76話 マリンの過去
マリンは彼女の過去をもっと話しているんですよ。書いていないだけで。
でも、あっさり目にするためにかなーり端折っているので内容が薄く感じられるかも。
長くしようと思えばいくらでも長くできるけど、してないだけなのです。
本当だよ?
「そういえば話していなかったわね。どうしてこの村を追い出されたのかってこと」
泣いていたマリンはポツポツと私に向かって話し始めた。
「あれは小さい時のことだったわ。私が初めて水を操った日のことよ」
◇◇◇
「マリン~。これが海よ」
「わあ~!つめたい!」
お母さんに連れられて初めて海という場所に来ていた。
こちらに押し寄せてくる水に恐る恐る手を伸ばすととても冷たかった。水が手を包むかのように感じたが直ぐに手から離れていく。
とても楽しくてパシャパシャし続けた。
楽しい。
それが最初に水に触れた時の感情だった。
それから毎日のように浜辺に行っては水で遊ぶようになった。まるで水が私と遊んでくれているようであった。
ある日、村の端にある井戸から水が湧かなくなってしまった。
お父さんやお母さん達は必死になって穴を掘って水が湧かないかを確認している。だがいくら掘っても水は出てこない。
村の人たちは森にも入って水を汲みに行ったが何かに襲われてそれどころではなかったらしい。
次の日。のどがかわいた。
あんなに水があるのに飲むことができないなんて、なんて酷いことなんだろう。
水が、みずがほしい。
のどがかわいた…みずが…のみたい。
みず…みずを感じる。どこからか水が流れているのが感じられる。
私は極限状態にあったのだろう、ふらふらと何かに導かれるように歩いた気がする。
水が導く所に手を当て強く念じる。
(わたしにみずを!)
触れている砂が段々と湿ってきて突如として大量の水が顔にかかる。
水が水が出たのだ!
その後、気が付いた時にはお母さんに抱きかかえられていたのを覚えている。あの時から私は水とお友達になったのだ。
◇◇◇
あれから数年が経ったある日、私は突然に村の皆から怖がられるようになった。
湧水を発見し、嵐の日に襲い掛かって来た高波を止めた私は、いつものように海で遊んでいたのだ。ただそれだけだったのに、家に帰る途中に酷いことを言われたのだ。
「水の悪魔め!ぼくたちを殺す気なんだろ!」
「な、何を言ってるの…」
「聞いたわよ!井戸の水を止めたのはあなたなんですってね!」
「ちがっ… 痛っ!」
「でていけー!悪魔なんか出ていけ!」
石を投げつけらる。痛い、痛い。私は悪魔なんかじゃない、井戸の水なんか止めてなんかいない。
「私はそんなことしてない!」
「父ちゃんが言ってたぞ!よそ者のお前が来てからこの村はおかしいって!」
「違うっ!」
ついカッとなって怒ってしまった。その時に水を無意識に出していたのだろう、トゲトゲした棒が年下の子供たちの顔を傷つけてしまった。
「ひぃ!やっぱり悪魔だ!いつかぼくたちを殺すんだ!」
◇◇◇
「あれから村の人から嫌われてね。今思えばあれが転機だったのね」
「………」
「お父さんとお母さんを置いて、家を飛び出したわ。それであの森に迷い込んで彷徨って、倒れて、夜通し泣いたわ」
「…………」
「私を救ってくれた水が私を貶めるなんてふざけた話よね。あの時は全てが嫌になったわ」
彼女には相当な心の傷があったようだ。私には計り知れない、深い心の傷。
なにか言えるような立場ではないが、これだけは伝えておこう。
「マリンさん。私はいつでも傍にいますよ。どんな時でも」
ポッと焚火の火力を強くする。なんとなくだ。決して照れ隠しではない。ただ単に寒かっただけなのだ。
「アリスちゃん…これからはアリスって呼んでもいい?」
「な、何ですか急に!?」
「い、いや…な、なんとなくよ。これから一緒ならもっと呼びやすくしたっていいでしょ。何なら私のことをマリンって呼びなさい」
「………マ…マリン…」
それからまた焚火の火が大きくなったのは言うまでもない。




