#097 「やろう」「ぜったいにいやだ」
「よぉ、随分と精悍な感じになったな」
「グレンの旦那に言われるとギャグだよな、それ」
サムが疲れた表情でそう言う。今日のサムは程度の良さそうな実弾アサルトライフルとボロボロだが作りは悪く無さそうな防弾アーマーのようなものを着ている。見るからに戦闘装備、あるいは準戦闘装備といった出で立ちだ。それに、身体のあちこちに治療の跡がある。
彼の仲間も同じような格好で、武器も揃いの実弾アサルトライフルである。いつもは不揃いのハンドガン、ショットガン、サブマシンガン、ライフルといった感じで統一感の無い感じだったのに、今日は装備が揃っている。物々しいと言い換えても良い。
「待て、当ててやろう。純血人類同盟の連中とやりあったな?」
「正解だ。奴ら、グレンの旦那が自分達に下ったとか抜かしてな。クソ機械を一蹴する旦那がてめぇらみたいな雑魚に下るわけねーだろって言ったら急にキレて撃ってきやがった。俺達も警戒してたから反撃したら尻尾巻いて逃げてったけどな」
あと物資馬車を集中攻撃して置いて行かせたから今ごろどっかで野垂れ死んでるだろ、と言ってサムが悪い笑みを浮かべている。補給が切れた兵隊はなぁ、地獄だからなぁ。そもそも補給線を確保せずにあの人数で動くのが俺にしてみれば狂気の沙汰なんだが。物資の補給は行った先で徴発とか舐めてんのか。
「で、今日は食料を売りに来たってわけじゃなさそうだな」
見ればサム達の荷物はいつもと様相が違う。いつもなら複数の駄載獣に山盛りいっぱい荷物を積んでくるのだが、今日は自分達用の補給物資分くらいしか持ってきていない。駄載獣の数そのものはいつもと同じくらいか? それと、ジェシーがいない。
「ジェシーはどうした?」
「奴らとの戦闘で負傷してな。命に別状は無いんだが、足に食らっちまったんで今回は留守番だ。まぁ、予後も悪く無さそうだから心配は要らん」
「そうか、それで?」
「ああ、今回旦那のとこに来たのは武器やアーマーを融通して欲しいってのと、うちの連中に現実を見せたいってのと、あと相談があるんだよな」
最後の『相談』の部分でサムが少し歯切れの悪い感じになる。なんだ、一体。何か面倒そうな予感がするが。
「一つ一つ解決していこう。まず武器は売るほどある。揃いで数が欲しいなら少し時間をもらう。アーマーも数は作ってないが、用意はできる。これも数が欲しいなら少し時間をもらう。相談は……相談ってなんだよ?」
「あー、そうだな。まぁ立ったままするような話でもない。俺達も疲れてるし、まずは宿を取らせてもらっていいか?」
「良いだろう。エリーカに連絡しておく。宿ってことは有料のコテージの方だな? 宿舎タイプで良いか? メシはどうする」
「全員で泊まれる宿舎タイプで頼む。晩メシも頼む」
「オーケー、場所はわかるな? エリーカには話を通しておくから、荷物を下ろしてこい。駄載獣は商店の方で預かれる。荷物も商店近くの貸倉庫で下ろせる」
「わかった、そうさせてもらう。荷物を下ろしたら商店で話せるか?」
「良いだろう」
普段は商売関係はライラ達に任せているんだが、わざわざ俺に相談があるということは集落ぐるみでの提案が何かあるということだろう。先日フィアが言っていたことが脳裏を過るが、俺は正直乗り気じゃない。だってあの話だと俺が対純血人類同盟の盟主みたいなやつになるってことだろ? 俺は戦場一筋凡そ三十年の元傭兵だぞ。統率できるのは精々一個小隊から一個中隊くらいで、それも命令に絶対服従する戦闘ボットを入れての話だ。指揮官だの盟主だのが務まる器じゃない。
そもそもあの対純血人類同盟防衛圏構想にはゴールが見えない。純血人類同盟の連中を一人残らず始末すれば終わるのか? というとそんなに単純な話じゃないからな。思想を滅ぼすのはそんなに簡単な話じゃない。
「どう思う?」
「きっと純血人類同盟関連でグレンに泣きつきにきた。グレン、頑張ってこの辺り一帯の王様になろう」
「絶対に嫌だ。王様とか勘弁してくれよ……時代錯誤って話でもないが」
実際のところ、銀河に多数存在する星間国家において王政や帝政を行っている国は少なくはない。超光速ドライブやハイバードライブ、ゲートウェイネットワークなどを使っても政府の中枢から辺境まで情報を伝達するのに数日から十数日といった時間がかかり、コロニーや惑星単位で自給自足なども確立されているような居住地が多く存在するとなると、どうしても一つの国家、一つの権力で隅々まで統治するのは難しくなる。
