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第一話 第一章 恋敵は自分だった


   第一章


   一


 私ことジーラは鏡を見つめた。

 目が腫れている。今から客前に出るというのに、最低の顔だ。

 仕事を休みたいところだったが、一人で居るのも結構キツい心境だった。

「だ、大丈夫?」

 隣で同僚のカミュが心配そうにこちらを見つめていた。

 カミュは猫の獣人で、耳と尻尾がぴょこぴょこと動いている。スレンダーであり、性格の明るい男受けの良い女性だ。

「駄目。帰りたい」

「何、どうしたの?」

「振られた」

「え⁉」

 驚きの声をあげたカミュは、すぐに気まずそうに、慰めの言葉を探している様子だ。

「は~、最悪、しんどい」

「まあ、その状態でよく逃げずに来たね」

 ニヤニヤ、と何やら嬉しそうに笑い、ぽんぽん、と私の頭を叩いた。

「せめて、みんなにタダ酒奢らせようと思ってね」

「相も変わらず、カス思考ね」

 カミュが呆れ顔で嘆息する。

 少しでも、腫らした目元を誤魔化すために、化粧を施す。

 私は、再び鏡を見つめる。

 自分で言うのもなんだが、美人だとは思う。白い肌に、スタイルも良い。背も平均よりは高めで、大人のお姉さんという感じだ。

 顔つきは、美人とも言えるが、可愛い寄りだろう。動物で例えるならタヌキ顔。ちょっと垂れ目で、文学少女的な知的さが垣間見える顔つき。柳眉も整っている。鼻も通っており、ピンク色の唇は少女っぽさを残しつつも、色気を漂わせている。

 服には必ず大きめのケープを着ける。普段着も仕事着もそうすることにしている。

 今日も、ケープ付きのドレスだ。

「私って、美人だよね?」

「ははは、ムカつく質問だけど、美人だよ。可愛いとも思う」

「だよね~、何が駄目だったのかな」

「そりゃ、性格でしょ。見た目可愛いのに、性格カスじゃない」

 そう言うと、仕事仕事、と言ってカミュは先には控え室を出て、仕事場へ出て行ってしまった。

 ひどい言い草だ。まあ、自覚はあるけれど。

 ここに居ても仕方が無い。嘆息をし、気持ちを切り替えて、私も後を追った。

 職場は酒場であり、私たちの仕事は、客の相手をしながら酒を提供する事だ。

 カウンターに顔を出すと「お~」と男達が声をかけてきた。

「暗い顔してるじゃねぇか、フィリア、どうしたよ?」

 フィリアとは、この職場での源氏名だ。

 因みに、源氏名を名乗っているのは、私だけだ。一応、副業を持っているので、ここでは源氏名を使っていた。

「振られたんだって、この子」

 男達は、一気に気まずそうな顔をして顔を背けた。

「カミュ?」

 睨みつけると、悪気無く、ゴメン、ゴメンと反省していない顔で謝り「記念に一杯奢ってあげましょう」と言った。

 よし、上等だ。

「ママ、一番高い奴。ダブル、ストレートで」

「あ、ひど!」

 うるさい。酔いたい気分なんだよ。

 高い酒だとはわかっているが、一気に呷り、くはぁ~、熱い息を吐き出す。喉が焼ける、脳も焼ける。

 周囲から拍手が沸く。

「今の話聞いたでしょ、今日の私の酒は、全部あんたらの奢り! いいわね!」

「「ええ~」」と悲鳴にも似た声があがるが、知ったことか。

「フィリアっていうか、ジーラが告白したって事は、テスラだよな?」

 常連客の一人、モラムが声を掛けてきた。モラムは、三十代前半の男だ。

 因みに、フィリアとジーラが同一人物なのは、この酒場の客ならば、ほぼ全員が知っている。

 テスラとは、ジーラのもう一つの仕事上の相棒であり、幼なじみ。今日の昼に、告白をして、他に好きな人がいると言われて振られたのだ。

 モラムが「奢りだ」と言って、ママから注文した一杯を差し出してきた。私に頼まれると高く付くと思ったのか、安酒が目の前に置かれた。

 まあ、いいけど。

 それを一気に呷る。愚痴るにも、酔いが足りない。

「そうよ。これからどうしよう。仕事の事もあるのに」

 気まずい、気まずいことこの上ない。

 仲は良かった。振られるなど、思っても無かった。それだけ、一緒の時間を過ごしてきたと思っていた。

 私の振られ話が楽しいのか、店中の人たちが、私の周囲に集まり、この話に耳を傾けている。

「お前ら、全員、明日いっぱい二日酔いが治らない呪い掛けたからな」

「ひっでぇ! そんなんだから振られるんだよ!」

 笑い声と共に、非難の声が上がる。

 因みに、私のもう一つの職業は呪いと闇術を使う術士だ。呪いをかけるのは朝飯前だ。

 ドアの開く音がして、皆の視線が、店の出入り口に向いた。

 花束を持った男が一人、店内に入ってきた。

 私を含め、皆の目が驚きで丸くなる。

 男は、私の方へと歩いてきた。

「こ、こんばんは」

 男がはにかみながら、挨拶をしてきた。

「こ、こんばんは」

 私は、ぎこちない笑みで挨拶を返す。

 男は、大きく深呼吸すると、花束をこちらに差し出した。

「フィリアさん、好きです。つき合っていただけないでしょうか」

 そう言って微笑んだ。

「え? はい、わかりました」

 思わず、そう答えていた。

 男は、金髪碧眼の美形。髪は男にしては少し長めだが、不衛生な印象は無く、どちらかというと、王子様といった印象だ。

 身体は、細身に見えるが、筋肉質で、無駄な贅肉などはない。

 そう、その男は自分を昼間振った男である、テスラ・ユーリンその人だった。

 私の返事に、テスラは耳まで真っ赤にして満面の笑みを浮かべた。

 周囲の人々は、眉根を潜め、顔面にクエッションマークを貼り付けている。

 カミュがいち早く正気に戻り「えっと、テスラ。こう言う職場で、告白はちょ~っと、常識が無いんじゃないかな?」と、キツめの語調で非難した。

「す、すまない」

「今日は、帰ってくれないかな?」

 カミュがそう言うと「わかった」とテスラは頷き、こちらに振り向き「明日のお昼、鉄鍋亭で食事、どうですか?」とのお誘い。私は、こく、こくと頷く。

 テスラは、微笑み、皆の視線を背に受けながら、店を出て行った。

「は? は? どういうことだ?」

 店内の客達が私に殺到し詰問する。

 私が、えへへへへ、と間抜けな笑みを浮かべていると、カミュに頭をはたかれた。

「何、奢らせるために騙したの?」

 その言葉に、やっと冷静さを取り戻す。

「え、私も意味分かんない」

「昼間のこと話なさいよ」

 酒場のママを含めて、店内の人間は興味津々だ。

 私は、昼間のことを思い返す。


 昼間、相棒であるテスラと共に、テスラの自室で昼食をとっていた。

 別に今日、告白しなければならない理由があるわけでは無かった。ただ、ふと、今日言っても良いかな、と思ったのだった。

「あのさ、つき合わない?」

「何か仕事かい?」

「あはは、そうじゃないよ。その男と女、つまり彼氏、彼女にならない、っていうこと」

 テスラは、食事の手を止めた。そして、悲しそうに顔を歪め「ごめん」と謝罪した。

 振られるとは思っていなかった。

 下手な彼氏彼女より一緒に行動しているし、価値観も近く、結婚したとしても、絶対に上手くいくだろうな、と確信していたくらいだ。

「あ、あはは。ご、ごめんね。いきなりこんなこと言って」

 私は、急いで食事をかっこんだ。涙が溢れ出す前に。

「ご、ごちそうさま。か、帰るね」

 そう言って、部屋を去り、自分の部屋で仕事の時間まで泣いていたのだ。


「う~ん、誤解は、なさそうね」

 カミュが顎に手を当てて考え込んでいる。

「そ、そうよね? 振られているわよね?」

 自分で言っていて悲しくなってきた。

 貰った花束は、ママに渡して、花瓶に飾ってもらった。

「っていうかよ、一つ気になったんだが、いいか?」

 皆が、発言者である客の一人に視線を向ける。

「フィリアって呼んでなかったか?」

「いやいや、一応、源氏名なんだから、そう呼ぶのが普通なのよ。本名で呼ぶ方が、マナー知らずだから」

 フィリアとして出会った時の事を思い起こす。


 出会ったのは、初めてこの酒場に出勤する日だった。

 ギルドの仕事の際、ジーラは、とある事情から肌を一切出さない服装をしている。顔もフードで隠し、目も眼鏡を着用し、素顔はほとんど見えない状況だ。

 だが、酒場の給仕をやる事になった以上、そんな格好で仕事をするわけにはいかず、肌の露出が多く、眼鏡も外していた。

 職場に行く前に早めの夕食を食べてからのつもりだったため、時間には余裕を持って出勤した。

 普段の格好ならば、組合員としてそれなりに名が売れているので、絡まれることは無いが、この格好で街を歩くのは初めてだった。

 因みに組合とは、職業斡旋組合の略である。

 普段通り近道として裏通りを進んでいると、男に手を掴まれ、物陰に連れ込まれた。

 ジーラは冷静に、とりあえず二度と勃たない呪いをかけて、その後、ボコボコにしてやろうと考えていた。

 が、男の手が掴まれ、助けられた。

 テスラに。

「君がこっちを通ろうとしているのを見て、危ないと思ってね」

 そう言えば、以前から女性である自分が、裏通りを近道として使うことには反対していたことを思い出した。

 惚れている相手に助けられるなんてお姫様みたいな展開、嬉しくないわけも無く。

「あはは、ありがと。夕食、まだだよね? 奢るわ」

 お礼と簡単なデートに誘った。

 一瞬、テスラは面食らった顔をしたが、「じゃ、お願いしようかな」と言った。

 鉄鍋亭で、二人で食事をすることになった。

 二人で鉄鍋亭で食事をするのは、もう数十回になる。お互い頼む物も、ほぼ同じだ。

 ジーラは、いつもの調子で、テスラの分も注文した。

 面食らっていたテスラに「え、違うのが良かった?」と訊くと「いや、大丈夫」と微笑み返してきた。

 食事中の話も普段通り、盛り上がった。

 食事を終えると「あ、もう仕事行かなきゃ」と代金を支払い別れようとすると「どこで働いているんだい?」と質問された。

「『酒を呑みに来る者拒まず』っていう酒場よ。言ってなかったっけ?」

 本日開店の新店舗だ。

 今日から働くと伝えていたと思ったが、伝えていなかっただろうか?

「うん、聞いてなかった。今度行かせてもらうよ」

「一杯くらい奢ってあげるわ」

 そう言って別れた。その日の内に、テスラは店を訪れた。


「あ、もしかして気付いてないかしら、これって?」

 え、気付かないってある? というか、今まで気付いてなかったの? 嘘でしょ、私が生まれたときからの付き合いなのに⁉

「……うっそでしょ、フィリア」

 カミュの目が冷たい。

「でも、それなら正体ばらせば解決じゃねぇか」

「そうね!」

 思わず、笑顔が零れてしまう。

「え?」

 カミュから不穏な声があがった。

「な、なによ?」

「あんた、もしかして、ジーラが好き、でもフィリアはもっと好き。ジーラとフィリアが同一人物なら、問題ない。とか思ってる?」

「そ、そうよ。何か変だっていうの?」

「いや、こういう可能性だってあるでしょ。ジーラとは付き合いたくない。フィリアは好き。同一人物ってことは、ジーラってこと? なら付き合わない、の可能性だってあるわけよ?」

「な、なんでそう言うこというの?」

 恨みでもあるのだろうか。泣いちゃうぞ?

