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第八章 1 探索、発見、逃走、囮


   第八章


   一


 テスラは、私達を探していたらしく、領主様のお屋敷を出てから、すぐに合流することが出来た。

 私は、先ほどまでの状況を説明した。

「明日、あたしも行くのよね……? あれ、冗談じゃないのよね?」

「あはは、あれは嘘」

「え、そうなの⁉」

 カミュの顔がぱぁ、と明るくなる。

「今日、出来る限り早く行くわよ」

「はあ⁉」

 カミュが素っ頓狂な声をあげる。

「なになになに、どういうことよ?」

 カミュの混乱っぷりに、私は苦笑を浮かべてしまう。

「シルキー、明日まで待ったとして、私とシルキーの戦力の変化は?」

「ほぼ、変わらない」

「取り残されている者達の生存確率は?」

「三割減る」

「だったら、なんで、あの時明日行くって言ったのよ⁉」

 カミュに対して、少し声のトーンを落とすように指示する。カミュは、叱られた子供のように、少しふて腐れている。

「あの状況見たでしょ? 皆、シルキーに残って欲しいのよ。絶対、残らせるために色々仕掛けてくる。そりゃそうよね。組合長の息子と、数人を見捨てれば、呪怨龍の天敵であるシルキーの回復を待てるんだから」

「拙の回復よりさきに、呪怨龍が、動くと、思う」

「それでも、見捨てる方が勝てる可能性は上がるでしょ?」

 シルキーはこくりと頷いた。

 テスラは黙ってこの会話を聞いていたが「なら、出来る限り速やかに動こう。この行動が無駄にならないように」と私の意見を全面的に受け入れた。

 先ほど背後で始まった話し合いは、多分、私達を行かせないための作戦会議だ。組合長の、意見を握りつぶしての。

「何を準備すれば良いのかわからないんだけど」

 カミュが、若干の希望を込めて、だから行けないんじゃ無いかなぁ、と諦めの悪い発言をしてきた。

 考えてみれば、私の旅用具も、この間のトラブルで壊されていた。

「あ、いいこと思いついた」

 皆で酒場に向かい、必要な道具を準備する。テスラは鎧と大剣、私は鎚。他の二人は、身一つだ。

 そして、城門前の広場に向かう。

 予想通り、そこにはまだ、何人かの調査隊の人々が居た。その者らに、あまりの携帯食とテントなどの道具を貸してくれないかと交渉する。

 これは、個人の道具で無く、支給品だ。酒場をやっているおかげで、顔見知りもいる。おかげで四人分の野宿用品が揃った。おっさん等の臭い付きだが。

 カミュは特に嫌な顔をしていたが、そこは我慢して貰う敷かない。

 そのまま、私たちは城門から調査隊の場所へと向かった。


 テスラとの旅は馴れているが、他の二人は素人だ。シルキーのことは心配していないが、カミュは未知数だ。

「テスラ、カミュの事頼むわよ」

「ああ。代わりに君は無茶しないでくれよ。二人は守れない。もし選択する必要があったら、僕は君を選ぶよ?」

「普段だったら喜ぶんだけど、今日は駄目ね。今回はカミュを選んで頂戴。自分の身くらい、なんとかしてみせるわよ」

 だが、テスラからの返事は無かった。

 この男、私のこと好き過ぎじゃないだろうか?

