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チート図書館を手に入れた転生女子は、家出王女と冒険者になることにしました  作者: Ryoko


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46、現状把握

 見慣れた図書館の床に倒れ込むようにして転がったわたしを、呆れたように見つめる黒猫館長。


「まったく……。前回は淑女にあるまじき格好で現れたかと思えば、今回は床にダイブですか……?

 当図書館は掃除も行き届いてはおりますが、それでも床を転がるのはどうかと思いますが?」


「た、助かったぁ〜〜」


 館長さんの嫌味に、心底安心する。

 いや、ほんと、死ぬかと思ったから!

 正直、どうやってここに来たのかもよく覚えていない。

 とにかく逃げなきゃって思って、とっさに図書館が思いついて、無我夢中で扉に飛び込んだような……。


「って、向こうはどうなったの!? レイは無事!?」


「……図書館ではお静かに願います。少々落ち着いてくださいますか?」


「いや、でも、レイが……」


「あちらの状況は存じ上げませんが、少なくとも事態は何も変わっていないはずです。

 お忘れですか? 莉子様がここにいる間、あちらの時間は全く動かないのですよ」


 ああ、そうだった。

 少なくとも、今焦る必要はない。

 わたしはゆっくりと深呼吸を繰り返す。


「お茶をお淹れしましょう」


 そう言って館長さんがお茶の準備を始めたので、わたしもとりあえず席に着くことにする。

 しばらくして、わたしの前に出されたティーカップからは花の香りが漂い、一口つけると国の中にやさしい甘さが広がっていく。


「少々気が立っておられるようでしたので、リラックス効果のあるリンデンにしてみました。少しは落ち着かれましたか?」


「……ありがとうございます。お陰でだいぶ落ち着きました」


「それで、何があったのですか?」


 心配して尋ねてくれる館長さんに、森での野外実習からサラマンダーに襲われた今までのことを説明する。


「それで、もう無我夢中で(ゲート)を開いて……」


「なるほど。それであのように騒がしいご様子だったわけですね」


 やむを得ない事情があったことに一応納得してくれた館長さんだけど、今後はこのようなことがないようにと注意されてしまった。

 いや、好きでやったわけじゃないから!

 わたしだって、ニ度とこんな経験はしたくない! ……と、考えたところで、現実を思い出す。

 そうだ。状況は何も変わっていない。

 あちらの世界のレイは、未だサラマンダーと戦っている……一時停止中だけど。

 わたしだって、向こうに戻ったら、あの危機的状況の真っ只中だ。


「ちなみにですけど、このままわたしが向こうの世界に戻らなければどうなりますか? レイの時間はずっと止まったままになっちゃうんでしょうか?」


「そうですねぇ……。まず、“あちらの時間が止まったままになる”という表現は適切ではありませんね。

 そもそも、莉子様がこちらに来たからといって、あちらの時間が停止するわけではございません。

 単純に、当図書館と外の世界に時間的な繋がりがないというだけです。

 例えるなら、莉子様があちらの世界での物語を読んでいる途中で、ページに栞を挟んで別の本を読むという感じでしょうか。物語の中に図書館での場面が挿入されるのではなく、そもそも別の本なのです。

 莉子様が別の本を読もうが、物語の続きを読もうが、元々ある物語は何も変わりません」


「なら、わたしがこのまま戻らなかったとしたら……」


「その場合には、あちらの感覚としては、莉子様が戦闘の最中に突然消えてしまった、という形で物語が続くだけです」


 う〜ん、そうなると、レイの状況は何も変わらないから……わたしがレイを見捨てたことになるのか。

 でも、そもそもわたしは戦力外だし、足手纏いが消えた方がレイは助かるかも……まぁ、悲しんではくれると思うけど……悲しんで、くれるよね?


「……ただし!」


 わたしが突然いなくなったら、レイはどう感じるんだろう? なんて考えていたわたしは、背中に突然の悪寒を感じて、黒猫館長さんの目を凝視してしまう。


「莉子様が本の蒐集(しゅうしゅう)をせずにこのまま当図書館に引きこもることは、明確な契約不履行に当たります。その場合には、莉子様には相応のペナルティーをお支払いいただくことになりますが」


 黒猫館長さんの雰囲気が……怖い。


「ぺ、ペナルティーというのは……?」


「知りたいですか?」


「いえ! 結構です! ちゃ、ちゃんと本は集めますから!」


「はい、そうしていただけると、当図書館としても大変助かります」


 館長さんのいう“ペナルティー”っていうのが一体なんなのか……? 気にならないわけじゃないけど……。

 この話題には、触れてはいけない気がするんだよね。

 大体、わたしだって契約違反をするつもりはないのだ。

 色々あってつい忘れちゃってたけど、わたしだって異世界本の蒐集(しゅうしゅう)は続けたい。

 それに、やっぱりレイをあのまま見捨てることなんて、絶対にできない!