「いや、だって、フィリアって性格……」

 その言葉に、客達が「あ~」と声を漏らし、カスだもんなぁ、と声が上がる。

「あんたこの前、組合の呼び出し無視し続けて、顔出さなかったらしいじゃない。職員の人、めっちゃ愚痴ってたわよ。仮にも、この都市の組合筆頭術士の自覚はないの?」

 別の所からは「この前、組合の昇級試験の訓練とか言って、一緒に組んだ奴に、全部仕事させてたらしいじゃねぇか。受付嬢が言ってたぜ」と様々なエピソードが出てくる。

 いいじゃん、別に。実際、訓練は重要ですよっと。

「ともかく、フィリアは評判悪いんだから、それ自覚した方が良いよ」

「カミュ、冷たい」

「組合じゃ、誰もこんなこと言ってくれないんでしょ。だから、代わりに言ってあげてるの。明日、テスラに会うんでしょ。自分、と言うかジーラの評価聞いておいた方が良いんじゃない?」

 確かにそうだ。勝算がないのに、正体をばらす事のメリットがなさすぎる。

 さて、明日のデートで、ジーラの勝算を見極めなければ。


   二


 昨日は、客がはけた後、腫れた目をどうにかしたいのと、寝不足でデートに行きたくなかったため、こっそりと無許可で早退した。多分カミュは「あのカス!」と怒っていることだろう。

 だが、そんなことよりは、自分の幸せである。

 フィリアの格好で鉄鍋亭に行くと、既にテスラが待っていた。

「御免なさい、待たせたみたいね」

「あはは、大丈夫ですよ」

 そう言って、テスラはいつもの二人の料理を注文した。 暫く、当たり障りの無い会話をしながら、食事を続けると、テスラがいきなり頭を下げた。

「昨日は申し訳なかった。職場であんなこというなんて、困ったよな。どうかしていたね」

「そ、それはそうね。でも、突然、どうしたの?」

「昼に、ちょっと色々あってね。自分も勇気出さなきゃ、と思ったんだ。あと、知り合いに新しい道を進んでもらいたかったってのも、ってこれじゃわからないよね、すまない」

 ……わかるよ。自分がフリーだと、私が次に進めないとか、そんなこと考えたんだね。

 優しいんだよなぁ。あと、背中押しちゃったか~。

「……その、知り合いって、どんな人、なのかな?」

「大切な人ですよ」

 優しく微笑みながら、彼は言った。その表情は、まるで恋する乙女のようだ。美形の彼だからこそ、乙女という表現も似合ってしまう。

 これ、いけるんじゃね? これ、私のことも好きじゃね?

「あ、安心して下さいね。異性ですけど、異性として全く見てないんで」

 あ、死にたくなってきた。色仕掛けして、抱きしめようとしたら、隠し武器でさすの止めてくんない?

「あ、いた!」

 涙目を見られないように、下を向いて食事している振りをしていたら、突然、男達から声を掛けられた。

 頭を上げると、知り合いの男二人組。

 ミッシとケーゴだ。

 ミッシは、二十代前半の金髪で、軽そうな見た目に反して、真面目な男だ。

 ケーゴは、黒髪で、三十代前半。こちらも真面目な男で、妻子持ちだ。

 どちらもこの港町の漁師をしている。副業として組合員でもあり、私とはその繋がりだ。

 因みに、この大陸には、三大勢力と呼ばれる所属団体があり、一つは宗教勢力である教会。テスラは、父親が神父さんだった事もあり、この教会に所属している。

 もう一つは王宮勢力。言わずもがな、国の管理する勢力だ。税金が報酬の、羨ましい立場の仕事だ。

 最後が組合。民間の勢力だ。私の所属は、この組合である。

 違う勢力同士であっても、パーティを組むことは少なくない。メリットとしては、例えば私たちの場合、教会の依頼、組合の依頼、両方を受注することが出来る。公的には、教会の仕事はテスラが一人で受注し、勝手に私が手伝っている扱いで、勝手に報酬を山分けしているという考え方だ。組合でも同じだ。

 デメリットとしては、そういうパーティには、極秘任務などは振り分けられないと言うことか。

 大抵、そういう任務は面倒なので、振られない方が良いという者も多い。

「何か用かい?」

 デート中だというのに、テスラは優しく対応する。因みに私は、二人を半眼で睨みつけている。さっさと帰れ。

 二人は苦笑いを浮かべているが、意を決して、私たちを探していた理由を説明した。

「テスラ達に、仕事の手伝いを頼みたいんだ」

 その言葉に、テスラが顔を曇らせた。

「僕は構わないが、ジーラは、無理かも知れない。色々あって、少し気まずいんだ」

 テスラの言葉に、怪訝な表情でこちらの顔を見る。そりゃそうだ。気まずいと言いながら、一緒に飯食ってるじゃん、となるだろう。

「えっと、言ってることがよくわかんないんだけど……」

 こちらを見つめている。見るな、こっちを見るんじゃ無い。

 仕方がない。私はテスラに、ちょっとごめんなさいと、断りを入れ、二人をテスラに会話の聞かれない場所にまで連れて行く。

「え、なに? テスラおかしくなったのか? 怖いんだが」

 二人が、お化けでも見たかのような、恐怖に満ちた表情を浮かべている。

 私は苦笑いを浮かべて、二人に昨日の事を説明した。

「なんか、面白いことになってるんだな」

「え、人の不幸を面白い事って言った?」

 自分でもぞっとするほどの冷たい声音が出た。

「ご、ごめん。でも、どうすんだよ、そんな状態」

「出来ることなら、フィリアっていう女をテスラと付き合えないように呪いを掛けてやりたいのに、自分だからかけられない! フィリアって女が憎い! 存在しないはずの女が憎い!」

 思わず、近くの空のテーブルを叩く。

 二人は引いているが、そんなことは関係ない。憎しみは呪術師の力です。

「そう言えば、なんかお願いがあるんでしょ?」

 私を腕を組みながら、面倒くささを全力で醸し出して見せた。

 凄く気まずそうに、ミッシが口を開いた。 

「ジュエルフロッグって知ってるか?」

「腹の中で、宝石作るカエルでしょ?」

 まあ、知っている。そして、そのカエルを狩りたい奴の、次の言葉も。

「もう、言いづらいよ! こえぇよ」

「何よ、言いなさいよ? あのカエルを狩りたい理由なんて、一つしか無いじゃない。昨日振られて、可哀想な女の子に、言ってみなさいよ。ねえ、ねえ!」

 その宝石で作った指輪でプロポーズすると、成功すると言われているのだ。

「そうだよ! 彼女にプロポーズすんだよ。悪いか!」

「でも残念ね。貴方達じゃ、あのカエルは狩れないでしょうね。ああ、プロポーズ前にでよかったわ。婚約者に死なれると、次の人が見つかりにくいものね。いえ、婚約者の段階なら、喜ぶかも知れないわね!」

「そんな風にカスだから、振られるんだろ!」

「そもそも、なんで私達なのよ?」

 組合員として私はかなり下位に位置している。応援を頼まれるような、立場ではない。

「組合に頼んだら、結構な費用が掛かるって言われてよ。組合長のイチポーロに相談したんだよ。そしたら、ジーラ達なら、交渉次第では安く引き受けてくれるかもって言われてな」

 組合長とは、職業斡旋組合支部の支部長のことだ。本来、本部にちゃんとした組合長がいるのだが、面倒なので、この街の支部長は組合長があだ名になっている。

「私達、ランク低いわよ?」

「と言っても、筆頭呪術師なんだろ? カエル狩りには呪術師を連れて行くのが良いって言われたから、お願いに来たんだが」

「あ~、一応自分で狩ったカエルじゃなきゃだものね。そうなると、弱らせるのに呪術師が欲しいのはわかるけど」

 はあ、と二人は嘆息した。

「だからテスラを先に探したんだよ。あいつなら、笑顔で手伝ってくれるからな。お、そうだ。フィリアとジーラが同一人物だってばらされたくなかったら。嘘、冗談です。だから、真顔で怒んないで」

 おっと、表情がキツくなっていたようだ。

「はあ、いいわよ、手伝っても」

「え、嘘だろ? なんだよ、何考えてんだよ⁉」

 恐怖におののかれてしまった。失礼じゃない?

「あいつ、私を振ったと思っているから、今気まずいのよね」

「思ってるじゃ無くて、振ってるだろ、明確に」

「今アンタに、今日二回足の小指をぶつける呪いかけたから」

 気軽に呪い掛けるんじゃねぇよ! と苦情が入ったが、知ったことか。

 睨むだけで簡単な呪いをかけられるので、このぐらいは挨拶代わりである。

「いいきっかけになると思ったの。また、相棒として一緒に仕事する、ね」

「ああ、確かに、そいつはそうかもしれないな」

「でしょ。だから、受けてあげるわ」

 私は、お待たせ、と席に戻る。

「どうしたんだい?」

 少し不安そうにテスラが問いかけてきた。

「お店のお得意様だったから、ちょっと、ね」

 二人は、テスラに再び、先ほどの話を始めた。

「僕は構わないよ。ただ、そのジーラは……」

「あ、ジーラには先にオッケーもらってる」

「ほ、本当かい⁉」

「ああ。テスラとで構わないって言ってたぜ?」

「そ、そうか。良かった」

 テスラは、あからさまに胸を撫で下ろしていた。

「日取りは明後日の昼。場所は、そうだな、組合前集合で良いか?」

「ああ、構わない。ジーラには……」

「俺たちから言っておくよ。じゃ、頼んだぞ」

 その後、夕食前まで買い物など楽しみ、夜は仕事のために別れた。


   三


 この都市の名は、降臨都市ホワイトフェザーと言う。

 何故、降臨都市と呼ばれているかと言えば、実際に天使が降臨するからである。

 年に一度、降臨祭という祭りが行われ、その際に天使が現れる。その為、ここは天使に関する観光が主な産業であり、同時に国教である福因教の勢力が強い都市だ。

 因みにこの教会は、ミズルファと呼ばれる女神様を祀っているが、どちらかというと天使様を奉っている印象が強い。実際に会える分、どうしてもありがたみがあるのだろう。

 そんな都市だが、港町という側面から飲食産業も盛んであり、民間勢力の組合も教会に次ぐ勢力だ。

 私は、一応組合に所属しており、テスラは教会に所属していた。

 因みに、私はほとんど組合の仕事をしていない。あくまで副業だ。本業は、酒場のウエイトレスである。

 やれやれ、とクローゼットに雑に閉まっておいた組合用の仕事着を着用し、組合施設へと向かった。

 施設内で暇つぶしに、喫食スペースで、注文したサンドイッチを食べていた。

 私の仕事着は、マント付きのローブ。因みに、マントはよく馬鹿にされる。

 眼鏡は瓶底。フードも被っているので、顔なんて見えない。夏場でもこの格好をしているので、都市では結構な有名人だ。変人としてだけどね!

 席の付近の壁にはでかい鎚を立てかけている。これは、私の愛用武器だ。

 外にテスラの影が見えたので、強引にサンドイッチを口に放り込み、外へと向かう。

 テスラは普段通り、白い教会の洗礼済みフルプレート装備。背中には大剣。街中だからか、兜は脇に抱えている。

「ごめん、中で御飯食べてた」

「あ、いいよ、気にしないでくれ。むしろ、急がせたみたいで悪いね」

 テスラは何故か、目を泳がせている。

 なんだろう?