 だが、今日はそれを喜べない。

 針葉樹の森へと入っていく。海が近いので、都市の近場には針葉樹の森があり、奥まったところ前行くと、広葉樹の、いわゆる森へと変わっていく。

 針葉樹の森は、葉の隙間から日も入り、嫌な気配も薄い。

 だが、視界の奥、広葉樹の森の辺りには、黒い霧が薄くかかっていた。

 カミュの頭上にはシルキーが浮かんでおり、その両手はカミュの頭を掴んでいた。

「仲いいわね」

「こうしなきゃ、呪いの霧から守れないって言うんだから仕方ないでしょ!」

 青い顔で、カミュが怒鳴る。

 私とテスラ、シルキーは素で大丈夫なはずだ。そういう意味でも、カミュは一番保護されなければならない。

 黒い霧に侵入する前に、食事を摂ることとした。

 干し肉と干し飯を、鍋で煮込む。こうすることで大分堅さが増しになる。長くいる予定はないので、水も比較的贅沢に使えるために出来る行為だ。

「カミュ、ここから先、貴女の人捜し能力が鍵になるわ。任せても大丈夫?」

「大丈夫もなにも、無理矢理連れてきたんじゃんか!」

 もぐもぐと、食事を口に運びながら、カミュは文句を言う。食事を摂れている時点で、それほど気負ってはいない様子だ。うん、大丈夫だろう。

 食事を終えて、一休みした後、霧の中へと侵入する。

 私は、特に影響を感じなかった。強いて言うならば、視界が霧の所為で先を見通せなくなっていることぐらいだろうか。

 そのまま奥へと進む。本当に他の生物の存在を感じない。それがとても不気味だ。多分だが、霧から逃げ出したのだろう。

 それゆえ、初心者用の洞窟に、あのような強力な魔物が居たりと、生態系が乱れ始めていたのだ。

 魔物が居ないことを確信したため、一気に距離を稼ぐことにする。

 調査隊と違い、少数な事も我々の強みだ。ずんずんと先に進んでいく。

 初日は、とことん進んで、野営をすることになった。

 特に問題も無く、その日を終えた。

 次の日、起きがけに珈琲を飲めるぐらいに、周囲の状況には余裕があった。

 このままならば、昼前には、ミミルが言っていた、行方不明の辺りにまで到着できそうだ。

 目印という目印があるわけではないが、昨日今日の行軍の形跡ぐらいはわかる。

 ふと、そこで、カミュが足を止めた。

「ここで、数人の足跡が別れてる」

 カミュが身を屈めて、地面を舐めるように観察する。

 尻尾がふにふにと、左右に揺れている。

 触りたい。

「えい!」

 私はいきなり尻尾を握りしめた。

「ぎゃう!」

 カミュが悲鳴を上げた後「キシャー」とこちらを威嚇した。

「そういうことは、二人の時に部屋で!」

 いや、こういう状況だからこそ、巫山戯たくなったんだけど。絶対、怒られるから言わないけど。

「ジーラ、テスラ、組合長の子供さんの性格は?」

「ん~、父親が上の立場だから、手柄には焦ってたかも」

「そうだね。実力以上の者を、求める傾向はあったかな」

 都市の実力者である父親に認められるために頑張る若者といった感じだ。だからといって、性格が悪いわけではない。どちらかというと、若者達のまとめ役と言った感じだ。

「足跡……」

 カミュは顎に手を当てて、独り言ちた。

「確か、足の大きさは……」

 彼は、酒場に客として来たことはある。カミュとの面識もあるはずだ。仕事上の性格、行動傾向は知らなかったのだろうが。

「ああ、別の誰かを、たしなめに行ったのね。うん、足が、彼の方が後から」

 ぶつぶつと、彼女は呟き続けている。

 そして、カミュは顔を上げた。

「あっち」

 カミュは迷い無く、右を指さした。

「えっと、ほんとに?」

「うん。自信あるよ」

 私の困惑した顔に、彼女は根拠を説明し始めた。

「調査隊からはぐれたっていうから、足跡の少ないこっちで間違いないと思う。で、彼の足の大きさ、歩幅からして、こっちが彼の足跡。でも、この足跡、一回り小さい足跡を、後から踏んでいる。多分、誰かを追って行っている。確か、若者のまとめ役でしょ。誰かを止めに行ったんじゃないかしら」

 多分、この説明は、私達用にかなり省いての説明なのだろう。カミュの中では、もっと複雑に証明が行われたはずだ。

「わかったわ、カミュの言うとおりにしましょ」

 カミュは、戦闘は自分が行くと言い出し、足跡を見つめながら、鼻を鳴らして臭いを追跡していく。

 犬の獣人ほどではないが、カミュもそれなりに臭いは追えるらしい。

 にやりと笑って、女の子の日、わかるよ? という言葉は完全に余計だったが。

 カミュの足取りには迷いはない。時折止まって考え込むが、その後、彼らの足取りを確実に追って行っているようだ。

 なんせ、途中途中に、食べ終えた食料の名残などがあるので、間違いないと確信が持てている。

「彼女、すごいな」

 テスラも、私と同じ感想のようだ。

「いやぁ、カミュの恋人って、絶対浮気できないわね」

 ギロリとこちらを睨みつけ、「しなきゃ良いじゃん」と感情のない声がこちらに向けられた。

 こわ!

