29、ノーム王家流正統武術
「館長さん、こんばんは」
レイと別れて自室に戻ったわたしは、早速扉を開いて図書館を訪れた。
「いらっしゃいませ、莉子様」
相変わらずの礼儀正しさで、優雅に一礼する黒猫館長さん。
この部分だけ切り取ると、本当に館長というよりは執事だよねぇ。
今度から、「お帰りなさいませ、ご主人様」って言ってもらおうかな……。
いや、いや、いや、そもそも館長さんは別に使用人ってわけでもないしね。
それどころか、多分、神様的な存在だから!
給仕姿が様になり過ぎていて、つい忘れそうになるけど……。
そんなことより!
「新しい本が入ったって聞いたんですけど、見られますか?」
「ええ、こちらですよ」
そう言って差し出してくれた本は……厚っ!
なんか、百科事典みたいなんですけど……。
「すぐにお読みになるのでしたら、席までお持ちしましょう」
そう言って重そうな本を運んでくれる館長さんは、どこまでも紳士だ。
わたしよりも小柄で、しかもあの肉球で、一体どうやってあんな厚い本を持っていられるのかは謎だけど……。
まぁ、今更だよね。
いつもの席に着いたわたしは、早速お目当ての本を開いてみる。
『……ノーム王家流正統武術とは、初代国王ユーヤによって編み出された剣術と魔術を基礎とした総合武術であり、その技術は代々ノーム王家の直系王族にのみ伝承され今日に至る。ただし、その影響はノーム王家のみにとどまらず、この世界の様々な武術魔術流派に多大な影響を与え続けている。ノーム王家流正統武術は、まさにこの世界における戦闘技術の源流と言えるだろう。実際、ノーム王国における武術、魔術の発展には……云々』
ふむ、ふむ、なるほど。
ノーム王家流正統武術自体は王族のみに伝えられるけど、その技術が完全に秘匿されているってわけでもないんだね。
まぁ、当たり前か。常に一対一の命を賭けた決闘とかならともかく、王族だったら当然周囲に人もたくさんいるだろうし、目撃者ゼロなんてあり得ないよね。
王家にしても、特に隠す気はないみたいで、王族の中には城の近衛兵に直接武術指導をする人なんかもいたみたい。
そういえば、『ノーム王国建国記』の中でも、ユーヤが仲間に剣とか魔法とかを教えていたような……。
それまでは、この世界に“剣技”とか“魔術”みたいなものはなくて、剣も魔法も全ては感覚任せ。やってることは魔物と大差ないような力任せの攻撃だったんだよね。
そこにチート武器を持った転生者ユーヤが現れて、仲間たちに剣とか魔法とかの使い方を色々と教えていくようになるのだ。
もっとも、それは別にユーヤが特別優秀とか武術の達人だったとかではなくて、全てはユーヤのチート武器のお陰なんだよね。
英雄王の剣……転生者ユーヤが転生特典で手に入れたチート装備、いわゆる神器だけど……。
実は、これ、インテリジェンスウェポンだったりする。
しかも、超優秀!
戦闘においては例の憑依機能も駆使しながら剣や魔法のアシストをしてくれるし、平時では日常生活でのトラブルから政治向きの話まで、色々とアドバイスしてくれるのだ。
いわゆる、影の参謀的な存在。
この世界のことを何もわからないユーヤが、一代で大樹海を切り開き王国建国まで成し遂げられたのは、このチート装備からのアドバイスによるところが大きいと思う。
そう、思い出した。
あの剣が教えてた剣技とか魔術とかが、ノーム王家流正統武術ってことか……。
そういえば、ユーヤの仲間の剣士がユーヤの剣技を真似してたり、魔法士がユーヤの剣が生み出す魔法陣を一生懸命描き写したりしてたねぇ。
あんな感じで、王族がチート武器から繰り出す技を見て、憧れて、この国の武技は発展していったわけか……。
『……このように、今日では、“英雄王の剣”によってもたらされた武技は、様々な形でこの世界に広まっている。しかしながら、その中で唯一“ノーム王家流正統武術”と呼べるものは、“英雄王の剣”の声を聞き、剣より直接の指導を受けた、ノーム王家直系の者が扱う武技のみである。本書では、その全てを余すことなく読者諸氏に伝えていきたいと思う次第である』
おぉ〜、これはすごい!
本来なら王族のみが習える門外不出の技術を、こっそり習えちゃうわけか……。
それって、事実上、“英雄王の剣”の戦闘技術に関する能力をコピーしちゃったのと同じじゃない?
きっと、この本にも憑依機能とかVR空間での練習ステージとか付いてるだろうし……。
つまり、『ノーム王国建国記』のユーヤが使ってたのと同じ技を、わたしが使えるようになるってこと!?
もしかして、最強じゃない?
確か、物語の中の“英雄王の剣”は、ユーヤの子どもとか直系の子孫とも会話はできたけど、いわゆる憑依機能は使えなかったはず。
基本、転生特典の神器は転生者本人以外による使用は不可、または大幅な機能制限がかかっていた気がする。
ということは、今の王族は剣から口頭による指導は受けられるけど、直接手取り足取りの指導は受けられないってことだよね。
そもそも、今も“英雄王の剣”が問題なく現ノーム国王に受け継がれ、正常に機能しているかもわからない。
そう考えると、このわたしこそがノーム王家流正統武術の正統な継承者(予定)ってことじゃないかなぁ。
講習が終わっても冒険者は無理かなぁって思ってたけど、これは意外といけるかもしれない。
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