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#093 「おお、熱い熱い。焦げネズミになってしまいそうですわー」

「あら、よろしいじゃありませんの。顔無し卿。私どもも従属、とは行きませんが並び立てというのなら並び立つ用意はありましてよ? 少なくとも、私はそのように働きかける覚悟がありますわ」


 小さなネズミのお姫様が愉快そうに、そして上品にコロコロと笑う。その横では最低限の武装――コンバットナイフのような刃渡りの剣――を腰に佩いた、同じく小さなネズミの騎士の姿もあった。


「我々も周辺を旅して色々と情報を集めてきたが、純血人類同盟には明確な脅威を感じた。対抗するために共に手を携え、力を合わせることができるなら顔無し卿は頼もしいことこの上ない。あの巨大な獣を拳の一撃で仕留めるほどの益荒男ともなれば、否やを唱える戦士はいないだろう」


 俺の膝くらいまでしか身長がない主従――ローデンティアンの姫と騎士は俺が断固拒否した対純血人類同盟防衛圏構想を支持することを表明した。違うそうじゃない。俺はそういうの求めてない。支持するな同意するな。

 俺がトゥランから戻り、対純血人類同盟防衛圏構想を断固拒否してから三日。再びローデンティアンの一団がグレン農場に来訪していた。以前うちに滞在してから暫く周辺の集落を見て回り、またグレン農場に立ち寄ったらしい。それて、今は畑が見えるお外で優雅なお茶会をしているというわけだ。


「それに、この辺りでは顔無し卿の領地が一番発展していますもの。一番後発なのに一番発展しているということはつまり、一番力があるということでしょう? どうせ手を携えるなら、力がある方が良いに決まっています」


 ローデンティアンのお姫様は上品なくせに発言が実にクレバーだ。技術発展度で言えば恐らくノーアトゥーンのドワーフ達も良い勝負だと思うんだが、ノーアトゥーンのドワーフ達は一見さんで、自分達にとって技術的価値が薄そうなローデンティアン相手には真の実力と見せていないだろうな。


「ほら、旦那様。ローデンティアンの方々も乗り気ですよ。きっとノーアトゥーンのお祖父様達も力を貸してくれます」

「でも主力を担うことになるのはうちだろそれ……装備は使えば使うほど消耗するし、今のうちの体制じゃまだ代えの利かない部品も多いんだ」


 そういった部品も輸送艇(シャトル)を使って買付けに行けば補充できないこともないが、そのためには元手が要るし、頻繁に買付けに行くわけにもいかない。それで上の連中やその子飼いの惑星上勢力に目をつけられたらたまったものではないからな。


「それに、つまるところそれは傭兵稼業だろうが。俺はもうそういうのから足を洗ったんだ。却下だ却下」

「そう言いながら旦那は農場を要塞化してるし、戦力の拡充にも余念がないよね」

「この惑星の基準じゃ過剰なのかもしれんが、上の基準で言えばまだまだなんだよ。いまのうちの防備ならよく訓練された上の兵隊の戦闘部隊一個小隊くらいならギリギリ撃退できるかもしれんが、それ以上の規模の戦闘部隊に襲われたら為す術も無いんだぞ」


 どれだけ防備を固めても惑星上に存在する以上は軌道支援があったら終わりではあるんだが、それはそれとして最低限一個中隊規模の戦闘部隊も跳ね返せないようではあまりに心許ない。

 俺一人でなんとかギリギリ一個小隊くらいは相手にしてみせるが、別方面からもう一個小隊にこの農場を攻撃されたら絶対に守りきれない。備えはいくらあっても足りん。


「でもぉ、今すぐそういった感じの戦力に襲われることはないですよねぇ? 現状は過剰戦力の状態じゃないですかぁ?」

「現状でも過剰戦力とは思わんが」


 ローデンティアン達がいるから口には出さんが、現状の俺を除いたグレン農場の戦力はフォルミカン達と護衛用の機動車両、それにフェリーネの斥候が数名に戦闘ボット達だけだ。戦力にしてフォルミカン達とフェリーネ達を合わせて有人戦力が凡そ二個分隊に、戦闘ボットが一個小隊といったところ。農場の防衛だけなら戦闘ボット達とタレットでもなんとでもなるだろうが、予備兵力として農場に有人戦力が一個分隊は欲しい。そして交易キャラバンの護衛に一個分隊をつけたら自由にできる戦力は俺だけということになる。