結果、王や皇帝などを頂点として貴族諸侯が強力な独自裁量でもってそれぞれの管区を管理するというような統治方法の方が効率が良くなるというパターンが往々にしてあったりする、らしい。俺も詳しくはわからんがな。学のない傭兵に宇宙統治学なんてよくわからんのである。
「やろう」
「いやだ」
「やろう」
「ぜったいにいやだ」
触手だけでなく自分の手でも俺の腕やら脇腹やらをつんつんしてくるミューゼンの攻撃をブロックしつつ、ライラ達の商店へと向かう。王様とか絶対に嫌だぞ、本当に。俺はこうして嫁とイチャイチャできさえすればそれで良いんだからな。
☆★☆
ライラの商店に足を運ぶと、まだサム達の姿はなかった。既に駄載獣は荷物から解放されて刈り取られた草を食んでいたので、恐らく倉庫に荷物を置きに行っているのだろう。
「あらぁ、グレンさんとミューゼンちゃん。二人揃ってどうしましたぁ?」
「サム達が商売に来た。でなんか俺に相談があるらしくてな。ここで落ち合うことになってる」
「なるほどぉ。今回も食料ですかぁ?」
「いや、今回は武器とアーマーの買い付けだそうだ。あと何か相談事だとよ。純血人類同盟の連中とやり合ったそうだから、関連した話だろうな」
「なるほどぉ。どんな話にしても、グレン農場が一方的に損をするような話は受け入れられませんよねぇ」
「本当にそれだな」
仮にサムたちから何か頼まれたとして、それがどんな些細な内容だったとしてもタダでというわけにはいかない。
「でも互助は大事。人は一人では生きていけない。集落と集落、村と村も同じ。隣人同士手を取り合わないと、未来は暗いものになる」
ミューゼンがそう言って目を瞑り、合掌する。彼女の触手は二本一組でハートマークのような形をいくつか作っている。
「なんだミューゼン。急にコルディア教会のシスターみたいなこと言って」
「そうですよぉ。びっくりしました」
「私、コルディア教会のシスター」
頬を膨らませたミューゼンがポコポコと俺の肩を叩いてくる。そう言うけどお前、この前「みなごろし」とか言って騒いでたじゃないか。どの口で言うんだよ、どの口で。
「あー、良いか? 商談に来たんだが」
ミューゼンにポコポコされていると、サムが一人の男を伴って店に入ってきた。デカい袋を抱えているが、音と重量感からして恐らく中身はタラー銀貨だろう。
「良いぞ。武器はどれでも好きなのを選べ。うちで量を揃えられるのはこのこの辺りだ。この辺はレストアした鹵獲品で、数はあるだけしかない。その分安いがな。こっちの数が揃えられるのは新品だ。メンテナンスはうちでできるし、交換用のパーツも販売できる。弾はうちに置いてるのは全部新品だ」
「うちの量産品を大量購入ということならお値引きもしますよぉ」
俺が陳列している武器の解説をする横でライラがにんまりと笑う。うちとしてはメンテナンスや補修部品も売れるメイドイングレン農場の量産品を買ってもらった方が商売的には助かるんだよな。売って終わりじゃなく、後の商売に繋がることになるから。
「アーマーはあまり売れないんでな。うちで作ってるのはヘルメットと上半身を守るタイプのアーマーだな。ヘルメットもアーマーも至近距離でなければうちで作ってるこのライフルの銃弾を止められる。こいつの威力はこの辺で出回っている小銃弾の中でもトップクラスだから、こいつが止められるなら大概の攻撃は止められるはずだ。ただ、これ以上の威力の弾薬とかは厳しいし、自律型駆逐兵器のコイルガンが相手だと気休めみたいなものだ。諦めろ」
そもそも、自律型駆逐兵器が使っているようなコイルガンを止めるとなると人類が動力なしで着て動けるような物理装甲で防ぐのは厳しい。パワーアーマーの装甲なら止められると思うがな。ただ、パワーアーマーに使われているような装甲材はとんでもなく重いからな。アレでアーマーを作ったり、アレをアーマープレートとして仕込んだりというのは難しい。俺ならそんなアーマーでも着て動けると思うが、そんなものを着て動きを鈍らせるくらいならパーソナルシールドを使ったほうがずっと良い。軽いし、コイルガンの攻撃だってへっちゃらだ。
「ちょっとデカいし重いな……もう少し手軽なのは無いか? 基本対人用途だし、相手は……察してると思うが純血人類同盟の連中だ。あいつらのアーマーが相手ならここまで威力は要らんだろう?」
「うーん、でもでもぉ、この銃なら引き付ければ小型のメカにも効きますよぉ?」
できるだけ価格の高い量産品を売りたいライラとできるだけ安く必要最小限の要望を満たす品を買いたいサムの戦いの火蓋が切って落とされた。うん、商談そのものに関してはライラに任せて、俺は性能面や生産能力――納期についての話にだけ参加しよう。




