表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

分点

作者: 海山 里志

 天才と呼ばれた馬がいた。イクイノックスと名付けられたその馬は、自らが世界最強となっただけでなく、日本競馬の歴史をも変えた。


 彼の挑戦は、8月末の新潟から始まった。新潟第五レース新馬。


「内からは2番イクイノックス、イクイノックスが今度は先頭に変わったか! 最内を突いているのは6番のサークルオブライフ! 横に広がっている! 追い込んできた10番サトノヘリオス! サトノヘリオスが三番手、二番手を伺って! 外からは9番メンアットワークも追い込んできた! さあ先頭は、抜けた2番イクイノックス! リード3馬身4馬身! 外から9番メンアットワークが二番手に上がってきた! 先頭は2番イクイノックスゴールイン!」


 彼はいきなり器の違いを見せつけた。二番手との着差は6馬身。名馬になることが約束されたかのような圧勝劇だった。


 続く初めての重賞挑戦、東京スポーツ杯2歳ステークス。このレースではイクイノックスは後方に控えた。

 最終直線。アルナシームが馬群を突き放しつつある中、イクイノックスはまだ後方。しかし、彼の前はガラ空きだった。


「一番外は1番イクイノックス伸びてくる! 間は5番のレットベルアーム! さあ先頭はアルナシーム! アルナシーム先頭! 二番手からアサヒそしてイクイノックス! イクイノックスとアサヒが抜け出てこの二頭が競り合う! 内2番のテンダンスは現在三番手! 抜けた1番イクイノックスリード2馬身! イクイノックス先頭ゴールイン!」


 二戦目で早くも手にした初タイトル。それも東京での圧勝。クラシック路線での活躍は確実かに思われた。


 だが、クラシック三冠初戦、皐月賞。


「さあ18番イクイノックス! 14番ジオグリフ! この二頭が抜け出てくる! ジオグリフか!? イクイノックスか!? 三番手広がった! 14番ジオグリフ先頭でゴールイン!」


 惜敗。しかし彼の競走成績に初めて泥が付いた。


 続く東京優駿でも、勝利をドウデュースに譲り二着。彼の陣営は目標を三冠目の長距離戦である菊花賞ではなく、世代間の中距離戦である天皇賞・秋に定めた。


 2022年10月30日。世代を代表する逃げ馬が揃ったこのレースでは、位置取りと折り合いが特に重要かに思われた――ただ一頭を除いては。


「逃げ馬ずらり、15頭! 果たしてどんな結末を迎えるのか。天皇賞・秋スタートが切られました。ばらついたスタートカデナ後方から。さあ注目の先行争いはどんな展開になるのか。パンサラッサが行く。そしてジャックドールが外から行く。バビットも来るかどうか。さあさらには、ノースブリッジがかなりいいポジションをとっている。さあ二コーナー、向こう正面へと出て行きます。ユーバーレーベンは後方から。さあ先頭は3番のパンサラッサで、そしてイクイノックスは中団に位置しています。ジオグリフも中団シャフリヤールも中団。パンサラッサの宣言通りの逃げ。二番手バビットそしてノースブリッジが三番手追走。ジャックドールは四番手です。その後ろにシャフリヤールダービー馬。内を通って1番のマリアエレーナ。さらには、皐月賞馬のジオグリフがいて、外からアブレイズが上がっていきました。2番のカラテです。さらにはイクイノックス、じっくりとじっくりと前を見ながら。そして、ダノンベルーガがいて、大阪杯の覇者ポダジェがこの位置。三馬身ほど離れました11番のレッドガラン。ユーバーレーベンオークス馬。そしてカデナがいて、最初の1000m57秒4! 57秒4という超ハイペース! パンサラッサの大逃げだ! さあパンサラッサもうすでにケヤキの向こうを通過して、これだけの逃げ! これだけの逃げ! 『令和のツインターボ』が、逃げに逃げまくっている! さあ、パンサラッサ、このまま逃げ切ることができるのか!? これだけの差! これだけの差! さあ、四コーナー回って直線コース! さあ、後は届くのか!? 後ろは届くのか!? このまま、逃げ切るのか!? ロードカナロア産駒パンサラッサ! 世界のパンサラッサの逃げ! 残り400を通過しています! バビットがいて、さらにその後ろからはカラテもいて、ダノンベルーガも上がってくる。さらに9番のジャックドール。さらに外からは、イクイノックスも上がってくるが。残り200は通過している。さあ、届くのか!? 届くのか!? 逃げ切るのかパンサラッサ!? 外からイクイノックス! イクイノックス届くか!? そして、ダノンベルーガ届くのか!? イクイノックス、届いた届いた! 最後は、天才の一撃!」


