21、机上の空論?
ドガ〜ンッ!!! ドガ〜ンッ!!! ドガ〜ンッ!!!
Dランク魔物のワイルドボアの突進で鉄格子が捻じ曲がる。
ツノうさぎの時は、確かに動きは全然見えなかったけど、鉄格子から離れていれば危険はなかった。
でも、このイノシシは……。
成人男性が余裕で乗れそうな大きさの大型の獣が、何度も何度も鉄格子に激突する。
その度に、目の前の鉄格子が少しずつ歪んでいく……。
(頭、痛くないの!? もう止めようよ! 止めて下さい!)
「だ、大丈夫だよねぇ……?」
無意識に伸ばした手が、レイの服を握りしめる。
「多分ね」
落ち着いたレイの声に、少しだけわたしの気持ちも落ち着いた。
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「次、Cランクいくぞ」
ゴガ――ンッ!!! ゴガ――ン!!! ゴガ――ン!!!
ギシッ! ギシッ! ギシギシギシッ! ギシッ!
わたしなど軽く一飲みにできそうな巨大な蛇が、執拗に尻尾を檻に打ち付けてくる。
ガイ先生曰く、Cランクの魔物でジャイアントスネークと言うらしい。
いや、名前なんてどうでもいいから!
「だ、ダダ、ダイジョウブだヨねェ……?」
「……多分?」
涙目でレイの腕にしがみつくわたし。
不測の事態に対応すべく、真剣な顔でジャイアントスネークを睨みつけているレイ。
わたし達と同じく檻の中央付近に集まる不良冒険者たちも、黙ってジャイアントスネークを見つめているけど……足、震えてるよ。
わたしのように目に見えて怯えた様子は見せないものの、不良冒険者たちの顔色も蒼白だ。
ミシ、ミシ、ミシミシミシ、ミシ
尻尾でいくら叩いても埒が明かないと判断したのか、ジャイアントスネークはその巨体を活かして檻に絡みつき、さっきから締め上げにかかっている。
徐々に圧力を加えられ、悲鳴をあげる鉄格子。
先程のワイルドボアの攻撃で所々歪んでしまっている鉄格子は、きっと構造的にもかなり脆くなっているはずで……。
ピシャ――ン!! ゴロゴロゴロッ!!
ズズ――ン!!
もう限界!! そう思ったところでガーネット先生の雷撃魔法が放たれ、一撃でジャイアントスネークは沈黙した。
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「とまあ、大樹海の魔物は大体こんな感じだ。少しは俺の言っていることが実感できたか?」
そう言ってわたし達を見渡すガイ先生。
午前中の講義で不満そうだった不良冒険者たちは、すっかり元気をなくしてしまっている。
わたしも疲れた。
ちょっと時間は早いけど、もうさっさと寝たい。
「よし、今日はここまで。
明日も午前中は講義、午後は実技だな。
この後は自由時間だから好きにして構わないが、講習修了時には学科試験もある。
今日教えたことはしっかりと復習しておけよ。
あと、ギルドの資料室は講習生も自由に使えるから、分からないことや知りたいことは勝手に調べるように。
以上、解散」
今日の仕事はおしまいと、早々に訓練場を後にするガイ先生とガーネット先生。
「おい、どうするよ?」
「こんなの聞いてないぞ……」
「ちっ、飲みいくぞ!」
「そうだな、飲まなきゃやってられん!」
今日一日でBランクのプライドを木っ端微塵にされた不良冒険者たちが、ぎゃあぎゃあ騒ぎながら訓練場から連れ立って出ていく。
いや、そんな事はどうでもいい!
ガイ先生はさっきなんて言った!?
「リコ、君はどうする? 疲れたなら少し部屋で休んで……」
「資料室に行きたい!」
そんなの決まっている。
冒険者がギルドの資料室を自由に使えるのはガイドブックで知ってたけど、講習生も使えるのは知らなかったよ!
さっきまでの疲れも一気に吹っ飛び、わたしは早速ギルドの資料室を目指すことにする。
どうやら、レイも付き合ってくれるらしい。
一人だとまだ不安なのは確かだし、一緒に来てくれるのは非常にありがたい。
「なんか、レイまで付き合わせちゃってごめんね」
「いや、私も今日の講義の復習をしておこうと思っていたので、丁度良かった」
「そうなの? レイは全部知っていることみたいに見えたけど」
「まぁ、私はノーム王国の生まれだからある程度はね。だが、当然知らないこともある。
先生もしっかり復習しておけって言ってたしね」
そんな他愛のない話をしながら、レイと二人で資料室を目指す。
そうしてやって来た資料室は……思ったよりも広くないかも。
ざっと見た感じ、転生前のわたしの部屋の本よりも少ない。
多分、千冊ないんじゃないかなぁ……。
「……なんか、思ったより少ない」
「まぁ、ここは資料室であって図書館ではないからね。
置いてある本も冒険者に関するものだけだし、そもそも冒険者はあまり本から学ぼうとはしない」
確かにそうかも……。
講義でもらった教本には、こう書いてあった。
『ツノうさぎの攻撃は正面に限定されるため、まず対面しないよう位置取りに気をつけましょう……云々』
確かにその通りかもしれないけど!
その対処法を知っていたとして、森であのうさぎに遭って逃げ切れるところなんて全然想像できない。
見ると聞くとでは大違いだから、本の情報は当てにならないって考える冒険者の気持ちも分からなくもない。
それでも、知っていれば何かの役に立つこともあるし、それに何よりわたしは純粋に本が読みたい!
逸る気持ちを抑えて、わたしは資料室の書棚に突進した。
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