 眼がガンギマってる

 すると、「誰か、いるのか?」とか細い声が聞こえた。

 霧の所為で、その姿を確認することは出来ないが、付近に居ることは間違いなさそうだ。

「ええ。助けに来たわ。そちらに向かうから、声、出してくれる?」

 私の言葉に「こっちだ」と先ほどより大きな声が響いた。

 声に導かれるまま、私達は声の方へと向かっていく。霧の奥に、黒い塊が見え、それが徐々に人の形になっていく。

「貴方、名前は?」

「ペイ・イチポーロ」

「当たりを引いたわね。他の人たちは?」

「あっちのテントで寝かせている。みんな、体調が悪くてな」

「でしょうね。呪いの所為よ」

 私はペイの顔を覗き込む。顔面は蒼白で、かなり弱っている事が、素人目にもわかる。額には多量の冷や汗に、息はか細い。

「ところで、足と脇、どっちが臭いと嫌?」

 私のいきなりの質問に、ペイは眉をひそめて「巫山戯ている場合じゃない」と軽い苛立ちのある言葉を貰ってしまった。

 私は無言で、ペイの金髪を引っこ抜き、呪いをかける。この状況ならば、足の方がマシだと思い、足の方の呪いだ。

「え、なんだ?」

「応急処置。少しは楽になったんじゃ無い?」

 ペイは、はっとしたように自分の身体を見つめた後、私の顔を間の抜けた顔で見つめてきた。

「で、他の体調不良者の居るテントは?」

「あ、ああ」

 ペイが案内する先に、テントが設営されており、中では男女二人ずつが転がっていた。

 皆、顔色が悪い。ペイが外に居たのは、交代で見張りをしていたのだろう。

 皆をたたき起こして、髪の毛を奪っていく。

 同様の呪いを、彼らにかけると、皆が身体のだるさが無くなったと、喜んだ。

「じゃ、帰るわよ。あと、早く靴履きなさい。臭いわ」

「ひどい……」

 助けた者達の中の、女性の一人が呟いた。

「死ぬよりマシでしょ?」

「マシですけど、洗っても消えないんですよね、この臭い」

「ええ。靴下履いても、こんな感じよ。裸足は、きっと地獄ね。それとも、股にする?」

「足で!」

 どっちみち、この呪いが解けるまでは、そういう状況は避けた方が良いだろう。百年の恋もきっと冷める。

 さて、呪いを解いたからといって、失った体力は戻りはしない。だが、歩くことは出来そうだ。最悪、テスラに運んで貰うことを考え、そりを持ってきていたが、その必要はなさそうだ。

 来た道を戻り始める。これについても、カミュが足跡をたどってくれるので、この霧の中でも、迷うことは無さそうだ。

 カミュ、先導役として組合員をやれば、相当な人気になるのではなかろうか。

 しばらくの間、無言で森を進み続けた。

「何時くらいかな?」

 カミュの疑問に、皆が空を見上げた。既に夕方を過ぎ始めている。

 霧の所為で、明確な日の高さは判明しないが、それでも一泊する必要はあるだろう。

 空を飛べば、霧の上にも出られるだろうが、呪怨龍に見つかる可能性がある。結局、暗くなったら野営の準備となることだろう。

 暗いと準備が大変になるので、ある程度日が傾いたら、準備を始めたいのはわかるのだが。

「主殿、気配を、消せ」

 シルキーの鋭い声が皆の抜けた気を、一気に引き締めた。

「なに?」

 息を殺して、問い返す。

「呪御龍が、近くに、いる」

 空を見つめると、その巨大な影が、私達の頭上を飛んでいくところだった。

 気付いてはいない様子だ。皆が、息を呑んで、その気配を殺している。

 カミュなどは、私に抱きつき、がたがたと震えている。

「主殿、あれ、都市に向かって、ないか?」

「それって、確か? だって、今まで、そんな動き無かったじゃない」

「拙が、初めて、街を離れた」

 わかるのか?

 だが……。

 私は、舌打ちをして、上空を見つめた。

「シルキー、どうすれば良いと思う?」

「このまま、無視して、街を見捨てる。それが、一番、良い」

 この言葉に、私を除いた皆がぎょっとした。私は、多分、この答えが来ると思っていた。要は、止めに行っても、勝てないのだ。

「街は、耐えられると思う?」

「無理。拙が、居れば、街中の人から、生命力をもらって、少しは耐えられたかも、知れない」

「シルキーを連れ出した、私の失敗か」

「否。信仰を集める場合、持ち主である主殿が居る必要が、ある。同じ結果」

 励ましてくれているのか、それとも事実の羅列かは不明だが、少し心は軽くなった。

「つまり、シルキーが戻って、私が戻れば、なんとかなるってわけよね?」

「そう、だが……」

「テスラ、みんなをよろしく。あと、みんなは死ぬ気で走って。私は、死ぬ気で止めるから!」

 私は地面を蹴り、翼を広げた。全力で、空へと高度を上げていく。

 上空で、私は動きを止めた。

 沈みゆく太陽が、朱く龍を染めていた。

 漆黒の巨体。翼も黒く、その肌も全てが黒い。

 これが、呪怨龍!

