59話 作物の保管事情
倉庫の扉が鈍い音を立てて開かれる。そこから依頼人の姿が現れる。
「き、君たち…生きているかい?」
「はい。この通りしっかり生きています!」
「私はあのネズミみたいに死んでなんかいないわよ」
先ほどまで水に包まれていた彼女は既に二本足で立っていた。先ほどまでの水玉にうずくまっていた姿はどこに行ったのだろうか…
「ああ、やっぱりビッグマウスに成っていたんだね。討伐するのは苦労しただろう?」
「いえ、そこまでは。ただ、どうしてここまで大量のネズミが繁殖したんですか」
「稀にネズミが入り込むことがあってね。今回も天井かどこかに穴を開けて入ってきたんだろうね。この食糧庫は一年分の小麦とか根菜を保存できるんだけど、一旦ネズミが繁殖し始めると手が付けられなくなるぐらいまで数が増えるんだ。あいつらを相手できる人は多くないから、いつもあいつらが餓死するのを待つんだ」
「だったら保存する量を少なくして、小分けにすればいいんじゃないの?」
「それも考えたんだが、ここで採れる量が量でして…結局一か所にまとめて置くしかない状況なんだよね」
確かに、この町に来た際にもこの規模の倉庫がいくつか建っていたのを思い出した。それに大量の倉庫を建てて畑が無くなるなんてことがあったら本末転倒もいいところだろう。
それはともかく依頼を達成したので達成証をもらわなければ。
「一応依頼にあったネズミ退治は完了したんですけど、倉庫に残った灰とかって掃除したほうがいいですか」
「いやぁそんな!申し訳ないよ。君たちは今この町に居る唯一の冒険者だから、他の人の依頼を受けてよ。掃除は時間をかければできるからさ」
ん?これは暗にあの掲示板に張ってある依頼を全部こなせ、と言われているのでは…?
「はい。報酬の銀貨40枚と依頼達成証だよ。ほんと助かったよ」
私とマリンはそれぞれお礼を言って倉庫を後にする。今日は掲示板に行って、依頼達成を記録して終わりだ。
町の中ほどで急にマリンが立ち止まる。そして真剣な顔で話しかけてきた。
「ねえ。私、重大なことに気が付いたんだけど」
「えっと…なんでしょうマリンさん…」
「私の服。服よ!今まで気にしてなかったけど、あまりにも薄くてボロボロなことに気が付いたのよ!」
ああー。言われてみればそうである。森で会った時からこの格好だったので何も思わなかったが、確かに薄いしボロボロである。それに私よりも少しだけ大きいものが強調されているのもよろしくない。
「それで、ここの洋服屋さんで買おうと思うんだけど、お金って足りるかしら」
「大丈夫ですよ。今日の報酬から引いてもあまるぐらいでしょうし」
「やったー!じゃあ入るわよ!」
彼女は嬉々としてお店に入店し、早速服を選んでいる。私といえば背中の部分がズタズタになった服を取り出して、カウンターに持って行っているのだ。
「すいません、服の仕立て直しってできますか」
「はい、できますよ。…これは、一体どうされたらこんなになるんです?」
「あはは、色々あって切れちゃったんです」
背中をナイフで何回も刺されたなんて言える訳がない。
「これは時間がかかりますね。一週間ほどでできるとは思いますが、いかがしましょう」
「お願いします。お気に入りの服なので…」
私は料金を支払ってからマリンを探す。もう選び終わっている頃だろう。
試着室から出てきたマリンを発見したが、彼女が選んだ服は中々に似合っている。
青色の生地をベースに白色のラインが入ったワンピースである。所々に白色の玉模様も入っていて、水を操り使いこなす彼女にとても合っている。
「どう?ピッタリだとは思わない?…ていうかアリスちゃん、何持ってるのよそれ」
「え?これは下に履こうかなって。空中を飛んだり、宙返りする時に下着が見えるのが恥ずかしいから、これで隠そうかなって」
いわゆるシュートパンツとか、ペチコートとか呼ばれるものである。
今まで履いていなかったのか?と言われると恥ずかしいが、まさかここまで動き回るようになるなんて思ってもいなかったのだ。特に風魔法で宙に浮くなんて誰も想像だにしないでしょう?
そんなこんなでマリンのワンピース2着と下着3着、靴と上から羽織るローブ的なものを一着、私のを合わせて銀貨20枚程の支出となった。
お洋服も新調できたことだし、明日からはもっと頑張れそうだ。