 そうなると、必然的に純血人類同盟相手の火消しには俺が走り回ることになるだろう。やれるかやれないかという話をするならやれる。問題なくやれる。あんな豆鉄砲かこけおどしのかんしゃく玉しか装備していない連中なんぞ、五十人も百人も二百人も変わらん。ただひたすらに面倒くさいし、俺がこの惑星に降りてきたのんびり過ごしたいという目的とも反する。傭兵稼業から足を洗いたいという目的にも反する。二重に目的に反するのはどうかと思う。


「グレン、乗り気じゃない」

「いつもの旦那だったら喜び勇んで純血人類同盟ぶっ殺しに行くぞ、とか言いそうなもんなんだけどなぁ」


 ミューゼンが俺をじっと見つめ、スピカが首を傾げている。

 喜び勇んでぶっ殺しに行くぞとか言った覚えが無いんだが……? もしかして自律型駆逐兵器をぶっ壊しに行った時のことを言ってるのか? あれは資材のデリバリーみたいなもんなんだから、そりゃ喜び勇んで収穫しにいくだろう。純血人類同盟の連中をぶっ殺しても対して使い途のない豆鉄砲だの弾薬だの食料だのくらいしか手に入らないじゃないか。


「エリーカさん、静かですね?」

「ええと……その、はい」


 フィアが首を傾げると、エリーカは困ったような顔をして言い淀んだ。何故か俺の顔色を窺っているような感じがする。なんだ一体。


「この前も少し言ってましたけど、その……グレンさんが渋っているのは私達と過ごす時間が減るからということみたいなので、そういう意義とか出来るか出来ないかの話じゃないんじゃないかなって」


 エリーカが俺の顔をチラチラと見ながら遠慮がちにそう言う。いや、そんなことは……あるな。やる気がまったく沸かない原因が自分でもよくわからなくてなんだかモヤモヤとしていたんだが、エリーカの一言で言語化されたような気がする。

 俺が火消しに走り回ればグレン農場を空けることが多くなる。つまりエリーカ達と会えない時間が多くなる。言われてみれば、この前トゥランに行った時に上がってきていたセルフチェックレポートではストレス値がいつもより二倍以上高かった。つまり、俺のやる気が出ない理由というのはそういうことなのだろう。認めざるを得ない。


「……そうだが?」


 隠しても仕方が無いので、素直にそう言う。自分でもこんなにやる気が出なかった理由を自覚していなかったわけだが、自覚した以上は認めざるを得ない。俺ってこんなに感情的な人間だったんだな。自分でも驚きだ。


「可愛らしいですわね……いっそあざとさすら感じますわ」

「ははは……顔無し卿も人の子だったか。そうか。そうだな」


 ローデンティアンのお姫様が鳥の羽を束ねたようなよくわからない道具で口元を隠し、騎士がくつくつと笑い声を漏らす。なんだよ悪いか。俺だって今自覚したんだよ。


「旦那ぁ……そういうとこだぞ」

「グレンさぁん……もう。ほんとうにもう」

「グレン可愛い。よしよししてあげる」


 やめろミューゼン。触手で俺の頭を撫でるんじゃない。俺は子供か。いや子供みたいなことを言ったような気がするがやめろ。


「旦那様……すみません、フィアが間違っていました。他所のことなんて方っておいて早く子供を作りましょう。フィアはいつでも大丈夫です」

「フィアさん、流石にコルディア教会的にも流石にこう、明るいうちからというのはですね?」


 大丈夫ですじゃないんだよフィア。客人の前でストレート過ぎのは流石にやめろ。エリーカも止めてるけどあまり本気じゃないだろ、それ。


「おお、熱い熱い。焦げネズミになってしまいそうですわー。とはいえあまり猶予のある状況でもなさそうですから、ご家族でよぉく話し合ってくださいませ。ことを起こすということなら、私達も協力は惜しみませんので」


 そう言ってローデンティアンのお姫様は羽を束ねたような道具で自分を仰ぎながら、俺にジト目を向けてくるのであった。

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― 新着の感想 ―
…ふぅ…触手さん成分補充出来たよかった あ、子作りしないと戦場に戻れませんって話? しかもフィアちゃんと昼間から?ハハハ…もげろ! 姫さんは周りをさっさと孕ませて子供可愛さに挙兵させる方向に切り替えた…
タイトル「フェイスレス・エンゲージ」に変更や!
というかヤるにしてもわざわざ身一つで走り回らんでも 簡易的な光学迷彩や通信妨害のジャマ―くっ付けたザブトンで瞬殺でしょ 艦艇クラスのレーザー出力ならエネルギーシールドも持たない生肉や金属の100や20…
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