#094 「ならいい。よくやった」
ローデンティアンのお姫様がのんびりと滞在する一方、トゥランから移住……移住? 拉致? まぁとにかくうちの農場に連れてきた連中は動けるようになった順にグレン農場で働き始めていた。働かざる者食うべからず、という言葉はリボースⅢにも存在するらしい。いや、寧ろより重く受け止められているようだ。
「兄貴、見てよこれ。これなら俺も立派な狩人だよね」
「やるじゃないか。人に向けたり、自分が怪我をしたりはしてないだろうな?」
「勿論だよ、兄貴」
「ならいい。よくやった」
誇らしげに胸を張るルカスの頭を撫でてやる。ルカスの腰にはよく作物を食い荒らしに来る小さな鳥が三羽と小型の動物が一匹、まとめて紐で括られてぶら下がっていた。
そしてルカスの手にはサイズと威力をダウングレードした小型のコイルライフルが一丁。こいつは正規のエネルギーキャパシターを使わず、簡単な構造のエネルギーキャパシターもどきからエネルギーを引き出して発砲するタイプのコイルガンだ。高度な部品を使わない分、低コストで作成できるが、威力も射程も最大で火薬式の拳銃と同等以下のものである。
最大出力であれば一応人類を殺傷できるだけの威力を出せるが、その場合三発も撃てばエネルギー切れでそれ以上の発砲ができなくなってしまう。ルカスが仕留めたような小動物を仕留める程度の威力ならその十倍以上は撃てるがな。
「それじゃあ俺はこいつらを肥料にしてまた見回りしてくるよ」
「おう、頑張れよ。わかっていると思うが……」
「大丈夫、ふざけて人に向けたりしないし、農場から遠く離れたりもしないよ!」
そう言ってルカスはライフルを担いで畑の方へと駆けていった。ルカスが仕留めた獲物は小さ過ぎて食いでが無い。無理すれば食えないことも無いらしいが、骨が多い割に食う場所が少ないんだそうな。なので、そのまま構成機と似たような機能があるコンポストに放り込んで肥料にするわけだ。
ルカスのような子供に銃を持たせるのはどうか? という意見もあるにはあったのだが、俺はルカスに銃を持たせた。何が問題なのか全くわからん。銃口の数は多いに越したことはないし、慣れるなら早い方が良い。身を守る術はいつに身に着けても早いということはないと思う。結局、最終的に自分の身を守れるのは自分だけで、自分の身を守れないような奴が他人の身を守れるわけも無いのだから。
ただし、ふざけて銃口を仲間に向けるようなことがあれば俺がぶっ飛ばすがな。他のことは許しても、それだけは俺が許さん。そんなことをしたら殺してくれと言いたくなるくらい躾けてやると脅してある。もしやらかしたら、それに近いことは実際にやってやるつもりだ。俺もガキの頃そうやって傭兵のやり方ってのを叩き込まれたものだ。
そんな事を考えながらトゥランの連中がちゃんと働いているか、そして何か不便していそうなことはないかを見て回る。
トゥランから移り住んできた子供達五人のうち、何かしら仕事を任せられそうなのはルカスとマルシアの二人だけだ。ルカスは畑に近づく小動物への対処や、フェリーネ達と一緒に防壁上での見回りや見張りの任務を任せている。フェリーネ達は優秀な狩人でもあるから、ルカスの教育役にはぴったりだ。
マルシアには他の大人と一緒に他の子供達の世話をさせている。他の三人はまだまだ子供で、仕事を任せられるような状態じゃないからな。子供達の世話に関してはコルディア教会のハマル司祭やシスティアも協力してくれている。エリーカ達もな。
「ボス」
「ああ。仕込みは進んでいるか?」
「順調だ。人手が増えたから」
そして、動ける状態になったトゥランの連中の大半はアレックスの下で酒の仕込みを進めている。動けるようになった連中の中にはアレックスよりもベテランの酒造職人もいたそうなんだが、醸造設備の使い方はアレックスとその妻のガビー、そしてその妹のマリーサの三人しかマスターしていない。あとはうちの農場では料理好きのタウリシアンであるプリマと、フォルミカンの……誰だったかな。フォルミカンにも醸造に興味を持った奴がいたはずだ。
とにかく、その五人くらいしか醸造設備の使い方を把握していないので、必然的にアレックスがトゥランの酒造職人をまとめるようになった。本人は自分よりも年上の職人を差し置いてそのような立場になってしまったことを重荷に感じているようだがな。俺としてはその辺りは上手くいくようにやってくれれば良いから、どうでも良い。諍いが起こるようなら介入するが。
その他にも裁縫や料理、農作業を得手とする人材もいたので、そちらに関してはエリーカやライラに適切な仕事を割り振るようにお願いしておいた。うちの設備はトゥランのものとは色々と違う点があって苦労するだろうが、トゥランの人材はトゥランの人材でうちの人材にはないレシピや技術を持っている可能性がある。その辺りは一緒に働きながらうまいこと技術交流をして欲しい。
「できた」
「はえぇよ! 俺にも触手があれば……!」
「グレンに言えばつけてもらえるかも?」
作業場に行くと、鹵獲品の短機関銃をピカピカに仕上げてドヤ顔をしているミューゼンと、ドヤ顔をされて悔しがっているテオの姿があった。トゥランで醸造機の修理や調整などを主な仕事としていたテオは、ミューゼンやフィアと一緒に俺が管理する作業場で作業をするようになっていた。
「生体触手は知らんが、作業用補助をする外肢とか、精密作業に特化とか義手とか外骨格とかはあるにはあるな。上で買ってこないといけないし、移植手術をするには専門の技術と設備が必要だが」
「そんなの逆立ちしても俺には買えなくねぇっすか……?」
「二つある生体臓器を片方ずつ売り飛ばせば行けるかもしれんぞ? 腎臓とか肺とか」
「グレンの旦那が言うとシャレにならねぇ! 高望みすんのやめて腕を磨くっす!」
そう言ってテオは作業道具を手に取り、自分の作業台の上においてある短機関銃の整備を再開した。テオは元々技術職だったからか、うちで取り扱っている各種作業機械の使い方の習得速度が早い。作業台に付随しているホロディスプレイに表示されている情報やスキャナーを使い、たどたどしくも確実に短機関銃の整備を進めていく。
「そうしろ。義体化は便利だが、それなりに苦労もあるものだからな」
「グレンが言うと説得力がある」
「何せほぼ義体化してるからな。俺の場合はかなり苦労は軽減されてるが……」
俺の胸の中で反物質コアがきゅいいぃぃん、と回転数を上げる。はいはい、わかってるよ。日々感謝してる。
本来はもっと短いスパンで義体のメンテナンスが必要なところなのだが、反物質コアのお陰で俺の場合はその回数が極めて少なく済んでいる。反物質コアに搭載されている自己メンテナンス機能が全身に及んでいるからだな。それでも完全にゼロというわけにはいかんのだが。
「フィアは地下か?」
「うん、地下。様子見に行く?」
「そうする。ミューゼンも来るか?」
「もちのろん」
そう言って横に並んだミューゼンが俺の腕に触手を絡みつかせてきた。足にも絡みつかせてきた。それは歩きにくいからやめろ。




