79話 港町と宿屋
私たちは小舟を陸地に上げて、徒歩で門前に向かった。
この石壁は優に20メートルはあるだろうか。これでは盗賊達は登ろうにも途中で弓で狙撃されて終わりだろう。
「ん?こんな時間に見ない顔だね。君は冒険者かな」
門番の兵士に声を掛けられる。鎧の種類からしてこの町の一般兵士だろう。王宮騎士団員ではないのは明らかだ。
「はい。Dランク冒険者のアリスと申します。旅の途中でして…」
「おお!そうでしたか!歓迎しますよ。ウオートレー港町へようこそ!後ろの方はお連れさんですか」
「はい、彼女はマリンで、一緒に旅をしています」
「二人旅ですか。いいですね。ここの通行料は銀貨20枚になるけど、持ち合わせはありますか?」
通行料?王都でもなかったのに、ここでは通るたびにお金を取られるのだろうか?
そんなことだといくらお金があっても足りない気がするが。
「20枚ぐらいありますけど、毎回徴収されるんですか?」
「いや、一回だけだよ。この通行料支払い証があれば次回からは自由に通行できるよ」
「にしても、何時から取るようになったのよ?前に来たときは無かったわよ?」
「いやあ、最近になって壁の老朽化が進んでいてね。それを修理するための費用の為なんだ」
なるほど、確かにこの石壁が崩れて頭に当たろうものなら死は免れないであろう。
私は少し多めに通行料を支払って門をくぐり抜ける。
目の間に広がっていたのはきれいに舗装された石畳に、平たい屋根に灰色の石で造られた家々だ。
前のクロプ町のように乱雑に家が建っている訳ではなく、きちんと並ぶように建っているのが特徴的だ。
「で、どうするのよ?」
「まずは宿屋を見つけてから夕飯ですかね。冒険者ギルドには明日顔を出せばいいでしょう」
町を歩いていると海が近いだけあってかなりの数の水路に出会う。水路上ではたまに小舟に荷物を乗せて漕いでいる人も見かけた。
ここでは水路を中心に物事が動いているのだろうか?それとも整備されている道が主なのだろうか?
私の疑問をよそにしてようやく宿屋を見つける。宿屋を見つけるのも三回目なので、あっさり見つけることができた。なんとなく店の並びとかで検討がつくようになった、と言ったほうがいいか。
チャリチャリリーン
「いらっしゃい!二人かい?あー。マイルズ!受け付けてやんな!」
食堂であろう方から女の人が顔を覗かせたかと思うと、マイルズという人に大声で声をかけてから引っ込んでしまった。
忙しいときに来てしまったかな?と思っていたら30代後半ぐらいの男の人が現れた。たぶんマイルズさんだろう。
「驚かせてしまってごめんね。食事時はいつもこうなんだ。で、二人分の部屋だと銀貨4枚になるけどいいかな」
「はい、大丈夫です。あと、夕飯は今からでも大丈夫ですか?」
「ああ、もちろん。はい、部屋の鍵だよ。他に要る物があったらいつでも声かけてね」
そういうとマイルズさんはそそくさと厨房に戻ってしまった。
我々は受け取った鍵を持って部屋に向かう。外から見た通り高さがある建物だったので階段もかなりの段数がある。
階段を登り切り、部屋の扉を開ける。この時が地味に楽しみなのだ。今回はいったいどんな部屋なんだろうか。
「わあ!」
「あら、いい景色じゃない。もしかしていい部屋なんじゃないの?」
屋上に近いこともあって少しだけ遠くが見渡せる部屋に当たったようだ。水平線に海が見えて、他の建物の屋根が見える。
真正面に海があるわけではないが、それでも窓を開けて通りを見渡せるのは気持ちのいいものだ。
さて、部屋はいい部屋だったので夕飯にも期待していいだろう。
私とマリンは空かしたお腹を鳴らしながら階段を降りて行ったのであった。