 あ、そうか。こちらは、一昨日も会っているが、テスラからすれば、振って以来会っていないのだ。

「テスラ、あんたが私の気持ちを知っただけで、実際は何も変わっていないんだよ。だから、今まで通りで行こうよ。ね?」

「あ、ああ」

 そう言うと、テスラがおずおずと拳を突き出してきたので、私もその拳に自分の拳を合わせた。

 そう何も変わらない。好きという気持ちを知られただけで、私の中の感情は何も変わっていないのだ。

 フィリアという存在への憎しみ以外は。

 うへへへへ、この行き場の内憎しみは、どうすれないいんだろう。カエルさん達には悪いが、代わりに受け止めて頂こう。

 ケーゴとミッシも現れ、面子が揃った。二人は安っぽく、大した手入れもしていない軽鎧と剣を腰に携えている。ただ、漁師だけあり、肉体は鍛えられている。

「で、カエル狩るってことは、あそこの洞窟よね?」

 城塞都市の外、南側、海とは逆方向の松林を抜け、広葉樹の森の中程に位置する洞窟。カエルの他にも、様々な魔物が存在しており、カエルよりも他の魔物が危険とされている。

「順調なら、往復で四日くらいで行けるんじゃないかな? ただ、洞窟内で調理は出来ないから、火の要らない携帯食は準備しておかなきゃな」

 経費は、ケーゴとミッシ持ちなので、あえて用意はしていない。

「なら、組合の売店で人数分買ってくる。待っててくれ」

 そう言って、組合所属のミッシが組合施設へと入っていった。

「ジーラも持つの手伝ってくれよ」

 ケーゴの言葉に、私は片眉を思わずつり上げた。

「か弱い女の子に、何言ってんのよ。みんな前衛なのに、私だけひ弱な後衛よ?」

 正直、携帯食は重くは無い。ただ、人数分だと持ちづらいだけだ。

 因みにテスラが中に入らないのは、組合所属ではないからだ。

 ケーゴは肩をすくめ、視線を外に居るテスラに向けた。対するテスラは、普段通り私の様子に安心したのか、穏やかな笑みを浮かべていた。

 いや、本当に顔が良いな。性格も良いんだよなぁ。パパがちゃんと育てたからだろうなぁ。因みにパパとは、テスラの父親の、私からの呼び名である。

 ミッシが、人数分の携帯食を持って現れた。

「え、干し肉にしたの?」

「だ、駄目だったか?」

「あの洞窟は肉食獣が多いから、肉だと臭いに釣られて集まるし、当然、火でも焼けない。だから干し飯の方がいいわよ、水に入れるだけで、食べられるし」

「だ、だったら最初に言っておいてくれよ!」

「いや、きっとやらかすだろうって思って、あえて!」

「あいっかわらず性格悪いな!」

 罵倒を鼻で笑って、ジーラは組合に入り、食堂兼売店に向かった。

「干し飯ちょーだい」

「さっきメッシが干し肉買っていったぞ?」

 売店のおっちゃんが、怪訝そうな顔でこちらを見つめた。

「今日の目標はジュエルフロッグ」

「そりゃ、肉や魚は駄目だわな」

 そう言って、干し飯を人数分差し出した。水や湯でふやかそうとしても、時間が掛かる面倒な食い物ではあるが、臭いは少ない。

「しかし、子守か。大変だな」

「本当よ。筆頭呪術師は大変なのよ」

「この街に一人しか居ねぇから、必然的に筆頭だわな」

 おっちゃんは、苦笑していた。

 干し肉から今に至るまでのやりとりで、私の行動の意味を理解したらしい。流石、長年、ギルドで働いているだけはある。

 メッシに買い物に行かせた理由は、何を買ってくるか知りたかったからだ。当然、下調べをしているのならば、干し飯なり、臭いのしない食べ物を用意したはずだ。つまり、彼らは今回の仕事について、下調べをしていないというわけだ。未踏の洞窟ではなく、組合に足を運んで、職員と少し話をするだけで、判明する程度の情報程度すら、だ。

「油断しすぎ。そう言う奴が多すぎるわ」

「俺の方からも、組合長に伝えておくよ。筆頭術士殿から、教育体制に苦情が入った、ってな」

「よろしく」

 ちなみに、テスラと二人ならば、干し肉でも問題は無い。というか、サクッと討伐し、外で調理するくらい余裕だ。

 干し飯を持って、三人のところに戻り、一人二つずつ手渡す。

「じゃ、いこっか」

 私の気楽な言葉に「ああ!」とメッシとケーゴの気合いの入った返事が返ってきた。

 やる気ってのは、本番じゃ無く、その前から出すもんなんだけどねぇ。同じ思いなのか、テスラは私にだけわかるように苦笑いを浮かべていた。


 都市を離れ、松林へと向かう。

 松林は、特に問題なく抜けられた。松林の先は、所謂広葉樹の生えた森になる。

 ただ、その森に至ってから、違和感を覚える。

「ねえ、動物に出会ってないわよね?」

「あ、言われてみればそうだな」

 メッシ達も同意した。

「参ったわね。荷物減らしたくて、現地で動物狩ろうと思ったのに、これじゃ飯抜きになるわよ」

「お、おい、どうするんだよ」

 不安そうにケーゴが聞き返してきた。

「自分で考えなさいよ。この仕事、あんた達の為のもんでしょ……」

 報酬についても、特に相談もしていない。多分、宝石の山分けになることだろう。

 私は上に視線を向けた。

「とりあえず、食べられれば、なんでもいいわよね?」

 私は荷物をその場に降ろし、靴を脱ぐ。

「お、おい、何する気だ?」

「うっさいわね、甲斐性なし共」

 私は近場の木に登り始めた。

 木登りというか、森の暮らしは、実は得意だったりする。昔、とある事情から森の中で暮らしていたことがあるのだ。

 上の方には、赤い連なった木の実がなっていた。名前も知らない実だったが、食べられることだけは、かつての経験で知っていた。

 私は、その実をぽとぽとと下に落とす。

 あらかた落とした後「テスラ~、だっこ~」と言いながら飛び降りた。

「はいよ!」

 テスラが私を抱き止める。

 こうなることを予想していたのだろう。テスラは既に鎧を脱いでいた。

「ま、大して美味しくない実だけど、毒じゃないから」


 と、その時、地面の落ち葉の辺りが一瞬揺れた。

 私はテスラの腕の中から脱出し、その辺りに手を突っ込んだ。

「よし!」

 私が手を引っこ抜くと、アナグマを掴んでいた。

 多分、木の実の匂いに反応し、巣穴から出ようとしたのだろう。

「よしよし!」

 私は懐からナイフを取り出し、さっそく首を掻っ捌く。

 背後から甲斐性なし共達の、声にならない悲鳴が聞こえた。

 本当に役に立たねぇ!

「僕は自分を情けないと思うよ。いつもジーラに食材を用意してもらって」

「それはいいわよ。テスラは、代わりに調理してくれるでしょ。私が作ると、塩で焼くだけの味気ない物にしかならないし」

 私は、内蔵の処理などをサクッとこなして、皮を剥ぐ。バラした肉は、テスラに渡していく。

 テスラは持参していた調理器具で、料理を始める。

 こうして、今夜の野営地はこの場に決まったのだ。

 因みに、働かざる者食うべからずということで、食事の用意に寄与していない二人が、交代で寝ずの番をすることに決まった。

 だが、朝起きて、再び気味の悪さを覚えた。これだけ匂いのする料理をしたというのに、肉食動物が寄ってこなかったというのだ。

 結局、朝ご飯は、昨日の木の実の余り物となってしまった。

 その後洞窟までは、つつがなく到着した。

 これについては、呪術師としての本領発揮。この辺りの魔物が苦手な臭いのお香を焚いていたからである。

 食料の獲得こそ出来なくなるが、流石に目的の洞窟に入る直前に、余計な戦闘をするつもりはなかった。

 で、これから洞窟だ。流石に、洞窟内でお香は焚けない。密室内では、人にも影響が出てしまう。

「じゃ、作戦を確認するわよ?」

 皆が頷く。

 先頭は、テスラ。前衛であり、鎧の関係もあり防御力が高い。

 二番目はメッシ。こちらも前衛役だが、テスラとの実力差を考えれば、二番手だ。

 三番目は私だ。護ってもらわないといけないか弱い女性なので、殿をやるわけにもいかない。

 そして、殿がケーゴ。鎧の質的に、メッシよりもケーゴの方が高価な物を持っていた。不意打ちを喰らっても、メッシよりは安全であろうという判断だ。

「洞窟内で大剣なんて振れるのか?」

 メッシからの質問にテスラは「振れなかったら、素手で戦えば良いだけだからね。相棒も居るし」と私を見た。

 私は、好きな相手の視線に、にへら、と笑顔を返した。多分、求められていたのは、こんな反応ではないのだろうが、自然に出てしまったものは仕方が無い。

 まあ、兜越しなので、視線が向いたと感じたのは多分、でしかないのだが。

 メッシがランタンに火を点し、洞窟内に侵入を開始した。二番目のメッシが持つ理由は、突然の奇襲にテスラが対応しやすいようにだ。

 本来ならば、索敵が得意な人間を一人は用意し、先頭以外を任せるのだが、そのような人間を雇っていないのも、この二人の未熟さを表していると言えるだろう。

 洞窟内に入ると、湿った、それでいて生臭い空気が鼻についた。若干の死臭も感じる。

 メッシとケーゴが息を呑んだのを、私は見逃さなかった。

 だが、まあ、問題は無かった。知ってたけど。

 洞窟虎と呼ばれる、この洞窟で一番危険と言われる魔物も、テスラが自身の大剣を器用に使って倒した。その返り血の臭いで、魔物達は遠巻きに見ているだけになった。

 メッシとケーゴの二人から、緊張感が欠け始めてきている。その気持ちもわからないではないが、あまり良くない傾向だ。

 洞窟の分かれ道に行き当たる。この二股を、水場がある方に向かえば、ジュエルフロッグの住処に着く。

 メッシが、私を見た。

「どっちに行けば良いんだ?」

「あんたねぇ、なんにも調べてきてないわけ⁉」

「だ、だって、お前らが知ってると思って」

「これからプロポーズして、結婚考えているんでしょ? それで、漁師だけじゃなく、組合の仕事でも食っていくんでしょ? こんなんじゃ、奥さんすぐに未亡人になるわよ!」

 私の説教に、メッシは無言で顔を下に向けてしまう。

 あ~、思わず言ってしまった。街に戻ってから言うつもりだったのに、士気を下げてしまった。

 テスラに助けを求めるように視線を向けると、肩をすくめていた。ただし、私にではなく、二人に対してだろう。テスラも、同じ事は思っていたはずだ。

 優しいから言わないけど。

「ま、まあまあ」とケーゴが割り込むが、お前も同罪だからな? という視線に気付いたのか、ケーゴも口ごもってしまった。

「ここで止まっていても仕方が無い。先に進もう。反省するにしろ、ここですべきことじゃない」

 テスラがそう言って、先に向かった。

「えっと、どっちに行けば良いんだい?」

 すぐに足を止めて、こちらに振り返った。

「右よ、右」

「あいつには何でいわねぇんだよ!」

 メッシの苦情。唾を飛ばすな、唾を。

「テスラは良いに決まってんでしょ! 相棒の私が覚えてるんだから!」

 因みに仕事中の荷物持ち、家事全般はテスラがしてくれる。適材適所というやつである。

 そのまま奥へと進むと、水音が聞こえてきた。

 湧き水で出来た湖。ジュエルフロッグの住処だ。

 他にも、魚や鰐の魔物も生息してる。

 そして、幸いにもジュエルフロッグが一匹、陸地に居た。

 ジュエルフロッグは、ぶつぶつでヌメヌメと粘液で輝く肌をした、人によっては生理的な嫌悪感を抱くような外見をしてる。

 だが、その体内には、分泌液により出来た胆石があり、それが宝石として価値があるのだ。

 ジュエルフロッグの胆石は宝石のように美しく、個体により色が異なり、稀少な宝石として重宝されている。

 メッシが片手剣を抜き、走り出す。が、それを即座にテスラが制止する。

「死ぬよ?」

 淡々と、テスラが事実を告げた。

 ジュエルフロッグの舌が、メッシを突き刺そうと、風切り音と共に伸びる。

 ガン、と鐘のような音が響く。テスラが大剣の腹で弾いた。

 テスラが大剣を使う理由、それは盾としても使え、更に斬る、叩くと様々な状況に対応できるからだ。

 そのため、テスラの大剣は、普通の大剣よりも、幅がかなり広い。三倍ほどもある。

「君たちの事は、僕が護る。だから安心して戦ってくれ」

 男二人がきゅん、としたのがわかった。実際、格好が良いのだ。いかにもな騎士様に、こんな宣言をされれば、心が揺れない者も居ないだろう。

「ねえ、私は⁉ 機嫌損ねて帰っちゃうよ!」

「言わなきゃ信じてもらえない程度だったのかな。君の事は命がけで護ると、昔から誓っているよ」

 テスラは振り返らず、それでも言い切った。

「もう私満足したから帰って良い?」

「どっちみち帰るのかよ!」

 ジュエルフロッグの攻撃を確実に防ぎつつ、テスラは大剣の腹でジュエルフロッグを殴りつける。

「な、なんで斬らないんだ?」

 ケーゴの疑問に何気ない調子でテスラは答えた。

「あの願掛けは、自分で倒したカエルの宝石で作った指輪、だろ? だったら、僕が倒すわけにはいかないよ。援護はする、簡単な怪我なら僕が治せる。だから、訓練、とまでは言わないが、慎重に、でも大胆に行ってもらって構わないよ」

