闇夜の旅路
宿舎の周りは草原があり、木の柵で覆われている簡素なものだ
そこを通り過ぎれば王城や城下町に続く石畳の通りに出る
そこまで行けばあとは急がずともいい
が、宿舎の木の柵の唯一の出口には夜勤の兵士がいる
出れば怪しまれるし、逃亡がバレればろくなことにはならないだろう…
ゆっくりと幸明は近づく
「どうした?」
兵装をした女性が声をかける
「あの…えっと、眠れなくて…」
幸明が言う
「そうか…確かにいきなりこの世界に召喚されたのだ不安も大きいだろう
だが我々ゲータニクの国民がより豊かになるため、国王様が心血を注いで行った儀式だ
国王様は国民を大切に思うお方だから召喚された皆さまのことも手厚く扱ってくれるだろう」
女性は柔らかい笑みを浮かべる
「そのために4,000人も犠牲にするのは俺には納得できないですけど…」
幸明が言う
「4,000人?
何のことだ?」
「え…?」
(まさか生贄のことを知らない?
確かにそう考えればあれほどの儀式の割にあの場にいた兵士の数は5人ほど…
警備としては少ないが…まさか極秘?
なら尚更まずい
国はこの召喚の犠牲を国民は言ってない…にもかかわらずあの召喚時にその情報を伝えたのは4,000人の犠牲が嘘、あるいは俺たちが口外しないように制約または封じる手段があるということ…)
幸明の頬を汗が伝う
「今のは発言はいったい…」
女性が問い詰めようとした時だった
「お〜い、なーにやってんだぁ?」
足元がフラつき明らかに酔ってる兵士が近づいてきた
「な⁉︎
副長、また勤務中にお酒を飲んでいるのですか⁉︎」
「どーせ、王都のしかも何もない兵舎の夜番なんてだーれも来やしない
あるのは貧乏兵士の荷物だけ、そこら辺の店を襲った方がまだ儲かるぜ」
フラフラしながら女性兵士に話す
「…私はどのような仕事も手を抜く気はありません」
「かぁ〜お堅いなぁ〜
だったら大通りの警邏でも行ってきてよ
当番の奴らもみんな飲んだくれて、まともに歩けやしない、はははは!」
兵士は上機嫌で笑いながら言う
「わかりました、ご命令とあらば」
女性が言う
「まったくリーナは堅いなぁ、柔軟さが無ければ出世はできんぞ?
将来は近衛騎士団長を目指すなら世渡りもうまくなきゃなぁ〜」
「精進します」
「今日はその騎士団から特別にいつもよりお高い酒が支給されてるから、見回りが終わったらリーナも呑むといい!
じゃあ、見回りよろしくなぁ〜」
フラフラと歩きながら当直小屋へと戻っていく
「すまないが、これから見回りに出なくてはならないからこれで失礼する」
「はい、俺もそろそろ寝るので」
そして幸明は思いがけずに超手薄になった警備を抜けて王都の街並みに駆け出した