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第七章 2 天使様は客寄せパンダとしても優秀


   二


 街中を歩くと、目立つ。超目立つ。

 なんせ、天使だ。羽が、羽が!

 飛ばなくても、羽が!

 早く、服を買い与えなければならない。ただし、シルキーの翼は大きい。私と違って、どうやっても目立ちそうだ。

 色々と声をかけられながらも、なんとかテスラの家に着く。案の定、テスラは留守であった。

 この状況を予想して、シルキーの為に、安くて長持ちする量のクッキーを買っておいた。

 部屋に勝手に上がり込み、その菓子をシルキーに手渡した。

 シルキーは喜んでそれを食べ始めたが、先ほどの高級菓子と比べてしまったのだろう、一瞬、不服そうに眉をひそめた。

「悪いけど、あんな高級菓子ばっかりあげられないわよ?」

「残念だけど、構わない。これも、美味しい」

「じゃ、お茶煎れるわよ。それとも、珈琲?」

「珈琲とやらは、飲んだことが、無い」

「じゃ、珈琲ね」

 多分苦手だろうな、と思ったが、あえて珈琲を出すことにした。

 案の定、珈琲を口にした途端、うえぇ、と顔を歪めって居た。

「主殿、知ってた、な?」

「うん、知ってた。好みで、砂糖とミルクを入れるのよ」

 シルキーの珈琲に適当な量の砂糖とミルクを入れる。私はブラックが好みなので、そのまま飲む。

「ぬ? 美味しくなった!」

「でしょ? まあ、結構良い豆だったはずだから、勿体ない飲み方だけどね」

 私は、少し疲れたのか、まだ幻痛の後遺症でも残っているのか、うとうとしてきた。

「寝るの?」

「ゴメン、そうさせてもらうわ」

 私は、眠気に誘われるまま、瞳を閉じて、即座に眠りに付いた。珈琲、飲んでも直ぐ寝れるんだよね、私。

 賑やかな会話に、ふと眼を覚ました。

 窓の外を見ると、夕方といったところだ。結構寝てしまったようだ。

 ふと聞こえてきた会話の方を見やると、テスラとシルキーが会話をしていた。

 人に対して興味の薄いシルキーにしては、珍しい光景な気がする。それとも、好みの男だとでも言うのか? だとしたら、話が変わってくるぞ。

「テスラ、勝手に上がってたわ」

「構わないよ。そのため合鍵だろう? それより、昨日はあの後に、色々あったみたいだね」

「ええ、まあ。でも、シルキーの仲良くやってるのね。意外だわ」

 心外だとばかりに、シルキーがこちらを向いた。

「拙でも、気を使うべき、ところは、わかる」

 テスラとの関係を話したことはあっただろうか? まあ、仲良くしてもらえるのは助かる。流石に、相棒のテスラと仲が悪いと、色々と面倒になる事が多いだろう。

「あ、晩ご飯作ってくれてるの?」

「ああ、うん。シルキー様が色々食べてみたいというから、それこそ献立は満遍なくだけど構わないかな?」

「任せるわ。食べる専門の私が文句なんて言うわけないでしょ」

「はは、好き嫌い無くて助かってるよ」

 そういうと、テスラは調理に戻った。シルキーはその姿を興味深げに見つめていた。

 そう言えば、調理という過程は初めて見るのかも知れない。今までは、全て出来合を買ってきただけだった。

「テスラ殿、テスラ殿」

「殿は要りませんよ」

「拙も、呼び捨てで構わないと言った。でも、様を付ける、でしょ?」

「それは、流石に」

 すごいな。テスラはいったいシルキーに何をしたのだろう。こんなにも懐くとは思わなかった。

「そう言えば、テスラ何処行ってたの?」

「教会だよ。改宗するにしても、筋だけは通そうと思ってね」