「テ、テスラさん!」

 さん付けになってる。

「そっちのカスも手伝えよ!」

 逆にこっちはカス呼びになってる。

「うっせーば~か!」

 とはいえ、このままではただの見物人だ。

 私はジュエルフロッグを見つめた。

 私は視線で相手を呪うことが出来る。とはいえ、視線だけで簡単な呪いしか出来ない。肉体の一部を使えば、結構な呪いがかけられるが、あのカエルの皮膚には触れたくない。

 ぐぇ~、というジュエルフロッグの悲鳴。

「何をしたんだ?」

 始めて私の術を見た二人が、こちらを振り向いた。

「ちょっと身体がだるくなる程度の呪いよ。はっきり言って、ほぼ意味ないわ!」

「じゃあ、なんで使った⁉」

「仕事している感じが欲しくて……」

 だが、それでもジュエルフロッグの体力は少しとは言え奪えたはずだ。加えて、精神的な衰弱効果も付与されたはずだ。

 と、背後に視線を向ける。

 テスラは、気付いているかしら?

 どちらにしろ、ここはテスラに任せて問題は無いだろう。攻撃はともかく、防御回復どちらもござれのテスラ様だ。

「ま、ここに居てもやることなさそうだし、私は先に出てるわ。私のようなサバサバした女に、洞窟は似合わないわ!」

「どちらかというと、蛇のような執念女だろうが!」

「うっせー、ば~か」

 私は、背中を向けた。

「お、おい!」

「いいよ、行かせてやってくれ。ここは、僕が居るから」

 そう言われると、何も言えないのか、二人はそれ以上何も言っては来なかった。

 来た道を戻って、洞窟の入口に向かう。

 おかしいと思っていたのだ。洞窟を進む途中、ほとんどの魔物と出会わなかった。それはつまり、奥深くに潜っていると言うことだ。

 何故?

 それは入口の方に、居たくないからだ。

 何故?

 自然の法則、自分よりも強い存在がいるからだ。

 森の中でも、動物にも魔物にも会わなかった。アナグマの様子から、巣に籠もっていたのだろう。

 それは身の危険を感じているからだ。

 因みに、魔物と動物の違いは、身体に魔力を有しているか否かであるかと、研究者が言っていたと記憶している。

「ほ~ら、なんか居るよ」

 洞窟に入れないほどの巨体。

 家ほどもある大きさで、それでいてネコ科特有の俊敏さを持つ魔物。

 なによりもその特徴は、長い首と四つの頭を持っている事。

 四つ首獅子。この辺りには生息していない魔物のはずだ。

 どこかから移ってきた?

 だとしても、何故?

 特にそう言った前兆はなかったはずだ。

 周囲からは既に他の動物たちは避難しているようだ。

 だからこそ、獅子は私に気付いた。この場に居る、唯一の存在に。

 獅子の咆哮が響いた。内臓に思い衝撃が奔る。

「おっと、中に聞こえたかな、こりゃ」

 あの二人、腰抜かしてなければ良いけど。

 四大属性術も使えない事は無いが、私の実力では威力が低い。指先に、火や水をちょこっと出せる程度だ。

 呪術師は呪いを使って戦う。その際には呪具や儀式が必要になるのだが、正直、戦闘中には援護がなければ不可能に近い。

 私は視線で呪えるのだが、それでも決定打にはほど遠い。

 因みに、呪術師には、闇術師を兼ねているものが多い。正確には、闇術の適正を持っているため、同時に習得できるのが呪術のみになるというのが正しいか。

 闇術の適正者は、魔力に闇が混ざっており、精霊に嫌われるため、精霊術がまともに使えないのだ。

 が、闇術は生物には影響を与えないという欠点がある。それゆえ、生物相手にするために、呪術を習得するわけである。

 とりあえず、罠を一つ設置する。

 私は、地を蹴り、鎚を使って蔦に捕まる。その勢いのまま、枝へと跳んで掴まり、よじ登る。

 この鎚は成人女性ひとり分くらいの重さがある。だが、今の重さは、ナイフ一本分程度しかない。

 おかげで軽々と、この自分の身長ほどもある巨大な鎚を振り回すことが出来るのだ。

 これこそが闇術だ。世界から概念を簒奪する。

 鎚から質量を奪っているのだ。

 だが、世界はその矛盾を許さない。それゆえ、奪っていた時間分、戻さなければならない。

 要するに、二時間軽くしたのならば、二時間軽くした分の重さを追加しなければならないのだ。

 枝の上から、四つ首獅子を見下ろす。

「とりあえず、駆けつけ一杯!」

 私は目の前に、水銀のような質感の球体を創り出す。

 これは、火と水の精霊術を均衡状態にしたときにのみ現れる現象だ。

 精霊術には反属性があり、火と水、風と土、この二つを混ぜると対消滅現象が起こる。

 目の前の球体は拮抗状態であり、刺激を与えるまでは対消滅反応は発生しない。

「どっかーん!」

 私は鎚で、球体を四つ首獅子に打ち降ろす。

 対消滅反応は、傍目にはただ消えるだけだ。しかし、発生している現象は違う。

 対消滅反応は、莫大なエネルギーが発生している。しかし、それらも発生と同時に、対消滅反応を起こしているので、莫大なエネルギーが生じているのだ。

 だから!

 闇術により、一瞬だけ、対消滅のエネルギーを簒奪し、即座に戻す。そのずれが、対消滅反応のズレになり、対消滅反応が起きなくなる。

 単純に生じたエネルギーをぶち込めるのだ。

 球体が圧倒的なエネルギーの束となり、四つ首獅子に襲いかかる。

 悲鳴に似た咆哮。

 上を見つめていたところに、莫大なエネルギーをぶち込まれたのだ。

「あ~、めんど」

 テスラが居れば、自分は固定砲台でいいのだが、一人だと、安全確保から距離をとっての攻撃が必要になる。

 その時、違和感に気付いた。

 こいつ、呪われてね?

 うん、なんか呪われているっぽい。

 詳細はわからないが、呪われているくらいは、肌で感じる。

 これ程の化け物を呪うなんて、どんな奴だ?

 住処を追われた理由は、なんとなく察することが出来た。

 呪いには、一つの特性がある。一つの命に、複数の呪いをかける事は出来ない。より強い呪いで上書きは出来るが、弱い呪いの場合、元々の強い呪いに弾かれてしまう。

 もし、こいつを呪う場合は、今かかっている呪いよりも、強い呪いをかけなければならない。

 うん、失敗することを考慮すれば、呪いは使わない方が良い。

 私は、地面から巻き上げられた土煙と爆煙から、首の一本が伸びてきた。

「おっと」

 私は、枝に反動を付けて、次の木へと飛び移る。

 我ながら、猿のようだと思ってしまう。森で暮らしていたの、結構長かったからなぁ。

 私が飛び移った木に、四つ首四肢が体当たりしてきた。

 木が揺れる。

 私は枝から足を踏み外し、大地に落下する。

 落下の最中、私は先ほど罠と称して設置した、球体を見つけた。

 もとより、このつもりでこの木に飛び移ったのだ。

 獅子が、その珠に気付いた。

 途端、こちらに吶喊を仕掛ける。

 気付いたのね、でも遅い。

「どっかーん」

 頭から落下する形でありながら、手持ちの武器である鎚で、その珠を上空方向へ向けて殴りつける。

 流星のように、球体が、エネルギーの束となって四つ首獅子に襲いかかる。

 獅子の身体が蒸発する。

 先ほどよりも、簒奪したエネルギーの時間が大きい。

 地面に向けると、大地を抉り、木が倒れる可能性があり、威力を抑えておいたが、今回は斜め上空に向けて打ち放つ。

 首が四本だけ、その地面にどすん、と落ちた。

「この首、どうしようかしら」

 組合に持っていけば、報酬などがもらえるだろうが、税金関係の手続きが面倒くさい。

 捨て置くかぁ。

 今更戻っても、と思ったので、この場で待機。

 しばらくすると、粘液まみれの二人と、テスラが戻ってきた。

「お帰り~」

「てめぇ、本当にサボりやがって!」

 二人は宝石を入れてあるだろう、革袋を持っている。目的は達成といったところだろう。

「大丈夫だったかい?」

 テスラだけは、気付いていた様子だ。

 親指を立ててみせると、あちらも親指を立てて返した。

「それで報酬なんだが」

「要らないわ。テスラ、いいわよね?」

「ああ、ご祝儀代わりにね」

「そ、そんなテスラさんには払わせて下さい」

 あれ、私は?

