#066 「返してこい」
短い期間になりそうだけど更新再開! 再開!_(:3」∠)_
小型シャトル――小型シャトルといっても航宙艦なのでデカいが――に乗って遥々リボースⅢの軌道上に浮かぶ武装商船団アルデティオス、その旗艦であるピュリティにまで足を運んだ俺とエリーカ達はショッピングを楽しんでいた。
「グレンさん! これ! この子が欲しいです!」
「それは自動追尾型の自爆スウォームドローンだな。一体だけあっても仕方がないし、愛玩用にするには物騒だから返してこい」
「グレンさぁん、これがいいですぅ」
「それはのデータベースを参照して買い取る物品の価値を評価するスキャナーだな。接続するデータベースがないと意味がないし、そもそもどう見てもこの船の備品だから返してこい」
「旦那! これ! これがいい!」
「それはパワーアーマー用の外部エネルギーユニットが必要なタイプのプラズマキャノンだな。それそのものはスピカなら持てるかもしれないが、外部エネルギーユニットまで含めるとどう考えても運用できないから返してこい」
「グレン、これがいい」
「それはサンケン星系を母星系とするサンケン人だな。小さくてモコモコしてて可愛らしく見えるだろうが、れっきとした知性体だし、明らかにこの船のクルーだから返してこい。というか離してやれ」
「あの、旦那様。私はこれが……」
「それは航宙艦関係の知識が入ってるデータチップだな。値段も手頃だし再生機器はうちにあるから買ってやろう」
「ありがとうございます!」
「「「ぶー!」」」
データチップを胸に掻き抱くようにして花の咲いたような笑みを浮かべるフィアとは対照的に、俺に欲しいと言って持ってきたものを却下されたエリーカ達が不満げにブーイングする。まだ一応商品として売られているものを持ってきたエリーカとスピカはともかく、船の備品とクルーを持ってきたライラとミューゼンは論外だ、論外。
「まずエリーカに関しては愛玩用のペットロボットが欲しいなら専用の筐体か、エリーカの専属にしているポチにインストールできる愛玩用プログラムでも見繕ってもらえ」
「そういうのもあるんですか?」
「リストを見る限り、あるようだな。すまんが案内してやってくれ」
俺がそう言うと、ミューゼンの魔の手――文字通りの意味で――から解放されたサンケン人のクルーがエリーカを案内していった。その後ろをミューゼンも一緒になってついていく。俺にはよくわからんが、女性というのは可愛いものに興味が尽きないものらしいな。
「ライラのスキャナーに関しては精度は多少落ちるが、データベースを内蔵している現地査定仕様のものがあるはずだから、そっちを買ってやる」
「わぁい!」
似たような品を買ってもらえると知ったライラが両手を上げて小躍りしている。たゆんたゆんというか、ばるんばるんと揺れている彼女の乳を横目に見ながら、今度はスピカに話しかける。
「スピカは俺も一緒に武器を見繕ってやるから、機嫌を直せ」
「……でっかいのがいい」
「でっかいのか……戦利品ごと全部吹き飛んで明らかにオーバーパワーな感じになるぞ」
特にプラズマ系の武器は加害範囲を焼滅させる感じになるからな。目標の装備品は殆ど使い物にならなくなる。
「うっ……それはだめだ」
「なら光学兵器にしておけ。今フォルミカン部隊全体で使ってるのはレーザーガンにコンバージョンキットを使ってカービン化したものだから、最初からレーザーカービンとして作られているものとかどうだ? オプションパーツも純正品の方が性能もいいしな」
最初から小型カービンとして設計、製造されている物の方が設計に余裕もあるし、出力や制度に関してもやはり多少向上するからな。
「わかった、旦那がそう言うならそうする」
スピカと一緒にレーザーカービンを物色した結果、射撃モードの切り替え機能がついているやや大型のレーザーカービンを選んだ。これは重量が重い代わりにキャパシターを複数搭載しており、標準的な出力調整機能だけでなく、バースト射撃や連射も可能な品だった。
「整備キットも一緒に買ったから、降りたら整備の仕方を教えてやるよ」
「うん! ありがとう、旦那!」
最終的には気に入ったようで、一緒に選んだメーカー純正品のガンケースを抱えたスピカが、これまでに見たことのないような無邪気な笑顔を浮かべている。流石に物騒では? と思わなくもなかったが、本人が喜んでいるなら良いか。
その他、現状うちの農場では製造ができないハイテクのコンポーネント――高性能のエネルギーキャパシターなど――を数点購入し、エリーカとミューゼンが選んできた多機能調理器とボードゲームも購入して――。
「……ペットロボットを探しに行ったんじゃなかったのか?」
「あまり気にいる子が見つからなくて……ポチちゃんはポチちゃんのままで良いですし。それよりも凄いんすよ、これ。こんなに小さいのにお肉でも野菜でも物凄い速度で薄切りやみじん切りにしたりできるんです!」
「そうか……ミューゼンのそれは?」
「面白そうだった。色々なボードゲームを内蔵していて、ホログラムで投影してくれる」
「そうか……娯楽室で今度遊ぶか」
「うん」
二人とも目をキラキラさせているし、本人が良いって言っているなら良いだろう。忘れずにライラの査定スキャナーも購入したので、船から離れる前に女船長に挨拶の通信を入れておく。
「グレンだ。買い物も終わったから帰る。近日中にデザインのデータは送るから、筐体の調達は頼むぞ」
『はいはい、わかったわ。変なところに墜落しないように気をつけて』
「するか。それじゃあな、また連絡する」
女船長の軽口に適当に対応し、全員を連れて再び小型シャトルに乗り込む。積み荷のチェックもよし。収支は……買った分を差し引きしてもまぁまぁの儲けが出ているな。ヘキサディアの肉やその加工品、それに毛皮や角などが良い値段になっている。作物の方はそこそこといったところだな。工芸品に関しても評価は今ひとつだったが、一応儲けにはなっている。何せ元手が殆どかかっていないからな。農場の近くで採取した素材で作っているから、かかっているのは人件費だけだ。その人件費も現状では給料なども払っていない状態だし。
しかし、その辺りの待遇に関しても考えなきゃならんな。農場はそのうち集落に、村に、そして街になっていくのだろうから、その内部で通貨が循環していないなんて状態はあまりに不健全だ。
「儲かりましたかぁ?」
「そこそこだな。まぁ収支はプラスだ。自給自足もできるようになっているし、順調だろう」
今回の儲けはおよそ1万エネルほど。持ち込んだ物資量の割には儲けが出ていると思う。ただ、ヘキサディアの肉や毛皮がずっとこの値段で売れるとも限らないし、作物に関しても今回買い取ってもらった分があちらで売り捌けなければ買い取りを拒否されたり、買値を大幅に下げられたりする可能性もある。あまり楽観視はできんな。
「ただ最初の取引だからな。次回以降どうなるかだ」
「それはそうですねぇ。油断なくいきましょうねぇ」
ライラがにんまりと笑みを浮かべながら査定スキャナーが収まっているポーチを撫でる。どうやら『上』の武装商船団――彼女にしてみればキャラバン――を見て商人魂が刺激されたらしい。
「そうだな、みんなを養っていかないといけないしな」
養っていくだけだら現状のままでも大丈夫だろうが、農場の規模が大きくなっていけばこちらを付け狙う連中の規模も大きくなるはずだ。そういった脅威に対処するためにはやはり強力な装備やそれらを運用するための物資、構築するための資材が必要になる。ライラの言う通り、油断のないように行かなくてはな。




