#100 「そう、言わばこれはスーパードロップポッド!」
原稿期間に入るので暫くお休みです。
ゆるしてね!!!_(:3」∠)_
フィア達にロケットドロップポッドの再設計を頼んでから一週間ほど経った。
特にトラブルらしいトラブルもなく、狩りをしたり、農作物を収穫したり、醸造・蒸留設備で酒が作られ始めたりと穏やかな日々である。
「ずっとこういう感じでのんびりできると最高なんだがなぁ」
「ふふ……こういう穏やかな生活がグレンさんにとっての幸せなんですね」
「そうなんだよ。エリーカ達がいてくれて、食っていけるだけの稼ぎがある。それだけで十分だと思うんだよな、俺は」
最近の俺のトレンドは内外の景色を見渡せる第一防壁の上に設置したテーブルセットでのお茶会である。お茶会というか、まぁただお茶とお菓子を摘みながらこうしてなんでもない話をして駄弁るだけなのだが。
「それが許される世界を実現するのが私達コルディア教会の目標ですね」
「皆仲良く、手に手を取り合って生きていくってなぁ。それができればどれだけ世の中が簡単になることか」
三人集まれば派閥ができる、なんて言葉もある。もうこれは知的生命体の業のようなものなのかもしれんな。コルディア教会は人類皆家族になれば争いは自然と収まる、というのが基本的な考え方らしいが、それもどうなのかね。限られた食料や資産を巡って親子が、兄弟姉妹が骨肉の争いを繰り広げるなんてことも珍しい話じゃない。
「そうなるように、そうあれるように努力していくことが大事なんですよ。家族に優しく、良き隣人に優しくです。グレンさんならきっと大丈夫です」
「道を外れそうになった時には軌道修正してくれ」
「はい、お任せください。私だけでなく、皆でグレンさんを支えますから」
うーん、笑顔が眩しい。エリーカは凄いよな。一度人の悪意に晒された今でもまだコルディア教会の教えを信じている。俺には良くわからないが、これが強固な信仰の為せる業というものなのだろうかね。
などと考えていると、通信のコールが入った。これは地下研究室のフィアからだな。
「すまん、地下のフィアから通信だ。グレンだ。どうした?」
『旦那様、できましたよ。改良型のロケットドロップポッドの設計が』
「おお? 早かったな。早速実験か?」
『はい。なので旦那様にも手伝って頂きたくて』
「わかった、すぐに行こう。作業場に向かう」
通信を切り、エリーカと視線を交わす。
「私もここを片付けてから行きますね。どんなものが出来上がったんでしょう?」
「見てのお楽しみだな。ここは頼んだ」
☆★☆
「……なんかデカくないか?」
フィア達が引いた設計図どおりに出来上がったモノを見上げ、俺は呟いた。旧来のロケットドロップポッドは高さ凡そ三メートル、直径も凡そ三メートルくらいの円筒形に近いものだったのだが、それよりも二回りくらいデカい。デカいということは、それだけ建造コストが高いということだ。
「そりゃね。旧来のロケットドロップポッドは発射装置に装填した上で燃料と推進剤を補充して飛ばす形だったでしょ? これはね、発射装置いらないんだよ。これ単体のスタンドアロンで飛べるし、これに直接燃料と推進剤を補充すれば何度だって飛ばせるんだ……設計上はね」
アイが胸を張って解説したかと思えば、最後に小声で不安になるようなことを付け足す。設計上はってお前なぁ……いや、これからそれを実証するために実験をするんだろうけども。
「建造コストは二倍ほどになってしまいましたが、落着後にいちいち発射装置まで運ぶ必要が無い上に、適切な量の燃料と推進剤の用意があれば出先からそのまま戻ってこられます。トータルコストは安くなっていますよ、旦那様」
「そうそう。それに装甲も厚くして万が一自律型駆逐兵器に撃たれたとしても、生存性が高い作りにしてあるんだ。落着してから銃撃戦に巻き込まれてもなんともないよ、多分」
「いちいち不安になるような一言を付け足すのはお前の芸風か何かなのか?」
データを確認してみると、確かに装甲は厚くなっているな。これならコイルガンで撃たれても貫通して爆散とか撃墜ということにはならないかもしれん。それでまともに着陸できるかどうかはわからんが。ただ、少なくとも旧来のドロップポッドの場合は撃たれたら確実に貫通されて撃墜、ロスト不可避、内部の人員の生存は絶望的という状況だっただろうから、そういう意味での安全性は確かに改善されていると思う。
「ロケットドロップポッドの安全性が低かったのは概ね発射装置とドロップポッドの接続不良や状態のアンマッチが原因だったと思われますので、その二つを一体化してセルフチェック機構を強化したことによって事故率は今までよりも遥かにゼロに近くなったと思います。少なくとも事故率1%ということは無いはずです」