「ああ、そうなんだ。うまくいった?」

「いや、なんか明日来てくれって。新たな責任者が、明日来るらしい」

「へえ、そうなの? 大丈夫?」

「多分。今の教会に、何か大げさなことは出来ないと思うよ」

 あれだけ派手にぶち壊したのだ。それでも人ひとりをどうにかするくらい出来るだろう。

 でも、まあ、テスラなら大丈夫か。強いし。

「やばかったら逃げてよね」

「心配かい?」

「怒るわよ」

 睨みつけると、テスラは苦笑し、嬉しそうに目を細めた。

「悪かった。うん、言うとおりにするよ」

 そして、調理場において邪魔者にしかならない私は、テーブルの席について、空腹の女性という役割に徹することにした。

 ただ、そこは気遣いの出来る男。珈琲を用意してくれた。

 あ~、酒場に行くの面倒くさいな、と思いつつも寝床がそこなので、行かないわけにはいかない。いや、ここに泊まれば大丈夫か?

 サボりを考えたが、多分、昼間に皆が開店準備をしているはずだ。今日行かないと、ずっと嫌味を言われることになるだろう。

 本格開店は、また後日になるのだろうが、あそこは他の勢力のとの社交場だ。開かないと困るという声が、昨日の客達から多数あったのだ。

 そのため、本来ならば、数日後に開店予定であったところを、最低限のメニューと酒で、急遽開店することにしたのだ。

 そんな面倒な事を考えていると、テーブルの上にテスラ謹製の夕食が並べられていく。

 魚料理に、肉料理。スープ、サラダにパスタ。うん、かなり気合いを入れて作ったようだ。

 テスラとシルキーも席に着いた。

「では、頂くとしよう」

 私とテスラが頂きます、と言うと、シルキーもそれを真似した。

 シルキーは、まず魚料理を口にした。私には赤い魚としかわからない魚で作った煮魚だ。

 この都市は、港があるので、肉より魚が美味い。ただし、私が肉の方が好きなので、テスラは肉料理を作ることが多い。わざわざ煮魚という、明らかに面倒な料理を作ると言うことは、テスラはシルキーの為に腕を振るったのだろう。

 それに多分だが、テスラは魚の方が好きらしい。口には出さないが、流石にわかる。

 普段は肉料理を作ってくれて、私の事を優先してくれるとことか、好きなんだよなぁ。

 そんな考えをしている私の隣で、シルキーは舌鼓を打っていた。

「美味しい」

「そうですか。お口に合ったようで良かった」

 続いて肉料理を食べる。これは素直にステーキだ。多分、牛。私は豚と牛の違いが良くわかりません。

「牛だよ」

 テスラが苦笑いをしていた。心を読まれたようだ。

 シルキーは、ステーキを食べた後「魚の方が美味しい、気が、する」と感想を述べた。

「魚の産地ですから。土地によって、同じ物でも、美味しさは変わりますね」

 子供の頃から放浪の旅をしていたテスラは、その辺り経験として知っているのだろう。

「テスラ、今日は酒場に来る?」

「いや、今日は止めておくよ。教会の人間が、多数行くそうだからさ」

「そりゃ、気まずいわね」

 というか、私の店に、どういう顔で来るつもりなのだろう。いい度胸してんじゃないの。

 一応、偵察でも兼ねているのだろうか?

 大量に用意された食事だったが、私と、それ以上に健啖家なシルキーが大量に食べたため、全ての皿は空になった。

 その状況に、用意したテスラは驚きつつも、嬉しそうに笑っていた。

 私たちは、食事を用意してくれたことにお礼を述べて、酒場へと戻ることにした。

 酒場は、当然開店しており、戻った私に対し、店員達からの罵詈雑言が叩き付けられた。

 いいじゃん! 安い酒と簡単な料理を席に届けるだけじゃん!

