第六章 1 友への贖罪
第六章
一
私は、酒場の仲間、そしてテスラと共に病院に居た。
今日は、カミュの退院日だ。
「退院おめでとう」
口々に皆が祝辞を述べる。
が、カミュの笑顔はぎこちない。
顔には、痛々しい火傷の痕がある。それも、悪魔憑きとしての、蔑称に値する火傷が。
尻尾も切り落とされており、耳や肩には、未だ痛々しい包帯が巻き付けられている。
何日か前に見舞いに来た際に、教会の女三騎士が謝罪を必死にしていた場面を目撃した。その時、カミュは命乞いするような三人に、嘆息しながら許しを与えていた。
多分アレは、許したのでは無く、私の手をこれ以上汚させないための決断だった気がする。
私は、カミュの気持ちに対し、なんらかの対価を払わなければならないと、そう決意していた。
「カミュ、この後、私とこれる?」
「え、あ、うん」
力なく、カミュが返事をした。
皆には、退院したら、カミュを借りる旨は伝えてある。
「じゃ、行きましょう」
テスラとカミュを伴い、私は貧困地区へと向かった。目的地は、貧困地区の廃墟の地下。
その地下には、牢屋があった。
かび臭く、湿っぽい。正直、長く居たい場所では無い。
以前、奴隷商の店があり、奴隷を捕らえていた建物らしい。
奴隷は禁止されていないが、そこまで金銭的に余裕のある住民の居る都市ではない。奴隷商売は上手くいかなかったため、店を畳んだのだ。
私は、ろうそくやランタンに火を灯し、中が見えるようにした。
「檻?」
尻尾がないためか、歩き方がぎこちないカミュが、目の前の檻を見つめて、そのままな事を呟いた。
「そう、檻よ」
檻の中には、手錠や足枷、更には舌が噛めないようにする、歯につける道具なんかがおかれている。しかも二人分だ。
「さて、カミュ。もし、その怪我を治せるとしたら、どうするかしら?」
「なお、せるの?」
「治せるわ。でも、代償が超超超きついけど」
その事を知っているテスラは覚悟に顔をしかめていた。
「テスラは、やるんでしょ?」
「まあ、ね。この腕じゃ、君を守るには不安だからね」
左手で、自身の右腕を叩いた。
「カミュはどうするかしら?」
「や、やるわ!」
「しんどいわよ? 肉体の怪我を治癒と同時奪取して、精神的な痛みとして戻す。つまり幻痛に差し替える闇術と呪いの合体技。肉体を介してない分、痛みはひどいし、脳を介してない分、限界を超えても、痛みが和らがない。特に、今回の怪我は酷いから、心がぶっ壊れちゃうかも知れない。それでもやる?」
カミュが生唾を飲む音が聞こえた。
「やる!」
「わかったわ」
私は肩をすくめた。
私は懐から、新聞紙に包まれ、冷凍された尻尾を取り出す。
「げ」
自分の物だというのに、カミュは顔色を青くしていた。
「じゃ、自分の尻尾の先にくっつけて。無くなってたら、流石に治せなかったわ」
カミュは恐る恐る尻尾に触れて、嫌悪的な手つきで、自分の切られた短い尻尾の先に、切り落とされた尻尾をくっつけていた。
「じゃ、二人とも、こっちに背中を向けて」
素直に、二人は背中を向けた。
私は、二人の背中に手を置いた。
そして、滅多に使わない闇術を使う。怪我を簒奪し、その宙ぶらりんになった怪我という概念を、呪いにより精神の傷として呪うのだ。
ま~、凄い術なのだが、基本使えない。カミュの傷もテスラの傷も、二人が耐えられるかというと微妙だ。テスラは、まあ、大丈夫かも知れないけど、カミュは確実に心が壊れるだろう。
「はい、終わり」
すると、二人がこちらへと振り返る。
テスラは、右腕をぶんぶんと振り回した。
「相も変わらず、凄いな。ただ、代償が、怖いな」
カミュは、手鏡を見て、驚きに目を見張っている。
「凄い、治ってる!」
尻尾が激しく動いて、喜びを表してる。
「さて、カミュ。それじゃ、僕らは手錠をして牢屋に入るよ」
「え?」
カミュが目を見開いた。
「これから、多分、僕らは死ぬほど苦しむ。それどころか、多分、死のうとする。だから、それを防ぐための、手錠や足枷なんだ」
「わ、わかったわ」
不安そうに、カミュがこちらを見た。
「テスラ、大丈夫よ。呪い返し使ったから」
「どういうことだい?」
テスラの表情が険しいものになる。
怪訝な、というよりは答えがわかっていて、怒っているという雰囲気だ。
「苦しむ呪いは、私が受けるって事」
この呪いに関する呪い返しは、相手が受け入れる覚悟をしていなければならない。誰かに、押しつけることは出来ないモノだ。故に、私以外には、押しつけることが出来ない。
「じゃ、テスラ。手錠か着けてもらえる? あと、私が檻に入ったら、そこの黒い布で覆ってね。見られたい状態じゃなくなるから」
それに、呪眼がある。下手をすれば二人を呪いかねない。
「馬鹿なことを! 二人分の、それも本来治癒不能怪我を治す呪いなんて、人一人が耐えられるものじゃ無いぞ!」
「だから、私なんでしょ。だって、私、神様だし」
私が、てへ、と笑うと、テスラは心底心配そうにこちらを見つめ、肩を抱いた。
「今すぐ、返してくれ。その呪いを」
「無理よ。もう」
呪い返しは、呪われた瞬間に使わなければならない。
「さ、早く。時間がないわ」
テスラは、珍しく舌打ちし、私に手錠や足枷を施していく。そして、目隠しをさせた。最後、檻に布を掛けようとしたところえ、私は声を掛けた。
「テスラ、これから私が言うことは、まあ、本音なんでしょうけど。忘れてよ」
「ああ、約束する」
「カミュ、貴女は家に帰って。こんなとこ、居ない方が良いわ」
「嫌よ! あたしも居る」
その言葉に、私は肩をすくめ、テスラも困ったように嘆息していた。
「なら、覚悟を決めるんだよ?」
テスラの、殺気すら籠もった言葉に、カミュは無言で頷くのみだった。




