え、なんだこれ。程度の低いドッキリか?」

「父さんこそ何言っているんだよ。失礼だろ!」

 テスラは、少し怒気を含んだ口調になった。

 話にならんとばかりに、パパはこちらを見つめた。

「テ、テスラさん。ちょ~っとだけ、お父様と二人で話をして来ても?」

「いや、それは……」

「お願いします!」

 強い口調で頼むと、テスラは面食らった感じで、頷いてくれた。

 パパを店外に連れ出すと、意味がわからん、と頭を抱えていた。

「ジーラちゃん、なんだこれ?」

「ご、ごめんなさい。やっぱり、私がジーラだって、わかっているわよね?」

「そりゃ、わかるさ。愛娘なら、どんな姿でも気付くさ!」

 やはり、家族相手では、気付かれてしまうか。

「で、あいつは何を言ってるんだ?」

 私は、テスラの認識阻害について説明し、フィリアとして付き合っていることも伝えた。

「あ~、変なことになってんだな。俺としちゃ、ジーラちゃんとあの馬鹿がくっついてくれるのなら、最高だったんだがな」

「ごめんなさい」

 パパは私の頭に、ぽん、と優しく手を乗せた。

「謝る必要なんてないさ。お互い納得でやったことだしな。部外者がどうこう言うもんじゃ無い」

 しかし、とパパは続ける。

「あの時も思ったが、ジーラちゃんはやっぱり綺麗だな。おっと、この姿の時はフィリアちゃんって呼んだ方が良いのかな?」

「ええ、面倒だけど。テスラの脳に影響が出ちゃうらしいから」

 流石に不審がられるだろうと、二人で席へと戻る。

「ご、ごめんなさいね」

 私が謝罪すると、テスラはパパに「何の話を?」と訊ねていた。悪乗りしたパパが「テスより、俺の方が良くないかって口説いてた」と答える。

 テスラが、こちらに視線を向けたので、「冗談よ、本気にしないでください」と返す。

 飲み物が先に届き、皆がグラスを軽く合わせる。

 一口だけ口に含み、グラスをテーブルに置く。

 一応、顔合わせ的な事なのだろうか?

 お淑やかな振りをすべきだろうか。

 ジーラの姿であったのなら、既に二杯目にいっているところである。

 パパの口から、クス、と笑い声が漏れた。

 は、恥ずかしい。お淑やかぶるの恥ずかしい!

 一応、テスラの前では、酒場でも淑女ぶっているのだ。それは、キープしなければ……。

 皆の食事が届くと、パパが自分の皿から、ほい、と私の好物であるトマトをくれる。

「ありがと」

 お礼を言うと、「ん」と微笑みを返してくれた。

 と、そこで、テスラがポカンとしていることに気付く。

「二人は知り合いだったのかい?」

「え、いや、そんなことは……」

「ああ、初対面だぞ、初対面」

「せ、席離れたときに、トマトが好きって話をね」

 我ながら胡散臭い。なんで、席を離れてトマトの話をするんだ……。

 その後も、油断するとついつい素が出てしまう。その度テスラが眉をひそめていた。

 本当に、本当に申し訳ない話だが、多分、パパと私の思いは同じだ。

 テスラが、邪魔だ……。

 普段は絶対思わないことだが、この状況では、会話の制限や一旦考えなければ口を開けない。これは正直面倒くさい。

 パパを見ると、あちらも苦笑いを浮かべていた。一応、家族の食事会なのだが、どうにも上手くいかないものだ。

 と、その時、自分の横の窓がコンコン、と叩かれた。顔を上げると、セクハラ猫ちゃんが居た。どうにも急ぎらしい。いつものふざけた顔をしていない。

「ちょっと出てきます」

「うん、いってらっしゃい」

 テスラに見送られ、カミュのところに行くと、手紙を渡された。

「さっき、領主様の使いの方が来て、これ渡してって。テスラとデートだとはわかっていたけどさ、このレストランから離れられると、もう行き先わかんなくなると思って」

 そういえば、カミュは今日の食事の場所までは知っていた。

「ありがと。助かったわ」

「たまには、あたしとのデートにも、そういうキメキメの服着てきてよね」

「善処するわ」

 それだけ言うと「邪魔しちゃ悪いし、戻るね」と帰っていった。

 手紙の内容を見ると、今晩、領主邸に来て欲しいという内容だった。理由を書いていないのが、上位階級特有の驕りに思えて、多少苛つく。気になるし、不安になるでしょうが、こういう書き方は。