 私は、ごくりと喉を鳴らした。全身が粟立っていくのがわかる。

 気付かれた。

 不意打ちをかますつもりだったのだが。失敗した。

 巨体が、こちらへと振り返った。

 その瞳が、こちらを見据えた。半神になった私と同じ、揺らめく真紅の瞳。

「悪いけど、付き合ってもらえるかしら?」

「構わぬよ」

 巨体から放たれる低い声が、私の身体に衝撃を与える。楽器の轟音の数倍の威力がある。この声を長々と聞いているだけで、体力が奪われそうだ。

 呪怨龍の口から、黒い霧が放たれた。

 私は、慌てて回避しようとするも、広範囲に広がる霧に、私の身体は巻き込まれた。

 が、異変はない。うん、この呪いには耐えられる。

 私の両眼から、自然と涙がこぼれ落ちる。慌てて、目薬をさした。

 この霧に隠れたまま、銀球を生み出し、鎚で打ち放つ。

 不意打ちの一発、速さと気配を殺すこと優先したため、威力は低い。

 呪怨龍に、その爆発は命中した。

 が、呪怨龍には、傷付いた様子はない。

「呪いが、何故効かぬ?」

「呪いには、強くって。そっちこそ、爆発効かないの?」

「それは単純に、威力が低すぎる」

 予想外にも、答えが返ってきた。そして、その理由は単純だった。だからこそ、生物としての実力差が明確になる。

 呪怨龍は、その巨体を、こちらに向かって突進させた。

 でかいは強い。あんな巨体に体当たりされれば、私は終わりだ。

 咄嗟に、回避する。大きい相手ならば、その回避距離も大きくなる。なんとか躱すことが出来たが、かなり辛い戦いになりそうだ。

 こちらの攻撃は一切効いていない。相手の攻撃は、一発で負け。

 全く、なんてやりがいのない戦いだろうか。

 だが、意識は明確にこちらに向いた。テスラ達の安全は、とりあえず確保できたはずだ。

 出し惜しみはなしだ。

 私は身体を半神のものへと変化させる。

 両肩の二匹も、逃げろ逃げろと、私の顔の前でわちゃわちゃしている。

「それは、その姿は?」

 呪怨龍から、動揺のようなものが見て取れた。

「あら、お会いするのは初めてだと思うけど」

「その眼、呪眼、かしら?」

 声音から、呪怨龍の性別は女性のようだ。勝手に、男性だと思い込んでいた。

「そうらしいわ。よくわからないけど」

 よくわかっらない、の言葉に、呪眼の二匹が、苦情じみたリアクションを示す。

「そう。なら、多分、貴女と我らの創造主は、同じ者のようだ」

 そこに、それ程の驚きはない。呪いの魔神が、呪いの龍を創っていても、シルキーを創り出すのとそれ程の差は無いと思うからだ。

 逆に、人の腹から生まれた私の方が、余程異端だと思える。

「じゃ、姉妹ってことで、話し合い出来ないかしら?」

「無理だ。我らは、恨むことを本能として埋め込まれている。ただ一つの例外を除き、我らは全てを恨み、呪うのだ」

 その瞳は、こちらを敵意を込めて見つめていた。

 違和感を覚えた。

 だが、それを追求している場合ではない。

「そう、じゃ、恨みっこなしね」

「既に恨んでいると、言っている!」

 事前に、シルキーから聞いていた呪怨龍の弱点。それは喉元の逆鱗。

 一つだけ、色と形の違う鱗。龍の器官として、その必要性があるのだろうか? そうでなければ、弱点を晒すだけの、無意味どころか、無い方が良いくらいの特徴だ。

 呪怨龍は、距離があるのにブレスを放たない。もしかして、あの霧しか放てないのか? だとしたら、龍として、かなりの欠陥があるのではないのだろうか。

 まあ、呪いが効かないっていう存在が、そもそもイレギュラーなのだろうけれど。

 呪怨龍の身体が、前のめりに倒れ込むように、動いた。

 ぞわり、と全身が粟立つ。

 前宙の要領で、龍の身体が動き、尾っぽが私の居場所に叩き付けられた。

 あっぶな!