 私は、急かされるまま、部屋に着替えに向かう。すると、もう一つ制服が用意されていた。明らかに、私の物ではない。

「シルキー、働ける?」

「人に給仕、する、の?」

「嫌よね。うん、大丈夫。部屋で休んでて」

 だが、シルキーは悩むように、眉をひそめ、口をへの字に曲げている。

「主殿は、働くの、でしょう?」

「働きたくないけど、みんなに怒られるから、嫌々だけどね」

「ならば、何かしら、手伝う。給仕は、あんまり、だけど」

「そう? 無理しないで良いけど」

 そう言いつつも、私は用意された制服を渡した。

 シルキーは、首を傾げつつも、私が自分の制服に着替えるのを見て、着替えを始めた。

「羽が、ねぇ……」

「主殿は、羽をどうしている?」

 私は背中を向けて、羽を見せる。基本的には、ケープもしくはマントで隠している。小さく畳むことが前提だ。

「翼の材質が違うわね」

 シルキーの翼は、羽毛に包まれた羽だが、私の羽はジェル状の羽だ。折りたたむにしても、私の半液体状と違い、シルキーの羽はそうはいかない。

「ま、そのままでいいわ。天使がいる酒場なんて」

 忙しくなりそう。めんどくさ。

「マントでも付けましょうか」

 給仕服にマントという、かなりシュールな格好だが、シルキー自身は気にした風でも無い。

 二人して準備を終えて、一階にある酒場へ向かう。

 客だけで無く、店の仲間達からも、シルキーの制服姿に感嘆の溜息が漏れていた。

 実際、美しい姿だった。神の創造物というだけあって、制服などと言う労働者の格好でありながらも、貴賓や高尚さが漏れ出しているのだ。

 シルキーは、そのままカウンター席に座った。せっせと働くつもりは無いようだ。加えて、流石に天使様に盾突く者も居ない。

 あれ、おかしいな、私は神様らしいんだけど、めっちゃ怒られたぞ?

 流石に、一日で大きく変化することは無く、テーブルの代わりに空き樽。椅子は、カウンター席以外にはない。

 元々はショウバーの建物だったらしく、ステージがあるが、何か利用できないかと考える。折角ならば上手く利用したいもんである。

「カミュ、歌ってみない?」

 客席に注文品を運ぶカミュに聞いてみる。

「うっさい馬鹿。忙しいんだから、フィリアも働け!」

 怒られてしまった。こういうの好きそうなのは、サーナだろうか?

「サーナ、興味ある?」

「な~い」

 速攻拒否された。まあ、外部や、売り出し中の劇団なんかに依頼しても良いかもしれない。

 そんな風に、考えながら仕事をさぼっていると、シルキーが、私の隣に立っていた。

「歌ぐらいなら、やる」

「え、出来るの?」

 こくり、と頷くと、シルキーは舞台に向かっていった。 完全にアカペラだというのに、気にした風も無い。人などに見られても、なんとも感じないと言ったところか。

 シルキーが歌い始めた。人の言葉とは違う言語。それでも、それが神に対する賛美歌だと、本質的に理解できた。

 ああ、失敗したな。

 私は、苦笑しつつ、その舞台を見つめていた。

 こんなにも素晴らしい歌を聴かされたら、今後誰もこの舞台に立てやしない。

 今まで談笑していた客も、注文をしようとしていた者も、店員達も、その全員が口を閉じ、足を止めていた。

 魂が震えるとは、こういう時に使う言葉なのだろう。

 内側から、得も言われぬ感動に打ち震えていた。多分、私は精神的に耐性があるのだろう、それでも過去のどの歌声よりも、素晴らしい歌だと感じずにはいられなかった。

 シルキーの歌が終わる。

 拍手は、起こらなかった。

 ただ、皆が呆気にとられて、半分が涙を流していた。

 途端、呆気にとられていた皆が、彼女は何者だと、給仕している皆に訊ね始めた。

 そして、シルキーはばさり、とマントで隠していた翼を広げて、飛んで、元いたの席へと戻っていった。

 別に隠してないけど、隠してないけど!

「天使様⁉」

 当然こうなる。

 直接天使様に声を掛けるのは偲ばれるのか、私の方に皆が殺到する。いや、私神様ぞ?

