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チート図書館を手に入れた転生女子は、家出王女と冒険者になることにしました  作者: Ryoko


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23/52

23、新しいお友達

 結局、利用時間ぎりぎりまで資料室で読書……勉強して、その後はレイと一緒にギルドの食堂で夕食を済ませ、同じくギルドの共同浴場で広いお風呂を満喫して、無事一日を終えた。

 

(大変な一日だったけど……なんか楽しかったなぁ)


 魔物に襲われそうになった時には怖かったけど、それ以外はなかなかに有意義な一日だった。

 ガイ先生の講義も資料室の本も興味深かったし、なによりレイともだいぶ仲良くなれた。

 こちらの世界に来てたった2日で、ここまで仲の良い友人を作れたのはラッキーだと思う。

 彼女は頼りがいもあるし、とても親切だ。

 実技指導ではずっとわたしを守るようにしてくれていたし、資料室でもわたしの読書に付き合ってくれていた。

 レイは自分も講義の復習をしたいとか言っていたけど、あれは絶対に嘘だ。

 多分だけど、この講習で習う程度のことは、レイは全て知っていると思う。

 だって、わたしや不良冒険者たちと違って、レイはガイ先生のどんな話にも全く驚いた様子を見せなかったもの。

 それどころか、もしかしたら、午後の実技指導の内容さえも既に知っていたのかもしれない。



『ああいう訓練は有用だよ。敵と遭遇した際に相手を恐れず冷静さを保つというのは、剣技や魔法を覚える以上に重要なことだからね。

 どんな剣の達人だって、敵を前にして身体が震えていたら、剣技もなにもあったもんじゃない。

 だから、新兵の訓練でも、最初は刃物に慣れさせるところから始めるんだ』


『ふぅん、やっぱりレイもそういう訓練とかしてきたの?』


『えっ?』


『だって、レイは全然魔物とか怖がってなかったし、朝だってあの冒険者たちをあっさり片付けてたし。

 なんか、只者じゃないって感じだったよ』


 そう、あの時のレイはとてもかっこよかった!

 いわゆる吊り橋効果なのかもしれないけど、わたしを背に不良冒険者や恐ろしい魔物の前に立ちふさがる姿はとても漢前(おとこまえ)で、彼女の背に(すが)るわたしはとても乙女だった……。

 そんな彼女は言う。


『……まぁ、そうだね。只者じゃないっていうのは大袈裟だけど、それなりの訓練はしてきてると思う。

 その、うちは父がずっと病気だったから、私が父に代わって魔物や悪漢から家族を守る必要があったんだ』


 完全無欠のヒロイン(ヒーロー)と見せかけて、実は苦労人?

 なんでもない事みたいに言ってるけど、女だてらに父親代わりって大変だよね。


『そうかぁ、大変だったんだね。

 それで今、ご家族は? お父さんの病気は良くなったの?』


『いや、父が先日亡くなってね。俗に言う跡継ぎ問題ってやつで、親戚に無理やり結婚させられそうになって、それでこうして逃げてきたってわけ』


『えっと、その、ごめんなさい……』


 レイの口調があまりにも普通だったから、レイが大変だったのもずっと昔の話だと思っていた。

 まさか最近父親を亡くしたばかりで、その上、意に沿わぬ結婚を押し付けられてやむを得ず今の状況なんて……。

 わたしも両親を亡くしたのは早かったけど、それはもうずっと昔の話だし……。

 祖父母は高校卒業まで生きていて、わたしがひとり立ちするまでしっかりと面倒を見てくれていた。

 勿論、無理やり結婚させられそうになったり、生き方を強要されたりなんてこともない。

 今、ここにいるのだって、完全に自分の意志だ。

 父親を亡くしたばかりで、自分の居場所まで奪われてって……レイ、飄々とし過ぎでしょう!


『いや、本当に気にしなくていい。

 正直、父が長くないかもという話はずっと前からあったし、私も覚悟はできていたんだ。

 うちはそれなりの家だったから、自由恋愛なんて初めから考えていなかったしね。

 唯一心配だったのが、父が亡くなり私が嫁いだ後の弟の処遇だったのだが……。

 それも、どうやら私の取り越し苦労だったみたいでね……』


 弟さんの話が出たところで、レイが初めて寂しそうな表情を見せる。


『弟さんは、今は?』


『あぁ、家で元気にしている。

 今頃は厄介な仕事を全部面倒な親戚に押し付けて、自分は無力な子供のフリをしながら上手くやっているんじゃないかな』


 その表情に寂しさは見られど、心配する様子は見られない。

 弟が姉離れして寂しいって感じかな。


『そうなんだぁ、弟さんって今いくつなの?』


『ん? もうすぐ11歳になる』


 えっ?

 それって、今10歳ってこと!?

 全然子供だよ!?


『それ、大丈夫なの?』


『ああ、問題ない』


 驚くわたしにレイが説明してくれる。

 そもそもの話、レイに家を出るように勧めたのが弟さんなんだって。

 家庭内の問題だからあまり詳しくは教えてくれなかったけど、父親の死で混乱するレイに対して、弟さんからの提案は実に周到で理にかなったものだったという。


『私は父に代わってずっと弟と家を支えているつもりだったのだがな。

 結局のところ、目の前の事に対処するのが精一杯で、先を見越した判断など(ろく)にできていなかったんだ。

 弟は、自分と我が家の状況を冷静に見定めた上で、父が亡くなった場合に備えて着々と準備を進めていた。

 弟の計画を聞いた時には、愕然としたよ。

 そして、思った……。もう弟は、(わたし)に守られるだけの幼い子供ではないのだってね』



 そう言って寂しそうに微笑うレイの姿が、初めてわたしより年下のふつうの女の子に見えて……。

 わたしは思わず全裸でレイの背中に抱きついていた。

 いや、これ大浴場での話だし!

 湯気に当てられて少しぼ〜としてたし!

 特に深い意味はないよ!

 ただ、彼女がとても寂しそうに見えたから……。

 父親を失って、大好きな弟さんと離れ離れになって、自分が家を支えるっていう生き甲斐も失って……。

 彼女は強いけど、だからって辛くないはずがない。

 そんなことを考えていたら、つい体が勝手に動いてた……。

 幸い彼女に不快な様子は見られなかったし、「ありがとう」って言ってくれた。

 時間帯がズレていたお陰で、利用者が他にいなかったのもラッキーだった。


 ともあれ、色々あったけど、レイとの距離もぐっと近づいたし、こうして無事一日目を終えることができた。

 新しい本も入っていないみたいだし、ちょっと眠い。

 わたしは寝る前の読書を控えて、ベッドに直行した。


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