「要らないよ。ジーラもそう言っているしね」

「ご祝儀なら、あれあげる」

 そう言って、私が四つ首獅子の残された首を示す。

 二人が絶句し、こちらを見つめてきた。

「ただし、死体を見つけた、ってそう言いなさいよ。じゃないと、無駄に階級あがって、あんた達面倒になるわよ」

「あ、ああ。わかった」

 首だけだが、それなりの額になるだろう。少なくとも、結婚資金には。

「ただし、条件があるわ」

「なんだ?」

「この首売って手に入れた金は、結婚式のお金に全額使うこと。ま、ハネムーンとかも含めて良いけど」

「別に良いけどよ、理由は?」

「突然の大金なんて、身持ちを崩すわよ。だから、あぶく銭だと思って、サクッと使っちゃいなさい」

 味を占めて、再びこんなところに来ようものならば、まず間違いなく死ぬ。だから、こんな金はあってない物とするのが良いのだ。

 あと、奥さんに夢を見せてあげて欲しい。結婚式ぐらい、とことん夢を体験したって良いじゃない。

「……わかったよ。ジーラ、テスラさん、二人も招待するぜ」

「ざっけんな、呼んだら、ご祝儀に二つに分かれる物ばっかり持ってってやるからね」

「なんでだよ!」

「ちょっと前に振られたばっかりなのに、なんで幸せな男女を見なきゃいけないのよ!」

「それは、その、ごめん」

 謝られた。そして、テスラは隣で気まずそうに苦笑いしている。

「ともかく帰るわよ。もう、やることはやったでしょ」

 私達は、来た道を戻る。

 二人は巨大な首を持って、ぜぇはぁぜぇはぁ言いながら歩いている。

「て、手伝ってくれないのか?」

「なんでよ。要らないなら捨ててきなさいよ。本来は手に入らない物なんだから」

 そう言われると、何も言えないのか、二人は黙りこくってしまった。

 手伝おうとしたテスラも、私だけを悪者に出来ないのか、手伝うとは言い出さなかった。

 来る時よりも、重い荷物があったためか、時間が掛かったが、特にトラブルは無かった。

 街に戻る手前で、二人と別れて、別々で街へと戻る。

「お疲れ」

「お疲れ様」

 テスラと二人で、互いを労った。

「御飯どうするの?」

「そうだね、予定がないなら一緒にどうだい?」

「大丈夫!」

 あっても空けます。ブッチします。

 最近、鉄鍋亭が多かったからか、テスラの行きつけのお店に行くことになった。教会の近くの店で、教会御用達らしい。

 テスラが家で鎧を脱いでくるのを待ち、再び再会した。

 お店は、ちょいと高級そうなお店で、簡単なドレスコードもあるようだ。

 これ、私は入れないんじゃないか? 薄汚れたローブだし。

 テスラが店員に説明し、私の方を一瞬見やった。店員は、一瞬渋い顔をしたが、テスラが頭を下げると、やっと頷いた。

 その後、テスラが私を迎えに来た。

 私とテスラは、着席し、メニューを確認する。材料はわかるが、調理方法がわからないメニューばかりだ。

 店内のお客は、皆、それなりの服を着ている。が、そこまで厳しいドレスコードでは無いようだ。普段着の延長のような感じだ。

「僕は本当に駄目だな」

 食事の注文を終えると、テスラが突然謝罪してきた。

「え、なによ?」

「今日、君は二人に色々教えるために、嫌われ役をやっていただろう。僕は、ただ手伝っていただけだ。君のことも庇わずに」

「いいじゃない、別に。適材適所よ。テスラに、そういうこと向いてないもの」

 多分だが、とても悲しい顔をしながらやるのだろう。見てるこっちが申し訳なる事になりそうだ。

「じゃ、これからはその後に甘やかしてちょうだいよ。傷付いてるんだろうから」

「ああ、わかったよ。でも、それじゃ余計に君を悪者にしてしまうなぁ」

 そう言って、テスラは微笑んだ。

 やめろやめろ、店中の女子のうっとりした視線と溜息が聞こえるじゃないか。

「そう言えば、さっきの四つ首獅子はなんだい?」

「わからないわ。多分、住処を追われたんだろうけど、追われた原因は不明ね。やばいことにならなきゃいいんだけど」

「何かわかったら、情報を共有しよう。さ、食事が届いた。僕のお勧めの品だよ」

「ええ、ありがと」

 教会の近くにはあまり来ないので、ここの食事も初めてだ。

 呪術師兼闇術士というだけで、教会の関係者からは、あまり良い目では見られないのだ。

 テスラのお勧めで頼んだ肉料理が私の目の前に配膳された。

 私は、フォークで肉を刺し、そのまま噛みついた。

 美味い。あ、これ美味しい。

 クスクス、と周りから笑い声が聞こえた。

 周囲を見回すと、こちらを見て笑っていた。

 馬鹿にした、見下した視線。昔から、良く感じた、慣れ親しんだ、クソみたいな悪感情。

 テーブルマナーか。ちょいと良い店だとは思っていたけど、想像よりは、上の店だったらしい。

 服も、もっさいローブで、明らかに浮いていた。

 仲直りも兼ねて、テスラが良い店を選んだのだろう。

 肉料理の正しい食べ方なんてよくわからない。適当に、用意された食器を使って食べたのだが、どうやら決まりがあるらしい。

 テスラは嘆息し、目の前の肉を素手で握り、パンに挟む。そして、そのまま頬張った。

「やはり食事というのは、自由に食べた方が美味しいね」

「いいのよ、気にしてないから」

「なんだい、自分だけ美味しそうな食べ方して、僕にはさせてくれないのかい?」

 そう言ってウインク。やべぇ、マジでいい男。惚れ直すわぁ。フィリア憎いわぁ。

 美形で、いかにも家柄の良さそうなテスラがそうしたことで、周囲の笑い声はなくなった。

「悪かったね」と再び彼は謝った。

「いいわよ」

「君には赦してもらってばっかりだ」

「私は貴方に嫌われたくないだけよ」

「嫌うことなど、あるわけないだろ」

 その後は、とりとめの無い話だけに終始し、食事を終えた。

 その後、テスラの自宅近くだというのに、私を自宅まで送り届けてくれた。


   三


 酒場に出勤して、最初にすることは当然、駆けつけ一杯である。

「くはぁ!」

 美味い!

 昨日は、テスラと仲直りも出来た。

「もう一杯!」

「働け!」

 酒場は繁盛しており、皆忙しく動き回っている。

 仕事せずに、酒を呑み始めた私に、カミュが怒鳴った。

「え~、良いじゃん」

「状況を見なさい!」

 だが、働かずに酒を呑む。

「このあほ、カス!」の捨て台詞と共にカミュは仕事に戻った。

「お~、フィリア、どうよ?」

「一応、昨日、テスラと仲直りした」

「おお、良かったじゃねぇか」

 かんぱ~い、とさらに一杯。

 そのまま、酔っ払い共と笑い合っていると、客が一人現れた。

 紙袋を手に持ったテスラだった。

 そのままカウンターに私を見つけて、笑みを浮かべてこちらに来た。

「いらっしゃい」

 笑顔で出迎えると、「はい」と頷いた。

「何か飲みます?」

「一応、明日仕事なので、お酒以外で」

 珍しい。仕事の前日は呑まないので、そもそも来ないのだ、この男は。

 っていうか、仕事?

 相棒、聞いてないよ?

「え~っと、どのような仕事、で?」

 私の様子から、その仕事とやらについて初耳のようだと感じた他の客達は、気まずそうに、カウンターから離れていった。

「明日から、四日ほど周囲の調査です。ですから、四日ほどお会いすることが出来なくて」

「へ、へえ。そうなんですね」

 聞いて良いものかと逡巡したが、覚悟を決めて質問する。

「相棒さんも、知っているんですか?」

「ああ、誘おうと思って、自宅に寄ったんですが留守で。あ、もし良かったらこの生菓子、お店の方達で食べて下さい。相棒に買ったもので申し訳ないんですが、駄目にするのも、勿体がないので」

「あ、はい。ありがとうございます。皆で頂きます」

 そりゃ、留守だわ。今、ここに居るし。

 と、ここでカミュが会話に割り込む。

「ねえ、テスラ、御飯は?」

「え、まだです」

「じゃあ、食べてってよ。貴方の彼女、店のお酒ただで呑むだけで、店に損失与えるだけだからさ。代わりに、お店にお金落としてって」

「カミュ!」

 あっかんべーされた。

「じゃあ、頂いていこうかな。えっと、じゃあこれで」

 注文されたのは、簡単なパスタ料理だ。確か、ニンニクを効かせ、キャベツなんかと炒めるんだったっけか?

「女性の前で、ニンニク料理は、なんて思いましたけど、明日から仕事なので、ちょっと体力つけなくちゃで」

「気にしませんよ。私も、ニンニク好きですし」

 嘘じゃない。そのため、二人で仕事の際、野営の時など結構ニンニク料理は出る。

「折角だし、フィリアが作ってあげれば?」

 カミュが再び口を出してきた。

「はぁ?」

「なに、作ってあげたくないのぉ?」

 料理できないこと知っていて、こいつ!

「いいん、ですか?」

 期待に満ちた目でこちらを見るテスラ。断れないじゃん、そんな目で見られたら。

「先に言っておきますけど、料理できないですよ?」

「構いません!」

 なら、と料理に取りかかる。

 流石に、パスタを茹でるくらいはいける。

 で、確かフライパンに油を引く。

 あ、そうだ。茹でるのに塩入れるんだ。

 慌てて塩を入れる。

 茹であがったパスタの水を切り、フライパンに移す。

 あ、野菜。先に炒めるんだっけ?

 あれ、あれ?

 後ろの客達から、先に炒めるんだ、やら、茹でた時のお湯で味付けするんだよ等の指示が飛んでくる。

 目を回しながら、指示に従い料理を勧めていく。

 そして完成する料理。キャベツ焦げた以外は、まあ、悪くない見た目だ。素人料理としては、だけど。多分、これを店で出されたら、私ならクレーム入れる。その上で、二度とその店には行かない。

 おずおずと皿を差し出すと、嬉しそうにテスラは受け取った。

「ど、どうぞ」

「ありがとうございます!」

 そう言って、パスタを食べ始める。

 それはもう、嬉しそうに。

 悪きはしない。

「ど、どうですか?」

「嬉しいです」

 興味を持ったらしいカミュがテスラの後ろから近づき、一口もらいま~す、と素手でパスタをひとつまみ掻っ攫った。

「げ、なにこれ!」

 え?

「ちょ、フィリア、あんた塩じゃなくて砂糖入れたでしょ! ラブコメのヒロインでも目指してんの⁉」

 だが、テスラは手を止めずに食べている。

 当然、テスラは味音痴ではない。つまり、無理して食べているのだ。

 先ほどの質問、美味しいじゃなく、嬉しいだったのは、嘘は吐かないという誠意の表れだったのかもしれない。

「た、食べなくていいです!」

「いえ、頂きます。始めてフィリアさんに作って貰った料理ですから」

「で、でも!」

 周りから、塩と砂糖間違えるか? 等と言った笑いが聞こえてくる。

「みっとも、ないです」

 テスラは皿を空にした。

「大丈夫ですよ。いつか美味しい料理が作れるようになったときに笑い話になります。昔は、塩と砂糖もわからなかったのに、ってね」

「これは私の奢りです。美味しくなかったでしょうし」

「気にしないで良いですよ。それより、僕が戻ってきたら、会えますか?」

「勿論」

「なら、今度は僕が御馳走します。何か、食べたいもの、ありますか?」

 ここは乙女なものを提案した方が良いのだろうか?

 なんだろう、サラダとか? お菓子とか?

「肉ですよ。フィリア、普段から肉かっ喰らってます」

「カミュ!」

 恥ずかしさで、耳が赤くなるのがわかるが、酒の影響で気付かれてはいないはずだ。

「いいじゃないですか。健啖な人、素敵です」

 その言葉に、カミュは少しつまらなさそうだ。こ、こいつ! 振られろとでも思っているのか。

「それじゃ、帰ります」

「え、もうですか?」

「もう一度、相棒に会に行かないとなので。明日、いきなり仕事とは言えませんし。今日の時点で、かなり失礼ですけどね」

 大丈夫って言いたい。というか、今から行っても居ないし!

「では」

 テスラの背を見送って、同時に駆け出す。

「早退!」

「ちょ、あんた!」

 遠回りになる道を一気に駆ける。流石に、徒歩には勝てるが、帰宅後に着替えることも考えなければならない。

 なんとか、先に自宅として使っている宿屋に着く。

 部屋に入り、まず化粧を落とす。

 だが、その時に部屋のドアが叩かれる。

「ジーラ居る?」

「え、は~い。ちょっと待って」

 やばい、服がさっきのままだ。

 慌てて服を脱ぐ。

 替えの服を探して部屋を見回す。

 いや、このまま下着で出ても良いのではないか?

 ちょっとは、意識させられるのではないか?

