12、冒険者ギルド訪問
「わたし、辺境の出身で、こんなに大きな街は初めてなんですけど、ほんとうに冒険者が多い街ですよね」
「あぁ、エデンはノーム王国のある大樹海と外の国々を結ぶ唯一の街だからな。
大樹海で採れる貴重な素材は必ずエデンの冒険者ギルドを経由することになるし、聖都や魔工都市に行くにもまずエデンで護衛を確保する必要がある。
ノーム王国人は他国の人間と比べて魔力も体力もあるから、同じ冒険者でも他国の冒険者とはレベルが違うのだ。
正直、余程の実力者でもない限り、他国から連れてきた冒険者では大樹海では大して役に立たない。
でも、そうか……。リコは辺境から来たのか……。
私は王都から来て、先日エデンに着いたところでな。
実は、私の方も少々訳ありなのだ。よくある家庭の事情ってやつなんだが、あまり深く聞かないでいてくれると助かる」
お互いの自己紹介はそんな軽い挨拶程度のもので、わたしが心配していたような転生事情に関わる事は一切聞かれなかった。
ポイントは、この“辺境”という言葉。
辺境というのは、本来は田舎過ぎてどこの国にも属していない名も知れぬ集落って意味なんだけど……。
冒険者の間では、込み入った事情があって触れて欲しくないから聞かないでほしいって意味の隠語にもなるんだよね。
冒険者の中には色々と訳ありの人も多いから、触れて欲しくない過去にはお互い触れないってのが暗黙の了解みたい。
それだけでなく、冒険者の武器であり命綱でもある個々のスキルや情報についても、望まぬ相手から無理に聞き出そうとするのは完全なマナー違反だ。
どういう仕組みか、個々の犯罪歴については各ギルドや国が発行する身分証に自動的に記載されてしまうから、身分証に問題がない以上、個々のプライバシーには極力踏み込まないっていうのが冒険者の常識みたい。
そう『エデンのさ迷い方』に書いてあった。
特にエデンの場合、住人のほとんどが冒険者か冒険者の関係者だから、これはもう街全体の常識みたいなものなんだって。
正直、たいへん助かる。
そんな理由で、特にこちらの事情を聞かれることもなく、その後はエデンの街や冒険者に対する印象だとか、そういう取り留めのない話をしながら冒険者ギルドへと向かった。
そして、遂に冒険者ギルドに到着。
(オ〜! 大きい!)
確かにエデンで一番大きな建物とは書いてあったけど……。
本当に大きい。
通りに面した入り口のある正面の建物だけでも、学校の校舎くらいはありそう。
しかも、裏手には同じような大きさの建物がまだいくつもあって、更に冒険者の訓練なんかに使う施設も複数あるみたい。
これは、郊外のちょっとした大学くらいはありそうだね……想像だけど。
とにかく、そんな大きな施設が街の真ん中にバンと居座っているだけで、この街が冒険者の街だってことに納得できてしまう。
まさに、冒険者ギルドがエデンの街の政治経済の中心で、言ってみれば領主が住むお城みたいなものなんだろうね。
ちなみに、ここエデンはゲーヒンノーム連合王国の一都市ではあるけど、その運営は冒険者ギルドに一任されていて、基本は独立自治が認められているみたい。
他に領主とかもいないから、正真正銘冒険者の冒険者による冒険者のための都市ってこと。
冒険者ギルドはまさに王宮。ギルドマスターは王様ってわけだね。
つまり、冒険者ギルドって、非常に敷居が高い……。
「あの、こんな立派な建物にほんとうに入って大丈夫ですか? 逮捕されたりとか……?」
「いや、大丈夫だろう。冒険者になるための講習や試験はこの中央本部で間違いないはずだ」
「でも、なんかイメージと違うというか……。武器持った汚い男とかもいないし」
そう、さっきからギルドに出入りしているのは、しっかりとした身なりの商人風の人たちばかり。
中には冒険者風の人もいるけど……。みんな装備もしっかりしていて、ひと目で高ランクだって分かる。
馬車で乗り付けている人もいるし、わたしみたいな一般人はほとんど見かけないし……。
言ってみれば、素朴な田舎の定食屋とか民宿とかを想像してたら、高級レストラン、高級ホテルの立ち並ぶセレブなリゾート地だった、みたいな……。
どうしてレイさんはそんなに落ち着いていられるんだろう……?
「別に心配はない。中央本部に来るのは、主に護衛依頼や素材の取引に来る商人や、他国の役人がほとんどのはずだ。
対面も考慮して、立派に見せているだけだ。
ふつう、街の外で素材採取をしてきた冒険者は、東西南北の各門近くにある支部の方に行くから、汚れた格好でここまで来る冒険者はいない。
冒険者講習の申し込みは支部でもできるが、直接本部でした方が手続きも早いし、ここで間違ってはいないはずだ」
やっぱり、レイさんと一緒に来てよかったぁ。
もし一人だったら、絶対に気後れして入れなかったと思う。
レイさんに手を引かれながら、ちょっとエキゾチックな宮殿風の入り口をくぐると、中は広いエントランスのようになっていて、奥にずらっと受付カウンターが並んでいる。
勿論、隣接する酒場でくだを巻く冒険者の姿なんかなくて、当然わたしに絡んでくるような人もいない。
内装とかは全然違うけど、総合病院とか免許センターとかの総合カウンターをつい想像してしまった。
「冒険者講習の受付は……あそこだな」
すっかりお上りさんと化しているわたしの手を引いて、レイさんが右端にある人の少ない受付窓口に連れて行ってくれる。
「冒険者講習を受講したいのだが」
「かしこまりました。受講はご本人様でよろしかったですか?」
「ああ、私と彼女の2名だ」
「……? 失礼ですが、冒険者講習を受講できるのは14歳からですので、そちらのお嬢さんはまだ受講資格がございませんが……」
(まただよ! はい、はい、わかってましたけどね!)
「あの! わたし23です」
「「えっ!?」」
……初対面の受付嬢は分かる。でも、レイさんの方はそんなに驚く?
確かに最初は疑ってたみたいだったけど、ここに来るまでの間、ふつうに話してたよねぇ?
ふつうに考えて、子供の会話ではなかったよねぇ?
ジト目でレイさんを睨むわたしに気づいたのか、レイさんも少し気まずい様子。
「いや、その、リコ、さんが見た目通りの年齢ではないのは理解していたんだが、まさか私より年上だとは思わなくて……」
「えっ!? 年下なの?」
「ああ、私はいま17だ」
まじかぁ〜。どう低くみつもってもハタチは越えてると思ってた……。
たんなる見かけだけではなくて、話し方とか話す内容とか随分しっかりしているなぁって感じてたのに……。
もしかして、これがノーム王国のふつうなの?
何気に基礎学力高い?
見た目も大人だし、話もしっかりしてるって……。うちの会社の今年の新入社員、もっとバカっぽいよ!
「コホン、では、受講はお二人ということでよろしいですね?
そうしましたら、冒険者講習受講に関する注意事項についてご説明しますね」
わたしたち二人のなにやら気まずい雰囲気を振り払うように、目の前に座る受付嬢さんが、冒険者講習に関する説明をわたし達にしてくれた。
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