11、忘れてた!
さぁ、行こう!
前回はノーム王国の言葉が分からなくて、慌てて逃げ出しちゃったけど……。
もう、大丈夫!
今のわたしは大陸語もばっちりだからね。
わたしは意気揚々と目の前の青く光る扉をくぐり抜け……。
「ヒゥッ!!」
いきなり目の前に現れた女の人に衝突しそうになったよ!
えっ? だれ、これ? なんで?
あっ、出てくるとこ見られた!?
不味い! とりあえず、扉消さないと!
(消えて!)
えぇと、あとは……。
「……あぁ、怖がらせてすまない」
相手も驚いたようで、一瞬こちらを真剣な顔で凝視するも、すぐにその表情をやわらげて話しかけてきた。
突然のことに内心あわあわするわたしを落ち着かせるように、わたしに合わせて少し屈んで視線を下げると、
「その、いきなり駆け出したのでつい追いかけてしまっただけで、怖がらせるつもりは全然なかったのだが……。
きみがずっと一人でいるのを見て、何か困っているんじゃないかと声をかけただけなのだ」
そう言って、苦笑する目の前の女性。
(お〜! 分かるよ! ちゃんと相手の言葉が理解できる!)
視線を合わせ、ゆっくりと落ち着いた口調でそう言われて、わたしの方も少しだけ冷静さを取り戻す。
そうだった……。
今、完全に思い出したよ。
前回はこの女性に突然声をかけられて、どうしていいか分からなくて……。
わたし、逃げちゃったんだよね。
あの時は後ろを確認する余裕もなくて、物陰に入ったところで慌てて扉を呼び出して思わず飛び込んじゃったけど……。
すぐ後ろまで追いつかれてたんだ……。
確か、館長さんの説明だと、仮にわたしが扉に入るところを見られても、傍目には扉の方に向かって立っていたわたしが、次の瞬間扉に背を向けって立っているようにしか見えないって話だったけど……。
大丈夫だよねぇ……?
扉もすぐに消したし……。
「ところで、さっき、きみの後ろに青い板のようなものが見えたのだが、あれはきみの魔法か何かなのかな?」
大したことではないように、純粋に確認したいだけといった様子で尋ねてくる目の前の女性に、
「さぁ? 気が付きませんでした」
にっこり微笑ってそう答えるわたし。
ここは日本人の必殺技……曖昧な笑顔で誤魔化す!
「……そうか、なら、気のせいかな」
(やった! 誤魔化せた!)
ひとまずの勝利を得たわたしに、更なる追撃が襲いかかる。
「それで、きみは、ずっとあんなところで何をしていたのだ?
もし迷子なら、私が一緒に親御さんを探してあげられると思うのだが……」
その言葉に、わたしは確信する。
完全に、子どもだと思われてる。
ハタチ過ぎの女性をつかまえて、迷子の子ども扱い。
確かに日本でも、高校生と間違えられて補導されそうになってたけど……。
少しは大人に見られるようにと髪を茶色く染める前は、中学生に間違えられたこともあったけど……。
あぁ、そうかぁ……。ただでさえ、実年齢よりも若く見られる日本人。
その中でも、更におさ、若く見られるわたし……。
おまけにノーム王国では髪の色は多種多様で、茶髪の地毛なんて珍しくもなんともない。
「あのぉ、わたし、子どもではないので、ほっといていただいて結構です」
多分だけど、わたしとそう年齢も違わないと思うんだよね。
その、身長とか胸部のボリュームとかの違いは人種の差だと思うし……。
少なくとも、一方的に子ども扱いされるような年齢差ではないと思うんだけど……。
「なら、どうしてずっとあんなところにいたんだい?
きみがもう大人だというのなら信じるが、なにか心配事があるのではないか?」
この顔は、全然信じてないよね……。
なんか納得のいく理由を話さないと、解放してくれそうもないしなぁ……。
困ったわたしは仕方なく、冒険者講習を受けるために冒険者ギルドに向かうつもりだったって話をすることにした。
冒険者ギルドはあの広場からも近いし、これは嘘でもなんでもないしね。
ギルドに行く前に、ちょっと街歩きとかしようとは思っていたけど、冒険者ギルドに行こうと思っていたのは本当だし……。
ちょっとまだ踏ん切りがつかなかっただけで、これからの行動予定はしっかり決まっている。
わたしは目の前のおせっかいな女性に、そのことを説明していった。
なかなか勇気が出なくて広場で悩んでいただけで、行先は既に決まっている。
ようやく自分の中で踏ん切りがついたから、わたしはこれから冒険者ギルドに向かうつもりだ。
ちなみに、わたしはこれから冒険者になることを考えている一人前の成人女性で、講習を受けるためにギルドに向かうことがその証だ、と……そう説得してみた。
「それは失礼した。自らの仕事を決める第一歩なのだから悩むのも当然だな。
実は、私もきみと同じく冒険者になろうと考えていたのだ。
ちょうど、これから講習の申し込みに冒険者ギルドに行くつもりだったのだが……。
恥ずかしながら、私も一人きりだと不安でね。
もしよかったら、これから私と一緒にギルドに申し込みに行ってはもらえないだろうか?
きみも決心がつかずに迷っていたようだし、二人ならきみも安心ではないか?」
……これは、断る理由がない。
偶然声をかけてきて、偶然同じ場所に向かうところって、一瞬詐欺の手口? とか思ったけど……。
なんか誠実そうな人には見えるし、何よりわたしの頭の中には既に冒険者ギルドへの地図もある。
その辺は、ガイドブックで事前に予習済だからね。
もし、変なところに連れて行こうとしても、その時にはすぐに気付けると思う。
もし、この女性の言っていることが本当なら、こちらとしても一緒に行ってくれる仲間ができるのはうれしい。
冒険者ギルドでは、わたしみたいな見た目子どもで冒険者志望の転生者が絡まれるのはお約束だし……。
すごいチート能力とかあればそこで返り討ちにしてやるんだけど、わたしの加護って完全インドア派向けのスキルだしね。
ガチムチで強面の冒険者になんか絡まれたら……わたしは余裕で死ねる。
よく見れば目の前のお姉さんはしっかり帯剣してるし、口調も凛々しい感じでなんだか強そうだ。
この人と一緒なら、もし絡まれてもしっかり盾になってくれるはず!
「わかりました。これも何かの縁ですし、ご一緒させてもらいます」
こうしてわたしと剣士っぽい女性、もといレイさんは、お互いの自己紹介などをしつつ揃って冒険者ギルドへと向かうのだった。
ブックマークにお星様⭐︎、いいねなどいただけると、たいへんうれしいです!