 予感と同時に動いていなければ、私は死んでいただろう。心臓が早鐘を打ち、まるで耳元で馬鹿騒ぎをしているかのようだ。

 レヒとリンクの二匹が、抱き合って怯えていた。

 一撃で即死。これは想像以上に精神を削っていく。

 私は、ちらりと下を見た。

 ぱっと見、テスラ達の居場所はわからない。ならば、私も、この場から逃げるだけだ。

 だが、隙を作る必要がある。問題は、どうやってやるか、だ。こちらの攻撃に身じろぎ一つしない相手だ。

 ……やるなら、次だ。全力でぶちかます。

 こちらの攻撃の威力が、取るに足らないと確信に至った頃合いだろう。段階的に上げれば、こちらも疲弊し、更に警戒される。

 シルキーからの教えを思い出す。


「主殿は、術が下手?」

「突然、めっちゃ失礼ね」

「でも、下手」

 悪意が込められていないのはわかる。だが、こうも面と向かって言われるのは、ちょいと傷付く。

「だって、独学だし」

「拙は、闇にはそこまで詳しくないけど、基本は、教えられる」

「え、ほんと?」

 こくり、とシルキーは頷いた。私は、シルキーに連れられ、人の視力では確認できないほどの空へと飛んだ。

「まず、術についてどこまで、知ってる?」

「え~と」

 私は自分の独学で学んだ内容を説明する。

 精霊術は、魔力に光か闇の属性が混じっていると、使えない。

 人によって、詠唱したり、しなかったり、手で印を切ったり、色々ある。

「人の精霊術は、買い物、みたいなもの。詠唱とかは、値切り作業みたいな、もの」

 比喩表現が、実に俗っぽくなってきたもんだ。

「精霊は、人の精神力が、好き。だから、あげると、代わりに働いてくれる。精神力っていうのが、みんなのいう、魔力、ね」

 シルキーの説明によれば、人の魔力にも多生違いがあり、精霊が好むものや、ちょっと苦手なものなどもあり、それによって、消費する魔力の必要量も変わるらしい。

 好みかどうか、更には値切り、加えて精霊の機嫌などが加わり、五割減から五割増しと、結構結果が変わってしまうらしい。そこを一定にするのが、術士の腕の見せ所と言ったところだろうか。

「じゃ、光術についての説明ね」

 光術、通称祈祷術、もしくは神秘術は、祈りによって神様から力を借りる術。

「これは、人にしか使えない、術。神様は、人の信仰が力になる。だから、祈れば、力を貸す。因みに、光の魔力は、信仰心によって、普通の魔力から、光の魔力に変わっていく。信仰心さえあれば、誰でも使える」

 知らないことばかりだ。しかし、これって他の人は知っているのだろうか? それとも、学会とかで発表すれば、震撼が奔る類だろうか?

「因みに、神様は正と負の属性を、持っている。主殿は、負。人が呼ぶ、闇っていうもの」

 闇術は、基本、魔族しか使えない。人で使える場合は、大抵先祖に魔族の血が混じっている。

 闇術士は、その魔力が嫌われているのか、ほぼ精霊術が使えない。私は使えるというか、レヒとリンクが使える。私だけでは、精霊術は使えない。

「闇術の基本は、大丈夫?」

「ええ。世界から奪い、戻す術」

「うん、そう。因みに神様は、実は負の魔力でも、精霊術が、使える」

「どうやるの?」

 シルキーは、私の額を指さした。

「額の目?」

 私は、その目を開く。

 世界の見え方が変わる。

「それで、火と水、出して」

 レヒとリンクにお願いして、火と水を指先に生じさせる。

「その目で見て。火と水を」

 そう言われた途端、世界中の火と水の精霊が知覚できるようになった。今まで、意識していなかった精霊というものを、意識的に見たことで、世界中に存在する精霊に気付いた、そんな感じだ。