 そのためには……何か対策を考えないと。


「あの、館長さん。あちらの世界の、レイたちの様子を見ることってできませんか?」


「可能か、不可能かで言いましたら、もちろん可能ですが」


「なら、今のあちらの様子を見せてください」


 状況が変わっていないのはわかっている。

 ここから見るあちらの状況は、多分、動画を一時停止したような感じだと思う。

 それでも、わたしが逃げてきた時のレイや周りの状況が確認できれば、何か作戦を立てられるかもしれない。

 まずは現状の把握が最優先で……


「それは、当図書館のサービスには含まれておりません」


「えっ?」


 館長さんからの思いもよらないつれない返事に当惑してしまう。

 だって、館長さんも今の状況は理解できているはず。

 不可能だっていうなら仕方がないけど、可能なのにサービス外って……。


「えっと、わたしがここに来た状況は話しましたよねぇ? だったら」


「いえ、むしろ、そのような状況であれば尚更、外の景色を見られるようにする必要性を感じられません」


 館長さん曰く、図書館では外の(しがらみ)など忘れて読書を楽しんでもらいたい。

 図書館から外の世界が見えるようにするというのは、利用客の本に対する集中力を削ぐもので、全く必要性を感じないとのこと。

 いや、そういう問題じゃないでしょう!?


「いや、でも、それで向こうの状況が把握できなくて、(ゲート)を潜った瞬間にサラマンダーに殺されちゃうようなことになったら、それこそ本の蒐集(しゅうしゅう)もできなくなっちゃいますよねぇ?」


「まぁ、その場合は仕方がありません。契約者があちらで魔物に襲われて命を落とすことはよくありますから」


「そんな!」


「冷たいようですが、私の目的は理想の図書館を作ること。莉子様と契約したのもそのためです。

 莉子様の命を守るために当図書館を不本意な形にするのは、私としては本末転倒なのですよ」


 うわ〜、この黒猫、人命よりも図書館が大事って言い切ったよ……。

 なんとなく、知ってたけどね。

 ……なら、ちょっと攻め方を変えてみよう。


「理想の図書館ですかぁ。わたしには、利用客の安全に全く配慮しない問題有りの図書館に見えますけど」


「……どういうことでしょう?」


 あっ、館長さんの頬がピクってなった。

 自慢の図書館にケチをつけられて内心お怒りのご様子。


「だって、扉の向こう側が見えないと、出るお客さんと入るお客さんがぶつかったりして危ないですよね」


 わたしは、館長さんに日本の図書館やその他の公共施設、デパートなんかの入り口を例に挙げて説明していく。

 どこも、大抵扉は透明なガラスになっていて、扉の反対側から近づく人が見えるようになっている。

 あれは、出会い頭の衝突を防ぐためだと思うんだよね。


「確かに読書に集中できる快適な環境も大切ですけど、せっかく気分良く読書を楽しんで帰ろうとしたら、扉のすぐ外にいた魔物と衝突なんて、危険防止の配慮に欠けてますよね?」


 わたしの言い分に考え込む館長さん。

 それだけではなく、目の前の空間には懐かしい日本の様々な図書館が、立体映像のように出たり消えたりしている。

 そして、しばらくして……。


「ふむ、確かに莉子様のおっしゃる通り、当図書館は利用客への安全面の配慮に欠けていたようですね」


 館長さんはそう言うと、わたしの要望を確認しつつあちらの世界の様子を見えるようにしてくれた。

 わたしがやって来た扉の前に立つと、扉を中心に向こうの世界の様子が立体映像のように周囲に広がる。

 目の前には、ただ鬱蒼とした森が広がるのみだけど……これは、わたしとサラマンダーの間に開いた扉にわたしが飛び込んだからで……つまり、サラマンダーはわたしの後ろ……。


「ひっう!?」


 サラマンダーの尻尾が、わたしに当たってる!?

 いや、これは、正確には扉のすぐ裏側の位置にサラマンダーの尻尾があるってだけで、尻尾がわたしに当たっているわけじゃない。

 あくまで立体映像だ。

 でも……。

 つまり、今の状況で向こうの世界に戻ると、扉ごとわたしは背後からサラマンダーの尻尾に薙ぎ払われるってことで……。


「死んだな……」


 これはもう、完全に詰んでいる。

 出た瞬間に地面に伏せる程度じゃ、回避できそうにない。


「ふむ、これなら莉子様の言う出会い頭の事故は回避できそうですね」


「えっ!?」


「扉の前には何もいないじゃないですか。ただの森が広がっているだけです」


 いやいやいや、後ろにいるでしょ!? サラマンダーが!?

 そう抗議するわたしに黒猫館長さんが説明するには……。


「えっ? 破壊不能オブジェクト?」


「ええ、ご存知のように、当図書館はあちらの世界とは完全に切り離された存在です。それはこの扉も同じこと。

 あちらの世界にあってあちらの世界の理とは異なるものです。故に、あちらの如何なるものからの干渉も受けません」


「えっと……つまり?」


「この状況を見る限り、この蜥蜴(トカゲ)の尻尾は莉子様に当たる前に扉にぶつかりますから、莉子様には届かないでしょう」


「おおお!」

 

 よかったぁ〜、助かったよ〜。

 正直、もうダメかと思った……ん?


「あの、もう一度確認したいんですけど……」


 わたしはこの図書館の扉、わたしの加護(ギフト)について館長さんに再度確認していく。

 曰く、あちらの世界のあらゆる場所に(ゲート)は開くことができる。

 扉の大きさは、わたしの意思で自由に変えることができる。ただし、図書館の扉として不適切なサイズにはできない。つまり、この図書館の天井より高い扉とかエントランスに収まりきらない大きさとかはダメってこと。

 出せる扉の数は1つだけ。ただし、出し入れに回数制限はなく、扉を出したからといって必ずしもその扉を潜らなければいけないわけではない。



「これなら、なんとかなるかも……」


 いや、でも、これだけじゃダメだ。

 

 

 

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