 正直、スタイルには自信がある。

 鍵を開けて顔を覗かせる。

「入って」

 テスラが室内に入る。

 ここでやっと、私が下着姿だと気付いたはずだ。

「ごめんね、夜遅くに」

 反応がない。

 え、あの不味いパスタ以下なの、私の半裸⁉

「お風呂に入ってて、ね」

「ああ、そうなんだ。直ぐ終わる用事だから、それとも着替えるまで出ていようか?」

「……なんか羽織るから、そこでいいわよ」

 適当に、部屋の中を探して、薄手のローブを羽織る。

「それで、なに?」

「四つ首獅子の話を、教会でしたら、調査の依頼があってね。それで下手な人が行くと死人が出そうだったから、僕が受けたんだが、行けるかい?」

「いいわよ。相棒だもん」

「ありがとう。そう言ってくれると思ってた」

 彼は自然な笑みを漏らした。

「一杯ぐらい飲んでく?」

 断られると思いながらも誘ってみる。

「そうだね。お土産も持ってこなかったから、一杯奢るよ。確か、下の食堂が持ってきてくれるんだよね?」

「ええ。じゃ、そっちの奢りね。適当に頼んでくるわ。飲み物は本当にお酒?」

「折角だからね、一杯だけだけど」

「珍しい」

 私は下の食堂で、二人分の酒と、適当なつまみを注文した。しばらくすると、部屋のドアがノックされ、注文した品が届く。

「じゃ、乾杯」

「乾杯」

 酒の入ったグラスを合わせる。

「お風呂に入る前、呑んでたのかい?」

「ええ」

 酒場で飲んでいたので、臭いで気付かれたのだろう。

「仕事は、明日の昼過ぎからになる。食事とかそういう物は、全部こっちで用意するから、気にしないで良いからね」

「いつも通りじゃない。たまにはやるわよ?」

「いいよ。家事、苦手だろう?」

 まあ、その通りである。下手に任せると不安があるのかも知れない。

 砂糖と塩がわからないレベルだからね!

「明日、ちょっと試したいこともあるから、申し訳ないけど付き合って欲しい」

「いいわよ」

 私は、この時の返事を後に後悔することになる。


   四


 寝る前に、酒の入った頭で明日の準備をし、昼過ぎまで寝ていた。

 部屋の扉が叩かれ、その音で目を覚ます。

「今起きたわ。下の食堂で何か食べてて。準備できたら、私も御飯食べに行くわ」

「わかった」

 髪を整え、いつものローブを羽織る。幸い、フードで顔面を隠すため、化粧は要らない。眼鏡をかければ、それで完了。

 流石に顔ぐらいは洗うけど。

 下の食堂に向かうと、何も注文せずにテスラが待っていた。

 食べてて良いと言ったのに、待っている。そういうところが好き。

「お待たせ」

「言うほど待ってないよ」

 そう言って、店員を呼ぶ。

 お互い、朝食を注文。今日の簡単な予定を話す。

 といっても、目標もないので、適当に散歩するようなものだ。

「何もなきゃ、ただのキャンプね」

「確かにね。でも、何もないなら、そのほうがいいさ。平和が一番だよ」

 食事を終えると、一つ頼み事をされた。

「確か、闇術に、体温を奪うっていうのあったよね」

「ええ。体温というか、温度だけど。生物には使えないわよ?」

「じゃあ、この肉の塊にかけてくれないかな」

「いや、良くないわね。食べ物にかけると、食べた後に温度戻すことになるから、お腹を壊す可能性あるわ」

「じゃあ、どうしたもんかな」

 テスラは困ったように、眉をひそめ、顎に手を当てて考え込んだ。

「大丈夫よ。氷買って、その氷の温度を奪えば良いわ。そうすれば氷は溶けないし。用がなくなったら、温度を戻しても、ただの水か水蒸気になるだけだし」

「ああ、そうか。なら、それでいこう」

「ただ、今回の肉、大きくない?」

 大抵は、狩猟もして、外で用意するのだが、今回の物は大きい。なんなら、数日はこれだけでまかなえるほどに。

「うん、ちょっと考えがあってさ」

 料理全般を任せている皆ので、深くは聞かない。

 闇術で、氷の温度を奪う。継続して奪うようにしているので、私の魔力はずっと消費されるわけだが、美味い料理のためだと思って我慢する。

「じゃ、行こうか」

「ええ」

 因みに、ローブや、鎧で夏場も快適なのも、この術のおかげである。服の温度を奪っておいて、脱いだ後に温度を戻せば、全く問題無く、涼をとれるわけだ。

 闇術師が皆に自慢可能な便利術だ。

 今回の任務は、本当に単純だ。都市の周囲の見回り、ただそれだけだ。異常を発見した場合には、報告。調査班への引き継ぎだ。

 多分、組合や王宮勢力も、同じようなことを仕事として、誰かしらに依頼していることだろう。

 初日は、何もなかった。夕食は豪華。

 手の込んだソースのかかった肉料理。

「うま、これ美味しい!」

「そうかい、良かった」

 肉も相当高い。高級料理店で出されても、違和感ないんじゃないだろうか。そんなものを、外で作るとは、相も変わらずスペックの高い男だ。

「テスラって、もてる?」

 ふと、思いついた質問が出てしまった。

「ん~、どうだろうなぁ」

 少しおどけた様子は、モテてるからこその反応だろう。

「へえ、羨ましい限りだわ」

「君こそモテるだろ。綺麗だし、スタイルも良いじゃないか」

「モテる女は、あだ名がカスにならないのよ……」

 乾いた笑いが出た。

 当然、いつも通り、色っぽい展開は無し。

 同じテントで寝ているというのに、全く無しだ。


 二日目、朝、昼、夜、と同じ肉料理が出た。ソースは変えてあるが、それでも肉は同じだ。高級肉、すなわち脂身の多い、くどい肉だ。

 出発時の肉の量を思い出し、嫌な予感がした。

 もしかして、全食これか⁉

 流石にげんなりするが、食事の用意を任せているので、文句は言えない。

 しかし、何故だろう。普段は、こんなことないのに。基本的に栄養バランスも考えられた食事が出されるのだが。

 三日目も同じ。魔物に襲われるよりも、食事の方が恐ろしい存在だった。

 正直、胸焼けが酷い。

 その辺の雑草の方が食べたくなってきた。

 四日目、今日もなにも無し。

 自然動物との触れ合いで肉を差しだし、食べて貰おうかとも考えたが、テスラの悲しそうな顔を想像し、我慢して食べた。

 正直、この料理を見ているだけで、軽い吐き気がした。

 五日目、始めて異常を発見。

 都市東側の魔物に呪いを受けているものが数匹居ることを発見した。流石、教会の騎士殿だ。

 私は胸焼けで、索敵などする気も無かった。

 そして、昼食までは、かの肉料理をなんとか胃に押し込み、調査は終了。都市へと帰還した。

 もうしばらくは肉は食いたくない。

 今日の夜は、サラダだけでいいや。サラダとお酒。

 調査報告は教会の依頼なので、テスラの仕事だ。

 夜まで、軽く眠ると、扉のノック音で目を覚ます。

「いる~?」

「だれ?」

「あたしあたし」

 誰だ?

 扉を開くと、そこにはカミュが居た。

「どしたの?」

「ここんとこ忙しいから、仕事出て」

「嘘でしょ⁉ 今日帰ってきたのよ」

「ん~、でも、だからこそ、出た方が良いんじゃない?」

 そう言って、肩をすくめた。

「多分、テスラさん、来るでしょ」

 確かに来そうだ。多分、この前言っていた、食事のお誘いに。

 仕方が無い。

「わかったわ。先行ってて」

「待ってるわよ。ここ、下が食堂だし」

 どうせ化粧等は酒場の部屋でやるのだ。そう待たせることもないだろう。

 適当なローブを羽織って、カミュと共に店に向かった。

 酒場の二階自室で着替え、フィリアに化けた後、酒場に降りる。

「お~、久しぶりだなぁ」

「そ~ね」

 適当に客達に挨拶をして、店内を見回す。テスラの姿は見当たらない。

 とりあえず、呑むか。

 カミュも一杯は呑むつもりらしく、互いのグラスを合わせた。ママが少し、睨むようにこちらを見ている。他の店員も、少し呆れ気味だ。

 因みに、この酒場の店員は、私を含めて六人で皆女性。カミュを除いて、皆喧嘩が強い。酒場なので、あえてそういう人間を揃えたのだ。

 まぁまぁ、と目配せしておくと、あからさまな嘆息が返ってきた。

 しばらくすると、予想通りテスラが現れた。

 カウンターに私を見つけて、そそくさと駆け寄ってきた。

「フィリアさん、久しぶりです」

「おかえりなさい、テスラさん」

 我ながらそらぞらしい。客の目線は寒々しい。

 いや、うん、昨日までどころか、数時間前まで一緒に居たからね。

「明日、良かったら」

「あら、酒場に来たのに、お酒を飲む前にお誘いですか?」

 カミュが横から嫌味を言う。

 私が横目で睨むと、べーっと舌を出した。

「そ、そですね。それでは、これを」

 ちょいとお高めのお酒を頼む。まあ、テスラの稼ぎはっかなり良いはずなので、無理はしてないだろう。ただ、ちょっと見栄を張っている感じはする。

 そもそも、酒は付き合いで飲む程度のはずだ。

「フィリアさんも飲んで下さい。御馳走します」

「あら、ありがとう」

 同じ酒をグラスに注ぐ。

 テスラの分を水割りにしようとしたところ、大丈夫です、と断ってきた。

 え? 普段水割りじゃん。

 あ、もしかして私がストレートで飲もうとしているから、見栄を張っているのだろうか。やめなさいやめなさい。お酒なんて、飲みやすい方法で飲めば良いのよ。嗜好品なんだから。

 だが、男が意地張っているのを、否定するのも申し訳ない。

 少し心配だが、グラスを合わせた。

 くい、と一息に飲み干す。

 ふぅ、と息を吐くと、カミュが「色っぽ~い」とからかってくる。

 対してテスラは、少しむせた。

「ほら、もう!」

 私は水を差し出す。

「す、すいません」

「私は、お酒は自分に合った飲み方が出来る人としか飲みませんよ。無理する人、駄目です」

 嫌いです、とは言えなかった。

「すみません。格好付けたくて」

「お酒の強い弱いは体質です。無理しないで下さい」

「おれらにゃ、飲め飲めって無理矢理飲ますじゃねぇか!」

 後ろから野次が飛ぶ。

「売り上げに貢献ありがとうございます」と営業スマイル。テスラが居なけりゃ、酒の酒割を飲ませるのに。

「そういえば、先ほどのお話の続きは? あんまり酔うと忘れてしまいますよ」

「あ、はい。明日のお昼を御馳走したいのですが、ご予定は?」

「ふふ、空けてありますよ」

「良かった!」

 本当に嬉しそうに微笑んだ。

 いやぁ、美形の笑顔は、最高の肴だわ。

 もう一杯、ぐいっと呑む。

 テスラは、その後二杯ほど飲んだところで、限界が近いな、とわかったので、帰るように促した。

 テスラとはジーラとして、幾度となく呑んでいるので、テスラの限界くらい見極められる。

 その言葉に素直に従い、テスラは家に帰った。

 ここからは、素のジーラとしての飲みだ。

 馬鹿笑いして、愚痴って、愚痴られて、罵倒して、罵倒されてだ。

「そういや、五日も男女で二人きりなわけだろ、今までなにもなかったのか?」

「あったら、こんなことになってないわよ」

 質問してきた男の皿から、一本フィッシュフライをくすねる。

「あ、勝手に食うな」

「ケチだからもてないのよ、あんたわ」

「お前はカスだから振られたんじゃねぇのか?」

「あははははは」

 喧嘩か? 喧嘩すんのか?