「世界から、それを奪い、一カ所に戻す。そうすれば、精霊を行使できる、らしい」

 最後のらしいは、シルキーが負の精神力を持っていないからだろう。

 つまり、同時に火と水の精霊を世界から奪い、同じ場所に戻す。そうすれば、私が普段使っている混合術を使えるというわけだ。

 私は、シルキーの指示通りに、火と水を世界から奪い、同じ場所に生じさせた。

 巨大な球体が生じた。

 刺激を与えれば、対消滅反応を起こすだろう。

 対消滅反応。反属性同士を、混ぜると消滅する現象であり、その際には莫大なエネルギーを生じさせる。

 ただし、対消滅反応で生じるエネルギーも、生じると同時に対消滅するため、傍目には何も発生していないように見えるわけだ。

 しかし、そこは闇術使い。その反応によるエネルギーをほんの一瞬、世界から奪うのだ。

 すると、莫大なエネルギーが、消滅せずに生じ、戻したエネルギーもそのまま生じるのだ。

 私の指先程度の火と水の対消滅でも、家ぐらい吹っ飛ばせる威力がある。

 目の前の球体には、どれほどの威力があるのだろうか。

 ドキドキしながら、私は鎚で球体を殴りつけた。衝撃を受けた球体が対消滅反応を起こす。同時、その一方のエネルギーを奪い、即座に戻す。

 圧倒的なエネルギーによる爆発が、前方上空に飛んでいく。

 雲が割れ、轟音が響く。

「わ~お。これ、凄くない?」

 人になど使ってはならない威力だ。

 普段、レフとリンクに任せている事が、私にも出来たというわけだ。

「あのエルフとの四属性対消滅と比べれば、全然」

 あの一撃のこと、根に持っているのだろうか。だが、それを受けて無事な天使という存在は、私が思っているよりも、強大な存在なのかもしれない。

「他にも、拙の知っていることは、教える」

「ありがと。ただ、座学ならお茶と菓子でも食べながらにしましょうか」

 シルキーは、口元だけの笑みを作り、こくりと頷いた。


 あの威力なら、倒せずとも、一時的に追跡を諦めさせることが出来るかも知れない。そうしたら、私は都市へと逃げる。

 テスラ達は、後から都市に戻っても良いのだ。見つかりさえしなければ。

 私は額の目を開眼した。

 私は弾幕を張るように、先ほどと同じ小さな球体を大量に作り出し、連続で相手に放つ。

 巨大な身体だ、着弾し、爆煙を上げている。暗くなりつつある空と煙により、かなりの視界は奪えたはずだ。

「レヒ、リンク、合わせて!」

 私は、世界から土と風を奪い、目の前に戻す。同時に、レヒとリンクが、火と水を生み出してくれる。

 巨大な金色の球体が生まれた。

 今自分に作り出せる、最大の球体だ。

 ミミルの生み出したものに比べれば、かなり小さい。動きながらも、出来る程の技術も無い。

 だが、生み出せた。私達なら、出来た!

 こいつは、きくぜ!

 私に対し、レヒとリンクが、不敵に笑いかけてきた。

 私もにやりと笑い返す。

「うらぁ!」

 全力で、鎚を叩き付けた。

 今までとは明らかに違う威力の一撃が、煙に巻かれた呪怨龍を捉えた。

 大爆発が起きた。

 練習でも、着弾はさせずに空に撃っていたため、これほどの威力だとは思わなかった。しかも、今回は銀ではなく、金色の四属性。

 思わず、勝ったかも、と心に思ってしまった。

 私が、即座に離脱しようとした瞬間、爆煙が吹き飛ばされた。

 そこには、呪怨龍が居た。痛みは感じているようだが、ほぼ無傷と言ってよい状態で。

 初めて、勝てないわ、これ。と膝が折れ掛けたのを感じた。

 ただ、自分には切札があった。亜神の結晶で造った鎚。この森の呪いの霧を浴び続けた鎚ならば、相当な威力があるはずだ。

 これを、なんとか逆鱗に打ち込めば、可能性は、零ではない。

 本当に? 自問自答で、自分の心を折りそうになる。

 先ほどの一撃で、ほぼ無傷の相手に?

 亜神とやりあった時は、自分と同程度の実力者が周囲にいた。だが、今回は一人だ。援護は期待できない。

 私は鎚を右手でバトンの様に回転させた。

「ま、いいわ。どうせ、死ぬときゃ死ぬのよ。女は根性ってね」

 その時、背後から羽ばたき音を耳にした。

 振り返ると、私は心にヒビの入った音を聞いた。

「ねえ、なんでよ?」

 なんで、なんで、もう一匹、呪怨龍が居るのだろうか?

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