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チート図書館を手に入れた転生女子は、家出王女と冒険者になることにしました  作者: Ryoko


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14、冒険者ギルドの役割

 それは、レイと別れた莉子が暢気に初めての街歩きを楽しんでいた頃の話。


 無事に冒険者講習の申し込みを終えたレイは、リコの背中が雑踏に紛れて消えていくのを確認すると、そのまま冒険者ギルドに引き返していった。

 向かうは最上階の一室。

 他とは違う重厚な扉が並ぶ一角の中でも、一際(ひときわ)高級感の漂う扉の前に立つ。


 コン、コン、コン


「入れ!」


 はっきりと聞こえる部屋の主からの返事を聞いて、私はその重そうな扉に手をかける。

 部屋の中、正面には広く頑丈そうな執務机が置かれ、入ってすぐ脇には来客用の応接セットが置かれている。

 壁の本棚には資料や本がきれいに並び、机の上の大量の書類もしっかりと整理されているのが見て取れる。


(この人は、本当に見かけによらず几帳面だな)


 目の前に座る髭面の大男を見てそう思う。

 この街(エデン)の冒険者ギルドマスター。

 大陸中で最も権威と力のある冒険者ギルドのトップに君臨するのが、目の前の髭面の大男ということになる。

 ノーム王国内においてもその発言力は絶大で、国王、聖女に並ぶ権力者といえる。


「よう、久しぶりだな。家出娘」


「……また随分な言われようですね、おじさま」


「そりゃ、そうだろう。年齢(とし)の離れた枢機卿との結婚が嫌で逃げ出したって、王都では結構な噂になっているそうじゃないか」


「その噂もすぐに消えることになるでしょう。それどころではなくなりますから……。

 おじさまも既に父のことはご存知ですよね?」


 一瞬、場を沈黙が満たす。


「あぁ、心の準備をする時間は十分にあったが……惜しい男を亡くしたな」


 父が病に倒れてより数年。

 特にここ半年は病状も悪く、恐らく病が完治することはないだろうと皆が諦めていた。

 それでも、まかさこれほど早く身罷(みまか)られるとは思わなかった。

 父の抜けた穴を埋めるべく執務に追われていたとはいえ、もっと父との時間を大切にしていればと思うも……今更だな。

 枢機卿との結婚話がもう少し早く進んでいれば、あるいは……とも思わなくもないが、今回の宰相の一連の動きを考えると、かえって父の死期を早める結果になった可能性もある。

 全てはたらればの話だ。


「それで、失踪したレイア王女殿下が俺になんの用だ?

 冒険者になるって話はウィル殿下(ウィル坊)からも聞いてるし、俺は一向に構わない。

 冒険者の過去は問わないってのが大原則だしな。

 お前は国王(親友)の大事な娘だし、今回の件については俺にも思うところはある。

 あのクソ宰相へのささやかな報復だと思えば、お前の失踪に協力せんでもない。

 だが、だからといって、それだけで何でも王女様の我儘がまかり通るなんて、そんな風には考えてねえよな?」


 私が冒険者になることについては既におじさまには報告済みで、私が王女の身分を隠している以上、極力おじさまとの不必要な接触は避けるべきだ。

 それにも関わらず、わざわざ私がギルドマスターの執務室を訪ねるのだから、何かしらの頼み事で来たのだろうと、事前に釘を差してくるのも分かる。

 実際、その通りなのだから申し開きもないが……。


「申し訳ございません、おじさま。

 このようなお願いをするのは恐縮なのですが、実は先程一緒に冒険者講習の受講申し込みをしたリコという女性と、冒険者講習のクラスが同じになるよう手配していただきたいのです」


「ん?」


 私の口から出た言葉に、意外そうに眉をつり上げるおじさま。


「ハハッ! それはまた、随分とかわいらしい我儘だなぁ。

 その件についてはさっき報告を受けたが、新しくできたお友達と一緒に講習を受けたいってか?

