3、わがままな神々
「あの、いくらそちらの都合で異世界に行かせるからって、チート能力っておかしくないですか?」
ただの平凡な一般人が、偶々神様の手違いで死んじゃったからって、非常識なチート能力をもらって異世界無双。
確かにそういう話はわたしも大好きだし、読んでいて気持ちがいい。
わたしにとっての精神安定剤だ。
でも、だからって、それが現実だって言われたら、そうそう受け入れられるものじゃない。
それって、神様がその辺を歩いている人に迷惑かけちゃったからって、その人を総理大臣にしたり大企業のトップにしたり、核兵器の発射ボタンを与えたりするのと変わりないよね。
地球でそんなことされたら、わたしは全力で神に抗議する!
いくら不慣れな異世界だからって、限度ってものがあるでしょう。
生活に困らない程度の支援ならともかく、国王になったり教祖になったり、現代地球の便利道具を再現したりって……。
そんなの、絶対におかしいと思う。
間違いなく裏がある。
ただより高いものはないのだ。
「はて、そんなにおかしいでしょうか?」
「そりゃおかしいですよ。そんなことしたら、世界がメチャクチャになると思います」
なんでもないことのように言う黒猫館長さんに、わたしの方がついイライラする。
「いや、本当に大丈夫ですよ。
他の世界でもよくやることですし、地球でもよくやってましたから」
「そんな簡単に大丈夫って、えっ? 地球でも?」
「ええ、莉子様の住む地球でも、有史以前の神話の時代には、別の世界からたくさんの転生者がやって来てましたよ。
地球より数千年は先の時代を生きる方々が、わたくしどもが与えた“チート能力”を使って、色々とやらかしていらっしゃいました」
「……それって、地球の神話に出てくる神様たちが、別の世界から来た転生者だったってこと?」
「まぁ、そういうことです」
館長さんが言うには、こういうことらしい。
館長さんたち超越者(館長さん曰く、神ではないらしい)は、地球以外にも多くの世界を管理していて、各々の世界は文明レベルがだいぶ異なるみたい。
その中で、わたしが住む地球は文明レベルが安定域に達していて、館長さんたちが直接干渉すると、多くの不都合が生じてしまうらしい。
放置して自主的な成長を促す段階なんだって。
「莉子様がおっしゃる通り、今の地球にチート能力なんてものを持ち込んでも、百害あって一利なし。いたずらに社会を混乱させるだけで、地球人類が得るものなど何もないでしょう。
ですが、今回莉子様に行っていただく異世界のような、初期文明レベルの世界では事情が異なります。
チート能力、奇蹟の力は尊敬や畏怖とともに容易く受け入れられますし、超越した力に対する憧れは、現状を打開しより高みを目指す原動力となります。
実際、今のノーム王国の主要な輸出品の一つが、魔道具と呼ばれる魔力を動力とする道具類ですが、これらは全て転生者が持ち込んだチートアイテムである神器や、転生者がチート能力で生み出したアーティファクトと呼ばれる高性能魔道具が元となっています。
勿論それは魔道具に限らず、魔法や戦闘技術、芸術や文化、政治、経済、思想といったところまで、転生者が与えた影響は多岐にわたります。
また、そうして発展していったノーム王国の高度な文明は、ゆっくりとノーム王国以外の国々にも浸透していっております。
そうして世界全体の文明レベルが人類が自立歩行できるレベルに達しましたら、転生者やノーム王国の存在は歴史の闇に消えていくことになりますが……。
まぁ、少なくとも、それはまだしばらく先のことでございます。
莉子様には安心して異世界ライフを楽しんでいただけるかと思いますよ」
う〜ん、最後にちょっと怖い事言ってた気もするけど、一応納得できる、かな。
空を自由に飛ぶ神話の神々に憧れた人類が、数千年の時間をかけて飛行機を発明したと思えば、館長さんの言っていることも分かる。
ついでに、世界中の神話に残る神様たちの、あの非常識、わがまま、自分勝手具合の謎も解けた。
ハーレム、逆ハーレムは当たり前。個人的な理由で都市や国を滅ぼしたと思えば、奇蹟を起こして人類を導いたりもしたり……。
神話ってどれも人間臭いなぁとか思ってたけど、あれらが全てふつうの転生者の行動だと思えば納得だ。
偶然すごい力を手に入れて、ただ異世界ライフを楽しんでねって言われただけなんだから、そりゃあ、多少わがままにもなるよね。
別に、彼らに全人類を導かなけれいけない使命なんてないんだから、好きな相手は助けるけど他は知らん、てなるのも当然だと思う。
きっと、わたしでもそうする。
「……一応、納得しました。
チート能力を持たせてただ転生者を送り込むことにも、文明発展の起爆剤とするという超越者なりの考えがあるということですね」
館長さんは黒猫の外見のせいか、多少腹黒に見えなくもないけど……。
人類を進歩発展させるために色々と考えた上での行動だということは理解できた。
超越者のくせに妙に腰が低いのが気になるけど……。
そんなことを考えていると、
「まぁ、建前なのですがね」
「えっ?」
黒猫館長さんがそんなことを言い出して……。
「正直に申し上げれば、わたくしを含めた超越者たちには、各々の目的があります。
こう言っては語弊がありますが、これは遊戯、趣味なのですよ」
そう言って教えてくれた超越者たちの真の目的?は、本当に単なる趣味だった。
自分が考えたチート能力が、どのくらいすごいか試してみたい。
自分が作ったチートアイテムが、どういう使われ方をするのか見てみたい。
自分が与えたチート能力で、送り込んだ転生者がこちらの狙った通りの結果を出せるのか賭けてみよう。
基本はこの世界を破滅させない。人類を(結果として)より良い方向に導く。そういう縛りルールのようなものはあるみたいだけど、その枠の中でやっているのは単なるゲームだ。
まぁ、いいですけど。
愛する人類のために、とか言われるよりよっぽど信用できる。
「先程は見聞を広めてほしいとかおっしゃってましたけど、館長さんはわたしを異世界に送り込んで、具体的には何をさせたいんですか?」
少し緊張してそう尋ねるわたしに、館長さんは言った。
「莉子様には、異世界でわたくしの図書館に収める本を集めてきていただきたいのです!」
ちょっと、目が真剣だ。
嘘は、ついてないと思う。
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