18、冒険者講習スタート
翌朝、宿の食堂で朝食を済ませたわたしは、集合時間に間に合うよう冒険者ギルドに向かった。
昨日申し込み手続きをした中央棟ではなく、直接西側の訓練棟の方に向かう。
西棟入り口の掲示板の前にはちょっとした人だかりができていて、みなが掲示板に貼られた冒険者講習のクラス分けを確認しているのが分かる。
ざっと見たところ、クラスは3クラスで、1クラスの人数は5人前後。
わたしは、33組かぁ……で、あとレイは……。
「おはよう、リコ。私たちのクラスは33組だ」
ちょうど同じクラスにレイの名前を見つけたタイミングで、その本人から声をかけられる。
「おはよう、レイ。同じクラスになれてうれしいです」
掲示板の前から離れて、レイのもとに向かうと、お互いに挨拶を交わす。
「さっきの人たち、みんな冒険者講習を受けるんですよね? 思っていたより多くてびっくりしました」
「ああ、毎日大体10人から20人程度で、年間五千人くらいは受けることになるかな」
「五千人!?」
「別に大した数字じゃない。国民の半数以上が受けるわけだし、リコのように他国からやって来る者も多い。
実際、私たちと同じクラスの残り4人も、他国から来た同じ冒険者パーティーみたいだったしね」
「えっ、そうなんですか?」
「ああ、リコが来る前に掲示板の前で騒いでいるのを見た」
どうやら残りの4人は他国から来た冒険者らしい。
レイはノーム王国人だからいいけど、他所から来た冒険者だと、わたしの「辺境から来た」って言い訳も通用しないかもしれない。
冒険者だっていうから、細かな事情は聞かれないかもしれないけど……。
わたしがこの世界的に非常識な行動を取った時に、「他国では……」って言っても、「それ、どこの国の話だよ!?」ってツッコまれる可能性はある。
4人はもうグループみたいだし、あまり関わらない方がいいかも……。
と、そんな心配は全然必要なかった。
「ああ? 子供連れか? ガキのいる年齢には見えねえから妹ってとこか?」
「おいおい、天下のノーム王国冒険者ギルドは託児所もやってるのかよ」
「ノーム王国の冒険者ギルドは、冒険者に対するサポートが手厚いらしいからな」
「ハッ、どうでもいいが、目の前をガキがチョロチョロするのは鬱陶しいよな」
わたし達が指定された教室に入るなり、だらしなく席に着いていた偉そうな男4人がぎゃあぎゃあわめき出す。
不良っぽくって、なんか怖い。
「黙れ」
静かで、張りのある声が、そんな不良冒険者たちの口を閉ざさせる。
「リコは幼く見えるがれっきとした成人だ。貴様らと同じ今回の受講者になる。
分かったらその失礼な口を閉じろ」
「なッ!」
「ウッ!」
「ゥ、うるせえ!!」
「ちょっとかわいいからって調子乗ってると殺すぞ!」
(……レイ、幼く見えるって、何気に失礼……)
そんなわたしの感想をよそに、一瞬レイの凛とした雰囲気に圧倒されていた不良冒険者たちだけど、ふと我に返ると、席から立ち上がってこちらに詰め寄って来る。
レイの胸ぐらに向かって伸ばされた右手。
それを半身になって躱したレイは、すかさず相手の右手の甲を捉えて体の外側に捻り倒した。
仰向けになったまま無様に床に転がる厳つい冒険者と、それを蔑んだような目で見下ろすレイ。
残りの3人は、レイの前に転がる仲間を挟んでこちらを睨みつけている。
一瞬で制圧された仲間を見て、これ以上続けるべきかと迷っているのが分かる。つまり、ビビっている。
凛々しいお姉さんだなぁとは思っていたけどって、いや、わたしの方がお姉さんだけど!
でも、実際かっこよかったなぁ!
わたしもあんな風にできたらいいのに……。
>
『ここはお前みたいなガキが来るとこじゃねえんだよ!』
『うるさい』
サッ、シュッ、バ〜ン!
『誰がガキですって?』
『す、すみませんでしたぁ!』
>
うん、いいね!
いかにも異世界ファンタジー的展開って感じでワクワクする!
