7話 暗い王城と明るい魔法
あれから2年が経っていた。お母様の死は中々受け入れられるものではなかったが、王宮での葬儀が終わった後からは泣くことはなくなった気がする。
それでも時々、お母様のあの凛々しい姿を思い出しては落ち込むことがある。前を向かなくてはいけないのは分かっているが、悲しいものは悲しいのだ。
女王であったお母様の後はエリスお姉様が引き継いだ。今ではこの国の女王として各地からの要望の処理や財政等の難しいことをこなしている。もちろんセリスお姉様も補佐として手伝っている。
しかし、王宮はとても暗い。みんなの顔から笑顔が消えているのはもちろんの事、王宮に居る騎士団員の数がかなり減ったからだろう。最近は国内の治安が悪くなったとか、魔獣が頻繁に出るようになったとかで騎士団が動員されているのだ。
王宮が暗いのにはもう一つ理由がある。比喩ではなく単純に光が足りていないのだ。光を壁にかかっているガラス瓶に灯すのは侍女の仕事なのだが、最近よく光を入れ忘れているのだ。
このままではいけないと思い、侍女を探しに部屋を出る。ちなみに専属の侍女なるものはいない。
探し回ること数分。廊下にて一人で上を見上げている侍女を見つけた。天井なんかを見上げて何をしているのだろうか。横から声をかけてみる。
「あの、何かありましたか?」
「ひゃぁ!え!あ!はい!エ、エイリス様ではありませんか!これは大変失礼いたしました!」
「その…天井になにか問題でも?」
「い、いえ!そんなことはございませせん!少し考え事をしておりました」
周りのことが見えなくなるぐらいまで一体なにを考えていたのかが気になるが、今はそれよりも光魔法についてである。ライトボールは使えるがすぐに消えてしまうので、どうすれば消えなくできるのか教えてもらう必要があるのだ。
「それよりも私に光魔法を教えてくださる?最近光が灯ってないことがあるから、お手伝いできないかなと思っていて…」
「そんな!エイリス様にお手伝いさせるわけにはいきません… それに魔法なら魔術師隊の方がお詳しいのでは」
「魔術師隊が出払っているのは知っているでしょう?それに私がやりたいのだから教えなさい」
少々わがままに聞こえるかもしれないが、これぐらいしないと侍女たちは私に色々やらせてくれないのだ。
「はいぃ。承知いたしました。では、お教えいたしますね。」
そういうと侍女は腰に付けていた杖を取り出す。それに合わせて私も杖を取り出して準備する。
「まずは基本であるライトボールは使えますね?」
侍女に合わせてライトボールを詠唱する。すると杖の先に小さい光の玉が出現する。ここは魔法の訓練でもやった部分だ。だが、自分のと侍女の玉の大きさに違いがある。
「このライトボールですが、詠唱する際、もっというと想像の仕方によって大きさや持続時間が変化するのです。こうやって詠唱した後でも大きさを変えたりもできるんですよ」
侍女は説明しながら玉の大きさを小さくしたり大きくしたりする。そして空中に光の玉を器用に配置していく。
私もそれにならって玉を大きくするが、空中に置くとすぐに消えてしまった。
「やはり、意識していないと光の玉は消えてしまうわ…」
「そうです、基本的には意識しなくなると消えてしまうのですが、消えなくする方法がございます。例えば火魔法は物に火としてつけた後は物が燃え尽きるまで燃えますでしょう?同じことを光の玉でも行うのです」
いや、同じとは言っても何を元にして光が出ているのかが分からないのだが…
「そもそも光は何を元にして光っているの?」
「全ての魔法は空気中にあるマナを消費して具現化していると習いませんでしたか?。マナは光を具現化させるだけではなく、燃料としても使えると考えられます。つまり空気中のあるマナを一か所に集めてそこに光を置いてあげるのです」
なんとなく原理が分かったような気がするので試してみる。マナを一か所に集める感覚は掴めないが、とにかく集まれと念じる。
「ライトボーーーール!」
つい勢いで大きな声で詠唱してしまったが、光の玉を置くことに成功した。そして新たな疑問が生まれる。
「このライトボールはいつまで光るのでしょう?」
「それは、その個所に集めたマナの量によって変わります。多く集めれば長持ちしますが、その分空気中のマナが少なくなるのでおすすめいたしません。一日光らせられるマナの量は繰り返し練習して身につけるしか方法はございません」
「そっか、まあいい練習になるから問題ないわ。教えてくれてありがとう」
「はい。これくらいの事でしたらいつでも」
頭を下げてくる侍女を後にし、別の廊下に来ている。早速光を入れる瓶に対して光を灯してみる。一日持てばいいと思うので、そう念じて光を出していく。すぐには慣れないが廊下はまだまだ続いている。練習するのにはうってつけだ。
この後、エイリスが一日分だけだと思っていた光は、二日間も光り続けたという。
光を"灯す"とは。うごご