8話 不思議な草と書庫
王宮中の廊下という廊下に光を灯して過ごすこと早一年。簡素ながらもアイリスの5歳の誕生式も終わり、静かな日々を過ごしている。
もう12歳にもなるので最近は一人で訓練やポーション作りに専念している。主に王宮には最低限の騎士しかいないので訓練といっても人形相手なのだが…
そんなこんなで今日も光を灯している。ついでだが窓辺に植わっている植物にも魔法で水をあげている。
しかし今日はその草の様子がおかしいことに気が付いた。顔を近くに寄せて見てみるとほんのり甘い香りがする。
他の窓辺も確認するが今のところここにしか植えられていないようである。気になるので引き抜いてから書庫にて調べることにする。薬師団の人たちに聞きたいのだが、深緑の森と呼ばれるところで魔獣が多く出ているらしく、騎士団と一緒に討伐に出かけているので今は不在なのだ。
階段を降りていき地下に入っていく。地下には食料貯蔵庫と書庫がある。地上階にも書庫はあるのだがそちらはお金や政治関係の難しい本が並んでいる。なんで難しい本ばっかり並んでいるのかというと、主に勉強と魔法が大好きなセリスお姉様のせいである。
書庫に入ると本の独特な臭いに囲まれる。個人的には嫌いな臭いではないが、長時間は嗅いでいたくない臭いでもある。なので棚の端から目的の薬草書を探していく。
探し始めて数十分、なかなかお目当ての本が見つからない。というのも手の届かないところは台に乗って取っているので時間がかかるのだ。
だが出会いは突然に訪れるもの、手で追っていた本の背表紙が無いところがあったのだ。一見すると本が無いだけのように見えるが、その隙間を埋めるように横の本が倒れてはいない、つまりそこに何かあるのだ。
恐る恐る手を伸ばすと確かにそこに本があるのがわかる。取り出してみても透明なままである。手探りで表紙であろう部分をめくると、ゆらゆらと文字が浮かび上がってきた。
「われをかくせ?」
この言葉しか書かれていないが、何かの魔法だろうか。試しに杖を手にもって本に向かって唱えてみる。
「我を隠せ!」
魔法が発動した感覚が全身を覆う。だが何か変わったところは… いや、色々おかしいことに気が付いた。
手がないのだ。ついでに言うと腕も足も着ている服も見えなくなっているのだ!
とても不思議な感覚を覚える。そこに自分がいるはずなのに目では認識できないのだ。そんなことよりもっと大事なことに気が付いた。このままでは誰も私のことを見つけられなくなってしまう。
少し焦りながら手に持っていた本をめくっていく。他にも浮かび上がってくる文字があるかもしれないからだ。
「これをかくせ? それをあらわせ? われをあらわせ? これだ!」
本に目を通していくとそれっぽい言葉を見つけた。早速自分に向かって杖を向けて詠唱する。
「我を現せ!」
唱えた瞬間、目の前に自分の体が再び現れる。元に戻れないのではと思っていたのでほっと息をつく。だが、手にしっかり持っていた本はまだ透明なままだ。折角なので本自体にも魔法をかけてみる。
「これを現せ!」
本が真の姿を現す。開いていたページは黄ばんでおり、カバーは茶色の皮で出来ているようだ。本を閉じて表紙を見てみるとそこには黒い文字でこう書かれていた。
”惑の書”
そして表紙裏にはこう書かれている。
”禁術。禁書庫にしまうこと 持ち出し禁止”
「これを隠せ」
何か見てはいけない物を見てしまったようなので、そっと閉じて元にあったように戻していく。
魔法適正の検査の時にも惑と闇は使ってはいけないと言い聞かされていたので、皆の前で使うのはやめておこうと思う。
そしてここに来た理由を思い出す。窓辺に生えていた不思議な草を調べに来たのである。
◇◇◇
探すこと2時間。ようやく薬草学の本を探し当てた。空間魔法を使って引き抜いた草を取り出して本の横に置く。そしてペラペラとページをめくっていき似ている植物を探していく。
「あった。ダマサレヤスソウっていうんだ」
どうやら人を騙すときに使われる薬草の一種だそうだ。独特な甘い香りを放ちその香りを嗅いでいるものはウソ等に騙されやすくなる。しかし、この薬草が使われていることを認知すると効果が消えるらしい。ということはさっきまでの私は騙されやすい状況だったのだろうか。
だけど何故こんな薬草が王宮に生えていたのだろうか。王宮内なので誰かが意図的に植えたはずだが、一体誰が何のために植えたのかは見当がつかない。
考え込んでいてもしかたがないので、自室に戻ることにする。頭の中で理由を探そうとしているが、どうにも分からない。
そしてそのまま分からないまま一日が終わっていったのであった。