……まぁ、現実はいつも通りに子ども扱いされて絡まれて、それを年下のレイに助けられたわけなんだけど……。
レイの後ろに隠れてそんなことを考えていると、教室の扉が開いて、男女二人の新たな冒険者が入って来る。
「授業始めるぞ。席につけ」
床に転がる男を一瞥すると、男の方の冒険者の人は、何もなかったかのように教壇の前に移動してそう言った。
どうやら、この二人が先生らしい。
年齢は、二人とも二十代後半くらいに見える。まぁ、レイも年上だと思ってたし、あまり当にはならないけど……。
わたしとレイ、続いて不良冒険者たちが席に着いたところで、教壇の男性が話し始める。
「あぁ、まずは初めましてだな。
俺が今回この33組の冒険者講習を受け持つことになるガイだ。一応冒険者をしている。
短い付き合いだが、よろしくたのむ」
「私の名はガーネット。こいつとは一応パーティーを組んでいるわね。
この講習では主に魔法関連の授業を担当すると思うわ。
よろしくね」
「よろしくね」のところで、明らかに不良冒険者の方から視線を逸してたよね。
気持ちは分かるけど……。
でも、その気持ちは不良冒険者たちにも伝わったようで、なにやら険悪な空気が漂っているような……。
「おい、ちょっといいか?」
「なにかしら?」
そんな空気の中、乱暴な口調で、不良冒険者の一人がガーネット先生に話しかける。
「その口ぶりだと、あんたら二人は普段はただの冒険者で、冒険者ギルドの正式な講師ではないってことでいいか?」
そういえば、確かに二人はパーティーを組んで冒険者をしているって言ってたね。
「ええ、その通りよ。実は33組を受け持っているギルド講師に急に予定が入ってしまって、私たちは10日間の臨時講師の依頼を引き受けたってわけ。
だから、あなた達の先生は10日間限定よ」
暗に、依頼期間が過ぎたらお前たちとは赤の他人だって言っているような……。
「まぁ、確かに10日間限定にはなるが、教えるべきことはきっかり教えてやるつもりだから、お前らも安心していいぞ」
ガイ先生が若干険悪な雰囲気を打ち払うように、明るい調子で言葉を挟んでくれたけど……。
「ギルド講師じゃない、普段は冒険者ってことは、正式採用のギルド職員じゃないんだよなぁ?」
「それって、つまり、俺たちと同じ一冒険者に過ぎないってことだろ?」
「俺たちもザッカ共和国ではちったぁ名の知れた冒険者だ。経験だってそれなりにある。
大樹海挑戦は俺たちの野望の第一歩で、だからこそこんなくだらない講習にも付き合っているんだ。
それなのに、無理やり受けさせられる講習の講師が、職員でもねぇただの冒険者だと?
そんないい加減なもんなら、こんなオママゴトはさっさとやめて、ギルドカードだけ寄越してくれよ。
なぁに、講習はちゃんとやりましたってことにしとけば、その方がお互い楽だろ?」
うわぁ〜、なんか滅茶苦茶言ってるよ。
まさに、不良冒険者って感じだ。
「バカか、お前ら。そんなこと、できるわけないだろうが。
もういいから授業を始めるぞ」
「ランクは?」
「ん?」
「冒険者ランクだよ!
俺たちはこれでもBランクのベテラン冒険者なんだよ! 半端なランクの奴に」
「Aランクだ。あぁ、勿論ノーム王国の冒険者ギルド基準でのAランクな。
ちなみに、エデン冒険者ギルドの認識だと、ノーム王国以外の冒険者のランクは大体2ランク落ちだ。
つまり、お前たちのランクは、ようやく初心者を抜け出したDランク相当ってことだな」
ガイ先生の言葉に固まる不良冒険者たち。
「え、Aランク……? そ、そんな、大樹海でAランクなんて……」
「ッ!? お、おい! ガイとガーネットって……」
「……“ガガ”か!?」
「噂の凶悪パーティー……。狂剣と饗雷……」
「もういいかしら? いい加減に授業を始めたいんだけど」
「「「「ハ、ハイ!!」」」」
ガーネット先生の不機嫌そうな声に、とたんに震え上がる不良冒険者たち。
よくわからないけど、どうもガイ先生とガーネット先生はすごい冒険者みたい。
さっきまでイキってた不良冒険者が途端に大人しくなった。
「あと、初めに言っておくけど、みんな問題だけは起こさないでね。
素行の悪い生徒には、それなりの罰を与えなければいけないから」
ガーネット先生はそう言ってにっこり微笑うと、ガイ先生と目配せして授業を始めるのだった。
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