 いいわよ、買うぞ、おう。

「でも、本当になにもないの? だって、ねぇ?」

 カミュが、背中に抱きつきながら聞いてきた。酒が入っているせいか、耳元にかかる息が色っぽく、声も艶やかだ。

 私の頬に、猫獣人の髭が当たった。

「紳士だからねぇ。いつも、早朝までの見張りを自分から言い出してやってくれるし」

 夜の早い内、朝の早い内が私の当番で、一番眠い間は、常にテスラが見張りを担当してくれている。

「だからさぁ、時折ね、こういうことするのよ」

 皆が訝しげにこちらの言葉の続きを待った。

「動物が忌避する薬剤を周囲に撒いておくわけね。そうすれば、弱い動物が近寄ってくることないから」

 呪具の一つであり、便利な代物だ。この都市には、呪術師は他に居ないため、流通はしていない。

 それ欲しいんだけど、という声が聞こえるが無視する。

「だから、ちょ~っとテスラの食事に睡眠薬を仕込んで~、見張り中に眠らせちゃうのよ」

 え? は? という素っ頓狂な声が店内中からあがっている。

「で~、起きるまで膝枕してあげるの。そうすると、起きたとき、申し訳なさそうに謝ってくるんだけど、もう失態見せてるから、このまま休んでって言うと、膝枕のままで寝てくれるの。いやぁ、それが可愛いのなんのって」

「マッチポンプっ知ってるか、このカス!」

「自分で相手を貶めて、自分の欲求を満たして楽しいのか、このカス!」

「楽しいわよ、嬉しいわよ、ば~か! 誰も損してないでしょ!」

「テスラの自尊心が削られてんじゃねぇか!」

 こういうことでもしないと、全然ひっつけないんだもん。

 それに、本当に連勤だと、眠そうにしているのだ。話し合いじゃ譲らないのだから、強制的に眠らせないと仕方が無いのだ。

 命の掛かった仕事で、男女の関係は無いと思う。だからこそ、無理矢理にでも休ませる必要があったのだ。

 その後は、適当に客共を煽り、煽られながら、だらなく酒を呑み続けた。

 なんせ今日は帰らなくて良いのだ。フィリアとしての部屋は、この店の二階だ。テスラの迎えはそこで待てば良いのだから。


   四


 外へと続くドアのノック音で目を覚ました。この部屋には、酒場へ向かう建物内側のドアと建物の外へと向かう側のドアの二つがある。

 う?

 窓から入ってくる日の光の状況から、既に昼前であることに気付く。

 胃の調子がやばい。飲みすぎた。そして食べ過ぎた。

 久しぶりの酒場での馬鹿騒ぎに、少々無理をしすぎた。

「フィリアさん、いらっしゃいますか?」

「あ~、居る~」

 だらしない返事。そこで、一気に覚醒した。

 やっば、これジーラとしての返事だ。

 この声はテスラだ。そして、ここは酒場の二階の部屋。

「ご、ごめんなさい! 今、起きたところで!」

「そうなんですか。仕方ないですよ、夜のお仕事ですから」

 ドア越しに、会話を続ける。

「き、着替えとか、色々あって、少しお待たせするんですけど、大丈夫ですか?」

「ええ、全然。もしあれでしたら、準備できたら僕の家に来て下されば。食事を、用意していますので」

「わかりました。準備次第、すぐに向かいます」

「ゆっくりで大丈夫ですよ」

 はは、と優しい笑い声が聞こえた。

「自宅なんですけど、場所は」

「地図、ドアの下に挟んでおいて下さい」

「わかりました」

 そう言って、一度会話を切った。

 当然、自宅の場所は知っている。何度も遊びに行っているのだ。というか、部屋着なども置いてあるくらいだ。

 因みに、この酒場二階の一室には、風呂とトイレが設置されており、ここだけで身支度を住ませることが出来る。ただ、仕事関連の道具は置いておらず、服と化粧品くらいだ。

 風呂に入り、汗を流す。

 まっずいなぁ。食事に誘われたというのに、微塵もお腹が減っていない。むしろ、軽い二日酔いでの胃もたれで、食べたくない。食べたくないぞ、これ。

 化粧を終え、服を考える。フィリアの時は、酒場の制服なので、普段着を着ることはほとんどない。

 どうしよう。デート服とか、考えたことない。

 ローブは、論外。部屋着もない。酒場の制服? 馬鹿か。

 今から買いにも行けないし、どうしよ?

 あ!

 名案を思いつき、即座に実行に移す。

 近所のアパートメントの一室。

 ドアノッカーを鳴らす。

「は~い」

 起きていたようだ。

「どなた?」

「ども」

 顔を見せると、眉をひそめられた。

 カミュの自宅である。

「デートじゃ?」

「いや、着ていく服がなくて、貸してもらえないかなぁって」

 機嫌が悪くなっていくのがわかる。

「だ、だめ?」

 はぁ、とクソデカ溜息。

「いいわよ。今度、ジーラの奢りで高い御飯」

「モチよ、モチ」

「じゃ、上がって」

 室内に案内される。

 自宅に上がるのは初めてだ。外で遊ぶことはあるが、互いの部屋でと言うのはなかった。

「というか、今度、服買いに来ましょ。センスも心配だし」

「じゃ、御飯奢る日、お願い」

 そこからは、カミュの指導による服選びだ。

 数着の服の中から、カミュが納得したものに決定した。黒の可愛らしい系のワンピース。滅多にしない、というか初めての服装に、少々恥ずかしさがある。

 私からの注文は、背中が開いている服、だ。ケープは持参済みである。

「しっかし、あんた胸でかいわね」

「確かに、ちょっとキツいかも」

「そう言うこというのは、この口かしら?」

 頬をつねられる。

 自分で、言ってたのに。

「ほら、あんまり彼氏を待たせないの」

「うん、本当にありがとう」

 お礼を伝え、テスラの家へと向かう。本当に、カミュにもちゃんとお礼しないとだなぁ。

 テスラの自宅を訪れると、エプロン姿のテスラが現れた。

 あ、これも格好いい。美形って、何着ても絵になるわぁ。お布施したくなっちゃう。

「私服、素敵ですね」

「え、あ、ありがと」

 先に褒められ、思わず素で返してしまった。

「そっちも、素敵です」

「男のエプロンなんて、ちょっと恥ずかしいですけどね」

 そんなことはないと思う。家事が出来る男は、かなり点数が高い、うん。

「上がって下さい」

「はい」

 あ、今思えば、お菓子か何か、お土産を買ってくれば良かった。気を使う行為を、テスラに任せているための手落ちだ。

 普段使うテーブルに、クロスが敷かれ、さらに花瓶で花が飾られている。

 ジーラの時はこんな気遣いないのに……。恨む相手もおらずに、ただ落ち込む。

 テーブルに座っていると、徐々に食事が運ばれてきた。その光景に、冷や汗が頬を伝う。

 肉、肉、肉料理だ。 

 しかも、連勤中に食べた様々な肉料理。

 多分、ずっと実験していたのだ。

 いや、言葉が悪い。高級食材を使い、一切手を抜かずに、素晴らしい料理を提供し続けてくれていたのだ。

 その先に、もう一人食べさせたい人が別に居ただけで。

 この胃の調子、更に連日食べていた所為で、拒否反応が出ている肉料理。

 あ、これあかん。気持ちが悪い時の生唾が出はじめてる。

 ずら~っとテーブルに所狭しと並んだ肉料理。

「お、多くないかしら?」

 多分、女性に提供するには多い。

「え、ああ、そうなんです、か? すみません、身近に居る女性が、このぐらい食べるものですから」

 いや、食べるけど! 普段なら、これぐらい食べるけど! 肉体労働なんだから、仕方ないでしょ。

「そ、そうなんですね。健啖家で、素敵ですね」

 自画自賛してみる。

「ええ! とても美味しそうに食べてくれるので、作り甲斐があるんです」

 心底嬉しそうに微笑む。

 おいおい、仮にも別の女性(と思っている)の前だぞ。別の女性を褒めるのは如何なものか。

 ま、私としては、超嬉しいけどね!

 だが、この料理、どうしよう……。

「さ、召し上がって下さい」

 自信満々の顔。いや、うん、だろうね。太鼓判、私が押してるもんね。

「「いただきます」」

 先ずはシチューを口に運ぶ。良い肉を使っているのだろう。肉の旨味、更に野菜の旨味が拡がる。

 うん、今はこの旨味がくどい!

「おいしく、ありませんでしたか?」

「え、そんなことないですよ!」

 慌てて否定する。やばい、やばい、顔に出ているっぽい。

 そりゃ、初めての反応は出来ないよ! だって、昨日までに、ここのテーブルの料理、コンプリートしてるんだもん!

 さて、選択肢は二つ。二日酔いを理由に、残すか。吐くを覚悟で、無理矢理詰め込むか、だ。

 うん、身体が拒否している。無理だな。

 一つ目の選択肢を選ぼうとして、顔を上げると、テスラの心配そうな顔が目に入った。

 ふふ、私は一途な女。惚れた男には尽くすんです。

 上等だ、全部食ってやらぁ!

「美味しいです!」

 この言葉を繰り返しながら、思考を殺して、食事を口に運び続ける。

 四つ首獅子などより、余程の強敵。胃袋が、やめて、やめて、と悲鳴を上げている。

 うるさい、私の胃袋なら、協力しろ、根性見せろ!

 手が、口に近づくことを拒否し始める。

 生唾が、口の中いっぱいに拡がっている。

 笑顔を貼り付け、誤魔化しだけは完璧なはずだ。子供の頃に培った、どんな時でも笑う技術。

「ちょっと、お手洗いに」

 そう言って、トイレに向かう。

 吐かないと決めた以上、吐かない。

 だから、自分に呪いをかける。

 今日限定の呪い。

 どれだけ吐きたくとも、吐けない呪い。

 多分、地獄だ。吐けば楽になるのに、楽になれないのだから。

 だが!

 自分自身に呪いをかけた。これで、目の前で吐く事はない。彼を傷つけることはない。

 後は、かっ込むだけだ。

 そこから先は覚えていない。会話も、何を話しただろうか。ただ、テスラが笑顔だったことは覚えている。

 うん、多いと言った食事を全部食べきったのだ。美味しと感じているんだと、思ってくれたのだろう。

 だが、具合が最悪のため、本来は休みだが、仕事があると言って、帰ることにした。

 うん、もう、マジムリ。


 吐き気がするが、吐けないため、胃痙攣と戦い続けること数時間、仕事の時間がやって来た。

 ジーラの部屋でなく、フィリアの部屋に戻って来ておいて良かった。

 あ~、着替えなきゃ。テスラが来るかも知れない。

 だらだらと着替えを行い、水を一杯飲み込む。

 鏡に映る、自分の顔色は悪い。

 吐き気は、大分治まったが、何も食べる気はしない。

 一階に降りると、ママとカミュ、他の店員達が不思議そうにこちらを見つめてきた。

「あ~、手伝う」

「いや、その顔色で? そもそも休みでしょ」

「うん。まあ、大丈夫、大丈夫」

 カウンターの内側にどかっと座り、だらしなく股を開いて座り込む。悪いけど、お淑やかさを気にする余裕はない。

「デートで失敗でもしたのか?」

 からかうような客の声に、ゆっくりと顔をあげた。

「多分、失敗はしてない」

 そう言って、昼間でのあらましを話した。

「今思えば、吐けば良かった。そうすれば、フィリオに対する百年の恋も冷めたかも知れないのに!」

「いや、でもテスラだろ? あいつ、そんなんで相手を見限るか?」

「馬鹿にしないでよ! テスラがそんな屑なわけないでしょ!」

「なんだよ、お前が言ったんじゃねぇかよ!」

 うえ~、とカウンターに突っ伏す。

「ほら、これ飲みなさい」

「何これ?」

 カミュから差し出された丸薬を見つめた後、視線をカミュの顔面に移す。

「胃薬よ」

「ありがと」

 水も無しに飲みこむ。苦い。

 だが、飲んでから少しすると、大分調子が良くなってきた。胃が消化の再開を始めたのかも知れない。

「しかし、ジーラの恋愛は、相変わらず上手くいってねぇみたいで何よりだ」

「んだと、こら」

 だが、折角これだけの人数が居るのだ、何か意見を出して貰おう。

「よし、今からフィオナからテスラを奪う方法を募集するわ。良い意見を出した者には、一番良い酒を一杯奢るわ。私を馬鹿にした意見を出した奴は、明日三回足の小指をぶつける呪いをかけるから」