 稀代の逃げ馬パンサラッサを捕えた唯一の馬がイクイノックスだった。そしてここから、イクイノックスの最強伝説が始まった。


 続く有馬記念。皆が憧れる暮れの中山のグランプリも彼にとってここは通過点に過ぎなかった。

 イクイノックスは中団外目で控えた。彼にとっては必勝の位置取りだ。


「さあ第四コーナーカーブから直線コースに入りました! 先頭は13番タイトルホルダー! タイトルホルダーを躱してエフフォーリア! さらに外から一気に抜ける! イクイノックス! イクイノックスが先頭で200を切りました! これを追って3番ボルドグフーシュが二番手に上がって、さらに追い込む5番のジェラルディーナ! その内からは2番のイズジョーノキセキ! 先頭は快勝だ! イクイノックス圧勝でゴールイン!」


 もはや国内に敵なし。彼の陣営は目標を海外、ドバイシーマクラシックへと定めた。


 2023年3月25日、ドバイ、メイダン競馬場第八レース。彼は予想外の戦法をとった。


「スタートしました! ほぼ揃いました、7番イクイノックスもスタートを決めています。5番セニョールトーバが少し後ろに下げた形。どの馬が逃げていくか。外から7番イクイノックスが、じわっと出て行きました。逃げます! 外から2番モスターダフ二番手。一コーナーをカーブしていって。そのあと1番ボタニク。10番ウインマリリンが続きます。8番ウェストオーヴァー、外には9番ザグレイが続いて行きました。後方から四頭目中団後方6番シャフリヤールで2コーナーをカーブ。その後3番レベルスロマンス、4番ロシアンエンペラー、5番セニョールトーバ最後方です。向こう正面へと出て行くところ。7番イクイノックス今日は、逃げました! リードを2馬身とっています。二番手2番モスターダフ。1番ボタニク並んで行っています。この二馬身後ろ、四番手から9番ザグレイの追走。その後10番ウインマリリン。中団の内目となりました。並んでいる8番のウェストオーヴァー。差がなく6番のシャフリヤール。後方に3番レベルスロマンスが控える格好、後ろから三頭目くらい。後方二頭4番ロシアンエンペラー、5番セニョールトーバです。向こう正面中間を過ぎて三コーナーを目指していきます。7番イクイノックス、ルメール騎手、逃げの手です。リードを1馬身とっています。二番手に1番のボタニク。外は2番モスターダフ二、三番手。三コーナーカーブ。その後ろザグレイ、ウインマリリン、ウェストオーヴァー。少し列が縦に伸びてきました。その後ろにシャフリヤール、レベルスロマンス外に並んで、後方二頭がロシアンエンペラーとセニョールトーバです。四コーナーへと向かうところ。7番イクイノックスの逃げ、リードを一馬身とっています。2番のモスターダフ二番手、内に構えてボタニク。押し上げにかかってきたレベルスロマンス。さらに間からはザグレイ。中団外に持ち出すかシャフリヤール。四コーナーから直線。手応えまだまだ楽残り400を切って、7番イクイノックスリードを広げた! 二馬身! 三馬身と広げていく! まもなく残り200! 突き放したイクイノックス4馬身5馬身のリード! 二番手争い一気に広がって! ウェストオーヴァー! 内からモスターダフ! その後ろにはザグレイですが! もう独走! イクイノックス! 6馬身のリード! イクイノックス完勝ゴールイン!」