「色々あって、私の、なんだろう? お付きになってるのよ」

「こ、声をかけても?」

「いや、本人に聞いてちょうだいよ。ただ、あんまり人間好きじゃないっぽいわよ」

 教会の人間と思われる青年は、ごくりと、生唾を飲み、緊張した面持ちでシルキーの方へと歩いて行った。

 連れと思われる男性は、慌てて外へと出ていった。

 青年に声をかけられながらも、シルキーは興味なさそうに、ママの調理姿を見つめていた。

「なあ、ジーラよ」

 客の一人が声を掛けてきた。

「一応、ここでは源氏名で呼ぶのがマナーよ?」

「悪い悪い。良い歌聞かせて貰ったから、お礼がしたいんだが、おひねりで良いのか? なんか、逆に失礼な気がしてな」

「あ~、そういうことね。ん~、食べることが好きみたいだから、なんか注文して、シルキーにあげたら? もしくは、なんか外で買ってきてあげるとか」

「そうか。じゃ、なんか買ってくるかな。今、ここには碌なもんないしな」

「悪かったわね。でも、随分頑張るじゃない」

「そりゃ、天使様へのお礼だぞ。気合いも入れるさ」

 この会話を後ろで聞いていた者達も、どうやら外におひねりというか、お供え物を買いに行くつもりらしい。

「食い逃げにならないように、ちゃんとお会計済まして行ってよ!」

「ちゃんと払うから安心しろ!」

 そう言い残すと、何人かがそのまま出て行く。

 本当でしょうね。別に、逃げられても大した額じゃないのだが、この辺りは面子の問題だ。

 やれやれ、と嘆息しつつ、シルキーに視線を戻すと、明らかに機嫌が悪くなりつつあるのがわかった。

 青年が、必死に声を掛け続けているのだ。どうみても興味を持たれていないのだから、諦めれば良いのに。

 助け船を出そうかと思い、私はシルキーの下へと向かった。

「お疲れ様。良かったわよ」

「ん」

 シルキーは少し嬉しそうに頷いた。

「お礼に、みんな食べ物持ってきてくれるらしいわよ」

 この言葉に、一瞬、顔が明るくなったが、恥ずかしく思ったのか、すぐに無表情に戻った。

「あの、わたしがまだ話をしているのですが」

 教会の青年が、私に文句を言ってきた。

 マジか。こいつマジか。この状況で、文句言っちゃうのか。

 私が、呆れながらも、空気読むように言おうとしたところ、殺気が隣から放たれた。

「拙の主殿に、無礼を働く、の?」

 敬愛する天使様に殺意を向けられ、青年は顔面を真っ青にし、平謝りを始めた。

「拙に、謝罪してどうする、の?」

 青年は私に向かっても、謝罪を始めた。

「あ~、いいわよ、別に。ただ。シルキーも興味ないみたいだから、放っておいてあげて」

 この言葉に、名残惜しそうにしながらも、青年は諦めてその場を離れていった。

「大変ね、天使様は」

「主殿の方が、珍しい、のに」

「私は、もうこの街に馴染んでいるからね」

 シルキーは納得いかなそうに、口をへの字に曲げた。意外と表情が豊かだ。多分、人との交わりに馴れていないだけなのだろう。

「天使様、これ、先ほどの歌のお礼です」

 外で食べ物を用意してきた男達が戻ってきた。あっと言う間に、シルキーの前には大量の食卓が完成した。

 シルキーは、私に確認するように視線を向けた。

「折角だから、いただきなさいな」

 そう言うと、シルキーは嬉しそうに、それらの食事を食べ始めた。

 いや、テスラの料理食べたばっかりなんだけど。

 私は嬉しそうに食べるシルキーを見つめていた。どうやら、他の者達も、天使の食事姿に興味があるのか、見つめている。

「女の子の食事を見つめるなんて、マナー違反よ」

「おっと、悪い悪い」

 皆、頭を掻きながら、元の席へと戻っていった。

 それから少しすると、教会のお偉いさんだろうか。法衣を着た壮年の男性が店に入ってきた。

 明らかに、酒を飲む格好ではない。天使様がお目当てってところかしら。

 こちらに気付くと、法衣を着た男がこちらに近づいてきた。

「天使様でしょうか?」

