41、図書館に行きたい
日が西に傾き出した所で素材採取の実地研修は終了し、わたしは夕食の準備を開始する。
夕方にはまだ時間があるけど、レイが言うにはこれが普通みたい。
当たり前だけど、街灯一つない森の中では、陽が沈んでしまうと何も見えなくなってしまうからね。
野営の準備も食事の支度も、全て明るいうちに済ませておかないと、色々と大変なことになるらしい。
多分だけど、停電中に懐中電灯の灯りを頼りに料理をする感じだと思う。
うん、焚き火の火があればって思ってたけど、よくよく考えるとすご〜く面倒な気がする。
それに、今回の料理はわたしを含めて8人分。
しかも、そのうちの5人は男だ。
一人暮らし女子の夕食とは、作る量からして全然違う。
いくら野営とはいえ、十分な食材があるのなら、かなりの量を消費するであろうことは想像に難くない。
「まずは、肉の下拵えだよね」
ロース、肩ロースの辺りを串焼き用とボタン鍋用に分けてカットしていく。
ワイルドボアって、大雑把に言ってしまえば大きなイノシシだからね。
先日ゲットした『外でもできる簡単クッキング』にも、オーク肉(豚肉)と比べて筋肉質で硬いって書いてあった。
よく言われる肉の臭みについては、素早く適切な解体処理がされていれば問題無いってことで、一流解体職人たるわたしが現地で狩りたての個体をノータイムで処理したのだから、問題などあろうはずがない。
串焼き用の方は肉が柔らかくなるようスライスした玉ねぎで漬け込み、ボタン鍋用の方は薄くスライスしていく。
ワイルドボアとツノうさぎはこの辺りの森では定番の魔物だって聞いてたから、ボタン鍋用の味噌は準備してある。
あとは火を通せば完了という状態に下準備を終えた辺りで、薄らと西陽が差し始めた。
「「「「うめ〜〜!!」」」」
肉汁の滴る串焼きに、ほっこり温かいボタン鍋。それに、おにぎりもある。
転生者の影響の強いノーム王国では、パン以外にもご飯や麺類も普通に食べられている。
魔石に封じた水魔法でお手軽に水を確保できるこの世界では、パンよりも米の方が嵩張らずに携帯できるため、野営での食事は米の方が一般的らしい。
「うん、本当に美味しいな。リコが料理上手で本当に助かった」
レイも満足そうで何よりだ。
そんな感じで好評のうちに夕食も終わって、皆がまったりした所で、わたしはちょっとだけ席を外させてもらうことにする。
ちょっとお花摘みに……と見せかけて、実は図書館へ。
野外実習はあと2日もあるのだ。
せっかくなら、手に入れた本で薬草関連の予習をしておきたい。
そう思ったんだけど……。
「ああ、私も一緒に行こう」
「なら、私もご一緒しようかしら」
そう言って、レイとガーネット先生も付いて来ちゃったよ!
女子はおトイレにはみんなで行くもの……ではなくて、これは野営する上での常識的行動らしい。
排泄時というのは、人間が一番無防備になる瞬間。
そんな時に万が一魔獣に襲われでもしたら、たとえ一流冒険者であってもツノうさぎ程度に遅れを取ることだってあり得る。
だから、排泄時、特に女性の場合には、最低でも2人ペアで用足しに行くのは当然のことらしい。
特にわたしの場合、自分の時は勿論、相方がなさっている時にも守りにはならないわけで……。
王女様の隠れ護衛であるガーネット先生としても、わたしとレイだけで行かせるわけにはいかなかったみたい。
(全然、一人になれない……)
その後も何度か一人になれるチャンスを伺ってみたんだけど、これが難しくって……。
戦闘力皆無のわたしが軽はずみな行動を取らないよう、レイは勿論のこと、ガイ先生やガーネット先生も目を光らせている。
これもある意味当然で、大きかったり魔力が強かったりの魔物ならともかく、ツノうさぎやゴブリン一匹程度なら、こっそり近づかれてもすぐには気づくことができない。
まぁ、その程度の魔物なら普通の冒険者なら十分に対応できるわけなんだけど……。
体力、戦闘力が子供並みのわたしの場合、それが命取りにもなりかねない。
ちょっとしたことでも大怪我をしてしまう小さい子供から目が離せないのと同じ理由で、レイや引率の先生方はわたしを自由にはさせてくれないわけで……。
これは帰るまで無理かなぁと諦めかけた所で、荷物の保管や女性の着替えのためにと張られたテントが目に入る。
日本でも見た1〜2人用くらいの大きさの小さなテントだけど……。
テント内の荷物を取り出すていで身を屈めてテントの中に入ると、入り口の布をしっかりと閉じて、図書館の扉を呼び出してみる。
ただし、イメージは小さな扉。
身を屈めれば何とか通れるくらいの、童話のうさぎが使いそうな小さな扉をイメージする。
だって、ここテントの中だからね。
いつもの普通サイズの扉だと、テントを壊してしまいかねない。
扉は好きな場所にイメージ通りに開けるらしいから、狭いテントの中でも大丈夫なコンパクトな扉を意識して開けば、問題無いと思うんだよね。
実際、寮の狭い部屋と外で開いた時とでは、微妙に大きさが違っていた気がするし……。
と、目の前には、1メートルもないくらいの子供サイズの青く光る板状のものが現れる。
うん、大きさはだいぶ小さいけど、いつもの扉だ。
わたしはレイが様子を見に来たりしないうちに、さっさと四つん這いになって図書館への扉に突進していった。
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