 彼は初めての海外挑戦で、世界最強を証明してみせた。


 帰国初戦の宝塚記念。彼は単勝オッズ1.3倍という圧倒的支持を集めた。同期の皐月賞馬ジオグリフがいる中で、彼は後ろから二番手でレースを進めた。


「ほぼ一団! さあイクイノックス動いた! 中団後ろまで、位置を上げて今現在後ろから四、五番手ぐらいです。四コーナーへ向かいます。前はわずかに15番ユニコーンライオン先頭。リード体半分。これを追って17番ドゥラエレーデ、そしてそのすぐそばから、差を詰めてこようと14番のブレークアップ、12番アスクビクターモア、11番ジェラルディーナ。横に5頭が広がった! その後にジャスティンパレス! イクイノックスは現在中団大外に回した! 直線コースに向かいました! 先頭はユニコーンライオン! 馬場の三分どころから、12番ユニコーンライオン! そして、11番ジェラルディーナ! 内に潜り込んで、17番ドゥラエレーデ! 離れた外から、5番のイクイノックスが襲い掛かってくる! 一気に先頭に変わった! 馬場の真ん中から、ジェラルディーナと追い比べ! 外から9番の、ジャスティンパレスが三番手から二番手! この内から、スルーセブンシーズが襲い掛かって二番手! しかし先頭は、イクイノックスだゴールイン!」


 グランプリ秋春連覇。彼は見事人気に応えてみせた。陣営は次なる目標を天皇賞・秋とした。


 2023年10月29日、東京第11レース。天覧競馬。

 G1としては珍しい11頭という少数立て。それがイクイノックスの強さの証明でもあった。最大のライバルは、同期のダービー馬、ドウデュースである。


「スタートしました! 7番イクイノックス好スタートを切っています! 3番ドウデュースも好スタート。まずは5番、ガイアフォース、出て行きますが、躱して行った、10番ジャックドール。藤岡祐介先頭に代わって、リードは二馬身ほど。第二コーナーを回って、単騎先頭に立ちます。10番ジャックドール先頭で向こう正面です。二番手は5番ガイアフォース。一馬身半後方三番手は、七番イクイノックス、早めの三番手。前から四頭目8番ヒシイグアス。その内1番ノースブリッジ。さらに、イクイノックスの二馬身背後に、3番ドウデュースがつけています。中団には2番エヒト。並んで外は11番アドマイヤハダル。馬群の中に4番ダノンベルーガ。3馬身後方に、6番ジャスティンパレス。あとは二馬身差、最後方に9番プログノーシスです。向こう正面を過ぎて三コーナーへと向かっていくところ。先頭10番ジャックドール、リード二馬身半、三馬身とって、さあ最初の1000mの通過、57秒7です! ジャックドールのペース。二番手は5番ガイアフォース。あとは三馬身離れて、単独三番手7番イクイノックス。四番手は8番ヒシイグアス。800を切って三、四コーナー中間。馬群の中に3番ドウデュース。内は1番ノースブリッジ。固まって、中団一団です。さあ第四コーナーカーブに向かって、残り600メーター。前は10番ジャックドールの逃げ。リードは二馬身で第四カーナーカーブ、直線に入っています! 二番手は5番ガイアフォース。三番手、7番イクイノックス。楽に並んでいく。残り400メータ。ルメール、仕掛けているか。さあ、ようやく追い出した。弾けるぞ! 7番イクイノックス先頭に変わった! 二番手は5番ガイアフォース! 三番手は3番ドウデュース頑張っていますが! 4番ダノンベルーガ! 外から9番のプログノーシス! さらには大外6番、ジャスティンパレスが、二番手争いに食い込んでくる! しかし先頭独走になった! ここはもう、敵はいない! 先頭は7番、イクイノックス、連覇でゴールイン!」


 ダービーの雪辱を東京の舞台で晴らし、陛下の御前で彼は無敵となった。

 タイムは1分55秒2。芝2000mの世界レコードだった。


 そうして彼は、ラストラン、ジャパンカップへと向かう。


 ジャパンカップには錚々たるメンバーが集まった。一年後輩の三冠牝馬リバティアイランド、一年先輩の二冠牝馬スターズオンアース、同期のライバルドウデュース、一年先輩のグランプリホースタイトルホルダー、さらにフランスからイレジンも参戦した。


