58話 ネズミ退治
結局、道には迷わず目的地にたどり着くことができた。分かれ道に標識が立っており、通りの名前が書いてあったのだ。
それでもどの通りがどの通りに繋がっているかは分からないので、この町の住人に聞くしかなかったのだが…
「すいませーん。依頼を受けた冒険者ですー。誰かいらっしゃいませんかー?」
目的地に着いたので大きな声で誰かを呼び出す。留守にしていないといいのだが。
「おや、冒険者さんか?」
「はい!ネズミ退治の依頼を受けに来ました」
「そうか、そうか。それじゃあここが依頼書に書いた倉庫だよ」
男の人に案内されて巨大な倉庫の目の前に到着する。
赤いレンガで作られたこの倉庫は、確かにここら辺一帯の作物を保管できる大きさがある。
「ああー、その。依頼を出してから時間が経ってるから、もしかしたらかなりの数のネズミがいるかもしれない。気を付けてね」
「え…どのくらいの数か居るかってわかります?」
「うーん。数百匹とかかな」
唖然とした顔になっているのが分かる。マリンもそうだからだ。
この倉庫の中に数百匹のネズミがいて、それを今から退治しないといけないらしい。もしかしたら小さいとも限らないのかもしれない。
不安を胸に抱えながらマリンと一緒に倉庫の扉を開ける。
「ねえ、デカイのが居たらどうするのよ。小さいのは水でどうにかなるけど」
「私が短剣で何とかします。数が多くないといいんですけど」
倉庫に入ると中はとても暗かった。というか真っ暗で何も見えない。それどころかネズミのキュッキュッという声だけが不気味に聞こえてくる。
すぐさま光魔法で倉庫全体を照らす…
「い、いや゛あああああああ!」
マリンの叫び声とともに水魔法が炸裂する。私に当たっていのが不思議なぐらい大量の水が出現している。
まあそれもわかる。明るくなった倉庫の壁という壁、床に天井に灰色の集団がもぞもぞとひしめいているのだから。
背筋がゾクッとするが、構わず風魔法を放っていく。どこに向けて放っても当たるような感じである。
もちろんマリンが天井の奴らを攻撃しているので上から死体が降り注いでくる。
「風よ。我らを守れ!」
落ちてきた子ネズミは風に弾き返されて他の所へ飛んでいく。しかしこれではいくら時間があっても足りない。
「マリンさん!一時的に私のこと守ってくれますか!火魔法を発動させます!」
「いやああああ…えっ?分かったわ。それっ!」
叫びに叫んでいた彼女は一転して周囲に水を張り巡らせる。この人、ただ単に叫びたかっただけなのでは?
「炎よ!熱くなり渦を巻き相手を燃やし尽くせ!」
彼女の水魔法が私達のことを守ってくれると信じ、この倉庫を焼き尽くす勢いの炎を想像する。
出現した炎は渦を巻いてネズミたちを巻き込んでいく。そのまま灰となるまで燃やし尽くす…はずである。
はずというのも、マリンが私たちを囲むように水を回しながら展開しているので奥がはっきりとは見えないからだ。
少しの間ネズミ達の悲鳴が続いたかと思うと、途端に静かになる。ずっと聞いていたら夢にまで出てきそうだから止まってほっとしている。
マリンが水魔法を解除して倉庫全体が視界に戻ってくる。倉庫の中心には灰とうず高く積もったネズミの死骸が残っていた。
「…終わったのかしら?」
マリンが言い終わるのと同時に、ごそごそと死体の山が動き出す。まだ終わっていないようだ。
バサバサとネズミの死体が振り払われて山の正体が露わになる。って、これはまずい!
「マリンさん!走って!」
「え?急に何よって!いやあああ!」
山と思われた物は巨大なネズミだったのだ。そしてそれがこちらに向かって突っ込んできたのだ。
私はすぐに横に走り出せたから良かったものの、マリンは何がどうなっているのかわからない様子で慌てふためいて食われかけている。
「風よ!押し飛ばせ!」
風で彼女を押し飛ばしてネズミの腹の中に入るのを阻止する。彼女は運動に関しては少々苦手なところがあるのかもしれない。
ただ、押し出しただけではまた狙われてしまうのでこちらに目を向けさせることにする。
「あなたの相手はこっちよ!土よ。飛んでいけ!」
無数の土の塊が大ネズミに向かって飛んでいく。もちろん効き目は無いが注意を引くのには十分だ。
私は走りながら短剣を空間から取り出し思いっきり投げる。投げられた短剣はきれいには飛んでいかないが、そこは私の風魔法で修正する。
こちらを襲う巨体から走って避けながら的確に相手の急所を切り裂いていく。目、首、お尻に尻尾。最後は口の中だ。
相手の走る勢いが衰えて、巨体が地面に伸びる。どうやら倒せたようだ。
ぽよんぽよんと倉庫の隅で水に包まれているマリンに対して声をかける。この人、水魔法の扱いだけは本当に上手だなとつくづく思う。
「あの、終わりましたよ…隠れてないで出てきてください…」
「ほんと?まだ生きてない?」
顔だけ外に出して辺りを見渡している。本当に器用だな、この人…




