60話 堆肥と魔法
新しい服を着て颯爽と掲示板に向かう二人の少女。片方は鮮やかな緑色のラインが入っていて、まるで新緑の森に流れる風のような子。もう片方は鮮やかな青に水泡を思わせるかのような模様が入ったクールな青髪の女の子。彼女たちは今ではこの町でそこそこの依頼をこなした冒険者として認知されているのだ。
そんな二人が見つめていたのはある冒険者への依頼書であった。
”堆肥製作の補助作業員募集中。報酬:袋一つ分につき銀貨1枚。暖かいお風呂付き”
「アリスちゃん。暖かいお風呂ですって」
「それよりも堆肥って何でしょう。わざわざ冒険者に依頼する理由は何なのでしょうか」
「そんなことよりもお風呂ですってよ」
「暖かいお風呂、入りたいですよね」
ぺりっ
私は堆肥についての疑問が残っていたが、マリンの暖かいお風呂入りたい欲に押されてつい取ってしまった。何か大きな問題に出会わなければいいのだが…
どこも同じ風景に見えるのだが、依頼書に書いてある場所までやってきた。辺りには大量の葉と袋、それに大きな木の枠が並んでいる。
そして、強烈な臭いが風に混じって漂っているような気がする。
「すいませーん。依頼を受けに来たんですけど。誰かいませんかー」
いつもこのパターンである。誰も依頼を受けてくれる人がすぐに現れないと思っていて、他の作業をしていたりするのだ。まあ、依頼を出してから数週間経っているならそうするのも理解できる。
「はーい!はーい!ちょっと待ってね!」
木桶の中から声が聞こえる。この中に人が入っているのか?
マリンと一緒に中を覗くとこの木桶は想像以上の深さであった。私が余裕で8人ほど縦に収まるぐらいの深さがあるように見える。
その中から梯子を使って上がってくる男性の姿が目に入る。
「はーやっと出られたー。君たちが魔法を使える冒険者さんだね?私の依頼を受けてくれるなんて思ってもいなかったよ」
「はい!アリスとマリンと申します。今日は…この中で作業するんですか」
「いやーそんなことはさせられないよ!君たちには倉庫にある物すべてをここに入れて欲しいんだ」
依頼人はそういいながら倉庫の扉を大きく開け放つ。そこに詰まっていたものは大量の葉と…食材の使われなかったところだろうか?
ここに入っている物を…全部移動するのか。これは骨が折れそうである。
「アリスちゃん、これならあなたの空間魔法で一瞬よね?」
「そんな、無理ですよ。箱ごとに入っているならまだしも、全部バラバラだと私の脳が追いつきませんよ」
「えー。でも私の水魔法じゃ動かせないわよ。濡れちゃうだろうし」
「風魔法で運んでみましょうか。それ、風よ巻き起これ!」
風が緩やかに吹き、周りの葉を巻き込んで周囲に散らす。これでは運ぶどころではなく、周囲を掃除するようにある。
「あの、いつもはどうやっているんですか」
「いつもはそこのスコップで掬ってから水魔法で水分を含ませて放り込んでいるんだ。そのために依頼は魔法使いさんにお願いしているんだ」
つまり、この小さなスコップでこの巨大な倉庫に入っている分をちまちまと入れて行けと。水魔法が得意な人が呼ばれていたと。
なんか気に食わないので意地でも魔法を使ってこいつ等を運び出してやろうと考える。
「さあアリスちゃん、頑張ってこのスコップで運んでね。私は水を出しまくるから!」
うむむむ。風では運べない、かといって空間魔法で葉っぱ一枚ずつ運ぶのも脳がおかしくなる。小さいスコップ…小さい?ならば大きくすればいいのでは。
深く意識を集中して土魔法で大きなスコップを想像する。
「土よ… そっちは厚く…こっちは丸く… いやこっちは広めに…」
「アリスちゃん?あなた一体…な、何をして」
「土よ!同じものを複製しろ!」
ドスンドスンとアリス製の大きなスコップが倉庫前に出現する。これを風魔法で操れば大量に物を運ぶことができるのだ!
早速風魔法をかけるが、大きなスコップを持ち上げるのにはかなりの風量が必要みたいで風が吹き荒れる。これでは葉が飛んでしまうので、吹き荒れる風とは反対方向から同じぐらいの風を正確に当ててやる。
これなら風があちこちに吹かず、爆音も防げている。これは自分を浮かす時にも使えるのでは。
「さあマリンさん…水魔法の用意はいいかしら…」
「ちょ!ちょっと!何そんな不気味な笑みを浮かべているのよ!加える水の量もまだ聞いていないでしょう!」
三つものスコップを風魔法で華麗に持ち上げ葉っぱを掬い上げていく。もちろんスコップの先には別の風魔法を出して葉っぱが入っていきやすいようにしてある。
さあ、これで私も魔法が使えて、その上有用な子だぞ。覚悟して作業するがよい!




