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6、一瞬、異世界デビュー

「ここが、異世界……」


 目に飛び込む強い光と澄んだ空気。

 世界が、明るい。

 まだ両親が生きていた頃に一緒に過ごした遠い外国の空気と同じ。

 懐かしさと、開放感。

 目の前の通りに目を向ければ、多くの人や物がわたしの前を通り過ぎていく。

 剣や槍を持った人たちは多分冒険者。

 荷車や馬車、ロバ?を使って荷を運ぶ人たち。

 大きな荷物を背負った行商人風の人もいる。

 全体に逞しい感じの男性(ひと)が多い。

 勿論、男性ばかりでなく、通りには多くの女性の姿も見受けられる。

 いかにも家庭の主婦といった感じのおばさんもいるし、多分冒険者であろう武器を持った女性の姿も多い。

 通りを駆けていく子供の姿も見られる。

 少なくとも、女性は大人しく家にいるべしって女性蔑視の雰囲気でもないし、女子供が一人で通りを歩けば5分で誘拐されるような治安の悪い場所でもないみたい。

 この世界について……というか、あの小説が事実なら、この国の成り立ちについて書かれた“ノーム王国建国記”の中には、結構な割合で荒くれ者の冒険者が出ていた。

 下品、汚い、脳筋な感じの、いかにもテンプレな冒険者。

 後に初代国王となる転生者のユーヤ。彼が最初に訪れたのがこの街で、当時は“街”ではなく“町”。

 大樹海の端っこで採れる採取物を扱う小さな商店兼酒場があるだけの、ふつうの集落に過ぎなかった。

 そこからユーヤの大樹海開拓の冒険が始まって、最後には魔物の領域たる大樹海の真ん中に人の住む街(王都)を作り上げて、大樹海に冒険者の国を打ち立てちゃうのだ。

 その頃には、スタート地点になった町も魔物の素材取引でかなり発展していて、元々あった採取物を扱う商店兼酒場も“冒険者ギルド”と名を変えて、この世界初の冒険者のための互助組織としての活動を開始するようになる。

 わたしが小説で読んだこの街の歴史?はそんな感じだけど、館長さんが言うには、今のエデンはその数百年後の街で……。

 当然、わたしが小説から想像していた町とはかなり違うはず。

 冒険者の街って聞いて、ちょっと治安の悪さとかを心配してたんだけど、それは杞憂だったみたい。

 確かに武器を持った冒険者の姿は多いけど、それほど身なりが小汚い感じもしないし、通りの真ん中をイキって歩いているような人もいない。

 みんな、ふつうだ。

 建物の陰に隠されるように背後に出現したままの(ゲート)を消すと、わたしは物陰から目の前の通りに向けて異世界への第一歩を踏み出した。


「@*$*@# ##@&&^$*&%」

「^^%#*&!」


「#$%!!」

「&^&*@#%*&。$#%@#@%%^^%$%$###」


「*^$〜^##@!!*!!」


 一歩通りに出れば、街の雑踏に紛れて通りを行き交う人々の話し声が耳に飛び込んでくる。

 ある者は楽しげに……。

 ある者は不機嫌そうに……。

 また、ある者は何やら慌てたように……。

 なに言ってるのか全然わからないけどね。


 んっ?

 ちょっと待って!?

 話してること、全然理解できないんだけど!


(ゲート)!!」


 さっきまでいた物陰に急いで駆け込むと、わたしは慌てて図書館への扉を開く。

 別に呪文とか叫ぶ必要は全然ないんだけど、気がついたら声に出していた。

 えっ? どうして? 言葉、全然分からないんですけど!

 目の前に現れた青い扉に飛び込むと、わたしは慌てて元いた図書館に逆戻りした。



「おや、随分早いお帰りですねぇ。まだ新しい本は一冊も入荷されておりませんよ」


 手元の本から顔を上げた黒猫館長が、落ち着いた様子でわたしの方を向いてそう(のたま)う。


「あの! 言葉が全然分からないんですけど!」


 そう文句を言うわたしに、いつもの微笑みを顔に貼り付けた黒猫館長が事も無げに言う。


「それはそうでしょうとも。

 日本どころか地球ですらない異世界なのですから、当然言葉も違いますよ」


 小さい子に言い聞かせるように言う黒猫館長。

 そんなことは百も承知だ。


「だから、言語チートとかどうなってるんですかって言ってるんです。

 全然機能してないんですけど」


 わたしはビシっと言ってやる。

 そうしたら、


「はぁ、そのようなものは初めからございませんが……。

 異世界転移における契約にも、そのような能力に関する記述はございませんよね?」


 ビシっと言い返された。

 た、確かにそうだけど!


「でも、ふつう転生者には異世界の言葉が分かるようにするものですよね。

 大体、“ノーム王国建国記“の転生者だって、3人とも初めから言葉しゃべれるようにしてましたよね」


「あぁ、なるほど。そういうことですか。

 それはですねぇ、莉子様と(くだん)の小説の3人の転生者では加護(ギフト)の権能と目的が違うのですよ」


 そう言って館長さんが説明してくれたところによると……。

 (くだん)の転生者の加護(ギフト)は、“英雄王の剣”、“癒やしの聖杯”、“魔力創造”。

 そして、与えられた任務?は、王国の建国、人々の救済、生活環境の改善。

 どれも言語云々とは全く関係ないもので、逆に言葉が通じないと本来の目的すら達成できない可能性大。

 ゆえに、わたしに着替えや当面の生活費をくれたみたいに、サービスで言語チートも与えられた模様。

 それに対してわたしの場合……。


「もし、莉子様がはじめから異世界の大陸言語を理解できてしまった場合、我が幽世図書館には大陸言語に関する文法書や教本が入荷しなくなってしまうではありませんか」


「…………」


 日本人に日本語の参考書はいらない。

 わたしの加護(ギフト)が知識を集めるもので、その目的が異世界知識に関する本の収集なら、当然その妨げになる能力の付加などできるわけがない……。

 納得はできるけど!

 わたしへのサービスは服と当面の生活費だけで、他の転生者には言語チートって……。

 なんか理不尽だ!

 そんなことを思いつつ、わたしは気持ちを落ち着けて再度異世界への扉を(くぐ)る。

 とにかく、大陸語の参考書の入手が先決だ。


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