#098 「1%の確率で事故るのは安全って言わねぇんだよ」
結局、サムはライラに押し切られて大口径の方のバトルライフルを買うことになった。火薬式の実弾銃としては比較的強力な類の銃だ。人類相手には勿論、それ以外にも比較的有効打を与えやすいし、弾道特性が優秀で射程も長いので大型動物の狩りにも使える。俺としては悪くない選択だろうと思う。
「必要数は揃えられそうだから良いがな……限界まで毟ろうとしやがって」
「命を預けるものなんですから、タラーはケチらない方が良いですよぉ?」
「そうだぞ。装備は可能な限り良いものを揃えるべきだ」
良いもの、とは言ってもうちの装備と比べれば二世代は前の品だがな。
うちの戦闘班の主力であるフォルミカン達は対人光学兵器で武装しているし、防御面も低性能ながらパーソナルシールドを行き渡らせることに成功した。火薬式の実弾銃や精々複合素材のアーマー程度しか装備していないこの惑星の一般的な戦闘員が相手であればキルレシオは軽く1:10を超えるようになっただろう。
だからこそ、うちは火薬式実弾銃の製造販売に踏み切ったわけだ。周囲がどれだけ高性能な火薬式実弾銃で武装しようとも、うちの戦闘員にとっては脅威にならなくなったわけからな。
尤も、脅威度が低くなったとはいえ、武器は武器だ。今回のように大量に販売するとなると、相手は選ぶ必要がある。その点、何度も取引をしてある程度の信頼関係を築くことができているサム達は合格というわけだ。
「それで、商談は纏まったが。相談というのはなんだ?」
「ああ、そのことだがな。それについてはこいつから話をしてもらうことになってる」
そう言ってサムは今までの交渉に同席しつつ、しかし一言も発することがなかったもう一人の男の肩を叩いた。サムと同じか、少し若いくらいの男だ。砂塵避けの外套から覗く服はサムと比べると若干仕立てが良いように見える。手も綺麗だな。武器や農具を握ってきたような人間の手ではない。
「良いだろう。一応自己紹介しておくか。俺はグレン、この農場の主だ。今のところ、この農場は小規模なんでな。この農場の全てについて把握し、差配している者だと思ってくれて良い。それで、お前はどこの誰さんだ?」
正面から男を見下ろし、少しばかり威圧してやる。こういうのは主導権を取ったもん勝ちみたいなところがあるからな。侮辱や喧嘩腰にならない程度に上からものを言ってやることにする。
あ? 十分威圧的だって? こんなもん序の口だ。
「お、俺はジャクソン。ここから北東にあるコーンフィールドで村長の補佐役をしている」
「ほう? 補佐役ねぇ……?」
一体それがどの程度の権限を持つ肩書なのか、全くわからんな。
「それで、その補佐役さんはうちにどういった提案を持ちかけようって言うんだ? 大方、純血人類同盟に対する何かしらのアクションなんだろうが」
「あ、ああ。そうだ。昨今の純血人類同盟の行動は目に余る。別に奴らが純血主義を掲げること自体は構わん。だが、それを掲げて方々に暴力を撒き散らし始めたのは看過できない。だから、奴らに対抗する必要がある。手を携えて」
「なるほど。理屈はわかる。だが、奴らに対抗するのにうちの農場は他からの助けを必要としていないし、そもそも助けが来ることを期待していない。仮にうちの農場が奴らに襲われたとして、お前達の集落だか村だかからどうやって救援を寄越すって言うんだ?」
サム達の拠点からうちの農場までは結構な距離がある。確かトゥランよりも遠かった筈だ。仮に無線通信などによって相互に連絡を取れるようにしたとしても、救援を送り合うのは難しいだろう。うちの高機動車両を使っても数時間かかる距離なら尚更だ。
「その点については解決方法がある。その技術を提供する用意もある。ただ、この技術を使って互いを助けるとなると、十分な協力体制を築く必要があるんだ」
「解決方法? 技術? お前達が俺達に提供する技術があるっていうのか?」
「ああ、ある。少なくとも、この話をした時点でピンとこないなら確実にな。これを見てくれ」
そう言ってジャクソンはタブレット型の情報端末を取り出し、その画面を俺に見せた。それは設計図だった。確かにこれはうちでは運用していない、知らない技術だ。確かにそう。それはそう。
「……イカれてるのか?」
「概ね安全が確認されている技術だ。事故率は1%くらいだな」
「1%の確率で事故るのは安全って言わねぇんだよ」
画面に表示されているのは燃料式の気圏内ドロップポッドの設計図であった。構造そのものは単純だ。こいつは所謂ロケットである。精製した燃料と推進剤によって加速し、大気圏内を飛行して目標地点に放り込む装置だ。作りは単純で、製造コストはそんなに高くない。この飛翔速度なら数百キロメートル程度なら十分……いや五分もあれば着くか?
