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第二話 第一章 1 溺愛パパ現る


   第一章


   一


 私、ジーラは現在酒場で働いている。

 酒場内では、フィリアの源氏名を使っており、服装も派手な上露出多めな物を着用している。スタイルには自信ありなのだ。

 今日も、酒場・『酒を呑みに来る者拒まず』は、相も変わらず大盛況だ。

 なんせ、この私が酒を飲んで、客に絡んでいる暇も無いのだ。ダル絡みしているのが楽しいというのに。

 カウンターでサボっているのは、天使のシルキーだけである。彼女の仕事は、舞台上で歌うことなので、厳密にはサボっていないのだが。

 片思い相手にして、用心棒のテスラは黒服を着用し、店の出入り口付近で、気配を消して座っている。

 他の従業員も、忙しそうに、走り回っている。

 そこに更なる団体客が現れた。残念なことに、その団体客には見覚えがあった。直接の関わりはないが、貧困地区に拠点を置く、所謂ギャングさん達だ。

 最近、私はそういう組織を潰すため、貧困地区の人間に仕事を与えるように、組合等に呼びかけを行った。そのため使い捨ての労働力を失い、恨みを買っているのだ。


 とはいえ、だ。この酒場に来るとは思っていなかった。なんせ、ここは店員どころか、客すら荒事になれている、脳筋酒場なのだから。

 が、すぐにその強気な行動の理由に気付いた。

 フードで顔を隠した外套の男。

 歩みに淀みが無い。歩く際に体幹が一切ぶれていない。武術の相当な技術を有している証左だった。

 用心棒として、テスラが前に出る。

 一定の距離まで、互いに立ち止まることなく進み続ける。そして、互いの間合いの一寸外で動きを止めた。

 店内の皆が、息を呑んだ。

 動いたのは、外套の男だった。

 私の眼は、呪眼といって、特別製だ。だからこそ、相手の動きを追えた。

 右足が、テスラの顎を捉え、気絶したその身体を右手で床に叩きつけた。拳ではなく、足で顎を捉える。これは、相当の実力差がないと出来ない行為だ。

 この酒場に居る者中で、何人が相手の動きを追えただろうか。

 ゾク、と背筋が冷える。

「戦闘準備!」

 私は、思わず叫んでいた。

 背中には、冷や汗が滝のように流れ出している。

 多分だが、アレの相手ができる実力者は、自分とシルキーぐらいだろう。だが、店内という状況がまずい。私もシルキーも、攻撃手段が大味だ。

 ギャングの内の一人が嬉しそうに拍手し、笑った。

「先生、流石です! このまま、そっちの女もやっちまってください!」

 そっちの女として指定されたのは、私だった。

 私は咄嗟に構えをとる。が、肉弾戦の技術は雲泥の差だ。テスラが一瞬でやられる相手を、自分がどうにか出来るはずが無い。

 酒場の店員達も、同じ反応だった。圧倒的に強い相手。勝ち目が無い相手。それが皆の総意だった。

 ただ、一つだけ切り札がある。面倒くさそうにしている天使様だ。シルキーならば、なんとか出来る可能性がある。

「シルキー!」

 ぼけっとした顔を、こちらに向ける天使様。

「拙が戦った、ら、お店、壊れちゃう、よ?」

「仕方が無いわよ。この状況じゃ」

 人間相手じゃ、大した危険性を感じないのか、一切戦いに参加する気配が無い。

「気にするこたぁ、無いぜ!」

 ギャングの一人が、店のテーブルを蹴り飛ばした。

 客の料理が周囲に飛び散る。

「もう、この店は無くなるんだからよぉ!」

 ぎゃははは、とギャング達の嘲笑う声が店内に響いた。あたしは、苛立ちに舌打ちするが、目の前の外套の男から視線を外せないでいた。

 虎の威を借る狐ってのは、こうも苛立たせるものなのね。勉強になったわ。今度、相手を煽るときに、是非使わせてもらおう。

 一番最初にぶち切れたのは、予想外の人物だった。

「おい!」

 テーブルを蹴飛ばしたギャングがぶん殴られる。

「な、なんで⁉」

 殴ったのは、外套の男だった。

 あたし達も、ギャング達も驚きの声を挙げた。

「なあ、そっちの女って、ジーラちゃんのこと言ってんのか?」

 え、ジーラちゃんって言った?

 え、え、え?

 男は、外套を外し、怒りに満ちた顔で、ギャング達を睨みつけていた。

「てめぇら、俺に、愛娘のジーラちゃんを殴れってのか、おい?」

 そういうと、先程殴り飛ばした男の腹を蹴り上げた。

「てめぇ、何、ジーラちゃんの店をぶっ壊してんだ?」

「パ、パパ。なんで、ここに?」

「後で話すよ。ゴミ掃除するから、ちょっと待っててね」

 ギャング達に向けた顔とは、真逆の笑顔をこちらに向けた。

 無精髭に、精悍な顔つき。多分、普通の人が感じる印象は、物騒な人。まるでそうは見えないけど、神父様。筋肉質な身体は武道用に締まっており、威圧感を覚える者も居るだろう。