 ひでぇ、などの声は無視。まあ、通常運行だ。

 様々な意見が出るが、あまり琴線に触れる物はない。

「浮気するってのは、どうだ?」

 客の内の一人、マルコが提案した。マルコは、エルフの男で、同じテーブルで酒を飲んでいる人族のラックの相棒だ。

「浮気? 誰が?」

「そんなのフィリアがに決まってんだろ。フィリアが浮気しているところ、テスラに見せるんだよ。それで落ち込んでいるところを、ジーラが慰めるんだ。どうよ、これ?」

「採用! マスター、彼に一杯を!」

「誰がマスターよ」

 ママが呆れ顔でツッコミを入れるが、お酒は私の奢りで提供される。

「さて、では誰が浮気相手になるかね」

 皆が視線をそらせた。

 どういうこった、これは。

「じゃあ、こっちから指名するからね」

「俺らにも拒否する権利あるんだよな⁉」

「ねぇわ。拒否したら、店出禁だわ」

「ちょ、ママ⁉」

 ママは、ふか~く溜息を吐く。

「フィリアはこの店のオーナー。だから出禁にする権利あるのよ」

 皆が驚愕の声を上げる。店員達は知っているので、肩をすくめていた。

 うん、実はこの店の持ち主です。だから、二階の部屋も自由に使えるし、好きに店の酒が飲めるのです。

「じゃ、提案者の相棒責任でラック。明日一日付き合って」

「なんでだよ! だったらマルコが行くべきだろ!」

「マルコ、結婚してるじゃない。もし、それが原因で別れることになったらどうするのよ」

 そうだそうだ、とマルコが茶々を入れている。

「じゃ、よろしく。ま、報酬くらいは出すわよ」

「嫌だ~。ジーラとデートしてたなんて知られたら、街中の男から笑われる」

「あっはっは。一応、襲われたら困るから、二年くらい不能になる呪いかけてやろうかな?」

「御免なさい、許して下さい」

 そんなこんなで、明日の予定が出来た。

 とはいえ、何日かかることだろうか。

「明日以降も、テスラに見つかるまで継続だから。覚悟しといてね、みんな」

 ウインクと笑顔を送ったのに、皆が顔を逸らした。

 そんなに嫌か、おい!


   五


 嫌そうな顔のラックが集合場所に現れた。一応、報酬が出ると言うことで、服装はちゃんとしている。

 私の服装は、再びカミュのセレクトだ。

 ちょっと色っぽい系。胸の谷間とへそが丸見え。

「あのさ、そんなに嫌な顔しないでくれる? 一応、費用こっち持ちで、ちゃんと報酬も出すんだから」

「報酬なぁ。いくら?」

「あんた、この前ショートソード駄目にしたんでしょ? 買ってあげるわよ」

「え、本気か? 流石に、申し訳ないんだが」

「大丈夫よ、お店が経営できるくらいには、お金あるから。もし、貰いすぎだと思うなら、そのショートソードで稼いで、返してちょうだい。それとも、ショートソード代が貯まるまで、街で雑用するつもり?」

 私の言葉に、渋面を作って考え込むが、どちらが効率が良いかは明白だったので、「わかった!」と頷いた。

 どうやら、やる気を出してくれたらしい。

「で、何すれば?」

「一緒に、御飯食べて、街を散策するだけよ。仮にも女性と奢りで遊ぶだけでお金貰えるのよ、なんでみんな嫌がるかなぁ」

「ま、惚れた相手が居るのをわかっているのと、性格が、、まあ、あれなんだろうな」

「いや、でもほら、スタイル、良くない?」

 胸を寄せて見せる。

「わかってるよ! 意識させないでくれない⁉」

 実を言うと、昔の経験の所為で、私は自分を魅力の無い女性と思われるように、認識阻害の呪いをふりまいている。

 とはいえ、低級の呪いなので、教会所属のテスラには効いていないはずなのだが。

「ま、とりあえず飯行きましょ、飯。何か良いとこ知らない?」

「ん~、と言っても、俺の知ってる店なんて、安い定食屋とかだしなぁ。後は、昼から飲める店」

「いいじゃん、そこ行きましょうよ」

「いや、仮にもデートの振りなんだろ? そういうとこだよ、モテないところ」

「男友達みたいな彼女ポジションもありじゃない?」

「それにしちゃあ、見た目が女性的すぎるんだよ。むしろ、テスラは良く三日三晩一緒に居て、手出ししないよな。もう、何年もだろ?」

「そうよ、不能じゃないのは、起きる前に布団はいで確認したことあるんだけど」

「ほんと、そういうとこ……」

 結局、二人とも縁の無いお洒落なカフェで食事をとることにした。

 二人で、この量でこの値段⁉ ぼったくりじゃね! とか色気もくそもない会話をしながら。

 街の散策は、適当な屋台をみつつ、買い食いなどをする。お互い、下民として育っているので、行儀など気にしない。

「そういえばさ、ジじゃなくて、フィオナはさ、なんであんな服装してるんだ、仕事の時」

 ジーラと呼びそうになったということは、ジーラの仕事時の服装と言うことだろう。

「戦闘するから、能力が制御できなくなることがあるのよ。で、その能力が肌とかに起因するから、あんまり肌さらせないのよね」

「眼鏡は? あの瓶底、絶対損してるぜ?」

「お金のないときに買って以来使ってるだけ。確かに、眼鏡は買い換えても良いかも」

 既に五年は使っている。

「じゃあ、眼鏡でも買いにでも行くか?」

「ああ、いいかも」

 そう言って、眼鏡屋に向かった。

 自分にお洒落のセンスがないことはわかっているので、誰かがついてきてくれたのは助かった。

「で、どれがいいの?」

「いきなり丸投げかよ……」

 ラックが店内の眼鏡を見回し、三つほど持ってきた。

 ふむ、フレームなしの物、銀縁、丸眼鏡。

 とりあえず、全て着用してみる。

「まあ、ジーラは目つきは優しそうだし、丸眼鏡みたいな柔らかい印象のが良いかもな」

「じゃ、これで」

「いいのか、本当に?」

「ま、気に入らなかったら、別の買うわよ。後は、家で呪的処置して~」

 店員に声をかけて購入する。レンズの度が要らないため、すぐに終了した。

「どうよ、自分の選んだ眼鏡を着けてる女の子は」

 ラックは、苦笑しながらも「はいはい」と少しだけは楽しそうだ。

 その時、本当に偶然だが、テスラとばったり出会った。

「テスラ、さん」

 危うく、フィリアでなく、ジーラとして呼びかけそうになった。

「あれ、ジーラじゃないか」

 え?

 思わず、ぽかんとしてしまう。今日は、フィリアの格好をしているはずだ。

「眼鏡変えたのか? はは、ジーラは、やっぱり眼鏡が似合うな」

 そう言って微笑む。

 え、眼鏡なの? 私の判断基準、眼鏡なの?

「あれ、ラックと出かけてたのか?」

「え?」

 突然、声を掛けられたラックは、同様のあまり、間抜けな声を上げて、おろおろとしている。

「もしかして、デートとか、か? だったら、悪い、邪魔したな」

 気まずそうに、顔を逸らし、こちらの言い訳を待たずにテスラは、小走りで走っていった。

 私はラックと顔を見合わせた。

「いや、おい、大丈夫か⁉ 顔色、死体よりも白いぞ」

「この場に居る人、全員呪いそう」

「お、おい……」

「今は帰るわ。報酬は、今夜酒場で」

 ふらふらと、おぼつかない足で、自宅のある宿へと向かう。

 誤解された。フィリアでなく、ジーラが、ラックとデートしていたと。

 最悪だ。何故、こうなった?

 眼鏡か? 眼鏡なのか? テスラにとって、私は眼鏡なのか?

 もう、何も考えたくない。

 とりあえず、部屋に戻ったら、酒飲んで寝る。いや、今、酒を呑みながら帰る。

 ふと、とある店が視線に入った。

 報酬、か。

 嘆息し、その店に入った。多分、酒もあるだろ。ここの店主の種族からして。


   六


 酒場に出勤すると、既にラックが相棒と来ており、酒を飲んでいた。

「あら~、デートどうだったのよ?」

 カミュがからかうように、でも、若干不機嫌そうに聞いてきた。

「最低だった。死にたい」

 カウンターに突っ伏す。最近、カウンターに突っ伏してばっかりな気がする。

「どうだったんだよ、デートは?」

 私は顔をあげて、からかおうとしているマルコを睨む。

「いいわよ、話してあげるわ」

 店中の客達が、私の話を聞いていた。

「ま、つまり、よ」

 私は、懐から取り出した眼鏡を、カウンターの上に置いた。

「私がフィリアで、こっちの眼鏡がジーラなのよ、あいつにとっては」

 自嘲気味に笑い、後ろの棚から酒瓶を手に取り、瓶から直接呷る。

「も~、意味分かんない!」

「フィリア、ちょっとその眼鏡着けてもらえるか?」

 ラックのお願いに、酒でどうでもよくなりつつある私は、言われるがままにした。

「皆、どう見える?」

 皆、一様に首を捻っている。

「何よ?」

「あ~、いや、どう見てもジーラには見えねぇんだ。瓶底眼鏡じゃねぇし、髪型が違うこともあるし、服の雰囲気もある。あとあれだ、ジーラの時特有の、意地の悪い顔をしていない」

「上等だ、こんちくしょう」

 テスラの前では、そんな顔、いや、してるな。基本、素で接しているもの。

「な、おかしいだろ? テスラが、何故、ジーラだと思ったのかわからないんだ。眼鏡をかけたフィリアにしか見えないんだよ」

 この中で一番親しいカミュに、顔を向ける。

 カミュも、こくんと頷いた。

「なんか、他に原因があるんじゃないか?」

「他、ねぇ」

 こんなに酒の入った頭で考えても何も思いつかないだろう。

「ま、考えてもわからないわね。でも、理由があるなら、それによってはジーラにも勝ち目があるかも知れないわね」

 とりあえず、前向きに考えた。

 ラックが「おう」と微笑んだ。

「そうだ、報酬」

 私は、先ほど仕入れた物を、ラックに対して放った。

「ば、馬鹿! 剣を投げるな!」

「鞘に入ってるから大丈夫でしょ。慌てすぎ、ぎゃはははは」

 酔っ払いに、常識を求めるな。怒られても、面白いだけだ。

 ラックが、鞘から、ショートソードを抜いた。

「お、おい、これ⁉」

「私、刃物からっきしだから、とりあえず高い物買っといたわ」

「だ、だからって、これ、あの店で一番良い奴だろ⁉」

 店中の客達が「はぁ⁉」と驚きの声を上げ、ラックの方へと集まった。

「ん~、確か。これ買えば、良い酒も付けてくれるって言ってたから。やっぱり、ドワーフは良い酒持ってるわね」

 店の店主がドワーフだったため、酒を持っているだろうと判断し、その店で剣を買ったのだ。

「う、受け取れないぞ、流石に」

「じゃあ、欲しい奴、持っていって良いわよ。私は、抱き合わせで買った酒飲んじゃったし、返品ムリだし~」 なら、俺が貰う。

 俺が!

 等と、皆が手を上げている。

「ふ、巫山戯るな。だったら、俺が貰う! そんで、稼いで、金は返す」

「要らないわよ。それは報酬なんだから。カス女と出かけるんだもの、それぐらいの報酬がなくちゃ、やってらんないでしょ」

「あ、あれは、言葉の綾だろうがよ」

「へへ~んだ。傷付いちゃったもんね」

 そう言って、カミュに抱きつく。

 カミュは、ぎゅ、と抱き返してくれた。

 とりあえず、明日からテスラについて、ちょっと調べてみよう。何か、新しい事実がわかるかも知れない。


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