「これ、こんな速度で人を乗せて飛ばして大丈……こんな原始的なトンデモ装置なのに慣性制御機構が一応組み込んであるのか。ローテクなんだかハイテクなんだかわからんなこれ……」
「ある程度の技術力を持つ派閥なら使っているものだぞ。たまに事故でとんでもない場所に落下したりすることがあるものだが、緊急時に利用されることがある。たまに追放刑に使用されることもあるな。身一つでこいつに押し込んで、適当な方向にぶっ飛ばすんだ」
「たまにこの惑星の住人って独特な倫理観の無さというか、人の心の無さを垣間見せてくるよな」
皆俺のことを野蛮だの暴力的だのなんだのと言うが、俺にしてみればこの惑星上の住人の方がよっぽど倫理観とか安全意識とかぶっ飛んでるからな? なんだよこの片道切符で逝ってヨシなロケットドロップポッドは。本当に運用するつもりか? これを? マジで? 1%の確率で事故るこれを?
「あー、これですかぁ……これ、積載量が一つあたり二百キログラムくらいしかないのでぇ、私達タウリシアンには使い途が無いんですよねぇ……」
「その積載量だと俺も厳しいな……装備を考えると、精々載って二人くらいか?」
「五機運用すれば十人送れる。ただ、本当に戦闘用の装備以外は乗せる余裕が無い。だから、こちらに増援を送った後は迎えを寄越すまで送った戦闘員の世話をこちらで見てもらう必要がある。或いは、戦闘員が帰り着くのに必要な装備をこちらで工面してもらう必要がある」
「それで十分な協力体制を築く必要があるってわけか。なるほどなぁ……」
互いに増援を送り込みあうとなると、そうなるだろうな。十分な信頼関係と協力体制の構築が必要になるというわけだ。確かにこの方法を使えば緊急時に戦力を融通し合うことができるようになる。それは確かだ。
「言いたいこともやりたいこともわかったが、リスクが高過ぎんか……? あと、この技術込みで考えてもうちに旨味が少ないのが問題だな」
事故率1%というのは流石に高すぎる。こんな危険なものにうちの戦闘員を乗せられん。俺だって乗りたくない。あと、そもそも純血人類同盟に対して俺というかうちの農場は直接的な脅威を感じていない。来るならいくらでも来てくれて良い。来たら来ただけ死体の山を築いてやることができるからな。
「だが、純血人類同盟の脅威は地域全体の問題になる。今は問題なくとも、奴らが本腰を入れてくれば各々のコミュニティが各個撃破される恐れが――」
「まぁ、待て。焦るな。地域全体の問題となるのは俺も理解してる。損得だの旨味だの、うちは大丈夫だからと言っていると結局損をする可能性が高いのもわかってる。だが、こいつは駄目だ。頂けない。リスクを負って余りあるくらいのアドバンテージがあることは否定せんが、流石に事故率1%は呑めん」
そう言って俺はタブレット端末の画面を指先で叩いた。これで送り込んだスピカが事故って死ぬなんてことがあれば、俺は自分で自分を許せそうにない。
「だが、これ以外の方法で迅速に戦力を融通し合うのは不可能だ。そちらが運用している高機動車両とやらを使ったとしても、互いに増援は間に合わないだろう」
「そうだな。だからこいつを改良する……改良できたら良いな」
「あまりコストが高くなると運用が難しくなると思うが」
「そこはうちのエンジニア兼研究者に期待しよう」
割と最新の宇宙船工学を履修しつつあるフィアならなんとかしてくれるに違いない。なんとかしてくれるといいな。




