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9、夢の参考書

 外国語を習得する上で一番苦労するのって、やっぱり発音だと思うんだよね。

 最近は日本人でもふつうに英語をしゃべれる人がだいぶ増えたと思うけど、そこにネイティブ並みの発音でって条件をつけると、その数は一気に下がっちゃうと思う。

 本当に流暢に英語を話していて、コミュニケーション自体には全然問題無くても、アメリカ人やイギリス人の発音と比べちゃうと、やっぱりそれは“日本語(なま)り”の英語なんだよね……。

 ただ、これは日本人だけの話ではなくて、香港の人は中国語訛りの英語を話すし、フィリピン人はフィリピン語訛りの英語を話す。

 まぁ、英語は国際語って位置づけだから、ちゃんと通じさえすれば各々のお国訛りの英語で全然問題無いんだけどね。

 でも、今回はそうもいかない。

 あの世界に“日本語訛りの大陸語”なんて当然ないわけで、仮に外国から来たって誤魔化しても、ではどこから来たんだって話になっちゃうよね……。

 転生者だってことはできるだけ秘密にしたいわたしとしては、発音の方もできるだけ違和感がないようにしておきたいし……。

 

 そんなわたしの願望に応えてくれる夢の機能!

 それが、“憑依機能”!!(命名わたし)

 最近の日本にある電子書籍の学習教材なんかだと、発音の分からない単語にタッチするだけでネイティブの発音が簡単に聞けたりするんだけど……。

 考えてみれば、これってすごい機能なんだよね。

 今みたいに電子辞書やスマホが普及する前だと、読み方の分からない単語は学校の先生に聞くしかなくて、それすらも日本語訛りの発音だったりするわけで……。

 それこそ、しっかりとした発音を身に着けたければ、ネイティブの友達を作るか、高いお金を出して英会話スクールに通うしかなかったって……。そんな苦労話を、会社の年配の人から聞かされたことがある。

 そんな時代から考えれば、今の日本の英語の学習環境は確かに夢のようなんだと思う。

 でも、だからといって、それだけで簡単にネイティブの発音が真似できちゃうわけでは当然ない。

 わたしだって、英語の発音のDVDを見たり発音記号を勉強したりして随分がんばったんだよ。

 でも、やっぱりネイティブ並みの発音なんかには全然ならなかった。

 精々、()()()()()()()きれいな発音で話すねって、ネイティブの人に褒められるくらいで……。

 つまりは、所詮(しょせん)外国人の発音ってこと。


 でも、そんなわたしの苦難の日々は遂に終わった!

 なぜなら、わたしには“憑依機能”がある。

 わたしが今勉強に使っている参考書にはある機能があって、発音の分からない単語や文にそれを使うと、まるでネイティブの人がわたしの体に乗り移ったように勝手にわたしの口を動かして、正しい発音をしてくれるのだ。

 最初はね、ちょっと怖かったよ。

 勝手に口とか舌とかが動いて、体乗っ取られてる!?って感じだったしね。

 でも、すぐに慣れた。

 無理に逆らわないようにして、自分の体の動きを外から観察するみたいにしていると、まさに手取り足取りって感じで、具体的な発音の仕方が感覚で理解できちゃうんだよね。

 あぁ、口の形はこんなかぁ……舌の位置はこうで息はこんな感じで吐き出すのかぁ、みたいな感じにね。

 お陰で発音がどんどん上達しちゃうし、正しい発音を理解することで聞き取りの方も随分できるようになった。

 それだけじゃなくて、憑依したネイティブの人と、言葉を聞いたり話したりする時の感覚を共有することで、言葉の意味を感覚で理解できるようにもなった。

 こうなるともう勉強するのがおもしろくて、気がつけば一般に使われている日常会話からフォーマルな場での正式な会話まで、手当たり次第にマスターしてしまった。

 参考書の練習問題で、架空のネイティブの人と実際に色々な会話をしたりもしたしね。

 参考書の評価でも、今のわたしの会話能力はネイティブと遜色ないレベルみたい。

 勿論、リスニングとスピーキングだけじゃなくて、読み書きの方もちゃんと勉強したよ。

 参考書の確認テストでも、ノーム王国人と変わらない語学力があるって合格をもらったしね。

 とりあえず、これで言葉の問題はなんとかなったと思う。


「う〜〜〜ん」


 両手を上に上げて、ぐ〜と背伸びをする。


「お茶をどうぞ」


 ちょうどいいタイミングで、館長さんが熱い紅茶を出してくれる。

 今だけではなくて、いつもちょうど一息入れたいなというタイミングで、紅茶やコーヒーを差し入れしてくれる館長さんは、ほんとうに気の利く猫さんだと思う。

 一家に一匹ほしいところだけど、この図書館自体がわたしの貸し切りで、もう(多分)ずっと長いことここに居座って勉強している点を考えると、これはもう館長さんを自宅にお持ち帰りしたのと大して変わらないかもしれない。

 結局どのくらいの時間ここにこもっていたのか分からないけど、もうこの図書館がわたしの我が家って思えるくらいにすっかりこの場所に馴染んでしまった。

 とはいえ、いつまでもこうしているわけにもいかないしね。

 館長さんからも、どれだけ図書館で勉強してもらっても構わないけど、意味もなく図書館に引きこもるのはダメだって言われているしね。

 大陸語も覚えたし、今のノーム王国やエデンについても大体は理解できた。

 次の本を手に入れるためにも、向こうでの生活基盤を整えるためにも、そろそろまたエデンに行かないとね。


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