「スタートしました! 好スタートを切って3番タイトルホルダー。しかし速いのは8番のパンサラッサです。パンサラッサが行ってタイトルホルダー二番手。三番手2番イクイノックス。四番手17番スターズオンアース。このインコースに1番リバティアイランド。目の前にイクイノックスを見る形で最初のコーナーを回りました。前は8番のパンサラッサです。もう既に、後続を引き離しにかかっています。リードを大きく取りました。単騎二番手3番タイトルホルダー。その後ろ三、四馬身離れて、三番手、2番のイクイノックスが続いています。二コーナーを回って、まもなく向こう正面。その後ろも四、五馬身空いて、1番リバティアイランド。一旦、前との距離をとりました。そして、この一角外に17番スターズオンアースが並んで追走しています。その後に5番のドウデュース。1000mは57秒6! ドウデュースにディープボンドが並んで行って。15番ショウナンバシット。その後4番スタッドリー、7番イレジンと続いています。その後に10番ダノンベルーガ。13番クリノメガミエース。後方9番のヴェラアズール。6番フォワードアゲン。11番トラストケンシン。12番チェスナットコート。やや離れて16番のインプレス。さらに離れて18番のウインエアフォルク。三コーナー回っていきます。8番のパンサラッサは、後続馬群のはるか前。もう、差を測れないほどのリードをとって三、四コーナー中間にかかっています。大きく離れた二番手に3番タイトルホルダー。その後に、2番のイクイノックスと続いて4コーナーへと向かっていきます。その後三馬身くらい空いて1番のリバティアイランド。外には17番スターズオンアース。第四コーナーカーブ! 単騎先頭! 8番パンサラッサ! 直線に入りました! 二番手は3番タイトルホルダー。その外に、並びかけようと2番イクイノックス。その背後にリバティアイランドとスターズオンアースです。400を切った! 先頭8番パンサラッサ! リードは、六馬身まで詰まった! 追ってくるのは、2番のイクイノックス! あとは1番のリバティアイランドとタイトルホルダー! そしてスターズオンアースとドウデュース! 先頭ここで変わった! あっという間に後続を突き放す2番イクイノックス! 二番手は1番の、リバティアイランド並んだ! スターズオンアースがまた、差を詰めてこようとする! その後ドウデュース! 先頭は、イクイノックスゴールイン!」


 一着2番イクイノックス、二着1番リバティアイランド、三着17番スターズオンアース、四着5番ドウデュース。これにより、イクイノックスが「2023年ロンジンワールドベストレースホース」に、ジャパンカップが「2023年ロンジンワールドベストレース」に輝いた。


 イクイノックスは自らが世界最強馬になっただけでなく、日本のレースを世界最高峰のレースにしたという点で、日本近代競馬史を変えたのである。

参考史料:

【競馬】イクイノックス全レース10戦 (新馬戦~ラストランまで)

https://www.youtube.com/watch?v=osQ0RAhat5c

2022年 皐月賞(GⅠ) | ジオグリフ | JRA公式

https://www.youtube.com/watch?v=cGeQ_nTWfe4

イクイノックス #天皇賞秋 #競馬 - YouTube

https://www.youtube.com/watch?v=cvHWyJtex08

2022年 有馬記念(GⅠ) | イクイノックス | JRA公式

https://www.youtube.com/watch?v=mMsleR7nFYA

「世界のエースへ、イクイノックス圧巻のパフォーマンスを見せました」【ドバイシーマクラシック2023】/ Equinox【Longines Dubai Sheema Classic 2023】

https://www.youtube.com/watch?v=vcFff4-aQao

2023年 宝塚記念(GⅠ) | イクイノックス | JRA公式 - YouTube

https://www.youtube.com/watch?v=5PTtFHgkgeM

2023年 天皇賞(秋)(GⅠ) | イクイノックス | JRA公式

https://www.youtube.com/watch?v=lqwkjfhnh84

2023年 ジャパンカップ(GⅠ) | イクイノックス | JRA公式

https://www.youtube.com/watch?v=QyR1BeQS0p8

世界のトップ100GⅠレースがIFHAから発表!ジャパンカップが「2023年ロンジンワールドベストレース」を受賞

https://jra.jp/news/202401/012402.html

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