43、聖教会の影 〜冒険者ギルドマスター視点〜
(冒険者ギルドマスター視点)
「……わかった。教会については、こちらでも留意しておこう」
『そうしてください。最近の聖都はどうもきな臭いですから。
……ところで、姉様は元気にされてますか? まさか、お怪我などされてませんよね?』
「ああ、王女殿下なら元気にやってるよ。新しいお友達もできたみたいで、なんだかんだ楽しくやってるようだぞ」
『……それって、男ですか?』
「いや、女だ。心配するな。俺も確認したが、無害そうな嬢ちゃんだった」
『そうですか。なら、安心ですね……いや、でも、他の冒険者に襲われでもしたら……』
「大丈夫だ。王女殿下には念のため護衛もつけている。大体、あの王女殿下を、そこいらの奴にどうこうできるわけないだろ」
『そ、そうですね! 姉様はお強いですし、たとえ相手が竜種だろうと、そうそう遅れを取るようなことはありません!』
「いや、さすがに竜種はきついだろうが……」
『そんなことはありません! 姉様なら竜種の一匹や二匹……』
「ああ、わかった、わかった。もう切るぞ。お前も宰相に目をつけられないよう気をつけろよ」
王都のウィル殿下との秘匿通信を強引に切る。
あのシスコンの姉話に付き合っていては、時間がいくらあっても足りん。
あいつはあいつで、影から宰相を牽制するのに忙しいはずなんだが……。
自分は無力で無害な傀儡の王子のふりで面倒事を全て宰相に押し付け、結果的に宰相の動きを封じちまってる。
あの宰相は、自分が国を動かしているつもりで、ウィル殿下の手のひらの上で踊らされているわけだ。
文武に優れた姉王女の後をついてまわる幼い弟王子。それが、世間一般でのウィル殿下の評価だが……。
あの王子が、そんなかわいいタマか!?
あの宰相は、レイア王女殿下さえ排除できれば、簡単に国を乗っ取れると考えていたんだろうが、むしろ恐いのは王子様の方だろ。
それに気づけなかった事が、宰相の敗因だな。
と、まぁ、そんなことより……。
こちらの方が余程重要だな。
冒険者ギルドマスターの執務机の上に広げられた大量の報告書。
最近売り出された魔物避け薬の普及に端を発するエデンのベテラン冒険者の減少。
それと時を同じくして増え始めたエデン周辺での高ランク魔物の目撃情報。
そして、そのタイミングを狙ったかのような聖教会からの協力の打診。
おまけに、問題の魔物避け薬を販売している商会のバックには、聖教会がいるらしいという報告まである。
……偶然か?
以前から、聖教会支部をエデンにも置きたいという話はあった。
冒険者の街であるエデンには、常設の軍は存在しない。
何か問題があれば、冒険者が一致団結して対処する。それがこの街のやり方だ。
元々冒険者の数が多いことに加え、始まりの街エデン周辺には高ランクの魔物は寄り付かない。
そんな事情もあり、エデンには王都や魔工都市ほど強固な城壁もなく、聖都のような結界もない。
その点を危ぶんだ聖教会が、エデンに聖教会の支部を置き、街を結界で守ると共に聖騎士をエデンに常駐させてはどうかと言ってきている。
確かに、そうなればエデンの守りは盤石だ。
だが、それには少なくない代償を伴う。
まず第一に、エデンという街の安全が聖教会に依存しちまうことになる。
何かあれば自分たちで街を守る。この気概が冒険者による冒険者のための街という自治の精神を支えている。
聖教会に安全面で依存するってことは、冒険者によるエデンの自治権を明渡す結果にもなりかねない。
それに、もっと即物的な問題もある。
そもそも、なぜ教会はそこまでしてエデンに支部を置きたがるのか?
話は単純で、ポーションを売りたいからだ。
現状、他国から来た商人は、ここエデンで冒険者を雇い、過酷な道程を経て聖都まで赴き、そこでやっとポーションを手に入れることができる。
ポーションの生産は聖教会にしかできないからだ。
したがって、聖都以外でのポーションの価格には、少なくない額の輸送コスト、中間マージンが乗ることになる。
だが、ここでエデンにも聖教会の支部ができれば……。
他国の商人たちは、わざわざ大樹海での過酷な旅をせずとも、直接この国の玄関口であるエデンでポーションを仕入れることができるようになる。
恐らく、今とは比べようもない量のポーションが、他国に普及することになるだろう。
そして、それは同時に、他国への聖教会の影響力の拡大も意味する。
おまけに、ポーションを求めてエデン〜王都〜聖都というルートを移動する商人がいなくなれば、当然その護衛の仕事も無くなることになる。
もちろん、そのルート上の旅人相手の商売にも大きな影響が出る。
正直、冒険者にとっても国にとっても、経済的損失が大き過ぎる。
儲かるのは教会だけだ。
そんな話、受けられる訳がない!
受けられる訳がないんだが……ちょっと不味い雰囲気だな。
Aランク魔物であるサラマンダーの目撃情報が飛び込んできたのは数時間前。
無いとは思いたいが、もしこの街が複数体のサラマンダーに襲われた場合、今のこの街の冒険者のレベルでは手に負えない可能性が高い。
しかも、その状況を待っているかのように、教会の聖騎士の一部隊が街道の魔物駆除の奉仕活動の名目で、王都近郊まで出張ってきているという。
さっきの通信でウィル殿下がそう言っていた。
狙いは間違いなく教会の設置。
危機的状況で聖騎士が助けに入り、保護の名目で聖騎士の駐留と結界の設置を認めさせる。
まぁ、そんなところだろうなぁ。
さすがに、サラマンダーの襲撃までが聖教会の差金ってことはないだろうが、この状況をきっちり把握した上で、うまく利用してやろうと考えているのは間違いないだろう。
さて、どうしたものか……。
虎の子のAランクパーティーのガガは王女様の護衛に出しちまってるし、他にサラマンダーの相手ができそうな冒険者に心当たりもない。
1匹だけなら俺が出張ってもいいが、複数となるとさすがに厳しいな……。
今からでも呼び戻すか……。
サラマンダーの目撃地点からはだいぶ離れているとはいえ、この状況下での新人冒険者の野外実習は危険過ぎる。
1日早いが、夜が明けたら伝令を出して、野外実習中の新人冒険者は全員戻させることにする。
ガイにガーネット、それに他の引率の指導教官たちが戻れば、たとえサラマンダーが複数で押し寄せても、まぁ何とかなるだろう。
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