 お前の口からそんなかわいらしい要望が出るとは思わなかったぜ」


「いえ、確かに彼女とは個人的に良い友人になれればとは思ってますが……。

 実は、少し気になることがあるのです」


「むぅ?」


 私の表情から何かを感じ取ったのか、おじさまの顔つきも変わる。


「あの人は……リコさんは、転生者の可能性があります」


 私の言葉に、おじさまの思考がエデン冒険者ギルドのギルドマスターのものに切り替わる。

 これは、おじさまにとっても十分に関係のある話なのだから。

 それは、代々エデン冒険者ギルドのギルドマスターに、密かに課せられてきた責務。

 異世界から来た転生者の発見と保護。

 我が国の初代国王となった英雄王ユーヤは、ニホンという異世界から来た転生者だった。

 はじまりの町エデンに降り立ったユーヤは冒険者となり、艱難辛苦の末今の王国を打ち立てた。

 初代国王となったユーヤは、死ぬ間際にある予言めいた遺言を残す。

 自分が死んだ後、エデンに新たな転生者が現れる。その者が慣れぬ異世界で困らぬよう守ってやって欲しいと……。

 “転生者(転移者)”という荒唐無稽な言葉に不可解さを感じるも、王の最後の言葉を守るべく、残された側近達はエデンの監視を続けた。

 そして現れたのが、後に聖教会初代聖女となる、国王ユーヤと同じ黒い瞳と黒髪を持つ転生者だった。

 更に時は過ぎ、初代聖女の没後、もしやと思いエデンを監視していたノーム王家は、再び黒髪黒瞳の転生者を発見することになる。

 後に魔工都市を作り上げることになる天才魔道具師だ。

 事ここに至って、初代国王の残した予言は王国上層部の間で確信に変わる。


 今いる転生者が死ぬと新たな転生者が生まれ、その者は必ずエデンに現れる。

 更に言うなら、現れた転生者は冒険者ギルドを訪れる確率が非常に高い。


 その頃には冒険者の街エデンは王都に並ぶ発展を遂げており、いつ街のどこに現れるやも知れない転生者をわずかな人数で探し出すのは難しくなっていた。

 監視の人数を増やすことはできなかった。

 この頃にはノーム王家だけでなく、ノーム王国上層部や一部の権力者、情報通の間でも、転生者の特徴や価値は知れ渡っており、実際、王家に先んじて転生者を確保しようと企てる者も後を絶たなくなっていたから。

 これ以上転生者に関する情報が拡散すれば大変なことになる。そう考えた王家は、情報の拡散を防ぐとともに、転生者を極力秘密裏に保護できる手段を考え始めた。

 そうしてできたのが、今の冒険者講習の制度と、ギルドマスターに与えられる役割。

 今の我が国の中では、何の後ろ盾も持たない人間が生活基盤を整えようと思えば、冒険者講習を受けて冒険者になるのが一番手っ取り早い。

 エデンでは特に冒険者は一般的な職業でもあるし、まずは冒険者講習を受けてみようと考える者は多いだろう。

 そうして集まった者たちの中から、転生者の特徴を持つ者を探し出す。

 たとえその役割を担えるのがギルドマスター一人とはいえ、10日間という長い確認期間があればチェックは可能だ。

 黒髪黒瞳の者はいないか? 魔力や身体能力がずば抜けた者はいないか? 強力なスキルや加護(ギフト)を持った者はいないか?

 ギルドマスターが持つ転生者の特徴に関する情報と、部下から上がってくる講習受講者に関する報告を元に、ギルドマスター自身が転生者かどうかをチェックしていく。

 これが、エデン冒険者ギルドのギルドマスターに与えられた密かな責務になる。

 現実問題として、転生者の持つ能力には非常識なものも多く、下手に悪用されれば国の存続すら危うくなる危険を伴う。

 決して軽々に考えていい事案ではないのだ。


(それに、今回はタイミングも悪い……)


 もし、本当にリコが転生者だとすると、今回ばかりは黙って国に保護させるわけにもいかない。

 なんとしても、リコの存在は私が隠し通さないと……。


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