99話 路地裏の犯罪
町を走り回ったり、リクさん達と双剣で手合わせしたり、イカ焼きを食べたりと平穏な日々を過ごすこと一か月。
この町にも慣れてきて、住人の皆さんから声をかけてもらうことが多くなった。
なぜかは知らないけど町の人からは”風雷の乙女アリス”なんて呼ばれているらしい。もっとも変な呼び名が付くことは構わないのだが、マリンの方が文句を言っていた。
どうして”流水の乙女マリン”なのかと。個人的には私と変わらない響きだからいいのではと思うのだが…
今はそんなことを思い起こしながら夜の町をひたすらに走っている。もちろん体力作りと町の警備を兼ねてだ。
「……す……て!」
いつも通りの道を駆けていると何処からともなく悲鳴の様な音が聞こえてくる。
この一か月何事もなかったので気を抜いていたが、ようやく何かが起こったらしい。いや、何も起こらないのが一番なのだが…今は考えないこととする。
私は立ち止まってから辺りを見渡す。悲鳴は大通りからではなく路地のほうから聞こえてきたはずなので、暗い通路に入っていかないといけないみたいだ。
暗い通路。
暗い通路を目の前にすると、なんだか心臓がドキドキしてくる。まるで暗闇から手が伸びて引き込まれるような感覚を思い出す。
早くなる呼吸を抑えて路地へと一歩を踏み出す。あの時の私の様な目に会っている人がいるならば助けなければ。
空間から双剣を取り出して構えながら前に進む。微かでも声が聞こえたってことはそこまで遠くないはずなので後ろも警戒しながら敵を探す。
「…………」
この声は男か女か、はっきりとは聞き取れないが近くにいることは間違いないようだ。
私は角に沿って身を隠す。まずはこの奥の状況を確認しなければ。
「ったく、この女、手間取りさせやがって。小便も漏らしやがったし」
「あんたが手間取るからでしょ。気絶させるのを失敗するって素人かしら?」
「ああん?お前こそ、ここまで連れてくるの遅れたじゃねえかよ」
会話を聞くにどうやら男女二人だけのようだ。そして連れ去るために気絶させたところか。屋根にも他のところには仲間は居なさそうなので戦っても大丈夫だろう。
被害者の女の人が持ち去られる前に私は剣を前に出しながら角から姿を現す。
言い争っていた犯罪者はすぐに私の存在に気が付いて、敵意をむき出しにしてくる。
「ちっ!やっぱ誰かに聞かれてやがったか。ここは一旦ずらかるぞ!」
「何言ってるのよ。とぉーってもかわいい少女じゃない。一人相手なら問題ないわ」
普段言ってもらえているかわいいとは違う響きのかわいいを耳にして、背筋が凍るような感覚を覚える。
「あらぁ?この子、手を震わせてますわよ。あの方の愛の巣に入れてあげたいわぁ~」
私の手が震えている?なぜ?
もう過去の事を今に重ねることはしないようにしていたはずなのに、心が怖がっているのか?
「あなた達!覚悟しなさい!」
地面を蹴って二人に対して突撃をする。もう昔みたいに動けない体ではない。存分に訓練した成果を出そうじゃないか。
だけど、相手も盗賊らしき人たち。私の攻撃を軽く避けるであろうから畳みかけるように攻めてやろうじゃないか。
狭い通路でも双剣は犯罪者の二人を正確に捉える。殺さないように、でも攻撃をする隙を作らせないように剣を素早く振るう。
「くそっ!早いぞこいつ!お、俺は逃げるからな!」
「あっ!ちょ!一対一は無理よ!私も行くわ!」
「待ちなさい!逃がさな…あっ!」
自分たちが不利だと判断したのか背を向けて逃げ出し始めた。軽い身のこなしで壁を蹴ったかと思うとひょいひょいと屋根まで一瞬で登られてしまった。
私も追いかけようとしたが、気絶している女の人を置いていくわけにはいかないのを思い出して踏みとどまる。
追いかけて奴らを捕まえたいが、それはまた別の機会になりそうだ。
まだ少し震えている手を握りしめるようにして抑える。
やはりあの時の事が恐怖として心に刻まれてしまっているのか。思い出したくもないあの事を克服できる日は来るのだろうか。
…で、この気絶している女の人はどうすればいいのか?抱えようにも少し臭うし、魔法で運んでもいいけど…そもそも運ぶ先がない。
仕方ないから表通りに運んでから起きるまで待つとするか。
こんなことならキャロラインさんにどうすればいいか聞いておくんだった。




