4話 薬とポーション
魔法の授業、魔法での戦闘訓練、それに加えて剣の鍛錬。目まぐるしい日々が続いていたが、王宮はもっと忙しそうにしていた。そう、私に妹ができる予定なのだ。身重な状態でも王女としての仕事をし続けているゼリスお母様を支えるために、人が駆り出されているので私の訓練等は一人で行うこととなっている。
だが今日は珍しく調合室に呼ばれていた。
「今日はどのような要件でしょうか。エリアさん」
部屋に通されると真剣な顔で調合をしている薬師団団長のエリアさんがいたので声をかける。
「おお、来ていたのか。すまない、呼び出しておきながら、集中してしまってな」
「いえ、今は大変忙しい時ですし…」
「ふむ。忙しいには忙しいが、それでもついでで教えることもできる」
そう言いながら草が大量に入った篭を机に置いていく。その横には緑色の液体が入った瓶が並べられていく。
「さて、この瓶に入った緑色の液体のことを治癒ポーションと呼んでいる。効能は知っているな」
「は、はい。飲むと傷口が塞がります」
「そうだ。正確には繋ぎなおすだがな。折れた骨、切られた内臓すらも結合してくれる。次はこの赤いポーションだ。見たことはあるか?」
どろっとしたような赤いポーションを目の前に出される。治癒ポーションは怪我したときに使うことがあったが、こんなものは見たことがない。
「ありません」
「だろうな、これは造血ポーションだ。効果はそのまんまだ、血を作る。気を付けなければいけないのは飲んでもすぐには血が作られないことだ。加えて飲みすぎると体に収まりきらなくなった血が皮膚を破って吹き出すから注意をしろ」
なんか、とても血の気が引くようなことをさらっと言われたが、気にしないでおこう。ただ造血ポーションには注意したほうがいいのは覚えておこうと思う。
「他にも様々な効果がでるポーションがあるが、今日必要なのはこの2つだけだ。次は製作方法を教える」
エリアさんは擂り鉢と棒、そして小さい鍋を取り出す。
「治癒ポーションを作るのにはフサギソウが必要だ。こっちの明るい緑色の葉がそうだ。」
エリアさんが指さしている葉を手に取って眺めてみる。このフサギソウと呼ばれている葉はどこにでも生えていそうな草である。それよりも隣に置いてある同じ形で同じような色の葉が気になる。
「これもフサギソウなのですか?」
「いやこれはダマシヤスソウだ。フサギソウにとても似ているが裏側から光を当ててやると深い緑色が現れるんだ。フサギソウは必ず明るい緑色になる。」
「ダマシヤスソウで作ったポーションは飲むと激痛が走ることで知られている。本当だったらここでダマシヤスソウで作ったポーションを試させるんだが、今は倒れられても困るからな。また後日にしよう」
先ほどから、何か恐ろしいことを言われているが、気にしないでおこう。うん。将来の私、がんばれ。
「次は実際に作る工程だ。とは言っても簡単だ。すり潰して煮るだけだ。」
エリアさんがゴリゴリゴリとフサギソウをすりつぶしていく。すり潰しながら出てきた水分を捨てている… すり潰すだけじゃないじゃないか。
「すり潰したこの状態で傷口に塗っても効果がある。ポーションにしたほうが効果が増すがな。で、この液を鍋に入れて煮詰める」
といいながら、少しだけ水を混ぜていく。沸騰したところで瓶に少量だけ注ぎ込み、水で希釈していく。混ぜるようにゆっくり回して全体をなじませていく。
「ほれ、これで完成だ。簡単だろう。」
「は、はい…」
周りの薬師の皆さんは苦笑しながらこちらを見ている。多分、いつも説明が大雑把なんだろう。
「よし、理解したところで早速作ってもらおうか。ポーション作りは数をこなすのが一番の近道だからな」
目の前に大量のフサギソウが置かれる。3篭ぐらいあるのだが、これを全部すり潰すのか…?
◇◇◇
「すり潰しが甘い!やり直し!」
「水が多い、すり潰し過ぎ。ダメ。」
「煮込みすぎ!もう一回!」
「これでは少ない、これは多すぎ。瓶に入れるのは適量だ、適量!」
なんだかんだダメ出しをされ続けてようやく完成するころにはもう夕方になっていた。簡単そうに見えて、量や時間がきっちり決まっているのはやってみないと分からない部分であると思った。
疲れて椅子に座った途端、扉がものすごい勢いで開かれた。
「エリア!エリア薬師団長は居るか!」
「居るぞ!もしかしてだが、もうなのか!?」
「はい!至急女王の元へ!」
よくわからずに圧倒されていると、エリアさんが声をかけてきた。
「よかったなエイリス、お姉ちゃんになれるかもだぞ」