 席に戻ると、どうしたの、と訊ねられた。

 正直に言うべきか? が、これはジーラ宛の内容だ。

 仕方が無い、誤魔化そう。

「ごめんなさい、用事が入りました。お父様も、申し訳ありません」

「そうなんだ。確かに、彼女も急いでいたみたいだしね。でも、父さんを紹介できたし、今日の目的自体は達成できたから、良かったよ」

 そう言って、こちらを責めることなく納得してくれた。

「テス、最後にフィリアちゃんとお話をさせて貰いたいんだが、構わないか?」

「え、ああ。でも、変なことをはしないでくれよ」

「するわけないだろ」

 私はパパと共に外に向かう。

「さっきの手紙って、どんな内容?」

「ん~、私って言うか、ジーラ宛。差出人は領主様。夜に来て欲しいって」

「ああ、やはりか。それ、俺も行って良いかな?」

 え、どうなんだろう。それについては、私が勝手に決めて良いことではない気がする。

「領主様には、俺が話をつけてくるよ。この質問は、単純にジーラちゃんが、嫌じゃないかって話」

「そういう意図の質問なら、勿論、来て良いわ。むしろ、心強いくらい」

 テスラは既にお会計を終えており、私の用事を理由にその場で解散することになった。


 指定された時間になり、私は領主邸に向かった。パパは、既に門前で待っており、私に気付くと「やっほー」と、いつも通りの軽い調子で手を振ってくる。

 私が門番に声を掛けると、そこに待機していた執事に、邸内へと案内された。

 邸宅に入ると、私だけが客間ではなく、初めて入る部屋に案内された。

 その部屋には、豪勢なドレスが用意されており、メイドさんが数人待機していた。

「えっと、これなに?」

「ジーラ様のお召し物です」

「いや、そんな服知らないし。あと、ドレスって、コルセット着なきゃだから嫌い」

 回れ右した私の両脇を、メイド達ががっちりと捕らえ、そのままドレスの前まで連行する。

「領主様の命令です。着て頂きますよ」

「なんで、そんなことを……?」

 が、返答はなし。無理矢理、私の服を剥いでいく。

 カミュといい、何故、私の周囲の女性は私の服を剥ごうとするのだろうか。

 抵抗は無意味と感じ、諦観と共にドレスを着用していく。髪もバッチリ決めて、化粧も施されていく。

 鏡を見ると、自分とは思えないほどに、着飾った女性がこちら覗き込んでいた。

「……これで満足ですか?」

 メイド達は親指を立て、幸運を、と送り出された。

 部屋の外で待っていた執事が、今度こそ客間へと通してくれた。

 客間には、家主である領主様と昨日酒場に居た魔族達がソファに座って談笑していた。

 やはり、あの魔族はそれなりに立場のある連中だったようだ。

 皆の視線が、新たに室内に現れた私に注がれた。

「ほう、とても似合っているね」

 領主様の言葉に「どーも」と不機嫌に返しておく。

 無理矢理着せられたのだ、これぐらいは許されるはずだ。

「それで、呼ばれた理由は、そちらの四人組かしら?」

「ああ、そうなる。こちらの方々は」

「昨日、酒場のお客さんで来たわ。ま、お偉いさんなんだろうな、とは思ったけど」

 ソファに腕を組んで座っているメナス。それを受け入れている領主様という関係から、メナスの方が立場が上のようだ。

 メナスは、私を見て、眉をひそめていた。

「酒場で会ったあの女、なのか?」

「そうよ。酒場じゃ、夜の女の姿なの」

 普段だったら、夜の蝶としてバッチリ決めている、とでも説明するのだが、本日にばかりは、フィリア以上にお洒落をしている状況だ。

「領主よ、彼女が魔神の娘で間違いないか?」

「ええ。昨晩お伝えしたとおりであります」

 すると、メナスはこちらを見つめた。

「貴様には、もう一つの姿があると聞いている。見せててみろ」

 だから、言葉遣い! お前は、私のなんなんだ!

「あんまり人に見せたい姿じゃないんだけど」

 こちらも腕を組んで憮然と言ってやった。

「こちらからもお願いできないだろうか?」

 領主様の口から懇願され、最後に表彰式と、ぼそっと言いやがった。

 あの時の借りがあるからなぁ。仕方が無い。

 私は、半神へと姿を変える。

 白い肌。炎のような髪。

 とても人とは思えない、別の存在へ。

「これでいいかしら?」

 メナスが、うむ、と頷いた。

 このタイミングでパパが部屋に入ってきた。

「おや、取り込み中かな?」

 パパの服装も、礼服に替わっていた。それにしても時間が掛かりすぎじゃないだろうか。女性の自分より、男性の方が着替えに掛かる時間は短いはずだが。

「で、私にこの姿になるようにまで言ってきた、あんたはだ~れ?」

 姿を人に戻しながら、私は問いかけた。

「この方は、魔族の国・ツバイン国の王子殿下だ」

 魔族の国があるのは知っていたが、名前を言われてもイマイチ、ピンと来ない。

「魔族の国は、三つある。アインツ、ツバイン、ドルアイの三つだ。魔族の国は、どこも魔神を信仰していて、特にツバイン国は宗教関連の力が強い国だよ」

 パパの解説が入る。不勉強な娘で御免なさい。

「王子様、ね」

 不遜な態度の理由がわかった。多分、こういう話し方しか知らないのだろう。

 まあ、こちらからすれば、知ったことか、と言うところではある。私達は、その国の国民ではないのだ。

「それで、王子様は、私に用があるって事なのよね? 昨日も、わざわざ酒場に正体隠してきていたわけだし」

「うむ。勿論だ」

 そして、チラリと隣に控えているアンドリューに視線を送った。

「ええと、ですね。代わりに説明させて頂きます。フィリア様」

「本名はジーラよ。そっちで呼んで頂戴」

「では、ジーラ様。我々は、貴女を妃として迎えに来ました」

「……はぁ?」

 トンデモのないことを言い出した。

「貴様のような奴に娘はやらん!」

 パパが楽しそうにそんなことを言ったかと思うと「いやぁ、娘を持つ親として、死ぬまでに一回言ってみたかったんだ、この台詞」と満足げに微笑んでいた。

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