44、襲来
「起きろ!!」
それは真夜中過ぎ。
早めの順番で夜の見張りを終えたわたしは、毛布にくるまり惰眠を貪っていた。
いや、最初はちょっと緊張してたんだけどね。
荷物になる人数分のテントなんて勿論なくて……。
周囲にたくさん男の人がいる中で木に持たれて眠るとか!
でも、横で同じように眠るレイの体温は心地よくて……。
今日は一日中山歩きで疲れてもいたんだと思う。
思いのほか眠りは深かった。
「う〜ん……ないよ、もう!」
「リコ、敵だ! 目を覚ませ!」
レイに強く肩を揺さぶられて、わたしの意識が急激に覚醒していく。
「えっ!? 敵? えっと……魔獣!?」
慌てて立ち上がったわたしが周囲を見回すと……。
みんなが同じ方向を見ている。
「チッ!……でかいな。この魔力は……」
「恐らく、サラマンダーでしょうね。しかも、1体じゃない」
ガイ先生とガーネット先生の会話に恐慌をきたす不良冒険者たち。
「サラマンダーが複数だと!?」
「おい! 冗談じゃねえぞ!!」
「なんで、こんなところに……」
「そんなの、無理だろ!?」
サラマンダーは樹海の南東部に棲息する魔物でランクはA。
全長5メートルを超える凶悪な竜種だ。
その皮膚は耐熱性の高い硬い鱗で覆われており、並の剣戟など簡単に弾き返す。
おまけに、高温で熱せられた灼熱の鱗は、触れたものを瞬時に燃え上がらせるという。
高ランクの魔物の少ない樹海南東部において、まさに最強クラスの魔物。
ただし、その棲息地は樹海の奥深くで、間違ってもこんな街近くに現れるような魔物ではない、はず。
「落ち着け!」
ガイ先生の声が響く。
「野外実習はひとまず中止だ。現時点より、Aランク冒険者パーティーのガガが指揮を取る!」
今まで教師の立場で一歩引いた位置にいたガイ先生の宣言に、もうこれは訓練じゃないと思い知らされる。
「基本戦闘は俺とガーネットが受け持つ。お前らは戦闘力のないリコを守りつつ自衛に徹しろ。
……ただし、もしサラマンダーが3体以上いた場合には……お前らにも闘ってもらう。
その場合には、訓練通りレイを指揮官として集団で闘え。リコは戦闘に参加する必要はないが、自分の身は自分で守れ。
……レイ、お前の立場は理解してるが、これはどうしようもない。悪いが闘ってもらうぞ」
そんなガイ先生の言葉に、レイが黙って首肯する。
公にはされていないけど、ガイ先生とガーネット先生はレイの護衛だ。
実のところ、この講師の仕事もレイをこっそり護衛するための隠れ蓑に過ぎない。
何よりも優先すべきはレイの安全のはずで……。
そのレイに戦えっていうのは、つまり、それだけ先生にも余裕がないってことだ。
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