「というかね、旧来のロケットドロップポッドの安全性チェック機構がお粗末過ぎだよ。飛ばせれば良いって感じの設計でさ。ということで、安全性を大幅に改善したこのロケットドロップポッドは今までのロケットドロップポッドとは別物だよ。そう、言わばこれはスーパードロップポッド!」
「すーぱーどろっぷぽっど」
なんだろう。なんか頭悪そうな名前だな。
「これは注意して欲しいのですが、安全性の改善はできましたが、可搬重量は据え置きです。200キログラムですね。重量オーバーするとそもそも飛べませんから、そこはご注意ください」
「なるほど。じゃあ俺は乗れない……こともないか?」
ほぼ全身義体化している俺の体重は200キログラム近い。若干下回るくらいだ。装備も含めると軽く200キログラムは超えてしまうから、こいつは使えない……のだが、装備を別で飛ばせば乗れないこともないな。スピカかエリーカ辺りにもう一つのポッドに乗ってもらって、俺の装備を運んでもらえれば問題は無さそうだ。
「旦那様ですとギリギリ、ですね。複数のポッドを使えば大丈夫かと思います」
「だよな。事故率1%だと全く乗る気になれなかったが、こっちなら乗るのもアリかもしれんな。まずは安全性を確認するために試験飛行を繰り返す必要があるが」
とりあえず五基作って汎用の作業用ボットを乗せて試験飛行を繰り返してみるか。とりあえず積載重量を変えた五基セットで百回飛ばして無事故だったら人を乗せて飛ばしてみるとしよう。実際にメンテナンスをしてみてわかってくる不具合とかもあるだろうしな。
☆★☆
「なんか急にこう、文明化した感じしますねぇ?」
「そうか? そうかもな」
新型ドロップポッドの運用に必要な燃料や推進剤を大量に精製する必要が出てきたので、その精製設備を建造することにした。お手軽なのはそこらに生えている草木を構成機で分解、再構成してしまうことなのだが、そこらに生えている草木というものも有限の資源である。ドロップポッドの運用はこれからも続く可能性があるので、そのためにそこらの草木を消費し続けるのはよろしくない。というわけで、燃料の複合精製設備を建設した。
「これ、どういう仕組みで燃料を作ってるんですかぁ……?」
複合精製施設を見上げたライラが問いかけてくる。
「そんな難しいことを俺に聞くなよ……ええと、確かエネルギーを消費して大気と水から燃料を精製する系統と、専用の農作物を育成、収穫してバイオマス燃料を精製する系統と、あと何か他にもいくかの精製系統があって、それらを複合してる筈だ。詳しくはわからん」
「仕組みのわからないものを使うのって怖くないですかぁ……?」
「そんなことを言い出したら大半のテクノロジーが使えなくなるだろ……使えりゃ良いんだよ、使えりゃ」
かなりの大きさの施設で、第一防壁の内側には立てられないので、第一防壁と第二防壁の間に建設することになった。必然的に第一防壁の内側よりも攻撃に曝されやすくなってしまったわけだが、燃料を精製するということは、被弾すると大爆発と大炎上が約束されている建造物である。逆に居住区と壁で隔てられている場所に建設して正解だったかもしれない。
「ところでぇ、この施設って実質的に無限に燃料を生み出すんですよねぇ?」
「そうだな」
「あの新型ポッドも毎日ひっきりなしに飛ばすわけじゃないですからぁ、余剰が出ますよねぇ?」
「そうだな」
「つまりぃ、無限に湧き出てくる新商品ってことですねぇ?」
「そうかもしれんな」
「うふふ……こういう施設、他にもありませんかぁ? もっと作りましょうよぉ」
「どうだったかなぁ」
ライラの瞳の奥にピッカピカでチャリンチャリンのタラー硬貨が踊っている気がする。こんなローテクな液体燃料なんて売れるのかね? あまりに時代遅れすぎて上じゃ殆ど価値のないものなんだが。まぁ、こうしてロケットドロップポッドの燃料としてそのローテクな代物を精製している俺が言うのもナンセンスか。需要はあるんだよな、多分。
「そういやこの燃料を更に加工して色々な化学物質を精製する設備があった気がするな」
「かがくぶっしつ」
「作ろうと思えば医薬品とかも作れるかな」
「今すぐ建てましょう。今すぐ」
「あんまりそういうの作ってばら撒くと面倒なことになりそうだからなぁ……」
「サービスしますからぁ。ね? ね?」
ライラが俺に身を寄せて身体を押し付けてくる。具体的には、立派なぽよんぽよんを押し付けてくる。その感触は素晴らしいんだが、上のテクノロジーをあまり大っぴらに使って目立つと、上の三国とかその三国の息のかかった連中がちょっかいを出してきかねないからなぁ。
その辺りの判断は慎重にしたいと思う。