「……なに?」

 食事を邪魔されたのが気に入らなかったのだろう、無感情な声なのに、険があるのがわかった。

 一瞬、法衣を着た男は気圧されたようだったが、それでも意を決した表情で一歩踏み出した。

 頑張るねぇ。私は、観客のつもりでその様子を見つめていた。

「あの、もしよろしければ、教会にいらっしゃいませんか? 盛大に歓迎させて頂きます」

「興味、ない」

 シルキーはそれだけで興味を失ったように、再び料理に顔を戻した。だが、法衣の男も諦めない。そりゃそうだ。天使を教会に引きずり込んだともなれば、ちょっとした伝説になるだろう。

「こんな酒場よりも、貴女様にふさわしい場所に御座います」

 言うわねぇ、経営者を前にして。まあ、まだ臨時開店だから、小汚いのは事実だけど。

「拙は主殿の使い、だから。拙が、何かを決めることは、無い」

 そう言って、シルキーが私に視線を向けた。

 あ、面倒になってぶん投げやがった。

「ほう、貴女が、あの?」

「どのかしら?」

 鼻で笑うような、いきなりけんか腰の喋り方に変わった。

「シルキー、馬鹿にされた~。泣いちゃうかも~」

 天使様を怒らせるのは困るのだろう。途端に、腰が低くなる。

「ええと、もしよろしければ、明日、天使様と共に教会に来ていただけ無いでしょうか?」

「あら、何のために?」

「やはり、一つの都市に神様が二柱いらっしゃるのは、その混乱の元でございますから」

 二柱というが、ミズルファ神は、この都市に居るのだろうか?

「私は困らないけど?」

 法衣の男を見ることもせず、私は答えた。

 ぐぬぬ、と法衣の男が顔を真っ赤にしてこちらを見つめている。

「そもそもさ、仮にもこっちを神様だって認めているのならね、そっちが来るのが道理でしょ?」

「そこは、格というものがございますので。それに、そちらの天使様は、元々我々の神の天使様でございます。天使様、そうでございますよね?」

 シルキーは、食事の手を止め「創造主は、そう、ね」と答えて、再び手と口を動かす。

「シルキーは、どうしたい?」

「一度、話をつけた方が、いいと、思う。毎日これ、面倒」

 確かに。それには同意だった。

「なら、明日伺うわ。天使様は、御菓子が好きだから、高いの用意しておきなさい」

 シルキーは、こくりこくりと頷く。

「わかりました。では、明日迎えをよこしますので。どちらに迎えに行けばよろしいですかな?」

「別に要らないわ。飛んでいくから」

 そう言って、私は翼を広げた。威嚇するように。

 シルキーも真似したくなったのか、翼を広げる。

 法衣の男は、二人が広げた翼に驚いたのか、見上げながら後ろに下がろうとして、尻餅をついてしまった。

 顔を真っ赤にし、振り返って走り去っていった。

「主殿、意地が悪いの、では?」

「いや、あんたもやったじゃん」

 翼を広げた私たち二人のところに、興味を持った酔っ払い共が寄ってきた。

「触っても大丈夫か?」

「乙女の背中よ、駄目に決まってるでしょ」

「あたしは良いでしょ!」

 カミュが、許可を得ずに翼に触れた。

 私の翼は、シルキーの羽毛に包まれた美しい白い羽ではない。

 なんというか、液体だ。真っ黒の液体が翼の形になっているだけだ。

「可愛くないわよね、私の羽」

「拙は、羨ましい」

「嘘でしょ? 何が良いのよ」

「手入れ、いらない。この羽、毛が落ちるし、櫛で梳かないと、塊出来る」

 ふむ、それを聞くと、途端に羨ましくなくなった。正直、ずぼらな自分には向いていなさそうだ。

「私、自分の羽が好きになったわ」

「そう、よかった」

「あたしも、フィリアの羽素敵だと思う」

 カミュからの褒め言葉だったが、本音だったかどうかは微妙なところだ。

「はいはい、ありがと」

 そこから先は、大きな問題も無く、閉店を迎えた。


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