 その名を、カムイ・ユーリンという。

 ちなみにあたしに対しては、超優しい。逆に、あたしの敵には超怖い。

 相手を鋭い瞳が睨みつける。

「は、話が違う!」

「ああん? いつ愛するジーラちゃんを殴るって約束したんだよ? んなこと言っていたら、テメェら、息の根とまってんぞ?」

 言うやいなや、パパが駆ける。ギャング達の身体は宙を錐揉みし、床にべちゃ、と人体が奏でるならば聞きたくない音を立てていく。

 皆が呆気にとられていた。自分ですらそうなのだから、他の人はなおさらだろう。

「パパ、どうしてここに?」

 思わず、同じ質問を口にする。

「ああ、こいつらに、この店に居るテスラって用心棒倒したら金くれるって言われたから。元々、テスの腕が鈍ってないか見てやるつもりだったからな。金もらえるなら丁度良かったんだ」

 そんな理由で倒されたテスラ、可哀想。が、自分としては、数多見た光景。テスラが、独立した理由の一つだ。

「こいつら、ジーラちゃんの敵って事で良いんだよね?」

「え、まあ、うん」

「なら、組織の頭、倒してくるわ。店に迷惑掛けたお詫びって事で。あ、テスの奴にやらせよ」

 そう言って、テスラの足を持って引きずっていく。

「え~、なにこれ……」

 私が呆気にとられていると、冷静になった店員の一人、猫獣人のカミュがこちらに話しかけてきた。

「えっと、パパって? ジーラの父親って……」

 気まずそうに訊ねてくるカミュに、笑顔で頭をぽんと叩いた。

「養父って奴よ。で、テスラの本当のお父さん」

 客達も、皆が耳をそばだてているのを感じた。

「でも、テスラに似てなかったわね」

「お母さん似なのよ、テスラって。まあ、私も会ったことはないけど」

 さて、台風のように去って行ったけど、流石に時間が経てば戻ってくるだろう。まず、お店の空気を戻さねば。

「みんな、悪かったわね。とりあえず、店から一杯奢るわ。勿論、一番安い奴ね」

 ふざけんな、と声が上がるが、そんなものは無視。勿論、高い物を頼んだとしても、請求はしないわけだけど。

 閉店の時間になっても、二人は戻ってこなかった。化粧を落とし、店の中で酒を呑みながら待っていると、「父さんは、いきなり何を考えているんだ!」と怒っているテスラと「うるさいな。あのやり方が、一番実力みれんだろ」と面倒くさそうに対応しているパパの声がした。

「おかえり」

 出入口で出迎えると「ああ、ゴメン、寝ていて良かったのに」と二人。うん、紅一点だけあって、旅をしていたときから、二人とも優しいのだ。

 二人は、真っ二つになった看板を三本抱えていた。

 看板の記載内容を見ると、この都市の有名組織三つの名前が書かれていた。

「え、全部潰してきたの?」

「ああ。テスに訊いたら、皆、ジーラちゃんの敵だって言うからさ。ジーラちゃんの敵は、俺の敵さ」

 髭面で、爽やかに笑うパパ。旅の神父さんなので、髭は宿に泊まったときしか剃らないのだ。

 テーブルに、戻ってきた二人分のグラスを用意する。

「何が良いかしら?」

「それでいいよ」

 先程まで私が呑んでいた瓶を指さすパパ。テスラも、同じで良いと頷く。

 グラスを重ねると「子供達と酒を飲めるとは、父親冥利に尽きるな」と優しく微笑んだ。

 私は微笑み返し、テスラはブスッと普段は見せない表情を見せていた。

「それで、父さんは何の用で来たんだよ?」

「あ~、ジーラちゃんの事を聞いてな。さっきの天使様の事もな」

 教会に、天使様の引き渡しをするように命令でもされたのだろうか?

「パパ、天使様は……」

「ああ、大丈夫大丈夫。そっちは断った。俺、教会を破門されるよりも、ジーラちゃんに嫌われる方が耐えられないから」

「あ、うん」

 生涯信じ、遣えてきた教会の命令を、そういう理由で断るのは如何なものだろうか。パパらしいと言えば、パパらしいけど。

「魔族がね、ジーラちゃんに対して、何かアクションを起こそうとしているって情報を得たんだ。一応、パパとしては心配で来ちゃったわけよ」

「魔族が?」

「ああ。ま、遠からずなんらかのアクションがあるだろうさ。テスが、護衛を任せられるだけ強ければ、俺も遠くから見守ろうと思ったんだけどな。鈍ってるだろ、こいつ」

 ふて腐れたように、視線をテーブルに移動させるテスラ。自覚はあるのだろう。最近は、大剣を使うことが多く、拳闘については、多少サボり気味だったはずだ。

「ま、しばらくは、テスの家に厄介になるよ。こいつを鍛える意味でもな」

 宿に行けば良いじゃないか、と呟くが、パパはそれを無視する。

「とりあえず、今日は家族団らんだ。テス、つまみ作ってくれ」

「はぁ、自分で作れば良いだろう?」

「長旅で疲れた父さんに、冷たい奴だな」

 二人は料理を押しつけ合っているというのに、作ってとはお願いされない、私。メシマズは楽で良い。周りがやってくれるのだから。

 自然とこういうことを思うから、きっと料理が上達しないのだろう。あと、カスみたいな考えって言われるんだなぁ。

 しかし、久しぶりの家族団らんは、確かに楽しくて、確かに胸の中が暖かくなったのだった。

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